ポーランド科学アカデミー(PAN)では2010年以降、改革に関する議論が続いており、なかなか同意に達しない。2024年10月には、科学アカデミーが政府による組織改革計画に反発する様子が報じられた。それによると、政府は科学省によるアカデミーの政治的支配を強要しようとしているという。政府側は、その目的が「民主化」であると主張している。
日本と少し異なる背景について補足すると、旧共産圏のアカデミーには研究部門がある。その改革の内容と方向性を巡り対立も強まっている。ただし、このサイトで紹介した事例の中では組織の自治や会員の権限が最もよく守られている事例である(日本よりも状況はよい)。
問題となった政府の科学省による法案では次の3つの変更が提案されている。
1.同アカデミー内の意思決定権限の再配分。
PANは、執行機関(Corporation)、傘下の科学研究機関ネットワーク、およびPAN委員会(主に大学教員で構成)の3つの部門で構成されている。このうち、執行機関こそがポーランド科学アカデミーの正会員といえる350名の著名研究者により構成される組織であり、総会の構成員であるし、会長の選出など大きな決定権限を持つ。そしてこの350名は総会の唯一の構成員でもある。しかし 科学省の提案はは、2010年に設立された若手アカデミーの研究者が総会の20%を占めるべきであり、更には科学研究所の所長等も参加すべきであるとしたのであった。科学アカデミーはこれに反発した。何故なら、正会員を選ぶプロセスに非会員の意向が強く反映されることになるからである。また、各研究所が自分たちの組織からより多く人を送るために投票権を行使することも考えられる。
2.アカデミーに対する監督権限が首相から科学省に移管
歴史的な経緯から首相がアカデミーを監督するとされているが、その分コントロールは緩かった。しかし、法案は科学省がアカデミーを直接的な監督下に置く内容を含んでいた。PANはこれにより科学省がアカデミーの資産および資産管理を掌握できるようになるのではないかという懸念を示した。また、アカデミーの役割は科学省のみではなく、全ての省庁に対して科学助言ができる立場にあることだとも主張した。
3.強制的な会員の定年退職を導入
75歳以上のアカデミー会員に強制的な定年退職を導入することが提案された。しかし、アカデミーのメンバーは、定年は義務ではなく権利であるべきであり、科学者は年齢を理由に投票権を失うべきではないと主張している。
また、研究所への資金配分についても意見が分かれている。科学省は、より良い枠組みが必要であるとして、そのプロセスを監督する計画であるが、アカデミー側は省庁の監督が入ること自体に否定的である。