『The First Slam Dunk』の中の沖縄

投稿日: 2023/04/05

文 名嘉山リサ


2022年12月に劇場公開され、2023年4月現在も興行が続いている『The First Slam Dunk』は国内外で大ヒットし、数々の記録を更新中のアニメーション映画である。1990年代に学校で流行っていたので漫画の存在は知っていたが、これまで漫画を読んだことも、テレビアニメを見たこともなかったため、筆者は今回初めてスラムダンクに出会い、沖縄にゆかりがある作品であることを知った。手に汗握る試合描写、漫画独特の表現方法の映画への取り込み、特徴的な音の表現、CG・モーションキャプチャの最新技術の使用など、アニメーション作品としての完成度の高さのみならず、原作からのアダプテーションの問題や、作品のヒットから生まれた奨学金制度など、様々な観点から論じられそうな興味深い作品である。ここでは、この最初の劇場版でかなりのウエイトを占めている、沖縄表象に絞って考えてみたい。

まず、本作の冒頭部分で「沖縄」という字幕が入り、舞台設定がなされる。竹富島を連想させるような赤瓦の家や石垣で区切られた未舗装の道が現れ、沖縄の村落のイメージが映し出される。それと同時に、海辺に道を挟んでバスケットコートとリングがあるという設定にもなっている。モデルとなった場所があるのか定かではないが、特定の場所を描いたというよりも、いろいろな場所の寄せ集めとしての沖縄という印象を受けた。

そして、主人公宮城リョータの少年時代の物語が展開するが、数々のエピソードが試合シーンの合間合間に挿入される形で全体的には構成されている。兄ソータからバスケを教えてもらうシーンに始まり、突然の父の死で仏壇の前で悲しむ母と子供たちが描かれる。その後、兄までもが釣に行き遭難したことが明かされる。リョータはバスケを続けるが、スター選手だった兄と比べられ、いたたまれなくなった母親は、家族を連れて沖縄を離れる決心をする。この家族の不幸を反映するかのように、沖縄の場面で描かれる海はグレーがかっている。狭い共同体の閉そく感がうまく描写されている。

神奈川に引っ越した後も、リョータはもやもやした生活を送り、不良グループにいじめられたり、バイクで事故を起こしたりと不運が続く。その事故の際、「沖縄が見えた」というが、そこで現れるのが、サトウキビ畑のイメージである。そしていったん沖縄に戻ったリョータは、兄との思い出が詰まった遺品が保管されている海辺の洞窟に行き、ビーチでダッシュしてトレーニングをしたりしながら、バスケを再開する決意を新たにする。

宮城リョータの声を演じているのが沖縄出身の仲村宗悟だが、方言指導に新垣樽助がクレジットされており、沖縄の登場人物が大方自然な「なまり」でセリフを話している。一部癒しの島表象の記号的なものはあるが、全体的に違和感なく構成されている。沖縄での不運・逆境を、沖縄の記憶・イメージで跳ね返すという、宮城の複雑なバックグラウンドと成長物語が、バスケの試合における逆境を跳ね返す物語とうまくマッチして、重層的な物語になっている。



映像出典:映画『THE FIRST SLAM DUNK』予告【2022.12.3 公開】東映アニメーション公式YouTubeチャンネル