アカザ

Liobagrus reinii Hilgendorf 1878

アカザは、日本産淡水魚には珍しく全身赤っぽい色をしたナマズの仲間です。背鰭と胸鰭の棘に毒があり、刺されると腫れて傷むらしいですが、私はまだ経験がありません。「赤」くて「刺」すので「アカザ」だそうです。

水質が良く、水温があまり高くならない環境のよい川の上~中流域に棲んでいます。夜行性で昼間は大抵、大きな石の下に隠れています。石の下と底床の間に空洞がある状態を「浮き石」といいますが、アカザにとっては水温と水質に加え、浮き石があることが生息条件と言えると思います。しかしながら、稚魚は石の下よりも水草や水際に根を張る植物の間にいることが多く、川岸を含めた良好な環境が大切に違いないはずです。

夜間には昼間と打って変わって活発に活動します。夜間、川に潜水すると、開けた場所や瀬にもたくさんのアカザが出てきて、底付近で砂をほじくり返しながら活発に餌を探しているのを観察できました。成魚だけでなく、2~3cmくらいの稚魚まで立派に泳ぎまわっており、とてもかわいらしかったです。昼間はほとんど姿が見えないので、どこからこんなにアカザが出てきたのだろうと不思議に思います。似たような体色をした淡水魚は、地下性のミミズハゼ類くらいでしょうから、きっとアカザも、地下までとは言わなくとも、間隙のかなり奥深くまで潜入しているのではないでしょうか。

アカザはカマツカと並ぶ広域分布種で、最近、遺伝的集団構造が明らかにされました(Nakagawa et al. in press)。ミトコンドリアDNAを用いた解析によると、日本にはClade 1、Clade 2という遺伝的に大きく分化した2系統が存在しています。中国・四国地方より東側にClade 1が、西側にClade 2が分布しており、両系統は中国・四国地方の真ん中付近で分布を重複させています。日本産淡水魚の多くは、本州中央部の中部山岳地帯を境に大きく分化、もしくは姉妹種が分布することが多いですが、アカザの場合はそれほど深い分化はなく、Clade 1が東日本の日本海側にも広く分布しています。太平洋側にも分布していますが、こちらは人為分布が疑われています。Clade 1、Clade 2は別種となる可能性が高そうですが、種分化の要因は何なのか、それらが日本でどのように分布を広げたのか、別種なら同所的に分布する水系ではどのような関係にあるのかなど、興味は尽きません。

アカザ Liobagrus reinii

とても特徴的な体色で、ひげが目立つ一方、目はつぶらです。(兵庫県にて、2004.3.9)

アカザ Liobagrus reinii

このひげ面、いわゆる「きもかわいい」!?(兵庫県にて、2005.11.22)

アカザ Liobagrus reinii

上から見たところ。(兵庫県にて、2005.11.22)

アカザ Liobagrus reinii

2cmほどの稚魚。かわいいです。(兵庫県にて、2003.7.27)

アカザ Liobagrus reinii

関東地方のものは人為分布のようです。(東京都にて、2015.7.26)

参考文献

  • Nakgawa H, Seki S, Ishikawa T, Watanabe K (in press) Genetic population structure of the Japanese torrent catfish Liobagrus reinii (Amblycipitidae) inferred from mitochondrial cytochrome b variations. Ichthyol Res