戸建住宅 断熱の

省エネ効果

戸建住宅の断熱効果については、様々な試算が提示されています。計算条件を明示しないまま、「断熱はペイしない」という論調も多く見られますが、注意が必要です。

鳥取県(5地域)では、国の基準を超える高断熱を推進しています。この中では、HEAT20に準拠したT-G1/G2/G3へと断熱を強化することで、冷暖房費を30%・50%・70%削減できるとしています(鳥取県NE-ST)。

一方、国交省も断熱等級においては、HEAT20に準拠して等級6(G2相当)・7(G3相当)を新設しましたが、こちらでは暖冷房一次エネをおおむね30%削減・40%削減としています(国交省資料)。

断熱の効果が、鳥取県の資料では大きく、国交省の資料では少なく見積もられている原因としては、以下が考えられます。

  • 鳥取県は暖冷房費、国交省は暖冷房一次エネとあり、厳密には両者は同じではないが、基本的にはエネルギーコスト≒一次エネルギー消費量として差支えないので、両者の削減率は本来はほぼ同じはずである。

  • 鳥取県は5地域。鳥取県のT-G2/G3も国交省の断熱等級6/7同じHEAT20のG2/G3に準拠した外皮平均熱貫流率(UA値)を定めたものではあるが、5地域では違いが大きい。T-G2はUA値0.34以下なのに対し断熱等級6は0.46、T-G3はUA値0.23なのに対し断熱等級7は0.26となっており、国交省の断熱等級6・7の方がUA値が大きい(断熱レベルが低い)

  • 鳥取県の試算は、健康快適な温熱環境を前提として全館24時間空調を想定しているため、暖房の消費エネルギーが大きくなり、断熱の効果が大きく評価される。

  • 国交省の試算では居室のみ間欠暖房とし、短時間の暖房で設定温度と20℃と控えめに設定されているため、暖房の消費エネルギーが少なくなり、断熱の効果が小さく評価される傾向がある。

  • 国交省の1次エネ計算は、住宅用のWEBプロを用いたものと思われるが、元となっているデータが断熱等級5レベルまでであり、高断熱住宅の計算に精度が確保されているかは不明である。

  • 住宅用のWEBプロは、冷房の使用時間を長時間に設定しているため、冷房のエネルギー消費量が大きめに算出される傾向がある。WEBプロでは冷房について断熱の効果が小さく評価される傾向があるため、暖冷房合計では、断熱の削減効果が小さく評価される。(ただし、WEBプロの冷房消費エネルギー計算については、課題も指摘されている。)

  • そもそも、断熱仕様を決める際に、暖冷房負荷の削減比率を目標としているとは限らない。現場での施工やコスト上の合理性から決まる場合も多い。寒冷地の一つ前の仕様を温暖地の最新の仕様に落とす、というのもよく行われる。国交省の資料において、暖冷房一次エネの削減率がふれているのは、そうした理由もある。

上記の通り、国交省の暖冷房一次エネルギー消費量評価には課題が多いと考えられます。特に、想定している暖房の使用条件が控えめで、健康・快適な室内温熱環境を前提としていません。このため、全館24時間空調を想定した鳥取県の指針がより適切であり、断熱は十分にペイする経済的な対策であると考えます。

HEAT20では、部分間欠暖房と連続24時間暖房で、以下の試算結果を上げています(東京・大阪などの温暖な6地域)。ここでの数字は暖房に必要な「暖房熱負荷」のため、厳密ではエネルギー消費量ではありませんが、だいたい同じと思われます。

そもそも、暖房の消費エネルギーを計算するには、外皮平均熱貫流率UAだけを削減しても限界があります。まずは断熱等級6程度にまでUA値を削減した後は、換気熱損失の低減や日射熱取得も大事になります。暖房設備のエネルギー効率も影響が非常に大きいのです。(参考 エコハウスの見つけ方 再生リスト