■テーマ:CBTcasecamp2016で体験したことをまとめよう
■目的:それぞれのケース発表やディスカッション、ロールプレイおよび模擬面接から得られたことをまとめてみる。
■Case1(S田さん):話術が提示されていたので、「どこでどう返答するか」を考えながら聞いていた。CLは自分の訴えが何を意味するものか自覚的でないように見えたが、「心理教育」ないし「アセスメントの共有」の話題が少ないと感じた。私ならそのあたりの共通理解を土台にするかなと思った。アセスメントは土台作りなのだ。
■Case2(F原さん):問題行動について、測定指標から行動変容が読み取れる発表であったが、何がその行動を維持していて、何ゆえにその行動が変わったのか、介入前後の環境変化が読み取りにくかった。ディスカッションは「問題行動には取り除く際のリスクがあり、維持されている利点もある」ことがテーマだと思った。問題行動に介入するリスクアセスメントをしようと思うと、必然的に診断を見直すプロセスは避けられない。こうした面接の進め方に関する議論が尽きず、2日間を通して「最もディスカッションが盛り上がった発表」だと思った。リスクアセスメントも土台作りなのだ。
■ロールプレイ1:某I垣先生のCL役に翻弄されながら、1stTH役としてありがちな堂々巡りに入り込んだ感じ。もう3分あれば、“実際にこれやってみてください”と「今ここで」の話に持ち込めた気がしないでもないが、それに気づいたのが9分目ぐらいでは遅すぎる。CLさんのストーリーに乗りすぎると、堂々巡りになる気がしている。そこを脱する手段として、最近意識しているのが「今ここで、想像して/試してみましょう」という提案。介入しながらのアセスメントも土台作りなのだ。
■模擬面接1:明らかに堂々巡りをしていたので、いつ止めるのかなと思ったら、いつまでも止められなかったので、これはこれで何か進んでいるのだろうと思っていたら、確かにHWの提案まではされていた。話術としては、「ちょっと待って」と文脈を切る発言があったが、文字通り「待つ」以外の機能は無く、そのあと同じように同じような話が続いていた。ディスカッションでもコメントがあったが、一旦相手のストーリーに話題を傾けて、その中から使えそうな素材を情報収集していく方が、進みやすかったのではないかと思う。最後のHWを提案するときになって、はじめて配偶者という使えるかもしれない情報が出てきていたが、その段階にくると方向修正も難しいだろうと思う。
■Case3(A園さん):文句なしに、2日間通して「最も役に立つ発表」だと思った。生活環境内でおおよそ思いつく限りの回避場面を潰していたので、徹底しているなと思った。回避場面に曝してみると意外と普通だった、といった体験は認知再構成っぽい。全体的に、ドロップアウトしないように、かといってE/RPが崩れないように、ゆっくりと取り組んでいるところが印象的だった。クライエントの抵抗が見えにくかったのは、それだけ面接の進み具合を調節しながら進めておられた結果なのかもしれない。CLのペースに合わせることも土台作りなのだ。
■懇親会:久々の再開を喜びつつ、ケースの振り返りをしつつ、勉強会を開きたいという方の相談に乗りつつ、肉を食らって、終いには結婚観を談義していた。
■Case4(R崎さん):今年も出ましたスーパールーキー。文句なしに今回の「最もよかった発表」だろう。交通費と謝礼を払うので、ぜひ広島でも発表していただきたい。とくに各回における焦点の当て方が上手だと感じた。儀式妨害を中心に始まり、最悪の結末へのエクスポージャーに進んだのちに、トリガーをリズミックな呪文に再構成していく流れは参考になる。各回はそれぞれちょっとずつ違いながらも、全体として一つの方向を目指しており、きちんと介入するための土台を作りながら進んでいる、ということだと思った。おそらく、トリガーが曖昧だったり、回避場面の特定が不十分だったり、儀式妨害ができないうちに高すぎる課題を出していたら、この短期間での改善は望めなかったのではないだろうか。土台を作りながら介入していくことが大事なのだ。
■Case5(K原さん):話術を聞きながら、初日と同じように「どこでどう返答するか」を考えていた。初日と同様に、自分なら「心理教育」ないし「アセスメントの共有」の話題を振っていくだろうなと思った。またTHとして話題の選択はなされていたが、選択された理由と選択されなかった理由が、あまり共有されていないように感じた。仮説に過ぎないが、もしかしたら、CLが話したいことは、THが選択した話題の中には無いかもしれない。実際、CLにとってどの話題が重要なのか、話術の中からは読み取れなかった。自分なら、CLの話を誇張するような聞き返しをしたり、自宅の様子をイメージしてもらうかもしれない。聞き返しを工夫することも土台作りに繋がるのだ。
■ロールプレイ2:2日目は某S木先生のCL役に翻弄される。これも堂々巡りに陥った。認知的アプローチがいるのではないかと考えたけれど、たぶん普通の質問では入らなかったと思う。こういうときに、メタファや比較を使うなどの工夫がいると感じた。「生まれつき足が不自由な子がいたとしたら、走れとは言わないですよね。もし生まれつき集中するのが難しい子がいたとしたら、1時間集中しろと言うのはどうなんでしょう」とか。まぁそんなの考えつく間もなく10分は過ぎ去ったけど。
■模擬面接2:この模擬面接を見られたことは、合宿で一番の収穫かもしれない。S木先生の質問の仕方は、ものすごくコンパクトな印象があった。一つひとつの質問のまとまりが小さいので、CL役としても、答えやすいのだろうと思った。少しずつ進んでいるような感じ。文脈を切り替えるときも、大きく変えてしまうのではなくて、少し変える感じ。
N川先生の質問の仕方は、一歩一歩進んでいる印象があった。質問の前にきちんとアセスメントの共有があり、「ここまで話が進んでいるんだ」ということを、CL側が思い描きやすいと感じた。またCLの発言の機能を分析しながらやっている、という印象があった。「お酒を減らす方がいいのか」という発言は、良いかどうかわからないことによる質問というよりは、節酒の動機に基づいたチェンジトークだと感じられた。このとき、もしも発言の言葉尻から「質問だ」と受け取って答えていると、流れは悪くなっていたかもしれない。しかし実際には、「もう減らす道にいるんじゃないですか」というTH役の発言によって、チェンジトークは強められ、変化への文脈も維持されて、HWへとつながっていった。
■Case6(O田さん):「苦手なことにチャレンジ」という発想は、考えの幅を広げると思った。私は今でも知らないところが苦手だが、エクスポージャーという概念を知ってからは、わりと前に進めるようになったと思う。慎重さは必要だと思うが、自分の苦手なことに気づいたり、それを意識して変えたりすることは、自分自身をマネジメントしていく上で、大事なことなんじゃないかなと思う。土台の作り方に気づかせていくことも大事なのだ。
■打ち上げ:ひたすら鮎を食い、模擬面接を振り返り、最後の最後まで事例の話に花が咲いた。
2016年7月22日
佐藤裕樹