■はじめに
今回の自分のテーマは、「ブリーフの観点で見ること」でした。そのため持参本も『ブリーフセラピーの極意』。あくまで私の感覚ですが、CBTだけで物事を見ようとすると、全体が見えにくくなるのです。マクロな視点が欠けているせいですが、うまく切り替えられない。
ブリーフの観点は、私が勉強した限り、一歩引いた視点で物事をとらえています。この観点を身につけることは、今後の臨床を続けるに当たって、間違いなく必要だと考え、テーマにしてみました。
それでは早速、以下に私が考えたことや体験をまとめていきたいと思います。
※事例内容についてはあまり触れていませんが、不適切な部分があれば修正いたします
1日目
■川野先生の発表
ブリーフを学んでいて、非常に興味深いと思ったのは、第一回目の面接がもっとも有効性が高いという知見です。面接初期はそれだけ重要なのです。本発表における初期のビデオフィードバックは、CLにとってとても大事な経験になったことでしょう。
社交不安では、スキルや回避といった行動が目につきやすいですが、Clarkのモデルにあるように、「自己注目」も不安の維持要因になります。川野先生が意図していたかわかりませんが、自己注目が、ビデオフィードバックによって、声のトーンなどをモニターする行動に置き換わっていった可能性があります。
一方、これまでの経歴に関する情報不足を感じました。もしかしたら、適切な主張行動がとれないばかりに、苦手な部署への配属が続いたのかもしれません。インテイクとして聞きすぎる必要はないでしょうが、問題の背景情報を一通り得ておくことは、ターゲットを絞るうえでも大事な作業であると考えられます。
■清水先生の講演
IR(imagery re-scripting)の御話で、詳しくは、最新の精神薬理学雑誌に載るようです。技法の引き出しに入れておいても、損はなさそうだと思いました。IRの詳しい手続きに関しては割愛しますが、MasteryとCompassionateという要素が記憶(?)に付加されることで、ネガティブな出来事の影響が低減するようです。
質疑応答では、そもそもどんな感情下で記憶を引き出すのか、という手続きに対する疑問や、イメージの置き換えをピークエンドの法則で説明する観点が検討されました。
過去の出来事に、現在の自分を登場させて、あれこれ対応を考えるというのは、新しいレスポンデント学習を体験する過程のようにも思えました。
■懇親会1
『効果的な心理面接のために──サイコセラピーをめぐる対話集』を片手に、ブリーフについて仲間と語り合ったことが印象に残っています。
2日目
■小林先生の発表
ネット視聴行動に対して、認知再構成と行動活性化が用いられていましたが、ターゲットの適切性についての議論がありました。ブリーフでは、「問題もリソースのひとつ」という見方をしますが、ある行動を一括りに問題とすることのリスクを含意していると思います。
CLは将来のことを話しますが、そうしたい理由や必要性が漠然としています。「動機づけ」の観点から言えば、準備が整った段階とは言いにくいでしょうし(問題行動が減っても目的的行動が生じるとは考えにくい)、機能分析の観点からは、何らかの回避行動として仮説が立てられるでしょう。ネット視聴行動のこうした背景が、やや見えにくい発表でした。
たとえば、もし単位を取得するまでは問題がなかったのだとしたら、ターゲットは「適切な目標を設定する行動の増加」になるでしょうか。そこに回避があるとしたら、受け容れがたい気持ちを具体化する話が、もっとできたのかもしれません。
自分の経験を振り返ってみて思うのですが、周りに合わせるというのはしんどいことです。そんな私は、ある時、周りと合わせずに「変わっている人」とレッテルを貼られた方が楽だと気づきました。CLにとって、周りの家族と合わせることが、もしかしたらしんどかったのかもしれません(妄想ですけど)。
問題の背景にアンテナを伸ばしておくことは、必要な情報を見逃さないうえでは、大事だろうと考えています。
■上村先生の発表
面接の主役は、親子のうち誰なのか、という議論が印象に残っています。主役はどうあれ、親の行動が変わったことで、子どもの行動も少しずつ変化したことは、親にとっても大きな発見だったのではないでしょうか。
こうした発見を、両親はどう捉えて、THはどこまで説明をしていたのでしょうか。ケースフォーミュレーションは、CLと共有できてこそ意義のある作業だと思いますが、家族内で理解に大きな差がありそうだと感じました。
家族内で大きな変化が起きると、新たな問題が出てくる可能性があります。そのため、家族を通してCLと関わるときには、共通の視点をつくったり、マクロに振り返ることが、とくに必要になる気がしました。
■ロールプレイ
私はCL役を担当しました。3人のTH役に10分ずつ面接を受けましたが、3人とも焦点の当て方が異なるので、それぞれ違った展開が生まれていました。
CLをやっていて思ったのは、やはり経験者の方ほど、先を見据えた会話の組み立て方をしています。裏を返せば、初学者の方は、その質問が何につながるのか、いまひとつ思い描けていない印象を持ちました。
■模擬面接
CL役の2人目を担当しました。私が演じたケースは、10回未満で終結したのですが、より早期に変化を起こせた可能性がありました。そのため、病態としては重たくはないのですが、それでも「モギメンセツ!」となると、緊張のせいか、会話の進め方に悩むTH役の方もいました。
最後に登場した黄金聖闘士こと宮先生は、それまでの情報から、「怒り」感情に結びついた認知をすばやく同定し、「責任感のつよさがある」というリソースとしてリフレーミングしました。開始15秒ほどで、話が一気に進みました(神業!)。
責任感がある一方で、「叱り方を変える必要性がある」という動機を確認し、なぜ必要だと思うかを、CLの口から述べるように引き出していました(どちらかというとマジシャンズトーク?)。いよいよ変化が目前に迫った文脈の中で、「どうやったら受けとり易い表現にできるか練習してみましょう」と解決を提案し、アサーションディブな表現をCLは考え出します。
CLがアサーティブな叱り方をしたあとに、それに対する部下の返答に、もう一言添えるよう提案していました(ここもオープンクエッション)。見えない相手にすら配慮するTHのマクロな視点が、そこにはありました。学生の時分に部活動をしていたCLは、後輩に対する激励を参考に、返答を描き出していました。
この模擬面接の流れは、一瞬の出来事ではありましたが、非常に多くの要素が詰まっていました。宮先生は応用行動分析の達人ということでしたが、CBTもブリーフも動機づけも、何でもできる超人といった印象でした(噂に違わぬゴールドっぷり)。
■プチエピソード
実は宮先生と私は、2016年の心理臨床学会でお会いしていました。とある発表で、私が「怒られるまで質問」していたところ、さくっと止めに入ったのが、司会をしていた宮先生でした。名刺交換をしたわけでも、きちんとご挨拶したわけでもなかったですが、どうやら「声」は御記憶に残っていたらしく、TH役に入る間際に、「前お会いしましたね」と一声かけていただいた。最悪の第一印象でしたが、記憶には残ったようで…(今後は気を付けよう)。
宮先生が旧行動療法学会のイベントに参加するのは珍しいことだそうで、今年度2回もお会いできたことには、不思議な縁を感じます。もうちょっと御話すれば良かった。
■本園先生の発表
正直なところ、「うーん…」と止まってしまうぐらい、何を言うべきか、掴みどころのない発表でした。実際、ディスカッションも質疑も、いまひとつ盛り上がりませんでした。内容は置いといて、発表スタイルを見てひとつ観察できたことを書いてみます。
それは、フロアのコメントに対する発表者のリアクションが小さいことです。
たとえば、神村先生はリコメントをひとつひとつ丁寧に行っていました。オーバーにリアクションする必要はありませんが、フロアのコメントも「行動」ですから、強化できなければ、盛り上がるはずもありません。
発表者自身がどのように反応して、それに対して相手がどのように反応を返しているのか、情報を拾えていない可能性があります。変な話かもしれませんが、ロールプレイとしてCL役をひたすらやる練習してみると、良いのかもしれません。CLを完コピできるなら、少なくとも情報を拾えていないということはないでしょう。
■平田先生の発表
発表者がCLの行動を完コピして演じてくれたことは、介入場面を想像するうえで、重要な情報となりました。そして、よく行動観察されていると感じました。スライドに表現されていない、介入上の工夫は、もっとあったのではないかと想像します。
コメンテーターの宮先生は、行動変容を念頭におきながら、マクロな視点で、本発表に新たな視点をいくつも提供されていました。そこでは、家族との協力、親の負担の軽減、適切な確立操作、好子のセッティング、目標設定…これらが、CLへの倫理的配慮のもとに、合意のもとに進められるべきだという点が、強調されていました。
発表内容を超えて、こうした視点を持ちながら介入することは、行動的な介入が中心となる場合には、とくに重要になるのだと思いました。
■懇親会2
新潟の田中先生に、ナラティブの観点からCBTをまとめた発表スライドを見せてもらい、あれこれ自分の介入をふり返る材料になりました。実は、田中先生にはマジシャンズトークと誘導的発見の違いなど(これがホントすごい!)、この2-3日でいろいろ教わりました。この話は、また改めて紹介したいと思います。
3日目
■佐藤先生の発表
ブリーフでは、最初に「問題モード」として十分に話を聞いてから、「解決モード」として問題解決的に話を進めていきます。では本発表における問題とは何だったのでしょうか。そもそもCLは誰だったのでしょうか。「要求行動の定義」が議論に挙がっていたように、何をターゲットとするかは、誰が何に困っているかによります。つまり、視点によって、ターゲットはどうにでもなります。
たとえ「要求行動」がターゲットになったとしても、ブリーフにおける外在化では、「ターゲットを完全に減らすこと」には慎重です。再度、問題が出てきたときに、「完全にやっつけたはずなのに」と敗北感が生じ、過度に排除するリスクがあるからです。このあたりの塩梅をCLや家族と共有しておくことは大切だと思います。
本発表では、「適切な要求に応えること」が暗に促されていますので、「要求行動」がターゲットということはあり得ません。「適切な何か」が弁別されているはずなのです。子どもの要求が減ったと思ったら、新たな要求が出てきて、親は後者には応えた方がよいとされます。親の負担は減っているのか増えているのか。いっそのこと親をCLとして見立て直した方が、するっと良くなるのかもしれません。
あれこれと意見を述べましたが、今後の成長を一番感じさせてくれる発表でもありました。
■神村先生の発表
「こんな風に変わっていくんだ!」ということが、実際に映像として見ることができて、とても勉強になりました。十分な行動観察と、そこから読み取れるCLの感じる不快感と、そこに言葉を合わせていく技術が、第一回目から行われて、その第一回目からすでに変化が表れていたことは驚異的でした(介入とはそうあるべきなのでしょう)。
衝動が高まったときに「指を立てる」という代替行動は、結果的に使わなくなったそうですが、後半では「頭をかく」「顔を覆う」といった行動が、前兆として出現してたように記憶しています。症状が「出る―出ない」の両極端だったのが、少し違った形で出てくるのは、非両立行動ではないのでしょうが、よりマシな変化であったように思えます。
偉そうに書いていますが、このあたりの考えは、すべてグループディスカッションで出たもので、自分一人では「なにこれすっげ」以外の考えは思いつきませんでした。
■おわりに
コロキウムとは、「事例を知る」「事例を分析する」「意見交換する」ということを行う場、つまりは「事例検討をおこなう場」です。これを繰り返しこなしていれば、自然とレベルアップしていきます。どんどん参加しましょう!
あれ?うーん、本当にそうなのでしょうか?
私達はいつどのようにレベルアップするのでしょうか。初学者の心配は常にそこにあります。レベルアップの音なんて鳴りません。いやまぁ、音源を見つけて、それっぽい音をパソコンで鳴らすことはできます。
あれ?うーん、それでいいのかなぁ。
何もないのに音を鳴らすわけにもいきません。きっかけが必要です。たとえば、こうしてふり返りを書くことも、「きっかけ」と言えるでしょうか。
コロキウムはたしかに「事例検討をおこなう場」ですが、それだけではありません。文脈から切り離された発表なんてあり得ないわけです。発表者と参加者と小浜の地が合わさって、はじめて「そのときの事例検討」が起こっています。検討が終わった後の懇親会も、その後のふり返りも、きっと「事例検討を形作る文脈のひとつ」です。
うーん、思うのですが、レベルアップなんて「きっかけ」さえ掴めれば、いつどこでだって、できると思います。いきなり達人は無理ですが、小さい変化はその辺にころがっています。
事例検討の文脈の中には、そうした小さな変化が、日常よりたくさん散らばっています。あとはそのきっかけに「気づくかどうか」です。私は、どんな小さな変化にも気づいて、どんなに小さなレベルアップでもいいから、音を鳴らしていきたいと思っています。
みなさんは、どんなきっかけに気づきましたか?
たくさん気づけると良いですね。
そろそろ終わらないと収拾がつかなくなるので、この辺で失礼したいと思います。
2017年2月28日
佐藤裕樹