プリアンプ、パワーアンプをΣ結線。電源トランス間の相互干渉歪みを制圧する
プリアンプとパワーアンプをΣ接続する
Σドライブと言えばSP(スピーカー)とアンプとの接続を思い浮かべるが、TRIOはSPを含めあらゆる機器の接続にも「Σ接続」することを提唱していた。その第一歩がL-08CとL-08M(L-06M)の「Σドライブ接続」である。
プリアンプとパワーアンプの間も信号伝送劣化対策は、前作L-07シリーズからの出力インピーダンスを下げることから始まる。L-07CIIでは最終段に強力なバッファーアンプを組んで、出力インピーダンスを10Ωまで下げることで、プリアンプとパワーアンプとの接続距離を伸ばし、一方でパワー・アンプとSPと接続距離を短くする「DDAS(ダイレクト・ドライブ・アンプリファイア・システム)」を構築した。
次世代のL-08では、「Σドライブ理論」にそってアンプとSPの間にも、4本接続方式により強力なFBで低歪化を果たしたが、プリとパワーの機器接続にもこれをそのまま拡張した。つまり、「シグマドライブ」はSP接続方式だけに留まらず、プリアンプとパワーアンプ間での接続にも採用された。これに近い発想にはONKYOのP-306シリーズやP-309で採用された「Super Servoコード」がある。もっとも、ONKYOはプリアンプとパワーアンプを離して接続させる設計思想ではない(長いSuperServoコードは存在しない)。
プリアンプとパワーアンプ間の電源ノイズ対策
接続するオーディオ機器の双方は、必ず電源を持っているが、それぞれのアースには電位差がないことを前程としている。しかし、実際には接続する2台の機器のアース間には微妙な電位差が生じていて、そこからノイズが信号経路に混入し(更に同じ家屋に接続された様々な機器の電源からのノイズもあり)、信号を劣化させている。
L-08Cに採用されたオーディオ機器間用の「Σドライブ接続」は、信号経路に入ってくるノイズを経路からバイパスさせる効果があり、同時に出力インピーダンスを大きく下げ、長いプリとパワーとの接続ケーブルによる信号の劣化を抑える。Σドライブ接続は、二つの機器の接続距離を0に(線から点になる)収束させて、出力端子と入力端子が直接つながっている(ケーブルがないかの)ような効果を生み出すのである。
Σ接続するために必要だった「Σオーディオケーブル」
SPとパワーアンプ(L-08M)との接続には、4本のSPケーブルを用意すればどこのメーカーのものでも、Σドライブ接続できる。しかし、プリアンプ(L-08C)とパワーアンプ(L-08M)との接続、アンプ間でのΣドライブ接続を採用しようとすると、通常のRCA端子を持つPINケーブルは使えない。フィードバックさせるルートをSPケーブルのように作れないからだ。SPのΣドライブ接続のように「任意の4本のSPケーブルで繋ぐ」という対応ができない。そこで、RCA端子に接続をするために、帰還用配線を組み込んだ専用のケーブルを必要となった。これが「Σオーディオケーブル」である。
プリ専用のΣドライブ接続の端子を初めて搭載し、専用ケーブルを用意したのが初号機が「L-08C」となる。プリ側(出力側)はこの専用のΣオーディオケーブルを繋ぐための、特殊な端子を用意した。
特に07シリーズから始まったDDASスタイル(パワーアンプをSP直下に置き、プリとパワーアンプを引き離す接続スタイル)で接続することを前提にしたL-08Mでは、L-08Cとのケーブルは非常に長くなる(ことが想定された)。そこで、L-08Cではパワーアンプを遠隔に設置しても音質劣化がしないように設計された「プリ・パワー間専用Σ接続」を用意した。そして、遠隔に置かれたL-08M側も接続を確実にするために、ネジ式ロックのできる端子と、専用の「Σオーディオケーブル」を用意した。
セパレートアンプであり、プリメインアンプでもある
Σオーディオゲーブルによって、プリ(L-08C)とパワー(L-08M)全体で、1台のプリメインアンプのように回路的に接続された状態にしているのが「Σドライブ接続」である。Σドライブ接続ではΣオーディオケーブル先端までMFBが性能を保証しているからだ。似たような発想にONKYOの「スーパーサーボコード」が(P-306,P-309など)がある(内部の結線方法が異なる)。08アンプの魅力は、L-08CとL-08MがΣドライブ接続によって、1つの『L-08CMという仮想のプリメインアンプ』になれることある。
機器間にも拡張した「Σドライブ接続」
TRIOが柔軟だったのは、Σドライブ接続をプリとパワー間の専用接続だけで終わらせずに、アンプ以外のオーディオ機器間にも、Σドライブ接続を採用したことにある。アンプ以外の機器にΣオーディオ端子とΣオーディオケーブルを用意して、Σドライブ接続できるようにした。実際、チューナーL-02T、L-03T、CDプレイヤーL-03DPなどに、Σ接続用の出力端子が用意され、専用のΣオーディオケーブルが同梱された。 こうして「シグマドライブ」は単にスピーカーを駆動させるだけでなく、あらゆるオーディオ機器との接続に「Σドライブ接続」できるように拡張された。
ただし、それらはDDAS接続の「プリとパワーの長距離接続」」を目的としたL-08CのΣドライブ接続とは異なり、接続の効果は劇的せはなかったとはいえ、RCA端子にあったオーディオ機器間のアース問題に対応できた。その中でも「L-08シリーズ」で採用したプリ・パワーアンプ専用Σドライブ接続は特別であった、と言える。
「Σドライブ端子」と「Σオーディオケーブル」が必要だが、接続先は選ばない
オーディオ機器間でΣドライブ接続をするためには、出力側の機器に「Σ出力端子」と「Σオーディオケーブル」の二つ必要となる。ただし、入力側には制限がなく通常のRCA端子であれば、どの機器に対しても「Σドライブ接続」が可能となった。これは「バランス伝送接続」の場合、「バランス伝送用ケーブル」と出力側も入力側も「バランス端子」を持っていなければならないのに対して、入力側に制限がない分、Σドライブ接続方式が有利であった上に、信号劣化も低く抑えられた。しかし、実際にはこの接続方式はトリオの高級機だけで普及はしなかった。
TRIO-KENWOOD純正のL-08専用、プリ・パワー接続用「Σオーディオケーブル」
Σ接続の中でも、アンプとSP間でのΣ接続(通常のシグマドライブはこれ)であれば、ケーブル4本で自作できるが、オーディオ機器間をΣドライブ接続する純正の専用ケーブルとなると当時の秋葉原でも店頭で扱うのは稀であった。特にL-08Cで使う12m、5mといった長さの「Σオーディオケーブル」は、L-08MをSP近くに設置する(DDAS型Σドライブ)という特殊な目的に使われる特別なケーブルであり、以下で紹介するような、特殊なネジ式ケーブルである。
★回想録★ Σオーディオケーブルでも、L-08C専用の延長ケーブル、AC -Σ120とΣ50は軽視されがちだが重要なケーブルだ。L-08Mとネジ式コネクターで確実に繋げるのは、この2種類のケーブルだけだ。Σオーディオケーブルは、08全体が一つのプリメインアンプように動く回路の一部であるから、ケーブルの接触が甘くなることは許されない。
Σ Audio Cable 「AC-120Σ」
▲ TRIOが用意した08シリーズ専用の最長12 mの長さを持つ純正Σオーディオケーブル、AC-120Σ。 販売価格は2本で12,800円(当時)。12mという長さを保証するメーカー純正のΣケーブルである。
L-08CとL-08M(もしくはL-06M)を10m以上離して設置できる。比較的大きめなオーディオルームで、SPとの距離をとりつつ、パワーアンプをSPすぐ横に置くDDAS型Σドライブ接続のケーブル。純正ケーブルなので、パワーアンプL-08M(L-06M)入力端子にあるネジピッチと完全一致するネジ端子を持つ。確実にL-08M、L-06Mと接続できる。
Σ Audio Cable 「AC-50Σ」
▲ 08シリーズ専用の長さ5mの純正Σオーディオケーブル、AC-50Σ。 当時の販売価格は2本で6,800円。
L-08CとL-08M、L-06Mを5m離して設置できる。SPをオーディオラック近くに置き、プリアンプもパワーアンプを比較的近くに配置するなら長さに適する。L-08C付属のΣオーディオケーブルの1.5mでは短いので、実際のDDAS型Σドライブ接続には、このケーブルがベスト。特に接続するパワーアンプがL-08M、06Mなら、ネジ式端子を持つΣオーディオケーブルで接続できる安心感が大きい。またAC-120Σ、AC-50Σは、L-08C付属のケーブルより2倍以上太く高品質なケーブルを採用している。
Σ Audio Cable 「L-08C 付属」
▲ L-08Cに同梱されている純正Σケーブル。左の別売り純正ケーブルとは異なり、ネジ式端子を持たない。
ネジ式端子を持たない理由は、プリアンプとして他社のパワーアンプの接続を想定していたためである(ネジ式端子は、L-08MとL-06Mだけに使用)。L-08CとΣオーディオ・ケーブルを使用すれば、他社のパワーアンプと、Σドライブ接続できる。もっとも、左で紹介した2種のケーブルでも、他社パワーアンプとΣドライブ接続できる(ネジを使わなければいい)。
L-08C付属ケーブルは、ネジ式端子ではない。
ネジ式端子は、DDAS接続を始めたL-07世代のアンプから採用された。
▲ L-08専用の純正のΣオーディオケーブルAC-50Σ(5m)のネジ式端子。純正はKENWOODのマークが刻印されている。このマークの上の部分が、自由に回転できるネジになっており、L-08M,L-06Mの入力端子のネジと組み合わせることで、万が一の接続ドラブルを防ぐことができる。
アンバランス接続からΣ接続へ
Σドライブ接続には、専用ケーブルと端子を必要としたが、従来のピン接続(アンバランス接続)の問題点を克服する画期的な接続方法だった。
オーディオ機器(電化製品)のすべてが電源を持ち、アースを持っているが、接続する機器のアース間には電位差はないと想定されていた。しかし、実際には接続するオーディオ機器の電源アース間には微小な電位差があり、これが機器間の伝送信号に悪影響を与える。Σドライブ接続では接続する機器間のアースの電位差を打ち消すように働く。
さらに接続する二つの機器がそれぞれ持つ電源トランスが、結線することで生じる静電結合、電磁結合を引き起こし、それが相互干渉して互いに歪みを生む遠因となっていた。この悪影響をΣドライブ接続で追加された2本のシグマセンサー側の線に逃し(バイパスし)、信号伝送のメインの線にノイズを混入させないようにした。
L-02TのΣドライブ接続(Σオーディオケーブル)
オーディオ機器間のΣドライブ接続として、L-02Tチューナーとアンプ間のΣ接続を紹介しよう。L-02Tは数少ないΣドライブ接続ができるチューナーで、付属のΣオーディオケーブル(取説では「出力コード」とある)を使って、アンプの入力端子(通常のRCA端子)とΣドライブ接続ができる(L-02Tの取扱説明書より)。
右の取説では、図ではL-02Aを接続先として挙げているが、実際にはどんなプリメインアンプ、プリアンプでもΣドライブ接続は可能だ。接続先が通常のRCA入力端子のオーディオ機器なら、どんな相手でもΣドライブ接続が可能だ。ここがバランス伝送接続だと、入出力の双方が必ずXLR端子を持つ必要がある。その点でΣオーディオケーブルがあれば、相手が通常のRCA端子を持つオーディオ機器であれば(通常、RCA端子を持たないオーディオ機器はない)、どんな機器間でもΣドライブ接続ができるわけである。
▲ 取説の例としてテープデッキ(録音入力端子)に通常のPINケーブル接続しているが、テープデッキにΣドライブ接続しても良い(L-02Tは二系統の出力があるので、図のような接続もできる)。L-02TのΣドライブ端子の出力インピーダンスは、1Ωと非常に強力なものになっている。
L-03T
L-03DP