オキナワへいくこと―『オキナワへいこう』

投稿日: 2020/05/10 13:31:48

文 名嘉山リサ

本作は、精神病院に長期間入院している患者さんや周りでサポートする人々についてのドキュメンタリーである。最近でこそ障がいの問題がクローズアップされ、「インクルーシブ」という言葉がさけばれたりしているが、精神病院に詳しくない私などは、「精神病院」ときくと『カッコーの巣の上で』を思い出したりもする。本作に登場する患者さんや看護師さんたちはとても明るく描かれており、音楽も軽快な沖縄音階が使われていて、いい意味でそのイメージを打ち砕かれた。しかし、世界基準でみると異常な日本の長期入院についての疑問や批判を含んだ挑発的な作品でもある。

ある日、大阪にある精神病院に長年入院している70代の女性が、沖縄に行きたいと思い立ったことがきっかけで、周りの何人かを巻き込んで沖縄旅行が計画される。本土に出てみると、「沖縄に行きたい」という声はよくきくもので、飛行機も宿も安くなった昨今、学生でさえ沖縄旅行は容易になっているが、精神科の入院患者にとってはそうではない。主治医から外泊許可が下りず、結局退院して再入院をするという手段しか取れないという、驚くべきシステムの壁にもかかわらず、全員というわけにはいかないが沖縄旅行が実現する。取材に応じてくれなかったかもしれないし、予想はつくかもしれないが、映画に登場しない主治医の見解も聞いてみたかった気もする。

沖縄の場面では、その患者の女性が、スチル写真家で長年精神病患者を撮り続けている本作監督の写真展で自らの写真をみたり、沖縄の人と交流したり、観光をする様子が描かれている。映画のタイトルと、沖縄本島側から海越しに伊江島タッチューを眺めているその女性の後ろ姿の写真以外の情報なしに観たためか、結構早い段階で登場人物が沖縄に行ってしまい、いい意味で期待を裏切られた。

その後は沖縄から帰ってきた患者さんたちが引き続き登場し、沖縄に行く前と行ったあとでの変化が描かれている。女性は、旅行から帰ってきてからは、以前はさほど関心のなかった沖縄を身近に感じられるようになったようだ。私は、コロナで「沖縄に来ないで」キャンペーンがはられているヤ―グマイ(ステイホーム)ウィーク中にネット配信で本作を鑑賞したのだが、観光ができなくなっている今、観光による直接的な恩恵以外の副産物にも影響があるのかもしれないと思ってしまった。もう一人沖縄に行くことができた50代男性患者の旅行後の話が衝撃的だが、これ以上のネタバレを回避するため割愛する。いずれにせよ、彼らが沖縄へ行ったことは単なる旅行ではなく、自ら殻を破って病院から出て冒険し、その後の人生を大なり小なり変えたという意義深いものであった。タイトルのカタカナの「オキナワ」は、物理的な場所というより何かが変わる象徴としての意味合いを含んでいるのではないか。たくさんの人々がオキナワにいくといいのではと思えた。

映像出典:映画「オキナワへいこう 」予告編(監督:大西暢夫 )KINENOTE映画ライフログサービス