接続するパワーアンプを意識してΣ結線。微小信号は純度をあげる
Lシリーズの商品の中で最もプロトタイプらしい
L-08Cは、L-07シリーズで提唱された「接続するパワーアンプやスピーカーを低歪みで駆動させる」DDAS(ダイレクト・ドライブ・アンプ)理論の完成形としてTRIOが開発したプリアンプである。
L-07CIIではプリ出力をローインピーダンス化し、低歪みで強力にパワーアンプに信号を伝送するように設計されたが、L-08Cではプリ出力を「シグマドライブ」にして、より低歪みに、より強力に、さらに接続するパワーアンプとの間に潜む「電源アース」の問題をも解決できるように開発・採用した。
「シグマドライブ」は、SPケーブルの信号劣化を減らすために開発されたものだが、L-08Cではプリとパワー間を結ぶケーブルの歪みを減らすことにも応用した。L-08Cで開発された「シグマドライブ」で機器間を繋ぐ方式を特に「シグマ接続」といい、以降、TRIOの他の高級オーディオ機器でも採用されることになる。
先進的なデザインを身にまとったL-08Cは、細身でマグネティックディストーション理論(L-01A時代からのトリオが提唱したもの)にそって非磁性体にするために、ケースの大部分が樹脂性(下部がアルミシート付きのパーティクルボード、背面がアルミ)となっている。
L-08Cは理論を追求する、Lシリーズが実験(ラボ)の意味を持つシリーズの中にあって、特に実験要素の高い機器であった。L−08Cはプロトタイプマシンが、そのまま商品とされたといえる個体だった。L-08Cには本体だけでなく、カタログに掲載のない隠れ強化機器、プリアンプ専用強化電源L-08CPSなどがあった。
▲左側半分がシーリングパネルに隠されたコントロール部。3段階(3,6,9dBの可変周波数型)のラウドネス・コントロールのみで、トーン回路は用意されていない。
◀︎ フェーダースイッチとスライド型のボリューム(中身は通常の回転型ボリュームでALPS製を採用)。個体はデリケートに扱わないと、パワーボタンあたりから塗装が剥げることになる。
デザインは美しく挑戦的だ・音量調節はスライドバーでお飲料を調節し、後はFADERボタンで押すことで0から設定音量まで上げたり、逆に0まで下げたりできる。
セパレートアンプのメリットとデメリット
信号を増幅するにおいて、微小信号だけを制御するセパレートアンプのメリットは多い。その一方で、プリとパワーの電源管理、プリとパワーをつなぐ接続管理などが、プリメインアンプよりもシビアになる。
本来、信号を伝達させるのに長いケーブルで引き回すのは良くはない。微小信号を扱うプリと、増幅を主眼に置くパワーは分離したいが、分離したために、接続するための信号ケーブルは長くなる。その点はプリメインアンプにメリットがある。
電源も、微小な信号を扱う部分(プリ)と、大きな信号を扱う部分(パワー)の電源を独立分離できれば、相互の影響は受けにくくなる。左右についても同様で、Rチャンネルの信号と、Lチャンネルの信号も独立した方が良い(モノラルパワーアンプ形式)。
信号の純度を考えれば、アンプは信号の処理レベルの応じて電源から完全に分離した別個体にするセパレートアンプは理想に近い。しかし、それはセパレートしたアンプ間の信号が正しく伝送される前提である。プリ側でいくら音の純度を上げたとしても、パワー部に送る途中で信号が劣化しては話にならない。その一つの対応策がL-07CII等で採用された「プリ出力のローインピーダンス化」である。
L-08Cではさらに伝送の純度を上げるために、プリとパワーの接続に、アンプとSPとの接続に開発したシグマドライブ方式を採用した。シグマドライブは特殊な接続方法のために、通常のRCA端子やケーブルは使えない。そのためにL-08Cでは「シグマ接続」専用端子と専用ケーブルが用意された。それが「Σオーディオケーブル」だ。
Σオーディオケーブルは、信号伝送用ケーブル2本と帰還用センサーケーブル等が組み込まれた多数結線で、後のL-02AやL-02Tなどのシリーズにも採用されるΣオーディオケーブルとは構造的に同じである。ただし、L-08専用のΣオーディオケーブルはパワーアンプ側の接続端子にネジ式を採用し、確実にパワーアンプに接続できるように設計された(ネジ式端子はDDAS方式を採用したL-07シリーズから採用された)。
L-08Cでは2つのプリ出力を持ち、Output1がシグマ接続専用、Output2が通常接続(シグマドライブtype B)である。
Output2がシグマドライブtypeBというのは、「OUTPUT2ではΣドライブ方式結線になりませんが、L−08Cの内部結線はΣドライブ方式になっておりますので、性能的には遜色なくご利用いただけます」と説明され、これは後に後にKENWOODが4本接続のシグマドライブを諦めて、2本化に簡素化した「ΣドライブtypeB」にほぼ等しい。
シグマドライブ開発初号機であるL-08のときに、三年後に登場する簡易版シグマドライブ(シグマドライブTypeB)とほぼ同じ仕組みも用意されていた。このセンサー回路を外部に伸ばすのを諦めたシグマドライブ、後に「typeB」と名付けた(なぜ4本を諦めてのかはL-08Mを参照)出力端子なら、通常のRCA端子と通常のPINオーディオケーブルでパワーアンプと接続できる。ただし、本来のシグマドライブの機能の一部は使えなくなる。
L-08Cは接続距離などの不利となるセパレート固有の問題に対して、プリアンプL-08CとパワーアンプL-08Mとを「シグマ接続」で繋げ、セパレートの音質的な有利な点を最大限に活かしながら、接続問題に対応したアンプなのである。
プリとパワーのアース電位差問題
プリとパワーが電源を独立していることで、それぞれの影響がなく理想的なアースであればいい。しかし、実際は両者間には電位差があり、さらに実際の家屋の電源アースは独立していないため、家屋のコンセント電源でも微妙な電位差が生じている。電源の極性を変えたり、特別なクリーン電源を用いると音質が変化すると言われる。
プリの電源と、パワーアンプの電源は(厳密には他の音響機器も同様に)、屋内のAC電源を経由して静電結合しているのと等価で、パワーアンプの変動の影響を受けている(理想的な電源を確保するのは実際には難しい)。実際の屋内の電源は、長いケーブルで配線されていて高いインピーダンスを持っているからだ。特に一番強大な負荷であるパワーアンプを負荷にもつプリアンプは影響を受けやい。
シグマドライブはこの電源間のアース電位をそろえる効果があり、プリとパワー間の信号は、電源による影響を受けず忠実な伝送ができるように設計された。さらに、パワーアンプの変動、逆起電力、さまざまな非直線性の素子の影響などがからまって相互に干渉する問題を、L-08Cで採用された「シグマ接続」が解決した。
出力インピーダンス0.01Ωという超ローインピーダンス化で接続距離問題を解決
L-07CIIと同様、L-08CはパワーアンプをSP近くに置き、プリアンプとパワーアンプとの距離を開くスタイル(DDAS型)に対応している。そのため、プリアンプの出力インピーダンスを下げることは重要だ。プリ出力に「シグマドライブ」を採用したL-08Cの出力インピーダンスは極めて低く抑えられている。
L-08Cのプリ出力インピーダンスは、「0.01Ω」という超ローインピーダンスとなる。ローインピーダンス化を進めたL-07CⅡの10Ωでも十分な数値であったが、L-08Cではさらに1000分の1まで推し進めた。TRIOはドライブ能力(出力のローインピーダンス化)を、どのオーディオ機器でも強化しているが、その中でもL-08Cの数値は突出している。
▲ 端子にはKENWOODマークが刻印され、誤って抜けないように、端子はねじ式となっている。(このネジ式端子もTRIOが特許にしていた)
これは不用意に端子が抜けないようにするため。接続不良はセンサー回路が損傷するための安全措置でもある。シグマ接続欠点の一つに、接続不良によって、センサーが故障するリスクが常にあることがメーカーの悩みの種になった。
▲ ネジ式端子はDDAS型初代のL-07時代から採用されていた。DDASスタイルは、プリとパワーとの間が長くなるので、何かの拍子で外れないようにという配慮である。
▲左からL-08C付属のΣオーディオケーブル(1.5m)、メーカー純正の別売りΣオーディオケーブル、AC-50Σ(5m)、AC-120Σ(12m)で、パワー側の接続端子
▼プリ側の接続端子は、コネクター型の端子となる(左から、L-08C付属、AC-50Σ、AC-120Σケーブルとなる)
L-08CとL-08Mをつなぐ専用の「Σオーディオケーブル」
プリとパワーをシグマドライブで繋ぐケーブルは、Σ(シグマ)オーディオケーブルと呼んでいる。このケーブルには(トリオ・ケンウッドが特許を持っていた)ねじ式の端子(08M側の端子にもねじが装着できるようになっている)が装備されている。ねじ端子付きケーブルそのものは、L-07の専用ケーブルから採用されていた。Σオーディオケーブルは、それにシグマドライブ専用のセンサーケーブル(MFB)が組み込まれている。
接続方法は簡単だ。L-08C側にあるシグマドライブ専用のコネクタにΣオーディオケーブルを接続させる。シグマドライブ接続を確実に行うために、L-08C側は専用コネクターで接続させ、L-08M側はねじで確実に接続を固定させる(間違っても、電源入れたまま接続しないこと!)。
SPとシグマ接続するときは4本のケーブルを組み合わせて接続するが、プリとパワー間の接続には専用ケーブルを使う。このためSPとの接続に比べれば、プリとパワー間での接続トラブル(L-08Mの章参照)は少ないといえる。しかし、SPケーブルを4本用意すれば接続できるSP側のΣドライブ接続とは違い、専用ケーブルがなければL-08Cの優れた「シグマ接続」は使えない(その場合は、OUTPUT2のシグマドライブTypeBで接続するしかない)。
L-08C付属のΣオーディオケーブルと、別売り専用Σオーディオケーブル
L-08Cには1.5mのΣオーディオケーブルが付属しているが、この長さが実に微妙だ。DDASのようにSPにパワーアンプに側に置き、プリとパワーの間を遠ざけるという接続スタイルにするなら、もう少しΣオーディオケーブルに長さが欲しい。そのために、純正のΣオーディオケーブルが2種類用意されていた。
5mのAC-50Σ(¥6,600 )と12mのAC-120Σ(¥12,600 )。この別売りにだけ「ネジ式接続端子」が採用され、ケーブルも付属品よりも高品質に作られている。L-08C付属のΣオーディオケーブルは、ネジ式でなくケーブルの太さも細いので、L-08Mとシグマ接続するなら、ネジでしっかり固定できる別売りの専用ケーブルが推奨となる。
プリとパワー間を専用ケーブルで繋ぐものに、他にはONKYOの「SuperServoコード」がある(ただし、中身はシグマ接続とは全く異なるものなので、相互に流用はできない)。
電源電流吸収回路
「シグマ接続」によってプリとパワー間の信号経路上の電源アースの問題に対応したが、もう一つ、TRIOではプリとパワー接続時におきる電源問題に注目した。
プリアンプとパワーアンプは、それぞれ独立した定電圧電源をもっているが、この二つを接続することで、負帰還をもった定電圧電源を直列に配置される状態となる。これは回路的には複雑になり、好ましいとはいえない。しかし、そう簡単にアンプから「負帰還を持つ定電源回路」を外すことはできない。そこで「定電圧電源」を取り除ける効果のある回路、「負帰還を持たない定電源回路」が理想となる。
その回路としてL-08Cが採用したのは、TRIOで開発されたものではなく、YAMAHAで開発された電源回路技術であった。それは負帰還を持たず電源電流変化を0に収束させる効果のある「ピュアカレントサーボ」という回路であった。
「ピュアカレントサーボ」は、YAMAHAの多くのオーディオ機器に採用されていた看板技術。回路にはType1,2,3と多様なピュアカレントサーボがあったが、その源流はモノラルパワーアンプ「BX−1」(定価33万円×2台)である。BX-1は1つのモノラルパワーアンプの中に、正相と逆相バッファアンプ2台と、+とーを独立して増幅するバランスアンプ2台、の計4台のアンプが、互いの電源電流変化を吸収する「ピュアカレントサーボ・アンプ」構成して増幅する先駆的なパワーアンプ。
L-08CはTRIO-KENWOODであり、TRIO-YAMAHAとも
TRIOはL-08Cに「電源電流吸収回路」という名で「ピュアカレントサーボ」を採用した。これによって、L-08Cは電源とアースに交流電流がいっさい流れない(インピーダンスが0と等価)設計となっているため、電源部からの影響をまったく受けないアンプとなっている。右図上のオシロスコープ波形で、L-08Cでは交流電源電流が吸収されているがわかる。これによって、L-08CとL-08Mをつなげても、直列に定電圧電源回路が並ぶことはなくなった。
セパレートアンプでの電源問題である“定電圧電源が直列に配置される”ことを排除するために、L-08Cでは他社(YAMAHA)の技術をベースにして開発した「電源電流吸収回路」を採用した。その手法がベストであれば、他社の技術をL-08Cでは採り入れたTRIOの姿勢は賞賛しても良いと思う(許可したYAMAHAも)。
マルチ電源から補強追加電源まで
電源電流吸収回路を採用したL-08Cは、電源の強化と対策に力を入れたプリアンプといえる。マルチ電源を採用したのも、その一つで、L-08Cは「MMイコライザーアンプ」「フラットアンプ」「ヘッドアンプ」「制御系電源」など、それぞれを左右独立電源で駆動させている「マルチ電源」構成となっている。
イコライザーAクラスアンプ、同Bクラスアンプ、フラット右チャンネル、フラット左チャンネル、MCヘッドアンプ、フェーダー駆動用などの制御系、の6系統独立タイプで、前者4つに「電源電流吸収回路」、後者2つに「定電圧電源回路」が付いている。
L-08Cに搭載されたトランスはその個体の薄さにしては、プリアンプとしては巨大なEI型の電源トランスを搭載している。
隠しアイテム・強化補助電源L-08CPS
L-08Cにはカタログにも、取説にも掲載されていない、「L−08CPS」という強化電源が密かに用意されていた。
L-08CPSは、L-08M に対するL-08PSと同じで、電源を強化するオプション機器である。ただし、L-08PSはカタログにも掲載され、増設端子が最初からL-08M側に用意されていたのに対して、L-08CPSはカタログにも、L-08Cの取扱説明書にも記載がなく、L-08C本体に電源増設端子は用意されていない。
増設端子はTRIO-KENWOODサービスに別途、L-08Cオーナーが、L-08CPSを別途購入した際に依頼して増設する、完全な「後付け」。増設端子は、L−08Cのシリアルナンバープレートを外したところに後付けする(右図、L-08CPS取説より)。
右の写真を見てもらうと分かるように、シリアルのプレートは2つのネジで外せるようになっている。ここを外すとコネクターを増設できる穴が出てくる。ここにL-08CPS側に青色の接続端子が同梱されているので、それをL-08Cに増設する(増設作業はメーカーに依頼する)。
L-08CPSはサービスに言わせると「車に積むニトロやターボのようなもの」で、パワーアンプL-08M用の強化電電「08PS」とまったく同じ思想で作られているとはいえ、特別なオプションという立ち位置だったらしい。
L-08CPSはカタログに掲載がない。L-08PSとデザインも大きさもまったく同じものだが(個体のロゴだけL−08CPSと刻印されているが)、その中身はL-08Cと同様にマルチトランスとなっている構成となっており、L-08PSのような巨大なトランスがモノラルで構成されているのとは異なる。
L-08CPS,L-08PSはあくまで本体電源とは別の「補強電源」で、これらがなくてもL-08C,L-08Mは単体で動く。
L-08CPSはL−08C側にも増設する端子がどこにもないため、隠れアイテムとして存在したところが、Lシリーズならではの実験機器のおもしろさではある。
L-08CPSの接続端子は外れやすいため、故障の原因となる(増設後の経験談…)。コネクターはあくまで実験的なオプションであるため? 安全性が考慮されていないと思われる。同じ構造のL-08PSはネジ式、KA-1000PSは固定するためのストッパー金具があるが、L-08CPSにはこれが小さくて簡単に外れやすい(本当に、実験的なプリアンプである)。
▲ L−08Cのプリ出力端子。左から、シグマ接続するコネクター端子、通常の出力端子(後のシグマドライブ typeB と同じ仕様で設計されている)。
さらに右にあるのがシリアルプレートだが、ネジで外れるようになっており、ここを開けると、穴が空いており、 L-08CPS を接続できる端子を組み込むスペースが隠れている。
L-08Cの最大の欠点は個体が樹脂でできていること。デザインは本当に素晴らしいのだが使用には耐えられないというのが致命的だった。L-08Mにあれほど贅沢にアルミを使っているならば、L-08Cもアルミで作ってほしかったのだが…残念。
使っていくと塗装が剥げてくるL-08C…KA-1000なども塗装が…以下同じである。初代のシグマドライブ機器はすべて樹脂なのは、磁性体となるケースを徹底的に避けたための結果であるが、実用性は低かったと評価せざるを得ないだろう。
L-08Cのパネルを開けると、制御するパネルを前面に出してくるデザインが秀逸。上段のボタン類はグレー色の透明ボタンでできているのがオシャレ。下に降りた扉をもう一度クリックすると、ゆっくりと制御パネルとボタンが奥に下がりながら扉が閉まる。
上段は左から「STRAIGHT DC(Subsonic Filter)」「MODE(streo,mono)」「TAPE(A,B)」「FUNCTION(Tuner,Aux)」となる。下段は左から「ヘッドホン端子」「ラウドネス切替(ステップ型)」「ラウドネス周波数調整」「バランス調整」「REC OUT切替」「PHONO切替」となる。
ニューハイスピード回路
L-08CはL-07CⅡから受け継いだハイスピード回路を改良した「ニューハイスピード回路」を採用。L-08Cの周波数特性は850KHz−3dBとなりのライズタイム0.4μsを誇っている。極めて広帯域なアンプであるが、L-07CⅡのようにむやみに高速化に特化させず、オープンループゲインを広げて可聴帯域外までのインピーダンスや帰還量を一定にすることに主眼を置くように変更された。
アンプを高速化するために、驚異的な周波数特性であるDC~3.5MHzにまで広帯域化したL-07CIIとは異なり、L-08Cでは高速化維持しつつ、電源周りや全体の信号伝送経路における歪みを総合的に低歪化する方向へ舵を取ったのが、新しい「ニューハイスピード回路」となる。
0.00007% の超低歪み率
フラットアンプは、ワンチップのデュアルFETの2段作動+差動出力SEPP+電源電流吸収回路の構成により、全高調波歪み率が0.0007%(20Hz〜20KHz)、10Hz〜100KHzでも0.0008%という、広い周波数帯域で0.001%を下回る極めて低歪みなアンプに仕上がっている。これまで述べた薄い個体だが、徹底したマグネティックディストーション理論にそった磁気歪みを考慮した樹脂製の個体と、複雑な回路構成の成果といえる。
周波数連続可変型ラウドネス回路のみ、トーンアンプを排除
L-08Cでは低域、高域を増幅するトーン回路は排除されている。回路はシンプルにできるならした方がいい。L-07CIIではステップ型のトーン回路を採用して回路上のブラシ接点を無くしたのだが、トーン回路上のコンデンサは消せない。そこでL-08Cではこのトーンアンプそのものを切り捨て、音質劣化の少ないパッシブ素子だけで構成できる「ラウドネス回路」だけにした(後継のL-02Aもラウドネス回路だけを付けている。最終系のプリメインアンプ、L-A1ではラウドネス回路さえもなく音量調整のボリュームだけという徹底ぶり)。
L-08Cではラウドネス回路もない回路構成も検討されただろうが、あえて低域の調整ができるラウドネスを残したのは、シグマドライブの音質傾向である「音像はシャープになりすぎて、SPによっては低域不足になりやすい」…それを調整するために採用したのだろう。もちろん、ラウドネス回路もオフにできる様に設計されている。
もっと評価されるべきである、不遇のL-08C
L-08Cは樹脂製の個体であるために、現在、オークションで見かけることがあっても、ほぼ外観は傷だらけである。かなり古い機種とはえ、どれもボロボロと言っても良い外観を見ると、L-08Cの実用性は低いものだと言える。しかし、樹脂製はL-01Aから提唱された「マグネティックディストーション」(磁気性素材による信号劣化)をさけるためであった。ピュアカレントサーボ電源、、シグマドライブ接続端子、強化電源L-08CPSとの増設機能、DDAS型シグマドライブ構成を支えるために設計されたL-08C。この弱く、一見、傷だらけのボディの中に、TRIOのシグマドライブの一番難しい問題点を解決する技術が集大成されているL-08Cこそが、セパレートアンプのシグマドライブ(DDAS型シグマドライブ)の中核といえる。
L-08Cは性能がいいのに評価されない不遇のプリアンプの一つである。樹脂製の外見なら、いくらでも修復できるし、コーティングすれば通常の使用で傷つきにくくすることもできる。L-08Cは実験機として、使用者側も(修復を込みで)付き合ってあげるよう! (L-07CIIの方が使用勝手がいいのは事実のだが)。
L-08Cの物理特性
周波数特性:1Hz〜850KHz(-3dB)
S/N比:106dB(Aux,Tunner,Tape),90dB(Phono MM),70dB(Phono MC)
THD(歪率)Aux,Tunner,Tape:0.0007% (1V Output,20Hz~20KHz),0.0008%(10V Output,20Hz~20KHz), 0.0008%(1V Output,10Hz~100KHz)
ライズタイム:0.4μs(-0.1V <>+0.1V:Volume MAX),0.4μs(-2.5V <>+2.5V:Volume MAX)
出力インピーダンス:0.01Ω以下((1V,10V)
入力インピーダンス:25KΩ(150mV)TAPE,AUX
なぜ08CⅡではなく、02Aなのか
シグマドライブ理論での「電源」の問題点、プリとパワーとの電源周りの相互間影響、これらの対策として08シリーズでは、シグマ接続、電源電流吸収回路などで対応した。しかし、その発展系として後継アンプは生まれなかった。これは07シリーズが、L-07CからL-07CⅡ、L-07MからL-07MIIと良好な進化しただけに、L-08CIIやL-08MIIの搭乗が期待された。しかし、L-08は第一世代で終わるだけでなく、TRIO-KENWOODのセパレートアンプ歴史も、L-08で最終系となってしまう。
Lシリーズはその後、L−02Aという「プリメインアンプ」となり、最後のLシリーズ・プリメインアンプの「L-A1」まで続くことになるが、セパレートアンプは現れることはなかった。
L−02Aは「08で開発したシグマドライブ理論にそった回路設計」の良い面を継承しつつ、DLD(ダイナミック・リニア・ドライブ)回路を組み合わせた超弩級のプリメインアンプだった。
プリメインアンプとすれば、「プリとパワーの2つの定電圧電源が直列に接続」という電源問題が根本的に発生しない。また、特殊なシグマドライブ接続と、専用のΣオーディオケーブルも不要となる。
プリメインアンプの欠点であるSPケーブルが長くすることによるDFの劣化問題は、シグマドライブがあれば、ある程度、解決できる。
08シリーズの「DDAS型シグマドライブ」は究極シグマドライブだが、このシグマドライブを維持するには「電源電流吸収回路」、「プリとパワー間のシグマ接続と、パワーとSP間のシグマドライブ、という二つのシグマドライブ接続」「シグマドライブ接続のための専用Σオーディオケーブル」等を用意しなければならなかった。この複雑な回路と接続方法、専用ケーブルを用いて、08シリーズ全体を1つの巨大な「プリメインアンプ」のように「回路接続」させていたが、全体として複雑過ぎた。
例えば、08を増設オプションをフルで構成すると、08C、08CPS、08M×2、08PS×2、これで電源コードだけで6本。08PSはいくらでも増設できるから、追加する毎に、全体で8本、10本、12本…と電源コードが増える。これがL-02Aなら1本でいい。
実験的で先鋭的な回路技術、接続方法で複雑に構成された08シリーズは、性能を追求し、野心的で技術者志向に特化したセパレートアンプだが、さらにDLD回路まで組み込むよりも、シンプルな「プリメインアンプ」から再設計した方がいい。
プリメインであれば電源コードは一つとなり、接続するパワーアンプとの電源やアースに関わる問題を対処しやすくなる。一つのアンプの中で、シグマドライブの理論にそった回路を組むようにしたL-02Aは、別個体を接続させるときに潜む危険性もなく、セパレートのそれよりもシンプルにできた。おそらく、L-08ベースでL-02Aと同じ構成にすると、海外の高級アンプの価格帯となり、採算性は厳しかったのだろう。SPケーブルをある程度、伸ばしてもシグマドライブで解決できる、ということが、逆にTRIOのセパレートアンプの開発より、プリメインアンプで開発する流れを作ってしまったのかもしれない。
では、08シリーズにあった、どこまでの技術志向のセパレートアンプの流れは消えたのかというと、おそらくTRIOの技術者が立ち上げた「アキュフェーズ」の方に継承されたのかもしれない。