【景 観】市原臨海競技場(かつてのジェフ市原の本拠地)の裏に位置する比較的小規模な横水路である(旧海岸線と埋立地の間にあり,海岸線に平行に流れる人工水路)(写真1).流入河川は無く,満潮時に海水が直接流入するので,青潮の影響を受け二枚貝類が大量斃死したこともあった(写真2).旧海岸線側の護岸沿いに小規模なヨシ群落があり,埋立地側の護岸には積み石が散在している(写真3).干潟面の底質は,砂泥質と泥質が主である.干潟一面にホソウミニナが散りばめられ(写真4),その合間でチゴガニがウェービング(求愛行動)をしている.環境省「生物多様性の観点から重要度の高い湿地」,環境省「生物多様性の観点から重要度の高い海域」として選定されている.
写真1 中央にみえる杭はかつての桟橋跡と思われる.
写真2 二枚貝が大量に斃死していた.
写真3 旧海岸線側にはヨシ群落が,埋立地側には置石がみられる.
写真4 巻貝のホソウミニナ.一部ウミニナもみられる.
【ベントスの概要】小規模なヨシ群落内に驚くほどのベントスが生息している.特筆すべきは絶滅危惧種ウモレベンケイが漂着木片や漂着ゴミなどをひっくり返して凝視すると,張り付いている(写真5).ウモレベンケイガニを探すには,やはり木片が良いが,布系のゴミ,すなわち靴下やTシャツなどの湿っている基質をひっくり返すと見つかることが多い(写真6).他にもヨシ群落内には,絶滅危惧種クシテガニ,ヒメアシハラガニを散見でき,護岸沿いには絶滅危惧種ウミニナが多く生息する.私が知る限りでは,東京湾では玉前緑地内水路がウミニナの最大規模の個体群である.干潟表面はホソウミニナ,チゴガニ,ヤマトオサガニ,およびカキ床が目立つが(写真7),干潟を掘ると,二枚貝のアサリ,シオフキ,ソトオリガイなど東京湾のおなじみのベントスが出現する.またサビシラトリ,オキシジミ,オオノガイなどの絶滅危惧種も生息している.ただ2010年時点でホンビノスガイの生息が確認されているが,現在の生息状況は不明である.ベントス出現種の詳細は,柚原ら(2013),柚原ら(2016)を参考頂ければと思う(2008年~2012年の調査結果をまとめた).また玉前緑地でのウモレベンケイガニの個体群動態の詳細はYuhara&Furota (2014)で記述している.
写真5 木片の裏にいた.中央に2個体のウモレベンケイガニ
写真6 布の裏に張り付いていたウモレベンケイガニ
写真7 マガキ個体群(カキ床)
【交通・アクセス】徒歩の場合JR五井駅より約40分程度かかる.自家用車では,市原緑地公園の無料駐車場を利用できる.園内にはトイレや水洗い場もある.ただ,高校野球千葉県大会(甲子園予選),全国サッカー大会の会場になるので,その際は駐車場が大変混雑する.
参考文献
柚原 剛・高木 俊・風呂田利夫. 2016. 東京湾における塩性湿地依存性の絶滅危惧ベントスの分布特性. 日本ベントス学会誌, 70:50-64. (PDF: Open Access)
柚原 剛・多留聖典・風呂田利夫. 2013. 東京湾における干潟ベントスの分布と希少種を含む生物多様性における人工水路の重要性. 日本ベントス学会誌, 68:16-27. (PDF: Open Access)
Yuhara,T., Furota,T. 2014. Life history and stable regeneration of the endangered saltmarsh sesarmid crab Clistocoeloma sinense in small populations of the isolated metapopulation of Tokyo Bay, Japan. Plankton and Benthos Research, 9(2):114-121. (PDF: Open Access)