研究内容 (Research)

## 甲南大学理工学部生物学科の学生のみなさんに読んでもらうことを念頭に,研究内容をアップロードしました。書きたいことはたくさんあるのですが,あまり長いものは読むのが大変ですから短いものです。興味を持たれた方は武田に声をかけてください。

##研究関係の方,一般の方でご興味を持たれた方は,武田までご連絡ください(takeda あっと konan-u.ac.jp)。

##甲南大学・微生物研のこれまでのポリリン酸に関する研究については,研究業績をご覧ください(Sawada et al., 2021)。また,今後,研究紹介も追加していく方針です。

私たちは,分裂酵母という10 µm (1 mmの百分の1)ほどの単細胞生物を材料として,「細胞と栄養」という切り口で研究を展開しています。細胞は外界から物質を取り込み利用し,生命を維持し続けます。この外界から取り込む物質を栄養素と言います。「細胞と栄養」という視点は,「生命と物質」という理学的な興味深さと,医学・農学面での社会的な重要性の双方を兼ね備えています。武田がどうして「細胞と栄養」に興味をもったか,またいずれ,「武田のつぶやき」にでも書いてみようと思います。

窒素源(アミノ酸)や炭素源(ブドウ糖)に関わる研究にも携わってきましたが,ここ数年は,無機リン酸重合体であるポリリン酸と,関連して細胞のリン酸恒常性の維持機構に注目しています。

分裂酵母 Schizosaccharomyces pombe とは

子嚢菌門に属する菌類で単細胞の真核生物です。酵母と言いますが,馴染み深いパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)とは異なる種類です。東アフリカの雑穀を原料としたビールから単離されまして,学名のpombeはそこから由来しています。単純で遺伝学的な操作が容易なことから,パン酵母とならんで細胞生物学の研究に使われる「モデル生物」です。特に細胞分裂細胞周期の研究が有名で,2001年のノーベル医学・生理学賞は,分裂酵母を材料として細胞周期の研究をおこなった英国のPaul Nurse博士らが受賞されました。

すべての生物がもつ(?)ポリリン酸

数〜数百ものリン酸が直鎖状に重合したポリリン酸は,原核生物(細菌)から酵母,植物,ヒトを含む動物まで,ほとんどの生物の体内(細胞内)にあると言われています。ポリリン酸がどのような役割を果たしているか?リン酸の貯蔵という面ももちろんあるのですが,それだけではなく,多彩な,そしてヒトの健康に関わるような生理機能が報告されています(例えば,血液凝固,神経機能,タンパク質の立体構造(フォールデイング),筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関わる可能性等)。

しかしながら,ポリリン酸がなぜこのように多彩な生理機能に関わるのか,もうひとつはっきりしません。特に,多細胞の動植物では,なにがポリリン酸を合成しているのか,その代謝系もわからないことが多いです。一方、私たちが用いる酵母では,ポリリン酸の代謝系は合成・分解ともよくわかってきています(それでも,2010年以降の話)。そのため,このミステリアスな高分子であるポリリン酸の役割や調節について研究するには,酵母はすぐれた材料ということができます。

なにをめざすか?

(1) 分裂酵母の特質と私たちのこれまでの研究結果を活かして,細胞内ポリリン酸の必須機能,すべての生物がポリリン酸をもつ意味を,一端でも明らかにしたいと考えています。分裂酵母を探ることでどこまで普遍的なことがらに迫ることができるか,そこに挑戦していきたいという思いです。ポリリン酸の問題に限らず,新しいアプローチも必要ではないか,と,ひしひしと感じています。また,扱いやすい酵母を超えて,多細胞動植物ではどうなのか,生物の進化という高い視点も取り入れられたら,,,と新しい展開もはかっていきます。

(2) ポリリン酸と関連して,細胞内のリン酸の量や濃度を一定にたもつ恒常性のしくみにも興味をもっています。出芽酵母と比べて,分裂酵母における知見は少ないのですが,出芽酵母とはかなり違っているようです。ここを明らかにしていくことで,出芽酵母での知見とあわせて,医学的にも重要なリン酸の恒常性のより一般的な理解に貢献できるのではないか,と考えています。


2022.9.23