【景 観】椎津川の水路は埋立地と旧海岸線沿いに,前川河口部から約5kmにわたって非常に広範囲に継続している.私が調査した場所は,椎津橋付近のヨシ原を伴う干潟である(写真1).河口部に近いので水質は良く,ヨシ群落の規模も大きく,景観も優れている.特筆すべきは塩性湿地内に絶滅危惧種のシバナ(写真2)が自生していることである.少なくとも他の人工水路ではシバナは確認できていない.またウラギクも自生しており(写真3),椎津川は塩性湿地としても非常に貴重な場所である.なおシバナは「環境省レッドリスト2017」で準絶滅危惧種,「千葉県レッドリスト:植物・菌類編 2017年改訂版」で最重要保護生物とされている.ウラギクも「環境省レッドリスト2017」で準絶滅危惧種,「千葉県レッドリスト:植物・菌類編 2017年改訂版」で要保護生物とされている.底質は砂質から軟泥部まで多様でカキ床の規模も大きい.地盤高も潮上帯まで広がり,前川河口と同じく東京湾の原風景が残存している景観である(写真4).環境省「生物多様性の観点から重要度の高い湿地」,環境省「生物多様性の観点から重要度の高い海域」として選定されている.
写真1 椎津川の景観
写真2 絶滅危惧塩生植物のシバナ
写真3 絶滅危惧塩生植物のウラギク
写真4 ヨシ,シバナ,ウラギクなどが潮上帯まで続く
【ベントスの概要】ヨシ群落の規模が大きく潮上帯まで確保されているので,ベントス種数,中でもカニ類が豊富である.ヨシ群落の中には,絶滅危惧種のウモレベンケイガニ,クシテガニ(写真5),ヒメアシハラガニ,アリアケモドキを確認できる.普通種としてアシハラガニ,クロベンケイガニ,カクベンケイガニ,フタバカクガニ,ケフサイソガニ,タカノケフサイソガニも生息している.ヨシ群落内にはクリイロカワザンショウガイもみられる.しかし,干潟面や干潟内のベントスは意外と乏しく,干潟面にはホソウミニナなどの巻貝はみられず,二枚貝もアサリやソトオリガイはみられるが,オキシジミ,オオノガイは確認されていない.ただ椎津川河口は水路干潟では唯一ヤマトシジミが確認されている(写真6).それも掘り起こして発見するのはなく,表面に転がっているものを数回に1回に割合で確認できた.わざわざ干潟内に立ち入ってヤマトシジミを置いていく奇特な人はいないと思うので,椎津川河口上流部から流されてきたものなのだろうか?ベントス出現種の詳細は,柚原ら(2013),柚原ら(2016)を参考頂ければと思う(2008年~2012年の調査結果をまとめた).
写真5 絶滅危惧カニのクシテガニ.東京湾が分布北限.
写真6 二枚貝ヤマトシジミ.水路では珍しい.
*追記:その後2013年3月に訪問した際に,ホソウミニナが初確認され,2014年5月に遺伝子解析のサンプルとして60個体程度を採集した(写真7).その後数回訪問しているがホソウミニナは確認されていない.2014年5月にヨシダカワザンショウ,2015年8月にアカテガニ,2016年12月にフトヘナタリを確認している(写真8).
写真7 巻貝のホソウミニナ
写真8 絶滅危惧巻貝フトヘナタリ.2016年12月に初確認
【交通・アクセス】徒歩の場合JR姉ヶ崎駅から約60分程度.自家用車では,椎津第一公園の駐車場が無料で利用できる.トイレ,水洗い場がある.ただ土日は公園の野球場で少年野球団が練習および,大会を開催している場合があり,その際は駐車スペースが無くなる.