住宅・建築物の

脱炭素に向けた政策提言

住宅・建築物の脱炭素の目的と、その実現に向けた政策を提言します。最終更新 2022/04/26

まず政策提言の前提となる、本提言の基本方針をご確認ください。また、分かりにくい用語(BEI/断熱等級/一次エネ等級など)、誤解を招きやすい用語(特にZEH/ZEB)については、用語解説をご覧ください。

住宅・建築物の脱炭素化に向けた政策提言

1.2025年省エネ基準適合義務化に向けて、まずは「建築物省エネ法改正案」を今国会で確実に成立させよう

主要先進国のほとんどでは、最低限の断熱・省エネは以前から適合義務化されており、一定の基準を満たしていないものは建てる許可がおりません。日本でも本来は2020年に全ての住宅を含む建築物において省エネ基準が適合義務化される予定でしたが、国交省の社会資本整備審議会の決定で無期延期となっていました(建築物省エネ法の経緯)。今回5年遅れで、ようやく2025年からの適合義務化に向けた建築物省エネ法改正案が国会に提出される運びとなりました。ここでの省エネ基準が求める断熱・省エネは低レベルではありますが、まずは最低限の断熱・省エネすら確保されていない「ハズレの家」を買う・借りる人がいなくなるよう、適合義務化を実現することに意義があります。この法案が2022年の通常国会で成立することは日本の住宅・建築物が脱炭素のスタートラインに立つために極めて重要です。電気代の急上昇が懸念される中、一刻の猶予もありません。

現在、脱炭素に熱心な地方自治体は、独自の上位基準を定めようと検討していますが、国が住宅の省エネ基準を適合義務化していないため、地域は独自に上位基準の適合義務化ができない状況です。この改正案が確定することで、地方の取り組みを後押しすることができます。 国交省技術的助言

再エネTFの提言においては、省エネ基準の適合義務化を「2021年内改正、2年内施行」と早期の実施が提言されています。本来は、2024年からの義務化開始すら検討するべきです。万に万が一、この法案が成立しないなどということになれば、「国民を寒さと貧しさに放り出した」という批判を免れえないと考えます

国土交通省 現状の建築物省エネ法 説明WEB (現状では小規模の非住宅&すべての住宅は省エネ基準適合義務化の適応外)

今国会に提出される建築物省エネ法改正案 閣議決定 国交省WEB 概要 要綱 案文・理由 新旧対象条文 参照条文 (2022/04/22に閣議決定 2025年に住宅を含む全ての建築物で省エネ基準を適合義務化)

建築物省エネ法 議案審議経過情報

「建築物省エネ法改正案 今国会で成立するといいこといっぱい!」  説明動画  資料PDF 簡易版資料(22/04/18 議員会館記者会見時PDF

エネルギー価格の推移(新電力ネット) 原油 石炭 天然ガス

燃料費調整額 東京電力

電気代ってどうなるの? 説明動画

断熱性能に関する参考資料 ここちよい住まいの暖房計画 PDF 解説動画

2.場当たり的な対応をやめて、健康快適とエネルギー消費削減につながる根本的な解決にしっかり取り組もう

エネルギー価格の急騰を受けて、様々な対策や補助が五月雨式に発表されていますが、その多くは直近の痛みをわずかに緩和するだけで、何ら問題の解決にならず、将来の世代にツケを残すだけです国の借金が膨大な金額となり、円安も急速に進む中で、この国に残された余力はごくわずかです。将来に負担を残さない、抜本的な対策に直ちに取り組むべきです。

2022/04/26 岸田内閣総理大臣記者会見 WEB

2022/04/26 内閣官房 原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議 WEB

Ⅱ.エネルギー・原材料・食料等安定供給対策  1.エネルギー  省エネルギーの推進

  • 産業・業務部門における性能の優れた省エネ設備への更新を支援し、需要側における燃料・電力の消費抑制に資する取組を促しエネルギーコストを節減する。

  • 大幅な省エネ実現と再エネの導入により、年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指した住宅・ビルのネット・ゼロ・エネルギー化を中心に、民生部門の省エネ投資を促進する。

  • 原油価格高騰による住宅価格上昇への対策として、「こどもみらい住宅支援事業」により、子育て世帯等に対する省エネ住宅の購入支援等を実施する。

  • 住宅の断熱改修など、より即効性のある形で、省エネ対策等を実施する。

  • 脱炭素への行動や省エネ性能の高い商品の購入等に付与する「グリーンライフ・ポイント」の促進を図る。

2022/04/27 内閣府 経済財政諮問会議 WEB

2022/05/17 「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会 WEB

エネルギー供給サイドの対策では、大きな発電所は稼働まで大きな時間がかかり、様々な課題が解決しておらず、将来に大きな後悔を残すリスクがあります。極端な集中型であるために、災害などのリスクにも脆弱です。再生エネルギーは確立された技術で今すぐ始めることが可能であり、脱炭素にも直接貢献でき、分散型であることは災害へのリスクヘッジともなります。

エネルギー需要サイドにおける対策では、燃料費補助はお手軽ですが、後には何も残りませんし、見た目のエネルギー価格を抑えることで省エネや脱炭素への転換を遅らせてしまいます。設備や自動車の高効率化・電化は極めて重要ですが、その寿命は10年程度で更新され長期にストックされるものではないため、効果が持続的ではありません。住宅の断熱は一度導入すればほぼ建物の寿命だけ効果が発揮できるため、ストック効果が大きいのが特徴です。ただし普及に時間がかかるので、新築では速やかに高断熱の義務化、既存ではコスパのよい性能向上リフォームを早期に普及させる具体的な施策と金融・補助による措置が不可欠です。

具体的には、内窓設置を強力に推進することで、冬の夕方の電力ピークを抑制でき、様々なメリットを得ることが可能です。なにより、国民に広く恩恵を届けることができるのが、一番大事なことです。

既存住宅の断熱改修の推進に関する提言 PDF

.「あり方検討会とりまとめ」「住生活基本計画」の2030年目標を確実に実現する政策を早急に決定・開始しよう

2025年に適合義務化が予定されている省エネ基準は、住宅では「1999年の断熱基準+2012年の標準設備」であり、20年以上前の断熱基準に、白熱灯ありの照明と従来型ガス給湯機など低効率の設備を想定したもので、脱炭素の実現には全く不十分です。

再エネTFにおいて脱炭素政策の遅れが指摘された後、国交省・経産省・環境省は、脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(WEB を開催し、脱炭素に必要な政策をとりまとめました(あり方検討会とりまとめ概要)。あり方検討会とりまとめでは、2030年に目指すべき住宅・建築物の姿として、断熱・省エネについては「新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB水準の性能」が確保されること、再エネについては「新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されること」と明記されており、その達成は住宅行政を所管する国交省の役割であることが明記されています。しかし、これらの目標を達成するための具体的な施策は未だに提示されていません。

また、再エネTFの要望により、住宅政策の基本となる住生活基本計画に、バックキャスティングの重要性が明記されました。「目標3子どもを産み育てやすい住まいの実現」「目標4多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせるコミュニティの形成とまちづくり」「目標6脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成」など有意義な目標がかかげられています。一方で、その目標(成果指標)はごく控えめであり、国民みんなが健康快適に安心して暮らすには全く不十分です。国交省の予算措置(令和4年度住宅局関係予算概要)も極めて控えめであり、その実現性は極めて疑わしいものです。

2030年目標を達成するためには、具体的に以下のような政策を早期に決定・実施するべきです。

国民の全てに健康快適な暮らしを普及させるための現実的で十分な規模の政策 海外情勢によるエネルギー価格高騰に伴い、国民の生活が危機にさらされています。また建材価格の急騰に伴い、住宅を建設するコストが急増しています。現状ではガソリン補助などの政策が打たれていますが、そうした施策は今の痛みをわずかに和らげるだけで、国民の将来における安心や脱炭素に資することはなく、むしろ解決を遅らせてしまいます。住宅・建築物においては、高いレベルの断熱・省エネ・再エネを確実に普及させる取り組みを今すぐ始めることが、一見遠回りに見えて、最もコスパがよく将来につながる確実な施策です。新築住宅においては高いレベルの断熱・省エネ・再エネを必須としつつコスト上昇をカバーできる金融政策、既存住宅では断熱リフォームや太陽光発電の後載せを支援する補助政策などを、十分な規模で積極的に行うことが必要です。

省エネ性能の上位等級新設 戸建住宅は遅くとも2030年までにZEHレベルの強化外皮基準(=断熱等級5) & BEI0.8(一次エネ等級6・省エネ20%)に引き上げ、2030年以降は継続的に見直しと記載されていますが、その後のロードマップは具体的に示されていません。現状では、一次エネ等級は基準値から20%減の等級6までしか示されていませんが、より上位の省エネ等級を新設するべきです。

断熱の上位等級6・7の具体的な普及 日本では1999年に断熱等級4が設定された後、20年以上も断熱の上位等級が設定されませんでした。ようやく2022年04月に断熱等級5が新設され、2022年10月には断熱等級6・7が追加される予定です。健康快適な室内環境と省エネを両立させるには、断熱等級6・7の早期普及が強く求められます。現状では国交省は断熱等級6・7の普及目標はないとしていますが、具体的な普及目標と達成する政策を示すべきです。断熱等級5・6・7に関する説明動画

高断熱・省エネ住宅を普及させる金融政策・補助金 、「イニシャルコストの壁」を乗り越えらえる金融政策が不可欠です。一方で、これからの新築は、省エネ基準レベル(断熱等級4・一次エネ等級4)にとどまらず、より高い断熱・省エネ性能を確保することが極めて重要です。高断熱・高性能住宅に手厚く住宅ローンの拡充や金利優遇・補助金を振り分けることが求められます。

省エネ性能表示の義務化 改正案では住宅の販売(分譲)・賃貸の広告時に省エネ性能表示の努力義務を定めていますが、ドイツ、フランスなど主要先進国では10年くらい前から住宅性能の広告時表示は義務化されてます。日本の努力義務は全くの周回遅れであり、家を買う人・借りる人は、断熱・省エネ性能を判断できない状況です。事業者に過剰な配慮をするのではなく、国民目線で直ちに表示義務化を検討すべきです。また、分譲住宅だけでなく注文住宅も対象とすべきです。

再生可能エネルギーの普及促進 改正案では自治体が地域の実情に応じて、対象とする地域・用途・規模を条例で定めて、建築士から建築主への再エネ導入効果の説明義務化をすることとされています。京都府や東京都、京都市などで再生可能エネルギー導入の説明義務化が始まり、京都府・京都市に続き、群馬県、東京都でも条例で一定の建物に設置義務化を導入/導入予定です。再エネ普及の喫緊性を考慮すると、早期に先行して取り組むこれらの自治体に見倣い、早期の設置義務化を含む施策を法制化すべきです。

地方自治体の先導的な取り組みの支援 地域の実情に合わせた政策の計画と実施、地域の雇用促進、金融の地域循環などのために、地方自治体の先導的な取り組みを積極的に支援する必要があります。地方自治体の取り組み

公共建築における先導的な断熱・省エネ・再エネ導入 庁舎や学校などの公共建築は、長期にわたって多数の市民が使用することから、断熱・省エネ・再エネの恩恵が広く届き普及啓発にも有効であることから、先導的な導入が強く期待されます。一般に公共建築の仕様は、国土交通省大臣官房官庁営繕部が作成した建築設備設計基準、通称「茶本」に基づき決定される場合がほとんどですが、今日では十分な性能とはなっていません。茶本の仕様にこだわることなく、先導的な取り組みを促進する必要があります。

カーボンプライシングの導入 住宅・建築物における高い断熱・省エネ性能の普及、および再生可能エネルギーの設置の促進を誘導する経済的手法としてカーボンプライシングを導入し、社会経済全体で脱炭素化を促進する仕組みを構築すべきです。

.2030年・2050年の脱炭素達成を実現する政策を、明確な根拠に基づきバックキャスティングで計画しよう

あり方検討会の2030年目標・2050年目標は、その達成により本当に住宅・建築物の脱炭素が達成されるのか、その根拠は示されていません。第6次エネルギー基本計画(エネ基)では、経産省はHEMSなどの従来から目標が未達の技術による省エネ効果があてにされており、また電力のCO2原単位の大幅な削減を前提として、住宅の省エネ目標は新築(252.7万kL)・既築(90.9万kL)と少なく設定されています。エネ基の進捗(特に電力のCO2原単位)は常時チェックし、それに合わせて省エネ目標を常に修正し、CO2削減目標を実現することが重要です。

また、上記のエネ基の省エネ目標を達成するための国交省の計画根拠は、あり方検討会などで一応示されています。しかし、これらの算出根拠は極めて杜撰・不明確であり、エネ基の省エネ目標がなぜ設定できるのか、説明されていません。また、検討会終了後のアップデートや見直し・振り返りは全く行われていません。

2022/07/20あり方検討会 対策のスケジュールと省エネの算出について 対策によるエネルギー削減量について

国交省は、2020年の省エネ基準適合義務化の見送りにおいて杜撰な計算を行い、かつ公表もしていなかったことが、再エネタスクフォース(「住宅・建築物におけるエネルギー性能の向上に向けた規制・制度のあり方」のフォローアップについて)において明らかにされています。住宅の省エネ政策 根拠検証 2050年カーボンニュートラルへの住宅政策の迷走(その1その2

日本のCO2排出量の3割を占め、かつ国民の生活を支える大切な器である住宅・建築物においては、適切な計画と確実な実現が不可欠です。

日本の住宅・建築物に最低限の省エネ性能が備わっていないのは、とりあえず目先で出来ることをちょっとだけ行う「フォアキャスティング」政策が大失敗したツケなのです。はじめに未来の目標をしっかり設定し、その実現に向けて明確な根拠に基づき、いつまでに何を実現すべきかを計画し、逐次実行していく「バックキャスティング」政策への転換が、絶対に必要です。そうしたバックキャスティングに基づく計画立案と進捗確認は、完全にオープンな形で産官学の英知を集め、国民に対して明確に説明でき責任がとれる形で行われるべきことは、言うまでもありません。

あり方検討会は、そうした試みの一つではありましたが、8月のとりまとめ後はフォローアップなどが全く行われておらず、特定の個別省庁のクローズドな審議会で議論されているだけです。国民の生活と未来を大きく左右する住宅・建築物の脱炭素政策は、しっかりと計画・実施する体制を、オープンに継続的に構築すべきです。

.全ての国民に暖かく電気代も安心な生活を届けるために、確実で実効性のある政策を早急に決定し実行しよう

本提言の基本方針にも示したように、「冬暖かく夏涼しく電気代の心配がない」暮らしは、日本に暮らす全ての人が享受すべき「ナショナル・ミニマム」であるべきです。再エネタスクフォースの後、修正された住生活基本計画においても、「子どもを産み育てやすい住まい」「多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせる」「脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成」などのお題目が挙げられていますが、目標の成果指標は極めて控えめであり、多くの人に恩恵が届くものではありません。

国交省は令和4年度住宅局関係予算概要において、カーボンニュートラルに向けた住宅・建築物の政策を提示していますが、予算規模などは全く不十分です。家の寒さによるヒートショックにより多くの国民の生命が危険にさらされ、国際的なエネルギー事情のひっ迫が懸念される中、いまさら名目だけの小出し補助や調査などを行っている場合ではありません。国民の命を守る暖かい暮らしを届け、電気代の不安を取り除くために、確実で実効性のある政策を今すぐ始めるべきです。

ガソリン代補助などの対策も行われていますが、こうした政策は目先の痛みをわずかに和らげるだけで、何もストックされることがなく、脱炭素にも生活改善にもつながりません。これから長期の研究開発と多額の投資が必要な未完のイノベーションなどを待つ必要もありません。住宅・建築物の脱炭素化に必要な「断熱」「省エネ」「再エネ」は確立し成熟した技術であり、直ちに始めることが可能なのですから。

内窓設置など効果の高い対策を選べば、現状でも1棟50万円程度で断熱・省エネ性能を改善し、冬夏の室温も改善することが可能です。日本にある全ての住宅5000万戸を改修するには総額25兆円かかる計算になりますが、その後にずっと、全ての家の温度を高め、電気代の負担を減らすことができます。エアコン暖房の消費電力を300W減らすことができれば1500万kWと、100万kW原発15基分の電力ピーク抑制が可能です。

効果的な断熱リフォームの参考資料「健康で快適な暮らしのためのリフォーム読本」 PDF 解説動画などのサイト

また、太陽光発電5kWを戸建住宅に設置するのにかかる費用は現状1棟100万円程度です。全国の戸建住宅3000万戸に載せれば総額30兆円かかることになりますが、5kWの太陽光発電は毎日20kWhの電気を作り、電気代の不安をなくすことができます。全国では毎日60,000万kWhの電気が太陽だけで作れることになり、原発(100kWで1日2400万kWh)25基分の電気を作ることが可能です。もちろん、太陽光発電などの再エネは気象により変動はしますが、住宅においては断熱や蓄電・蓄熱により電力需要の変動を受け止め安定化を図ることは容易です。

この他にも、ヒーター式電気温水器など、非常に低効率な設備の更新など、コスパに優れた省エネ措置もたくさんあります。繰り返しますが、「断熱」「省エネ」「再エネ」は完全に確立された技術です。今すぐ設置が可能で、普及が進むにつれてさらなる低コスト化が期待できます。さらに、国民みんなに「冬暖かく夏涼しく電気代も安心な暮らし」に届けることができます。その施工も地元の工務店が行えるので、日本中の地域活性化にも貢献します。日本中が元気に豊かになることにつながります。

住宅・建築物の脱炭素に向けた取り組みは、多くのメリットがあります。後必要なのは、それを全ての国民に届ける決心と、確実で実効性のある政策の決定・実行のみなのです。

具体的な提言事例

様々な団体から、住宅・建築物の脱炭素化に向けた提言が行われています。具体的な提言事例をご参照ください。