オオシマドジョウ

Cobitis sp. BIWAE type A

 オオシマドジョウは、主に本州・四国と九州東部の一部の瀬戸内海を囲う地域に分布する4倍体のシマドジョウ種群の一種です。上記の分布域のほか、過去の河川争奪によって若狭湾流入水系や中国地方西部の日本海流入水系の一部にも分布します(上野ほか 1980、君塚 1987)。また、琵琶湖淀川水系には両者が分布していて、君塚(1987)は琵琶湖流入河川と木津川支流では2倍体(=ニシシマドジョウ)が、その他の支流では4倍体(=本種)が分布すると述べています。シマドジョウ類の研究をされている(された)研究者は、なぜかかなりマニアックな方が多く、過去の研究でかなり網羅的に調べられていますが、それでも詳しく調べてみるときっとおもしろいと思います。西日本の淡水魚の分布域形成史を考える上で重要な種と言えるでしょう。

 オオシマドジョウはその名の通り大型になる個体が多く、成魚は体長10cmを超えます。分布域が隣接するニシシマドジョウやトサシマドジョウとの区別が難しいです。オオシマドジョウでは、尾鰭付け根の2つの楕円形の斑紋は2つとも明瞭で互いにつながることが多いようですが、腹側の斑紋は個体の置かれた環境によって薄くなることもあるようですし、逆にニシシマドジョウでも2つとも明瞭な地域もあり、決定的な判別点にはなりません。

 シマドジョウ種群の魚たちは、体側に並ぶ丸い模様が特徴的な美しいドジョウで、主に河川中・上流域の底質が砂の場所を好んで棲息しています。以前はシマドジョウ1種のみとされていましたが、Saitoh et al. (2000)により、ミトコンドリアDNAの系統および染色体数から、国内には少なくとも4つの集団がいることが明らかにされました。その後、Kitagawa et al. (2003)によりその分布の全体像が示され、中島ら(2012)によりそれぞれの集団の新和名が提唱されました。シマドジョウ種群は体側の模様は変異に富み、地域間でも異なるほか、個体間・雌雄間でも変異があります。

 私はカマツカを使って研究していますが、カマツカとシマドジョウ種群が好む環境はよく似ており、カマツカを狙って採集していると同時に採れることが多いです(実際には、若干異なる気がします。すなわち、カマツカの成魚は完全なふかふかな砂はあまり好まず、やや小礫混じりで適度なしまりがある砂・砂礫底を好み、河川下流の砂泥底にもいますが、シマドジョウは水がきれいな場所のふかふかの砂底に多いようです)。そのため、カマツカを求めて全国を巡ったときに、おまけでシマドジョウ種群の写真もかなり撮影したので、このサイトでその秘蔵コレクションを紹介したいと思います。各種の判別は、その地点の個体で実際に調べた赤血球サイズやDNA量、もしくは先行研究で示された分布域に基づいています。

 西日本では非常に身近な魚でありながら、その繁殖生態は定かではありません。和歌山県の河川で、産卵期と思われる5月ごろの日中に、成魚が10匹ほどの群れで護岸沿いを連れ立って泳ぐ様子を見たことがあります。このような行動をするオオシマドジョウを見るのは初めてで、繁殖に何か関係があるのではと思っています。

 飼育は簡単です。ただし、やはり掃除屋としてではなく、底モノだけで飼ってあげたいものです。細かい砂を敷いてあげると頻繁に潜る様子が観察できます。注意すべき点は、河川中上流域に棲むためか、水質の悪化にはスジシマドジョウ種群より弱いことと、低水温期に採集すると水カビ病になりやすいことです。他の病気には滅多にならないですが、水カビにやられると治りにくく、死んでしまいやすいので気をつけた方がいいでしょう(2020年12月23日更新)。

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。京都府の日本海流入水系産で、タンゴスジシマドジョウと混棲していました。この地域にしては、変な雰囲気を感じる個体群です。(京都府にて,2010.4.17)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上のオスと同一地点で採集した個体。(京都府にて、2010.4.17)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。上2個体と同一地点で採集した個体で、少し大きめです。(京都府にて、2010.11.12)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上3個体と同一地点で採集した個体で、少し大きめです。(京都府にて、2010.11.12)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。同じく京都府のの日本海流入水系産ですが、上の4個体とは別水系産。(京都府にて、2008.5.23)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上の個体と同一地点で採集した個体で、大きく立派です。(京都府にて、2008.5.23)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。同じく京都府の日本海流入水系産で、さらに別水系産。(京都府にて、2008.7.19)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上のオスと同一地点で撮影した個体。(京都府にて、2008.7.19)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。京都府の大阪湾流入水系産。(京都府にて、2009.5.16)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上のオスと同一地点で採集した個体で、卵でお腹がぱんぱんです。(京都府にて、2009.5.16)

Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。同じく京都府の大阪湾流入水系産ですが、上2個体とは別支流産。(京都府にて、2008.5.27)

Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上のオスと同一地点産。(京都府にて、2008.5.27)

Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。和歌山県南部水系産のオスで、ほぼ縦条になっています。(和歌山県にて、2008.10.13)

Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上の個体と同一地点で撮影した個体で、この個体は縦条になりかけです。(和歌山県にて、2008.10.13)

Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上2個体と同一地点で撮影した個体で、上半身だけ見るとチュウガタスジシマドジョウと見間違いそうになるような縦条模様です。(和歌山県にて、2008.10.13)

Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。和歌山県北部水系産。(和歌山県にて、2009.5.10)

Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。兵庫県東部の大阪湾流入水系産。(兵庫県にて、2006.5.5)

Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。上の個体と同じ川の別地点で採集した個体で、明るい色の容器に入れておくと写真のように尾鰭付け根の腹側の斑紋が薄くなることがあります。(兵庫県にて、2009.6.8)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上の個体と同一地点で採集した個体。(兵庫県にて、2009.6.8)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上3個体と同一水系内別支流産で、私の中のオオシマドジョウのスタンダードな個体。(兵庫県産、2003.8)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。兵庫県西部の瀬戸内海流入水系産で、ほぼ縦条になってます。(兵庫県にて、2004.9.10)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。広島県西部の瀬戸内海流入水系産。顔がピンボケですが、尾鰭付け根の模様が上下ともにくっきりしていて、オオシマドジョウらしい感じです。(広島県にて、2008.6.17)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。島根県西部水系産で、この水系は瀬戸内海側と河川争奪があったことが知られています。(島根県にて、2010.9.5)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。上の個体と同一地点で撮影したもので、縦条になっています。(島根県にて、2010.9.5)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。山口県東部の瀬戸内海流入水系産。(山口県にて、2008.6.16)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。胸鰭の骨質板が非常によく目立ちます。(香川県にて、2007.11.3)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのメス。上の個体と同一地点で採集した個体。(香川県にて、2007.11.3)

オオシマドジョウ Cobitis sp. BIWAE type A

オオシマドジョウのオス。九州で唯一分布する地域で採集したもので、胸鰭の骨質板がシマドジョウ種群であることを物語ります。(大分県にて、2008.3.21)

参考文献

  • 福岡県立北九州高校魚部・中島 淳 (2006) 「第7回企画展 どじょうのすべて オフィシャルパンフ『どじょう展必携』」

  • 君塚芳輝 (1987) シマドジョウ類―核型的種族の動物地理. 水野信彦・後藤 晃編, 「日本の淡水魚類―その分布,変異,種分化をめぐって」, pp61-70, 東海大学出版会

  • 君塚芳輝 (1989) シマドジョウ. 川那部浩哉・水野信彦編, 「日本の淡水魚」, pp392-393, 山と渓谷社

  • 北川えみ・星野和夫・岡崎登志夫・北川忠生 (2004) 大分県大分川水系から得られたシマドジョウとその生物地理学的起源. 魚類学雑誌 51:117-122

  • 北川えみ・中島 淳・星野和夫・北川忠生 (2009) 九州北東部におけるシマドジョウ属の分布パターンとその成立過程に関する考察. 魚類学雑誌 56:7-19

  • Kitagawa T, Watanabe M, Kitagawa E, Yoshioka M, Kashiwagi M, Okazaki T (2003) Phylogeography and the maternal origin of the tetraploid form of the Japanese spined loach, Cobitis biwae, revealed by mitochondrial DNA analysis. Ichthyol Res 50:318-325

  • 中島 淳・洲澤 譲・清水孝昭・斉藤憲治(2012)日本産シマドジョウ属魚類の標準和名の提唱. 魚類学雑誌 59:86-95

  • Saitoh K, Kobayashi T, Ueshima R, Numachi K (2000) Analysis of mitochondrial and satellite DNAs on spined loaches of the genus Cobitis from Japan have revealed relationships among populations of three diploid-tetraploid complexes. Folia Zool 49:9-16

  • 上野紘一・岩井修一・小島吉雄 (1980) シマドジョウ属にみられた染色体多型と倍数性, ならびにそれらの染色体型の地理的分布. 日本水産学会誌 46:9-19

  • 山口勝秀・田久和剛史・黒崎光恵・越川敏樹 (2006) 『宍道湖自然館第11回特別展「どぜう~今も昔も身近なさかな~」展示解説「日本のどじょうたち」』, 島根県立宍道湖自然館ゴビウス・(財)ホシザキグリーン財団