このごろ睡眠習慣が不規則なこともあって、鳥取から愛媛まで行くのは「しんどいな」と思っていました。一方で、「動いてから休む」ことが、身体の調子を整える上で有効だということも知っていました。頑張って愛媛まで行くことにしましたが、結果的に、行って良かったと思います。 それでは以下、参加記です。
※松山市内の公園
□7月28日(金曜)
名古屋の白木先生によるアンティシペーションダイアローグ(Anticipation Dialogue)のワークショップに参加しました。早朝から5時間運転したあとの研修だったため、疲れと眠気に始終襲われましたが、非常に勉強になりました。
〇対話主義
最初に説明されたのが、対話主義に関すること。最近、面接のやり方を変えていて思うのは、事前の「態度(考え)」が、当然ですが、後の行動に影響を与えるということ。しかもそれは連鎖的に広がりやすい。動機づけ面接(MI)でスピリットの話が最初にあることからも、「事前に備えておく考え」についての話は大事なのだと思います。
対話主義で大事とされていたのが、「聞くことと、話すことを分ける」でした。なぜなら、「自分が知り、理解することよりも、相手が話し、語ってくれることに意味がある」からだそうです。故に「話を聞きながら質問を考えない」し、「話を聞きながら解釈や判断しない」。
失敗した面接をふり返ると、私は「次に何を言おうか」ばかり考えていたと思います。そして考えた割に、その発言は効果がないか逆効果でした。一方、上手くいった面接では、相手が悩みについて主体的に話していて、それに合わせて自分が受け答えしていました。
つまり言語行動には、対話を妨げるノイズがたくさんあるのだと思います。MIでいうところの「落とし穴」。対話の技術というのは、無限にある言語行動をそぎ落として、残ったものなのかもしれません。
〇アンティシペーションダイアローグ
構造化されたミーティングのことだそうです。事例とは関係のない外部のファシリテーターがミーティングを仕切るのが印象的で、「聞くこと、話すこと」を役割として分けることが、役立つのだと感じました。
私の所属病院だと、カンファレンスでは事例の担当者が、話題提供も司会も板書もすべてこなすことが多いです。そして、「最後に先生お願いします」みたいな一言でまとめられます。そうなると、“ランクの低い意見”は無視されるし、違った意見は出にくくなります。事前情報から一歩も進んでないカンファも珍しくありません。
さすがに私も「これはいかん」と思って、最近取り組んだのが、まったく関わったことのない事例について、司会で呼んでもらうことです。私の拙い仕切りでも、部外者がやることで、意見を平等に扱いやすくなるのです。出てきた意見に受け答えして、まとめて、それを事例担当者と話して(リフレクティング)、さらに話を広げていきます。
リフレクティングというのは、どうやら二者間で話していることを、他の人に聞いてもらっている構造のことを言うようです。確かにこれで、考えや発想を広げられる時間が作れます。
〇専門性(バックグラウンド)
補足として説明されていたのが、対話の技術を身につけることは、自分の専門性を変えることではないということ。そして自分の専門性を尊重するとともに、相手の専門性も尊重することが大事だと言われていました。それが「ポリフォニー」と表現している部分なのかもしれません。“当事者は当事者の専門家”という態度でいくと、押し付け的な表現が減りやすいかなと思いました。
たとえば、偏った見方だと思いますが、病院では患者さんを「何も知らない弱者」のように扱う場面が見受けられます。知らずのうちに、患者さん自身も“そう振る舞ってしまう”のかもしれません。けれども、それは応対する人の反応によるのかもしれません。
私も一方的な提案になることがありますが、でも面接でうまくいくのは、患者さんが自分で見つけた(と思える)方法で、セルフコントロールしていくような流れがあるときだと思います。
□7月29日(土曜)
松山城で少し遊んでから、午後はケース発表を聞きに行きました。ブリーフ学会は30分で発表する慣習らしく、発表時間までブリーフなんだなと思いました。ちなみに心理臨床学会の発表時間は2時間です。こんなところにもスタンスの差が出ていますね。
〇事例発表
上手い発表者に共通して見えたのが、「リソースを活用していること」でした。その点は、本当に揃っていて、教育の賜物かなと思いました。CBTだとモニタリングでしょうか。
そして事例を聞きながら、ブリーフの発想でやってやっていることをCBTの枠組みで理解するという作業をひたすら行っていました。
たとえば、問題行動の中にリソースを見出していたケースでは、行動が問題なのではなく場面が問題であるという観点で、場面を変えて問題行動を表出させる介入を行っていました。これは分化強化かなと考えていました。THは、よりマシな場面での行動について、注目を多くしていたように見受けられました。
ただ介入と言っても、THの経験を話したり、THの注目の仕方を変えた程度で、どちらかというと言いっぱなしでした。これはアンティシペーションダイアローグのところでも言われていたことですが、とにかく言いっぱなしで良いと。もしかしたら、“意見を合わせよう”とするから、押し付けたり、回避したりするのかもしれません。CBTの模擬面接を見ていても、“合わせよう”という感じは、あまりしません。これがどういうことなのか、まだちょっと分かりません。
〇懇親会
夜は懇親会で、“初めまして”の方々や、“いつもお世話になっています”の方々と交流しました。ブリーフ素人の自分としては(CBTも素人ですが…)、何から勉強したら良いのか、いろんな方に教えてもらおうと思っていました。若手で勉強熱心な方や、ベテランの方に、あれこれ指南を頂いて、以下の書籍を購入してみました。
1.ディヤング&バーグ(2017)『解決のための面接技法—ソリューション・フォーカストアプローチのための手引き(第4版)』
2.オハンロン(2011)『本当の自分を生かし、可能性をひらくための解決指向催眠実践ガイド―エリクソニアンアプローチ』
□7月30日(日曜)
最終日は岡嶋先生による、MIを活用した家族教育プログラムの発表を聞きました。流れがシンプルで、治療的な要素はしっかり押さえられていて、モニタリングも段階的に増えていくように工夫されていて、しかも記録を付けていて自然と達成感が持てるような課題になっていて、参加者の方が「早く話したい」という感想を持つようなプログラムということで、率直にすごいなと思いました。
私が担当している看護学校の授業でも、MIのことをチラっと紹介することがあります。主に間違い指摘反射についての紹介。実はこの「間違い指摘反射」の話は、とても印象に残るらしく、授業の最後の感想でも、「間違い指摘反射は減らそうと思います」という感想が複数ありました。それぐらい、よく起きやすい会話のパターンなのだと思います。
それぐらい起きやすいことだからこそ、「自分の会話に気づく」練習にもなるのでしょう。この家族教育プログラムでも、まず最初に「間違い指摘反射」の話がなされていました。それは「自分の発言をモニターする」機会を増やすうえで、とても有効だと感じます。モニタリングが上手くなれば、そのあとの「是認」発言をしていくことも、やりやすくなるのでしょう。
間違い指摘反射の部分も、もちろん参考になりましたが、私がとくに印象的だったのは、目標設定のところです。〇が増えていったら良い、△は減っていくと良い、といった話を入れつつ、どんな風になっていると良いのか聞いていき、流れを作っていく。
そうすると、だいたいの家族さんが、「問題が減ってほしい」と述べるようです。何となく予想がつくところですし、自分の事例でもそうした回答が印象に残っています。でもそこからさらに、問題が起きるときの状況を聞いたり、そのとき家族がとっていた行動を具体的に聞いたりしながら、どんどん具体的にしていきます。最終的に、「こんなことができたら良い」といった、切っ掛けとなるひとつの行動を導き出していきます。
こうした丁寧な流れは、必要だと感じながら、私が苦手とする部分でもあります。どこかで早合点したり、話を早々に切り上げたり、面接を変に遮ってしまうことがあります。次の面接では、まずこの辺りを変えたいところです。
□全体的な感想
また参加したいな。そんな風に思える学会でした。とにかく雰囲気が明るい。心理臨床学会は「来年は辞めようかな」と思っちゃうし、認知行動療法学会は「行かなきゃ」みたいな考えが浮かんでしまいます。気楽に参加できるし、発表もしてみたいな、そんな風に思えました。
平成29年7月31日
佐藤裕樹