文法詳説
品詞
パイグ語における品詞とは文中での単語の役割を示す名称であり、このように分類される。
実詞
単独で述語となり、主概念を提示する。名詞 概念の名称を叙述する。
動詞 動作の外延性を示す。
定詞 状態を叙述し、他詞の運用調整をする。
虚詞
単独で述語とならず、語の運用調整をする。約詞 概念と概念を接続する。
叫詞 話者の主観を叙述する。
*定詞は形容詞と副詞の機能、約詞は接続詞と前置詞の機能、叫詞は感動詞のような機能を果たす。
文中で様々に品詞転換が行われるため、常に品詞を理解して読めば、理解が進むであろう。
ref. 品詞についての考察
名詞
名詞の代詞的用法
名詞の中には既知情報を置き換える用法を持つものがある。
人称・指示代詞的
我 (pai2)
一人称であり、話し手自体を指す。汝 (mua2)
二人称であり、話しの受け手を指す。此 (ka1)
近称であり、話してから近い人や物を指す。其 (ze1)
中称であり、文脈上の人や物、話しの受け手に近い人や物を指す。彼 (zap2)
遠称であり、話し手から遠い人や物を指す。不定代詞的
或 (cue1)
不特定の人や物を指す。疑問代詞的
何 (nan2)
疑問の意を示す。定詞
定詞の動詞修飾
定詞は動詞と修飾構造を形成し、相・法・程度・範囲・時間など、様々に重要な意味を示す。以下は代表的な例である。
実際はこれより多くの語が定詞となる。
相を表すもの
行 (mok1)
将然相、つまり「~しようとする」という意味を表す。始 (hut2)
開始相、つまり「~しはじめる」という意味を表す。在 (aim2)
進行相、つまり「~している」という意味を表す。終 (ta)
終了相、つまり「~した」という意味を表す。在手 (aim2 hop1)
経験相、つまり「~したことがある」という意味を表す。態を表すもの
受 (guk2)
受動態、つまり「~される」という意味を表す。与 (tui2)
使役態、つまり「~させる」という意味を表す。互 (huat1)
相互態、つまり「~しあう」という意味を表す。法を表すもの
心 (hia1)
意思法、つまり「~したい、~してほしい」という意味を表す。力 (py)
可能法、つまり「~できる」という意味を表す。識 (can2)
能力法、つまり「~できる」という意味を表す。近年、力との区別は曖昧である。須 (ly)
確定法、つまり「~しなければならない、~するはずだ」という意味を表す。勿 (nau)
禁止法、つまり「~するな」という意味を表す。無 (mun1)
否定法、つまり「~しない」という意味を表す。数量を表すもの
常 (ket)
恒常性を表し、「いつも~する」と言う意味となる。普 (huai2)
平常性を表し、「普段は~する」と言う意味となる。極 (kit)
多量性を表し、「よく~する」と言う意味となる。少 (hue1)
少量性を表し、「たまに~する」と言う意味となる。範囲を表すもの
全 (be1)
全体性を表し、「全てが~する」と言う意味となる。片 (zuo1)
部分性を表し、「一部が~する」と言う意味となる。唯 (tet)
限定性を表し、「~だけが~する」と言う意味となる。時間を表すもの
時間を表すときは「昔は」、「昨日は」のように迂言的な表現をする。
ref. 動詞修飾定詞についての考察
文の成分
文の成分は、三つに分類されて考えられている。
主語 行為の主体や主題などを示す。
述語 主語に対して描写や説明をする。
客語 述語に対して内容や対象などを補足する。
*客語はいわゆる目的語や補語である。
文の基本構造
パイグ語は、曲用や活用などの語形変化を有さない。故に、その文法は語順に依存している。
主述構造
主語 - 述語
上のように主語と述語からなる構造を主述構造と呼ぶ。述語となりうるのは、実詞、すなわち名詞・動詞・定詞である。
名詞述語文
例:我王。(pai2 io.) 訳:私は王だ。
動詞述語文
例:汝行。(mua2 mok1.) 訳:あなたは行く。
定詞述語文
例:彼美。(zap2 hem1.) 訳:彼は美しい。
述語の中に、さらに主述構造が含まれることもある。
例:其我為。(ze1 pai2 zau.) 訳:それは私がする。
また、パイグ語の主語は必ずしも動作主ではない。大きく三つに分けられる。
1. 主語が述語の動作主となる場合。
例:汝行。(mua2 mok1.) 訳:あなたは行く。
2. 主語が述語の対象となる場合。
例:機壊。(kik1 mot2.) 訳:機械が壊れる。
3. 主語が述語の描写をする場合。
例:此筆。(ka1 kua2.) 訳:これは筆だ。
述客構造
述語 - 客語
上のように述語と客語からなる構造を主述構造と呼ぶ。このときの述語は動詞となる。客語の数によって分類される。
1.客語がない場合。(主語 - 述語)
例:人来。(cuk2 sak2.) 訳:人が来る。
2.客語が一つの場合。(主語 - 述語 - 客語)
このとき、用法は三つに分かれる。
1. 客語が目的語的用法を持つ場合。
例:男刀草。(ki1 gau2 kot.) 訳:男は草を切る。
2. 客語が存在範囲を示す場合。
例:石在川。(sy2 aim2 nut2) 訳:石が川にある。
3. 客語が補語的用法を持つ場合。
例:虎如猫。(dau2 em ne2) 訳:虎が猫のようだ。
3.客語が二つの場合。(主語 - 述語 - 客語一 - 客語二)
このとき、客語一は間接目的語、客語二は直接目的語のようなはたらきをする。
例:将与兵弓。( uai1 tui2 kauk2 gua2.) 訳:将軍が兵に弓を与える。
付加構造
修飾構造
修飾語 - 被修飾語
の構造となって文の成分を修飾できる。
例:我国 (pai2 sip1) 訳:私の国/朕は国家なり
例:善日 (kait kia1) 訳:良い日(=こんにちは)
例:激戦 (gak1 kaik) 訳:激しい戦い/激しく戦う
この機能は全ての成分に対して有効である。
例:大男激刀赤花。(ma1 ki1 gak1 gau2 kok1 xuo1.) 訳:大きな男は赤い花を激しく切る。
約詞構造
約詞 - 客語
の構造となって、約詞より前の語(約詞の主語)と約詞より後の語(約詞の客語)を結合する。
1. 約詞主語が約詞客語の前提条件となる場合。
例:我之書 (pai2 a ak1) 訳:私の書
例:我心而行。(pai2 hia1 ua mok1) 訳:私は思い、そして行く。
2. 約詞構造が述語の存在範囲を示し、定詞的にはたらく場合。
例:我於家寝。(pai2 ie mut2 hok1) 訳:私は家で寝る。
約詞は運用調整をしているに過ぎないため、必ずしも必要ではない。
例:我書 (pai2 ak1) 訳:私の書 cf.我之書
例:上下 (sau2 ut2) 訳:上と下 cf.上加下
例:我行汝来。(pai2 mok1 mua2 sak2) 訳:私は行き、あなたは来る。 cf.我行而汝来。
ref. 約詞についての考察