ナンヨウボウズハゼ

Stiphodon percnopterygionus Watson & Chen 1998

ナンヨウボウズハゼは、主に南西諸島に分布する小型で美しいハゼで、四国、本州の黒潮の影響を受ける地域からも記録があります。図鑑で見た鮮やかな婚姻色のオスは憧れの存在でした。

私の住む兵庫県から最も近い、記録のある場所は和歌山県ということで、県南部に探しに行った時が初めての出会いでした。どんな環境に生息するのかよく分からなかったので、とにかく外洋に面した河口をもち、環境が良さそうな川を手当たり次第、探したところ、運よく姿を見つけることができました。生息していた場所は、礫が堆積したくさび形ワンドでした。ピョン・ピョンと跳ねるようにホバリングする姿を見つけた時は、感激のあまり水中で、思わず「うおっー!いたーっ!」と叫びました。

その後、沖縄県の西表島や沖縄島でも姿を見ることができました。西表島のある河川では、近畿地方でのカワヨシノボリばりの密度で生息していて、いる場所にはいるものだと感心した覚えがあります。大型の魚がうようよいるところにはあまりおらず、そういう魚が侵入しにくい浅い場所に多い印象です。アカボウズハゼなどに比べると遡上力はそれほど高くないようで、高い滝の上で姿を見かけることは無い印象です。オスには青色型と橙色型がいることは有名で、種内にこんなにもはっきりした色彩変異があるのはとても不思議です。

餌は植物食に偏っており、フィールドでは石の表面を盛んになめているのを観察できます。水槽内でも同じ行動を見せますが、タブレット状のプレコフードに慣れてくれると飼育が楽です。冷凍赤虫は私が観察した限りでは食べません。観賞魚として出回っているブルームーンボウズハゼはプレコフードも冷凍赤虫も食べていますので、同じ属の中でも少し食性に違いがありそうです。オス同士は威嚇し合い、メスを追いかけたりもしますので、大きめの石を多めに置いて目隠しをしてやるといいと思います。少し斜めに置いた、周りが見渡せるような平らな石の表面が好きなようで、水槽前面に良く出てきます。おもしろいことに、照明が点灯していても、夕方になると石の下に隠れて姿が見えなくなります。小柄な体に似合わず、水槽で飼育すると長生きするようです。若魚で採集してきたものが今のところ3年以上元気にしています。ナンヨウボウズハゼに限らず、小型のボウズハゼ類は長生きする種が多いようなので、水槽内で姿を観察したいときは、フィールドでは採りすぎず、必要最小限の数を大切に飼育してあげればよいでしょう。

ナンヨウボウズハゼ Stiphodon percnopterygionus

初めて水中で見たこのオスにはとても感激しました。(和歌山県にて、2012.10.14)

ナンヨウボウズハゼ Stiphodon percnopterygionus

若いオス。メスに見られる黒い縦条が少し残っています。(和歌山県にて、2012.10.14)

ナンヨウボウズハゼ Stiphodon percnopterygionus

メスは黒い縦条がトレードマークです。(和歌山県にて、2012.10.14)

ナンヨウボウズハゼ Stiphodon percnopterygionus

橙色型のオス。カラフルで美しいです。(沖縄県にて、2013.10.14)

ナンヨウボウズハゼ Stiphodon percnopterygionus

青色型のオス。メタリックで宝石のよう。青色型の個体は尾鰭上部に黒斑があります。

(沖縄県にて、2013.10.14)

ナンヨウボウズハゼ Stiphodon percnopterygionus

若いオス。(沖縄県にて、2013.10.14)

ナンヨウボウズハゼ Stiphodon percnopterygionus

メスはオスより数が多く、群れていることが多いです。(沖縄県にて、2013.10.14)