プリアンプ、パワーアンプをΣ結線。電源トランス間の相互干渉歪みを制圧する
プリアンプとパワーアンプをΣ接続する
シグマドライブと言えばSPとアンプとの接続を思い浮かべるが、TRIOはSPを含めあらゆる機器の接続もΣ接続することを提案した。その第一歩がL-08CとL-08M(L-06M)の接続をシグマドライブで接続する、プリアンプとパワーアンプ間の「Σ接続(Σ結線)」である。
プリアンプとパワーアンプの間も信号伝送劣化はあった。しかし、パワーアンプがSPという特別な負荷(電気信号を最終的に物理的な空気振動に変換して音を再生する)に比べて、機器間の伝送劣化は小さいものであった。そのためDDAS(ダイレクト・ドライブ・アンプリファイア・システム)では、プリとパワーの間の距離を伸ばしてパワーとSP間の距離を縮める伝送方法をL-07シリーズで採用した。これはプリアンプとパワーアンプ間をローインピーダンス化して距離を伸ばして、劣化の大きいパワーアンプとSPとの距離を短くするのが目的だった。
ΣドライブはSP接続方法を劇的に改善した(聴感的にも顕著な変化をもたらした)訳だが、RCA接続をするオーディオ機器間も改善しようとしたのが、L-08Cに採用されたプリアンプとパワーアンプの間のΣドライブ(Σ接続)である。オーディオ機器間の接続は、図1のように双方が電源をもっている。この2台のアースには電位差がないことはずだが、実際にはアースに電位差が生じているため、電源からのノイズが信号経路に混入している(接続する2台以外に、家庭内の様々な機器ともアースを共有している影響がある)。Σ接続では4本のケーブルで機器間を接続して、このノイズを信号経路に乗せないようにバイパスの役割を果たしている。さらに出力側のインピーダンスを大きく下げることができ、ケーブルによる信号伝送劣化も抑えることができた。
Σ接続は従来のRCA接続(アンバランス接続)よりも優れた接続規格であった。Σ接続をするには、出力側にΣ出力端子とΣオーディオケーブルが必要であったが、入力側は通常のRCA端子があれば接続が可能であった。これはバランス接続においては双方がバランス端子を持っていなければならないのに対して、RCA端子を持っているオーディオ機器であればΣ接続ができた。
L-08Cが最初のΣ接続(Σ接続端子を持つ)機器として登場し、その後、プリとパワーアンプの接続としてだけでなく、TRIOの各オーディオ機器にもΣ接続が採用された。チューナーのL-02T、L-03T、CDプレイヤーのL-03DPなどの、TRIO-KENWOODの高級機に採用された。しかし、メーカー純正の単体のΣオーディオケーブルは、通常のRCAケーブルに比べて圧倒的に入手しずらかった。
Σ接続の中でも、アンプとSP間でのΣ接続(通常のシグマドライブはこれ)であれば、ケーブル4本で自作できるが、オーディオ機器間をシグマ接続する純正の専用ケーブルとなると当時の秋葉原でも店頭で扱うのは稀であった。最も以下で紹介する12m、5mといった長さのΣオーディオケーブルはL-08MをSP近くに設置する(DDAS型シグマドライブ)ためにのみに使われる特別なケーブルであり、08シリーズを所有し、かつDDAS型シグマドライブ接続をする、というユーザーのみが必要としたケーブルとなる。
そのため、これら純正ΣオーディオケーブルはL-08が発表されてから数年はTRIOにも在庫があっただろうが、現在、純正ケーブル(08を所有している人でAC−120ΣとAC-50Σを別途購入した人)はほぼないだろう。
Σ Audio Cable 「AC-120Σ」
▲ TRIOが用意した08シリーズ専用の最長12 mの長さを持つ純正Σオーディオケーブル、AC-120Σ。 販売価格は2本で12,800円(当時)。
L-08CとL-08M(もしくはL-06M)を10m以上離して設置できる。比較的大きめなオーディオルームで、SPとの距離をとりつつ、パワーアンプをSPすぐ横に置くDDAS型シグマドライブ接続するなら、このケーブル長がほしい。純正ケーブルなので、パワーアンプL-08M(L-06M)入力端子にあるネジピッチと完全一致するネジ端子を持つ。確実にL-08M、L-06Mと接続できる。
Σ Audio Cable 「AC-50Σ」
▲ 08シリーズ専用の長さ5mの純正Σオーディオケーブル、AC-50Σ。 当時の販売価格は2本で6,800円。
L-08CとL-08M、L-06Mを5m離して設置できる。SPをオーディオラック近くに置き、プリアンプもパワーアンプを比較的近くに配置するなら、この長さが重宝する。右のL-08C付属のΣオーディオケーブルでも対応できるが、1.5mというのは少し短い上に、付属ケーブルはネジ式端子ではない。接続するパワーアンプがL-08M、06Mなら、ネジ式端子を持つΣオーディオケーブルで接続したい。またAC-120Σ、AC-50Σのどちらも、L-08C付属のケーブルより太く、ケーブルの品質が格段に良い。
Σ Audio Cable 「L-08C 付属」
▲ L-08Cに同梱されている純正Σケーブル。 デザインは左の別売り純正ケーブルとは異なる。ネジ式端子を持たない。
ネジ式端子を持たない理由は、プリアンプとして他社のパワーアンプの接続を想定しているためだ。ネジ式端子は、L-08MとL-06Mと接続するときにだけ使うからだ。
L-08CはΣオーディオ・ケーブルを使用すれば、他社のパワーアンプと、シグマドライブ接続できるということである。
L-08C付属ケーブルは、ネジ式端子ではない。
ネジ式端子は、DDAS接続を始めたL-07世代のアンプから採用された。
純正のΣオーディオケーブルAC-50Σ(5m)のネジ式端子。純正はKENWOODのマークが刻印されている。このマークの上の部分が、自由に回転できるネジになっており、L-08M,L-06Mの入力端子のネジと組み合わせることで、接続を確実に固定させることができる。
アンバランス接続からΣ接続へ
シグマ接続には、専用ケーブルと端子を必要としたが、従来のピン接続(アンバランス接続)の問題点を克服する画期的な接続方法だった。
オーディオ機器(電化製品)のすべてが電源を持ち、アースを持っているが、接続する機器のアース間には電位差はないと想定されていた。実際はそうではなく、接続するアース間には電位差があり、これが機器間の伝送信号(音楽信号)に悪影響を与えていた。Σ接続では接続する機器の間に発生したアースの電位差を打ち消すように働く。
さらに接続する二つの機器がそれぞれ持つ電源トランスが、結線することで生じる静電結合、電磁結合を引き起こし、それが相互干渉して歪みが生む原因となっていた。これをΣ結線で追加されたケーブル側に逃し(バイパス効果)、信号にノイズを混入させないようにした。
L-08CはΣ接続によって、出力インピーダンスを0.01Ωという、通常結線の1万分の1という極めて強力な駆動力で接続するパワー・アンプに信号を伝送できるようになっていた。