研究

研究のきっかけ

私は、小学生低学年の頃から日本産淡水魚や熱帯魚の飼育、近所の川での魚採集を楽しんでおり、いつしか、将来は魚を研究する研究者になりたいと思っていました。その思いを確固たるものにしたのは、高校生の頃に読んだ渡辺昌和先生の著書「図説 川と魚の博物誌」(河出書房新社)です。この本によって、淡水魚の地域変異のおもしろさや生物地理学的な興味深さを知りました。そして、渡辺昌和先生に関東、信越、東北などに連れて行っていただき、自らも琵琶湖や岡山県などに出向いて、様々な川の環境や淡水魚の姿を見たことで、フィールドの楽しさにどっぷり浸ってしまいました。同じ頃、帰省先の京都で魚採りをしていたとき、水路で採れるカマツカに2つのタイプがあることに気づきました。顔つきや体のシルエットの違い、飼育してみたときの「痩せやすさ」の違いから、何か秘密が隠されているに違いないと確信しました。当時1種類だったカマツカは日本産淡水魚を代表する広域分布種でもあり、分子系統学と生物地理学を組み合わせた領域である「系統地理学」をカマツカでやってみよう、と考えました。

川と魚の博物誌
カマツカ Pseudogobio esocinus

研究はここから始まりました。カマツカ(上)と同時に採れ、初めて写真に残したナガレカマツカ(下)。

幅50cmほどの水路で採れた、いずれも体長4~5cmほどの幼魚です。(京都府にて、2003.8.16)


研究スタート!!

関西学院大学理工学部生命科学科で分子生物学を学んでから、京都大学大学院理学研究科生物科学専攻に進学しました。所属先の動物生態学研究室では、系統地理をはじめ、分類、生態、保全など様々なアプローチで淡水魚の研究をされているを渡辺勝敏先生にご指導いただき、夢であった魚の研究をスタートしました。現在は母校である関西学院高等部で理科の教師をしながら、次のようなテーマで研究を続けています。

1. 日本の淡水魚類相形成過程の解明

カマツカ類などの広域分布種を材料に、日本列島で淡水魚がどのように分布を広げ、種分化してきたかを、ミトコンドリアDNAや核DNAの塩基配列データを用いた系統地理学的アプローチにより明らかにします。

カマツカ Pseudogobio esocinus

Tominaga et al. (2016)を改編


2. カマツカ類の系統分類

カマツカの系統地理学的研究によって、日本には大きく分化した3系統のカマツカがいることが分かりました。その中に含まれていた未記載種2種を、それぞれナガレカマツカ Psedogobio agathonectris Tominaga & Kawase 2019、スナゴカマツカ Pseudogobio polystictus Tominaga & Kawase 2019として新種記載し、同時にカマツカ Pseudogobio esocinus (Temminck & Schlegel 1846)を再記載しました。

※スナゴカマツカの種小名は、記載論文では「polysticta」としていますが、ラテン語文法上の誤りがあり、正しくは「polystictus」となります。属名「Pseudogobio」の性が男性であるため、形容詞の種小名はこれに合わせた語尾にしなければなりません(国際動物命名規約 条31.2、34.2)。なお、ナガレカマツカの種小名「agathonectris」は名詞であるため変更はありません。(2019年6月20日追記)

カマツカ Pseudogobio esocinus

3. 種分化メカニズムの解明

種分化は生物多様性を生み出す重要なイベントです。西日本で同所的に分布するカマツカとナガレカマツカの棲み分けや交雑などを調べることで、二次的に接触した近縁種間の「種分化の完了過程」を明らかにします。

カマツカ Pseudogobio esocinus