用語解説

住宅・建築物の脱炭素において、誤解を招きやすい用語を解説します。

省エネ基準

住宅・建築物の省エネは、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」通称:省エネ法の一部として、1980年に断熱等級2が制定され、1992年に断熱等級3,1999年に断熱等級4が定められた。ながらく断熱のみの規定で、かつ義務ではない任意基準のままであった。

2013年(H25)に、外皮性能に加え、設備の省エネ性能を評価する「1次エネルギー消費量基準」が導入された。

2016年(H28)に、住宅・建築物の省エネに関する法律として、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」通称:建築物省エネ法が制定された(国交省WEB 本文e-GOV

省エネ基準の達成のためには、建築物省エネ法が定める計算法に従い、非住宅の建築物においてはBEI=1.0以下(1次エネの設計値が基準値を下回ること)となる省エネ性能を確保することが必要である。

住宅においては外皮性能の確保(断熱性能UA値・冷房期の日射遮蔽性能ηAC値の両方が基準値を下回ること)、および省エネによりBEIを1.0以下とすることの両方が求められる。

より高いレベルの誘導基準も定められている。 解説サイト

省エネ基準の義務化には、以下の異なるレベルがある。

  • 適合義務 省エネ基準の外皮・1次エネ性能が基準値を満たすことが必須 現状では大・中規模の非住宅のみ

  • 届出義務 省エネ基準の外皮・1次エネ性能の計算・届出は必須だが基準値達成は任意 現状では大・中規模の住宅

  • 表示義務 省エネ基準の外皮・1次エネ性能を売買時などに表示し住宅の買い手や借り手に提示 欧米では一般的だが日本では未実施

  • 説明義務 設計者から建築主への省エネ基準の説明を義務化 2021年から小規模の住宅・建築物が対象

  • 努力義務 

2022年の通常国会に提出された建築物省エネ法改正案においては、2025年までに住宅を含む全ての建築物で、省エネ基準の適合義務化が定められている。

<問題点>

  • 2012年24年7月の「低炭素社会に向けた住まいと住まい方」の推進方策についての中間とりまとめ において、2020年に全ての住宅・建築物で適合義務化が予定されていたが、2019年に無期延期となっている(経緯)。

  • 建築物(非住宅)の省エネ基準適合率は、大規模98%(H28)、中規模97%(R1)、小規模89%(R1)と高い。ただし、これは1次エネの基準値が大きい(基準が甘い)影響が大きいと推測される。国土交通省社会資本整備審議会建築環境部会資料

  • 住宅の省エネ基準適合率は、大規模68%(R1)、中規模75%(R1)、小規模87%(R1)である。大・中規模の適合率が低く、届出義務化では実効性が低いことは明らかである。一方で頻繁に省エネ基準に対応できない業者が多いと言及される小規模住宅については適合率が高い。国土交通省社会資本整備審議会建築環境部会資料

断熱等級(住宅)

住宅外皮の断熱性能については、外皮平均熱貫流率(UA値)が基準値を下回ることが求められる。

  • 断熱等級1

  • 断熱等級2(1980年施行)オイルショック後に制定 温暖地ではシングルガラス+アルミサッシで可

  • 断熱等級3(1992年施行)温暖地ではシングルガラス+アルミサッシで可

  • 断熱等級4(1999年施行)温暖地でペアガラスが初めて標準となる 省エネ基準適合義務化で必須に

  • 断熱等級5(2022年04月施行) いわゆるZEH水準の断熱 遅くとも2030年までに適合義務化予定

  • 断熱等級6(2022年10月施行予定)

  • 断熱等級7(2022年10月施行予定)

国交省資料 住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級について PDF

断熱等級6はHEAT20 G2・断熱等級7はHEAT20 G3に準拠 (HEAT20 WEB)

断熱等級5・6・7に関する説明動画

<問題点>

  • 日本の住宅においては、現在にいたるまで断熱が義務化されていない。まともな最小限の断熱といえる等級4の割合はストックのわずか13%にとどまっている。国土交通省社会資本整備審議会建築環境部会資料

  • 断熱等級6・7の要求性能は高く、特に等級7は世界的にも見劣りしないレベルである。早急な普及が期待されるが、現状では普及目標が設定されていない。

  • 断熱の実効性に不可欠な気密の規定がない

  • 計算根拠により断熱の効果は大きく変化することに注意 断熱の効果

外皮性能PAL*パルスター(建築物)

建物(非住宅建築物)の省エネ基準に関わる外皮基準の指標 解説サイト

ただし省エネ基準の適合においては、特に基準値などは定められていない。

省エネルギー性能指標 BEI(住宅・建築物)

建築物省エネ法の定める1次エネルギー計算法に基づき、設計建物の1次エネルギーの設計値の基準値に対する比率がBEI(Building Energy-Efficiency Index)である。住宅においては、1999年制定の断熱等級4+2012年ごろの標準設備(白熱灯ありの照明・従来型ガス給湯機)の場合の1次エネルギー消費量が基準値とされる。

住宅のBEI=設計値(設計建物の断熱・設備仕様での一次エネ)÷基準値(断熱等級4&標準設備での1次エネ)

省エネ基準達成には、住宅・建築物ともに、BEIが1以下となることが必須である。誘導基準においては、住宅はBEI0.9以下、建築物は0.8以下が必要である 解説サイト

1次エネルギーとは、電力のエネルギー量を発電時の燃料換算(1kWhあたり9.76MJ)としたもの 解説サイト

BEIの低減のためには、「断熱」による暖房負荷低減・日射遮蔽による冷房負荷低減、高効率設備による「省エネ」、太陽光発電などによる「再エネ」が有効である。ただし、再エネについては自家消費分のみ評価され、売電分はBEI算出から除外される。

BEIの算出においては、住宅・非住宅ともに、建築研究所のWEBプログラムによる計算が必須とされている。建物の地域区分(冬の気温より1~8地域)、日射区分(A1~A5)、建物の床面積、外皮面積および断熱性能(UA値)・日射遮蔽性能(ηAC値)、暖冷房・換気・給湯・照明の設備種類・効率などを入力すると、1次エネルギーの推定値として、設計建物の仕様に対する「設計値」と、断熱等級4&2012年ごろの標準設備に対する「基準値」が算出される。

住宅WEBプロ 住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム

建築物WEBプロ 標準入力法 モデル建物法 小規模版モデル建物法

<問題点>

  • 非住宅建築物では省エネ基準の適合率(BEI1.0以下)が依然から高い(H27年の時点で大規模 97%・中規模94%)。これは省エネが進んでいるというより、基準値が大きい(基準の省エネレベルが低い)ことが主因と推測される。

  • 住宅においては、省エネ基準の適合率(BEI1.0以下)が、R1年の時点で、大規模68%・中規模75%・小規模87%であり、大規模・中規模の達成率が低い。国土交通省社会資本整備審議会建築環境部会資料

一次エネルギー等級(住宅)

建物の省エネ性能を示すBEIについて、区分した等級(一次エネ等級には3以下はない)

  • 一次エネ等級4 BEI 1.0以下 省エネ基準で満たすべきレベル

  • 一次エネ等級5 BEI 0.9以下 基準値から10%削減

  • 一次エネ等級6 BEI 0.8以下 基準値から20%削減 いわゆるZEHレベル

<問題点>

  • 一次エネ等級4より下は、定義されていない。一次エネ等級の設定時に、断熱等級4にそろえたものと思われる。一次エネ等級4で想定されているのは断熱等級4&2012年ごろの標準設備と、現状ですでに低レベルにも関わらず、等級4と呼応するのはハイレベルであるとの誤解を招きやすい。

  • 一次エネ等級はBEI 0.8以下の等級6どまりである。一方、ZEHなどの省エネ住宅の実績では、基準値からの一次エネ削減率は30%以上の物件が多く(ZEH報告会2021)、住宅トップランナー制度でも注文戸建は25%の省エネを求めている(国交省資料)。さらなる省エネの推進のためには、等級6を超える一次エネ等級の新設が必要である。

ZEH(Zero Energy House)ゼロエネルギー住宅

本来は、「断熱」「省エネ」「再エネ」により、消費するエネルギーを全て再エネで賄うことができる住宅を表します。一般には経産省のZEHに関する定義が一般的ですが、様々な定義変更が行われており、混乱を招いています。

経産省サイト ZEHに関する情報公開について

Sii 公開データ・資料

ZEH報告会資料 2021年  2020年 2019年 2018年 2017年 2016年 2015年  

<問題点>

  • 経産省の定義は「①断熱等級5以上」「②1次エネ等級6(BEI0.8以下 省エネ基準の基準値から20%以上の1次エネ削減)」「③家電その他を除く暖冷房・換気・給湯・照明の消費エネルギーを太陽光発電でカバーする」こととされています。計算には、建築研究所のWEBプロを使用します。

  • 通常、ただZEHと呼ぶ場合は戸建住宅を指します。共同住宅については、ZEH-M(イズミシステム設計)が定義されていますが、6階以上の物件については「③太陽光発電」がなくてもよいとされています。

  • 2012年24年7月の「低炭素社会に向けた住まいと住まい方」の推進方策についての中間とりまとめ において、2020年に「2020 年までに標準的な新築住宅で ZEH を実現し、2030 年までに新築住宅の平均でZEH を実現すること」とされていたが、2020年度の新築注文戸建のZEH化率は24.0%にとどまっている。2021年報告会資料

  • 経産省のZEHは、「③家電その他を除く暖冷房・換気・給湯・照明の消費エネルギーを太陽光発電でカバー」すればよいとされており、冷蔵庫・テレビなどの家電分は太陽光発電でカバーする必要がないので、実質はゼロエネになりません。

  • 国交省が「ZEH相当」と言及する場合は、「①断熱等級5」「②1次エネ等級6」のみをさしている場合がほとんどです。「③太陽光発電」については、あり方検討会とりまとめにおいて2030年に戸建新築6割に太陽光発電を搭載とありますが、具体的な普及に向けた施策は示されていません。

  • 共同住宅向けのZEH-Mは、ZEHレベルの①断熱②省エネ(BEI=0.8)についての適合率は、R1年において大規模住宅0%、中規模2%と、普及が極めて低調です。 国土交通省社会資本整備審議会建築環境部会資料

ZEB(Zero Energy House)ゼロエネルギービル

環境省サイト ZEB PORTAL

ZEB報告会資料 2021年  2020年 2019年 2018年 2017年 2016年 2015年 2014年 2013年

ZEB設計ガイドライン WEB

ZEBについては、様々な定義が乱立しており、非常に混乱しています。

空気調和衛生工学会 ZEBの定義と評価方法

経産省ZEBポータルサイト WEB

環境省サイトにおける定義 WEB

  • ZEB 省エネ(50%以上)+創エネで100%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物

  • Nearly ZEB 省エネ(50%以上)+創エネで75%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物

  • ZEB Ready 省エネで基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量の削減を実現している建物

  • ZEB Oriented 延べ面積10000㎡以上で用途ごとに規定した一次エネルギー消費量の削減*を実現し、更なる省エネに向けた未評価技術(WEBPROにおいて現時点で評価されていない技術)を導入している建物

国交省のZEB定義 官庁施設整備おけるZEB推進

  • 事務所等、学校等、工場等 : BEI (再生可能エネルギーによる削減量を含めない) ≦ 0.6

  • 上記以外 : BEI (再生可能エネルギーによる削減量を含めない) ≦ 0.7

<問題点>

  • 我が国の「エネルギー基本計画(2014年4月閣議決定)」におけるZEBの実現・普及目標は以下の通り

    • 2020年までに、新築公共建築物等でZEBを実現

    • 2030年までに、新築建築物の平均でZEBを実現

  • 一方で、2020年の新築におけるZEBの比率は0.42%ときわめて低調(ZEB報告会資料2021

  • 上記のように、ZEBには様々な定義が林立しており、『ZEB』以外は実際には太陽光の設置が必要ないため、ゼロエネとは本来言うべきではない

  • 特に、国交省がZEBとする場合は、単に省エネ性能がBEI<0.7/0.6である建物を指す場合がほとんどである。

  • 『ZEB』についても、OA機器などの電力は太陽光発電でカバーする必要はないとされているので、実質はゼロエネではない。

  • 非住宅建築物のR1年におけるZEB水準(ZEB Oriented 用途に応じてBEI=0.6/0.7)は、大規模32%、中規模21%、小規模3%であり、特に小規模の適合率が低い。国土交通省社会資本整備審議会建築環境部会資料