【景 観】国道16号市原埠頭入口交差点を内陸に入ると眼前にどぶ川が現われる.それが八幡水路(八幡運河)である.八幡水路はヨシ群落が繁茂し,それだけを切り取れば,それは一昔前の原風景ということで『千葉県フィルムコミッション』にも選ばれるほど趣のある景観である.調査は国道297号線の市原橋直下の小規模な塩性湿地(ヨシ群落とシオクグ群落)を伴う場所で行った(写真1).塩性湿地は土砂が堆積し,潮上帯まで確保されている.底質は泥質で,分解されない落葉が堆積し,一部は非常に嫌気的である(写真2).
写真 1 マンション裏に位置する干潟.
写真2 干潟を掘返すと嫌気的な黒い底質がみえる.
【ベントスの概要】底質が嫌気的なので,二枚貝は一切出現しなかった.干潟表面にはチゴガニ,ヤマトオサガニが生息している.非常に小規模な塩性湿地であるが,カニ類は豊富で,絶滅危惧種のウモレベンケイガニ,クシテガニ,アリアケモドキが非常に多く生息している(写真3).また潮上帯まで塩性湿地が広がっているので,絶滅危惧種ヨシダカワザンショウも確認できた.ベントス出現種の詳細は,柚原ら(2013),柚原ら(2016)を参考頂ければと思う(2008年~2012年の調査結果をまとめた).また八幡運河で2011~2012年に実施したアリアケモドキの生活史研究も,調査後13年経ってしまったがついに論文化した(Yuhara&Kato 2025).
写真3 絶滅危惧カニのアリアケモドキ(写真内に7個体)
*追記:その後2013年10月に八幡水路の広範囲でベントス調査を行う機会に恵まれた.その際特筆すべき点として,絶滅危惧種ベンケイガニの生息が確認された(写真4).ベンケイガニは,東京湾奥および西岸の谷津干潟,江戸川,新浜湖,荒川,多摩川,鶴見川では確認されているが,千葉県側では確認されておらず,八幡水路が初確認である.
写真 4 絶滅危惧カニのベンケイガニ
【交通・アクセス】徒歩の場合JR八幡宿駅より約15分程度.自家用車の場合は近隣のコインパーキングの利用を勧める.
参考文献
柚原 剛・高木 俊・風呂田利夫. 2016. 東京湾における塩性湿地依存性の絶滅危惧ベントスの分布特性. 日本ベントス学会誌, 70:50-64.(PDF: Open Access)
柚原 剛・多留聖典・風呂田利夫. 2013. 東京湾における干潟ベントスの分布と希少種を含む生物多様性における人工水路の重要性. 日本ベントス学会誌, 68:16-27. (PDF: Open Access)
Yuhara T, Kato K. 2025. Brackish-water crab Deiratonotus cristatus in Tokyo Bay, Japan, with different life history traits from nearby populations. Plankton and Benthos Research, 20(2):135-141. (PDF: Open Access)