EP3 アウトローの作法

昼食後、まだ時間があったので、アルとムツキはもう少し校内を見て回ることにした。

[アル](ここのご飯があんなに美味しいなんて思ってもみなかったわ。

  手が空いた時に「グルメチケット」を手に入れて、カヨコとハルカにもお土産を買っていきたいわね)

???誰かー、暇を持て余したフレッシュな有志どもー、来てくれワーン。

[アル]あら?ムツキ、行ってみましょう。もしかしたら依頼かもしれないわ。

二人が声の方へ向かうと・・・・・・声の主の姿が目に入り、アルは思わず固まった。

[アル](こ・・・・・・この人、店長とどんな関係!?親戚かしら!?)

[ムツキ]助けを呼んでたのはあんた?

ワン次郎]俺だワン。麻雀大会に一人欠員が出ちまったんだが、興味ないかワン?

[アル]麻雀、ねぇ・・・・・・興味というより、もうすぐ休憩が終わっちゃうから、時間が・・・・・・

[ムツキ]ちょー面白そうじゃん。アルちゃん、参加しなよ。委員長もゆっくり楽しんでくれって言ってくれたでしょ?

[アル]・・・・・・どの道、このままだと生徒会に助けを求めてくるかもしれないわよね。

  それなら、いっそのこと、いま受けてしまおうかしら。

アルは白石奈々に、緊急の依頼が入ったとショートメールを送った。すぐに「りょー!」と返信が来る。

[アル]ふふ、それでは麻雀大会は、私たち「便利屋68」が引き受けましょう。

アルは、今回の依頼にかなり自信を持っていた。

[アル](ふふん、目にもの見せてあげる)

[ムツキ]アルちゃん、麻雀出来るんだ。全然知らなかったー。

[アル]ふふっ、それなりに経験豊富なのよ。

漫画に映画、テレビといった作品に数多く触れてきたことを「経験豊富」と言うのなら、

確かにアルは麻雀のベテランだろう。

司会選手が揃ったので、麻雀大会の決勝戦を始めます!

[アル](うーん・・・・・・それなりの手牌ね。牌効率的には、このオタ風は切った方がいい。でも!)

[ムツキ](わ、オタ風じゃなくて八筒にするんだ。アルちゃん、しっかり麻雀打ってるぅ。特訓でもしてたのかな?)

[アル](最初にオタ風を切るなんて決まりきったやり方、思考を放棄してるって言ってるようなものだわ)

[アル](オタ風は自分にとっては何の意味もないけど、他の人にとってはそうじゃないもの。

  敵に塩を送るような真似はしないわ)

メディア作品で得た「麻雀哲学」を胸に、アルはゆったりと構えて手牌を組み上げていった。

対局相手Aリーチ。

[アル](あら、早いわね。でも私だってリャンシャンテンよ。唯一の現物は赤五萬だけど、

  これは三色同順の大事な材料だもの。切らないわ!)

[アル](手牌が強ければ押し返せる。さぁ、いい牌来てちょうだい!)

アルは牌を引いたあと目を輝かせた。ツモった三萬は、まさに三四五の三色に必要な牌だった。

[アル](天は私の味方のようね。ここでオリたら「便利屋68」の名が廃るというもの、行くわよ!)

[対局相手A]ロン!裏ドラ二枚で、満貫!

[アル]あら・・・・・・

[ムツキ]いきなり負けちゃったけど、大丈夫?

[ワン次郎]ワン、生牌の放銃はしょうがないワン。きっとお嬢ちゃんの手も良かったんだろうよ。

大丈夫、まだ東一局、ここから挽回できるワン。

[アル]そ、そうよ。これが合理的な攻めの判断ってやつよ!

[アル](8000点マイナスは少し痛いけど、この人の言う通り、まだチャンスはある。

  8000点くらい、何度か高い手であがれば逆転できるわよ!)

[対局相手]ツモ

[アル](まだ親番が残ってる・・・・・・)

[ワン次郎]ロン!

[アル](いい役さえ作れれば・・・・・・)

[対局相手A]ロン!

[アル](きっと・・・・・・これから上手くいくはず!)


[アル](全然・・・・・・上手くいかないわ・・・・・・)

あっという間に、アルの親である南四局になってしまった。これまで他家にツモられたり、自分では鋭い読みだと

思ったはずが放銃してしまったりしたせいで、アルの点棒は風前の灯火となっている。

[アル](この手に賭けるしかない、けど・・・・・・くぅ。

手牌を見たアルは落ち込み、「万事休す」というワードが喉まで出かかった。高打点もスピードも見込めない・・・・・・。

彼女は眉間に皺を寄せ、内心ため息をつきながら一萬を切った。

[アル](大口を叩いておいてこのザマだなんて、社長としての威厳が・・・・・・ダメよ、こんな結果で終わらせられないわ!)

アルはホンイツなら辛うじて早めに出来上がりそうだと考えた。そこで、

不本意ながら面前で高打点を狙いたくなっているのを抑え、鳴けるチャンスを窺うことにした。

[アル](ちょっと、なんで今になって二索をツモるのよ。さっきの三索が裏目じゃない。

  上家がまた捨ててくれないかしら・・・・・・)

[アル](・・・・・・また九索。暗刻にはなったけど、他が全然揃わないわね

アルは他家が鳴いて速度を上げることのないように、慎重に打牌の順番を考えながら、

自分が欲しい牌があと何枚残っていそうか、河を見て確認した。

[ムツキ](アルちゃんの狙いはチンイツかな?でも二組のターツがカンチャンでやりにくそ~。

  河もわかりやすいし、他家も気づいてるはずだよね)

勝敗を分けるオーラスを、その場にいる全員が固唾を飲んで見守っていたその時、

外から緊迫した空気を打ち破る声が響いてきた。

女子生徒きゃー!誰か助けて!ウサギが逃げちゃったのー!

その言葉とほぼ同時に、数羽のウサギが教室に飛び込んできた。汗びっしょりの女子生徒が二人、後を追って入ってくる。

[女子生徒]ごめんなさい!ケージに鍵がかかってなくて・・・・・・捕まえるのを手伝ってくれませんか!?

[アル]ムツキ、いくわよ!

[ムツキ]りょーかい!

幸い教室には大勢の人がいたので、皆が力を合わせて、すぐ脱走したウサギを捕まえることが出来た。

女子生徒を見送り決勝戦を戦っていた四人は雀卓に座り直す。

[アル]私の番だったわよね・・・・・・えっ!?

[アル](お・・・・・・おかしいわ!二組のターツ、さっきは揃ってなかったのに!この三索と七索、一体どこから・・・・・・

[アル](・・・・・・ムツキ、あなたの仕業ね?)

河と親友を順に見やる。親友は、こちらを見てにやりと笑っていた。そこでアルは、ムツキが騒動に乗じて

河から必要な索子をアルの手にすり替えたのだと理解した。そして、次のツモでアルはテンパイした。

親の面前清一色、あがればそれまでの劣勢を大逆転できる。

しかし・・・・・・

[ムツキ](あれ?五索切ってテンパイじゃないの?)

五索だけでなく、アルは続けて先ほど手に入れた三索と七索まで捨ててしまった。

立て続けに索子の中張牌を捨てるアルに、他家三人は警戒を強めた。

[アル](これであがっても、「便利屋68」の名に傷がつくわ。嵌張くらい、自力でツモってみせようじゃないの!)

決意に応えるかのように、この後のツモで、奇跡的に三巡連続で先ほど捨てた牌がやって来た。

しかし、あがる気配は依然として薄い。

[ムツキ](アルちゃん、何考えてるんだろ。チンイツであがり牌がどれかわかんないとか?

  ・・・・・・ん?ええっ?ほんとにぃ?さすがアルちゃん、ダ・イ・タ・ン~!ズルに頼らず自分で頑張るつもりなんだ。

  くふふっ・・・・・・だからアルちゃんが好きなんだよね♪)

[ワン次郎](一面子ぶんの索子を捨ててるのにノーテンなんて、ありえないワン。一体何を・・・・・・ワン!?

  ワワワン!?待て、なんで一索と九索が一枚も見当たらないんだワン!?)

ムツキとワン次郎が察した通り、連続ツモり直しでツキが回ってきたと感じたアルは、

大胆なアイデアを思いついてしまったのだ。

[アル]・・・・・・ふふ、うふふ、やっぱり運は私に味方してたわね。

[アル]ツモ!九蓮宝燈!

全員]え~~~~!?

このお祭り対局が、親の九蓮による大逆転勝利で終わるなんて、誰も予想していなかったし、想像すらできなかっただろう。

司会いやぁ~、素晴らしい!ではこちらの・・・・・・お姉さん、お名前は?

[アル]陸八魔アル、便利屋68の社長よ。

[司会]アルさんがこの麻雀大会の優勝者です!おめでとうございます!

[ムツキ]まさか役満であがるなんて、かっこいいなあ。でもなー・・・・・・はぁ・・・・・・

[アル]どうかしたの?

[ムツキ]アルちゃん、気をつけてね。

[アル]え?き、急にどうしたのよ!

[ムツキ]アルちゃん、知らないの?「九蓮宝燈であがると不幸な目に逢う」って有名な都市伝説があるんだよ。

[アル]え、えぇっ・・・・・・あ、そ、そういえば漫画でそういう台詞を見たことがあるけど、

  そ、それって漫画の設定じゃないの!?

[ワン次郎]お嬢ちゃん、おめでとワン。いやぁ、実に素晴らしい対局だったぜ・・・・・・

ワン?どうした、汗びっしょりだワン。

[アル]九蓮宝燈であがると不幸な目に逢う」って本当なのかしら・・・・・・?

[ワン次郎]心配いらねぇ、あがるかどうかに関係なく、ツイてないときゃとことんツイてないもんだワン。

[アル]そ、それもそうね。

[ムツキ](今ので納得したの・・・・・・?)

[ワン次郎]そうだ、商品がまだだったな。これは俺のいる魂天神社協賛、「特製ラーメンチケット」だ。

校庭に行けば美味いラーメンが食えるワン。

[ムツキ]くふふ、主催が打つのはルール違反じゃない?

[ワン次郎]人手不足だからしょうがないワン。

[アル]ラーメン・・・・・・あなたが、ワン次郎?

[ワン次郎]あぁ、俺がワン次郎だワン。

[ムツキ]さっき、おすすめラーメンを食べたけど、ちょー美味しかったよ!

[ワン次郎]ふふん、俺のおすすめなんだから当然だワン。

[アル]・・・・・・ワン次郎さん、もしかしてラーメン屋をやってるご兄弟とか、いたりしない?

[ワン次郎]いや?どうしたんだ急に。

[アル]なんでもないわ。ラーメンチケット、ありがとう。じゃあ私達はこれで。

[アル](考えすぎだったみたいね・・・・・・チケットが二枚手に入ったことだし、カヨコたちへのお土産はこれで決まりね)

お土産を見繕うという任務をクリアし、二人は上機嫌で生徒会室に戻り、午後の依頼が来るのを待った。


同じ頃、昼食を済ませたホシノとシロコは校庭を訪れていた。校庭では、マウンテンバイクの展示が行われており、

興味を引かれたシロコが足を止めたところ、店じまいしたばかりの一姫とばったり再会した。

意気投合した三人は、一姫の案内で、他の展示や出し物を見て回ることにした。

[シロコ]このパーツ・・・・・・すごく高そう。

[ホシノ]うへ~、いい天気だねぇ。お昼寝マットがあれば最高だよ。

一姫にゃ?なんで、みんなあっちに向かってるのにゃ?

校内を見て回る中で、三人は生徒達が同じ方向に向かっていることに気がついた。

何かあったのではと思ったまさにその時、道行く生徒にチラシを渡される。

生徒朝葉高校コスプレコンテスト、もうすぐ始まりまーす!興味がありましたら是非見に来てくださーい!

[シロコ]コスプレ・・・・・・

[ホシノ]コンテスト?

[一姫]にゃっ?コンテストのこと忘れるとこだったにゃ!学園祭の目玉ってのもあるけど、

謎の商品があるのが見逃せないのにゃ。

[ホシノ]へぇ~、面白そうだね。せっかくだし、見に行こっか。

[シロコ]うん。

[一姫]にゃ~!