学術会議法人化法案が2025年6月11日に通過してしまったことを受けて、今後のために懸念点と対策を想定しうる範囲で書いてみた。
最終更新:2025年6月12日
新組織立ち上げの時は、特別な会員選考のため10−20名の「候補者選考委員会」作られますが、このメンバーに新生学術会議の会員選考が委ねられます。そして、この10−20人は会長が「内閣総理大臣が選任する者」と相談して決めることになっており、現行学術会議の会員以外の者をいれることが求められています。ここで、教育や安全保障といった分野において、特定の政策を反映した委員構成になることが懸念されています。
「候補者選考委員会」には「日本学士院」(日本にあるもう一つのアカデミー)の関係者と現行学術会議会員を入れることを要望する。それ以外の人については、選考基準を追求する。
新生学術会議は会員の解任基準を設けることが(大臣により)言及されてしまっており、それを受けて思想信条を条件とする解任を行う組織になる確率が高まっています。
「個人を思想信条で解任・拒否できる」慣行を許さないためにも、任命拒否問題の裁判2件を応援する(特に傍聴など)。裁判の結果は憲法第23条「学問の自由」のあり方に影響を与えるし、関連して表現の自由や信教の自由にも影響を与える。
(1)任命拒否された6人による情報公開訴訟
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000146
(2)小西議員による2018年日本学術会議法解釈変更に関する情報公開訴訟
https://note.com/konishi_hiroyuki/n/na2fd4eebe602?sub_rt=share_pw
通過してしまった学術会議法人には次の内容が欠けていることからの懸念があります。
・分野別の代表性を担保した構造
・2000人いる連携会員
仮に新生学術会議から連携会員がいなくなると業務が停滞する可能性があります。また、分野別構造がなくなると、単純な研究者人口比や政治的圧力を忖度した分野分布の組織になります。とりわけ、法学や人文学の分野の会員は減少し、人権に関する施策の面で有効な提言が適切に出しづらくなる懸念があります。
新生学術会議の分野別構造が大きく歪められることのないよう声を届ける。恐らく内閣府と学術会議のあいだでは今日からもうその話し合いが始まっているので、要望を出していく。
内閣府意見フォーム https://form.cao.go.jp/cao/opinion-0001.html
会員選考基準を公開することが求められているが、一部の分野に不利で不適切な選考基準を設けるのではとの懸念があります。
分野ごとに異なる評価基準があり、それを尊重すべきことは国際的にも認知されているので注意喚起を続ける。ライデンマニフェストや、DORA宣言、現行学術会議自体がまとめた評価基準等の文書がある。
「学問の自由」の観点からみて不適切な政策を支持する組織になってしまわないか。
・例:政治的な忖度を受けたジャーナルランキング等を設けて、大学研究者の人事評価に反映させようとする
・例:会員の思想信条を縛るような研究倫理規定を発信する(自身の専門ではないことを公式の場やSNSで発信しない、私生活での政治的活動を控える、など)
・例:歴史教育などに国際的に主流ではない見解を盛り込んだ提言を行ってしまう
市民社会と研究者の側で随時情報共有を続ける。既に各地の教育機関等で起きていることが学術会議の議論に適用されてしまうというルートを辿るはずなので、被害事例を集めて事前にその有害さを訴えていく。
国立大学法人化以降の「集中と選択」型改革や人文社会系改組といった批判もある政策を追認するような発信をする組織になる。
総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の施策とその効果の分析をした上で、新生学術会議にはCSTIとは異なる独自の貢献を求めていく。
数年後に再び学術会議改革論が起きて、今より更に「学問の自由」も組織の自律性も保たれない改革を強いられないか。
アカデミーにとって望ましい自律性と自由についての国際的な基準を日本国内で普及させていく。
特に、2020年以降、学術会議の改革が議論されるのと並行して、国際組織からアカデミーにとっての「学問の自由」を扱う声名が二件出ていることには注目するべき。これらは、日本の状況を念頭においているとの理解が一般的である。
・オタワ宣言(2025年6月2日):日本も含むG7のアカデミーが、学問の自由、研究機関の自律性、研究インテグリティ、研究セキュリティ、責任ある研究の遂行を支援するために採択(日本語版あり)
https://rsc-src.ca/en/news/science-academies-g7-release-joint-statement
・国際学術会議(ISC)とインターアカデミー・パートナーシップ(IAP)の声名(2023年12月15日):2023年時点での日本学術会議法の改正問題のときに公表
https://council.science/current/news/joint-isc-iap-statement-academies/
・「科学の自由と責任」一般については下記の文書も重要
International Science Council, A contemporary perspective on the free and responsible practice of science in the 21st century, 2021, https://doi.org/10.24948/2021.12