ラマダーン(ラマダン)の断食ってなに?

慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名において

どうして断食するの?

 

ムスリム(イスラーム教徒)は、年に一度、ラマダーン月(ラマダン月)に一ヶ月間断食をします。その間、もちろん24時間飲食を断つわけではなく、イスラームの断食は、日の出前に朝ごはんを食べて、日没後に夕飯を食べて、夜の間は自由に食べたり飲んだりします。ですから、実質、朝食と夕食を食べて、ランチを一回抜かすだけで、体にもお財布にも優しいものです。

この断食は、病人や老人、旅人や生理中や妊娠中や授乳中の女性など一部の免除されている人たちを除き、すべての成人ムスリムが行います。(詳しくはこちらを参照)

質問:アッラーは、なぜ、ラマダーン月に断食することをお決めになられたのでしょうか?

回答:クルアーンで、アッラーは、こう仰っています。

【信仰する者よ、あなた方以前の者(キリスト教徒やユダヤ教徒たち)に定められたように、あなた方が主を畏れるように、あなた方に、斎戒(断食)が定められました。】 クルアーン2章 雌牛章183節 日訳P32

断食の理由として、アッラーは、アラビア語で「タクワー」(日本語:アッラーを畏れること)、つまり、アッラーのご命令に従い、禁止されたことを避けること、ができるようになるために、と言われています。では、断食で、どうして、この「タクワー」が身につくのでしょうか?

ラマダーンに断食をすることで、あることが人間に起こってきます。それは、2つあります。ひとつは、人間の中の、あるものが弱くなること、そして、もうひとつは、あるものが強くなること、です。

質問:人間は、2つの要素から成り立っています。何ですか?

回答:体、と魂(ルーフ)です。

体だけでは、人間は生きていることができないことは、現代の科学でも証明されています。

命、魂が中に入っていない体は、死体です。

そこに魂が入っていて初めて人は生きている、という状態になります。

質問:体、というのは、どこから栄養を取ることができるでしょうか?

回答:体を健康に保つためには、土、地面から栄養を摂ることができます。アッラーが、地面から育ててくださる野菜、果物、など、またそれらを食べることで生かされている動物たちから、私達は栄養を吸収することで、体の健康を保っています。つまり体の栄養は、地面からすべて摂ることができるのです。

質問:人間の構成要素のもう片方、魂(ルーフ)というのは、どうやって栄養を採り、健康を保つことができるでしょうか?魂は、地面から栄養を摂ることができますか?

回答:魂は、地面からの栄養を吸収することはできません。魂の健康を保つには、何から栄養を摂るのでしょうか?それは、魂が、何から創られたか、を思い出すとわかります。私たちの魂は、もともとは、何でしたか?

【かれ(アッラー)は、いやしい水(精液)から、その(人間の)後継者を創られ、それから彼(人間)を均整(きんせい)にし、かれ(アッラー)の魂を吹き込まれ、またあなたがたのために聴覚と、視覚と、心を、授けられた御方。あなた方は、ほとんど感謝もしない。】 クルアーン アッサジダ章 9節

私たちのことを24時間見守ってくださり、私たち人間のことを愛してやまないアッラーからしか、魂の栄養は摂れないのです。その栄養は、私たちのことを大好きなアッラーのことを知ること、アッラーのことを考えること、礼拝やズィクル(アッラーを唱念すること)でアッラーとつながりを持つこと、それだけが、私達人間の魂の健康を保つための栄養になるのです。

質問:現代人の問題は、片方の、体の栄養にばかり気をとられて、「どこの何がおいしい」とか、「どんな料理がおいしい」とか、体に栄養を与えることばかりを熱心にしていることです。そうすると、人間に、どんな問題が起きてきますか?

回答:片方の体ばかりに栄養が行渡って、どんどん体の欲求が太って、体の欲求だけが巨大になり、その中にいる魂は、やせ細って、体に圧迫されて窒息寸前の状態になっていきます。体の欲求だけが栄養満点の状態になると、その中にある魂は、圧迫されて瀕死の状態になります。そうすると、もっともっと体の欲求が、巨大になっていきます。もっともっとおいしいもの食べたい、もっともっと楽しいことをしたい、もっともっとこの世の享楽を楽しむことを全部したいと、欲求は巨大化し、今度は、その巨大な欲求が、人間自身を動かすようになります。そうなると、人間は、欲求が、命じたことに、「かしこまりました。」と従わなくてはならなくなります。「おいしいものを食べたい。」と欲求が言えば、人間は「かしこまりました」とその命令に従い、命令通りにおいしいものを食べると、次は欲求が、「もっとおいしいものを食べたい。食べたことのないもっとおいしいものが食べたい。」と欲求が言い、「かしこまりました。」と人間がその命令に従うようになり、人間は、巨大化した欲求に従う以外のことが考えられなくなってしまいます。

そうなってしまえば、人間は、自分の欲求を満たすことだけを考えて、生きていくことになってしまうのです。

質問:そうなると、魂の方は、どうなってしまいますか?

回答:魂は、巨大な欲求にガードされてしまって、栄養がまったく行き届かなくなってしまいます。巨大な欲求に押しつぶされて、窒息死寸前の状態になります。人の役に立つ善い事をしたいとも思わない、クルアーンを聞きたいとも思わない、礼拝をするのも億劫に感じる、礼拝をしても全然楽しくない、人に親切にしても全く嬉しくない、善い事をしても、ちっともおもしろくない、という状態になってしまいます。これは、その喜びを感じる魂が、危機に陥り、瀕死の状態になっているからです。当然の結果です。体の欲求にばかり気をとられて、魂には、全く栄養が行かなくなってしまったからです。

ここで、ある問題が起こってきます。それは、人間が体の欲求を満たすだけでは、本当に幸せを感じることできないようにできている、というところに原因があります。

質問:人間は、体の欲求を満たすだけで、なぜ幸せを感じられないのでしょうか?私達は何のために創られましたか?

回答:なぜならアッラーは、人間を、そんなことのためだけにお創りになられたわけではないからです。食べて、寝て、そんなことをするためだけに、アッラーは私たちに、体を与えて、心を与えて、こうしてこの世に生かしてくださっているのではないのです。

アッラーは、人間に、心をお与えくださり、人の苦しみを感じたり、善いことをすることで喜びを感じたり、動物をいつくしんだり、子供を愛したりすることができるようにと、人間を、もっともっと崇高な存在に創られました。

人間が、体の欲求だけを聞いて、その命令に支配されている状態は、本当の人間の姿ではないのです。ですから、その状態では、人間は心から幸せを感じることができません。のどが渇いた人が、塩水を飲まされているような状態です。飲めば飲むほど、もっともっと喉が渇いていきます。欲求を満たせば満たすほど、もっともっと欲求は巨大になっていきます。

この世の欲求は、追いかければ追いかけるほどもっと欲しくなり、いつまで追いかけてもちっとも満たされません。次から次へと出て来る欲求を一瞬満たすことで得られる幸せは、とても短くはかないものです。おいしいものを食べたい、という欲求を満たして得られる幸せは、何時間、もしくは、何分続くでしょうか?

アッラーは、そんなはかない幸せを与えるために、私たちに人間をお創りになられたのではないのです。お金持ちの人が、何でもできるお金があって、好きなものを好きなだけ食べられ、好きなものは何でも手に入るにも関わらず、突然自殺してしまったりすることがあります。それは、人間の構成要素のもう片方、魂の欲求を満たしてあげることを忘れてしまったからです。体の欲求ばかりを聞いていても、人間は心の底から幸せを感じることができません。なぜなら、アッラーは、人間を、魂の幸せ、という、もっと大きく長く続く本当の幸せをお与えになられるためにお創りになられたからです。

でも、体の欲求が巨大に膨れ上がってしまった状態では、魂はそれにガードされてしまって、せっかく魂に栄養を与えることをしても、ガードが厚すぎるため、その栄養が魂に届かなくなってしまいます。そのため、礼拝をしても何も感じなくなったり、クルアーンを読みたくなくなったり、善い事をしても嬉しくなかったり、という魂の瀕死の状態が起こってしまうのです。それを、そのまま放っておいてしまうと、少しずつ、魂は死んでいきます。

質問:そろそろなぜ私たちが、断食するのか、わかった方もいるかもしれません。アッラーは、なぜ人間に一ヶ月間の断食を命じられたのでしょうか?

回答:アッラーは、私たちの魂を救うために、一年の12ヶ月の内の、一ヶ月間だけを、体に与える栄養を制限し、巨大になった体の欲求のガードを払い落とし、魂の方にも栄養が行き届くようにするために、すばらしいプログラムを作ってくださいました。それが、ラマダーン月の断食です。

ラマダーンには、昼間食べたり飲んだりすることを止めることで、今まで、太りに太って巨大化していた欲求が、だんだん弱まり、窒息寸前だった魂が、欲求の圧迫から開放されて、息を吹き返します。そこへ、ラマダーンに特別な夜の礼拝、タラーウィーフの礼拝や、クルアーンをたくさん読誦することで、魂の栄養をどんどん与えていくと、瀕死の魂が、徐々に元気を取り戻し、生き生きとしてきます。そうなると、クルアーンを聞いても、もっともっと聞きたいと思うようになり、善い事をもっともっとしたいと思うようになり、礼拝しても楽しくて楽しくて仕方がなくなってきます。瀕死の魂が、再生されてきた証拠です。

つまり、ラマダーンで、私たちに起こる2つのことというのは、体の欲求が弱まり、魂が強まる、という現象なのです。しかしラマダーンの効用は、これだけに留まりません。

 

質問:この状態が続くと、さらに不思議なことが体に起こってきます。それはどんな状態でしょうか?

回答:アッラーとつながリを持って沢山栄養を与えられ、満たされた魂は、アッラーの光がその人の魂に満ちあふれ、光で一杯になります。すると、その魂から、光の栄養はあふれ出て、体の隅々に光の栄養が行き渡り始めるのです。そうすると、なんと、地面からしか栄養が摂れなかった体が、魂の光から栄養を摂るようになるのです!その人の体自体は、断食で弱っているはずなのに、魂の活力で、アッラーの光で生き生きと輝きます。魂が元気になると、体は、地面からの栄養を摂らなくても、魂からの栄養でどんどん元気になり、アッラーの光が体中にあふれる状態になります。そして、その人の体は、アッラーの光で動くようになります。彼らには、もう地面からの栄養が、ほんの少ししか必要ではありません。魂の光で、満たされているからです。

そんな例をたくさんシリアで見ました。シェイフ(先生)達は、みなさんご高齢にもかかわらず、ものすごくお元気です。内側から光り輝いているようです。シリアの学校創立者の先生は、お亡くなりになったとき、94歳でしたが、お亡くなりになる直前まで、金曜日に、金曜礼拝のモスクで、講話をされていました。毎週、どんなことがあっても、それは行われ、94歳になられても、とてもはっきりした口調で、理路整然と講話をされていました。5階建てのモスク一杯にあふれる何千人という先生のお説教を聴きに来た人たちに、しっかり一時間以上の講話を、本もレジュメも何も見ることなく、クルアーンだけを前において、94歳で亡くなる直前まですばらしい説話を行なっていました。アッラーのご慈悲が彼にありますように。

この先生に限らず、シェイフ達はご高齢になられても、痴呆やボケという声を全く聞いたことがありません。年を重ねれば重ねるほど、マーシャアッラー、経験と知識が増え続け、学者としてすばらしい状態になっていきます。それは、彼らが、地面から摂る、体の栄養だけで生きているのではないからでしょう。アッラーと常につながることにより、アッラーの光という魂の栄養が人間に与える効果、というのを、実証してくださっているのが、こうしたご高齢のシェイフたちです。アッラーが、彼らの寿命を延ばしてくださいますように。

ラマダーンで断食をするのは、11ヶ月間かけて窒息寸前になっている私たちの魂に、栄養を与えて、再生させるためなのです。イスラームのことをよく知らない人には、断食なんて大変、とか、かわいそうと思われることがありますが、実際には、私たちの魂が窒息寸前になったまま、徐々に死んでいくのを放って置くことの方が、ずっと危険で大変です。私たち人間のことを愛してやまないアッラーは、人間に、魂の救済方法をお与えくださったのです。

質問:では、入信して間もない方でラマダーンの断食が大変、という人は、これらの事から何か解決方法はありますか?

回答:ムスリムになられて最初の年の断食はどうでしたか?という質問をすると、よく似た回答が返って来ます。

まだクルアーンも読めず、アッラーとつながりを持つ方法をほんの少ししか知らなかったときには、体に栄養が与えられない断食は、辛いものだったのかもしれません。それは、体に栄養が行かない上に、魂の栄養が十分に摂取できないので、体も魂も、ふたつとも弱ってしまうことによって起こるのではないかと思います。体が弱っている、と感じたら、魂の栄養になることを、たくさんしてみましょう。クルアーンを読んだり、読めなければ、クルアーンをCDでたくさん聞いたり、アッラーのことを考えるズィクルをたくさんしたり、人の役にたつ善行をしたり、魂の栄養になることをたくさんすると、不思議に、食べなくても飲まなくても、全く平気になっていきます。お腹がすいていることを忘れます。魂が満腹しているときは、ほんの少しの飲食の量で、体も満腹になります。不思議なものです。魂の栄養がうまく摂れないと、体も魂も、ふたつともがダウンして、とても辛いものになってしまうのかもしれません。

もちろん、病気の場合には注意が必要です。基本的に病気の方はラマダーンの断食を免除されていますから、病気をお持ちで断食をしようと思われる方は、必ず主治医の指示に従いましょう。その際、ただ「断食」と言っても、日本ではどういうことをするのかわからないですから、きちんと朝食を何時にとって、夕食を何時にとって、その間、飲食をしない(水も飲まない)、ということを説明した上で先生の指示を仰ぎましょう。

魂の栄養をしっかり摂っていたサハーバたち(アッラーのご満悦あれ)の中でも、スンナの断食をすると、疲れてしまって他のスンナの礼拝やクルアーン読誦に支障があると言われていた方もいます。人それぞれ体質があるので、必ずしも魂の栄養を摂るだけでは解決しない事もありますが、ただ、こうした方法を試してみることは出来るでしょう。断食で疲れたな、と思ったら、あえて、善行をしてみる、すると、意外に自分でも驚くほど元気になったりするかもしれません、インシャーアッラー。

質問:ラマダーン月の一ヶ月間の断食を終えると、どうなりますか?

回答:こうしてラマダーンで一ヶ月間、体の欲求を弱め、魂に栄養をやり続けていると、巨大な欲求でふさがれていたガードが、魂から完全に取り払われ、欲求に支配されていた人間が、反対に、欲求を支配できるようになります。欲求が、「食べたい」と言っても、「かしこまりました」と従う代わりに、「アッラーのために断食をしているから、食べない」と答え、「悪口を言いたい」と言っても、「アッラーのために断食をしているから、悪口を言わない」と答え、「あの人のことを嫌いだ」と言っても、「アッラーのために、彼に善いことだけをする」と答え続けると、徐々に、巨大に太った欲求が、だんだんとやせ細り、ついにはその人は欲求の支配から解放され、反対に、欲求を自分の理性によって支配することができるようになります。

また、断食というのは、人が見ているからする、というものではありません。もし自分が止めようと思えば、誰もいない部屋に入って、こっそり水を飲んで断食を解いてしまうこともできるからです。でも、それをしないのは、私たちが、「誰も見ていなくても、アッラーが見ている」ということを知っているからです。ラマダーンの間、一ヶ月間、食べたくても、アッラーが見ているから、食べない、人の悪口を言いたくても、アッラーが見ているから、悪口を言わない、ということを続けていると、アッラーのご満足だけを求めて、アッラーのご命令に従い、禁止されることを避ける、「タクワー(アッラーを畏れること)」の練習を一ヶ月間毎日行なうことになります。

これが、アッラーが、人間に断食を課した所以、クルアーンで言われた、「タクワー(アッラーを畏れること)」を手に入れるということです。

一ヶ月間、断食を終えたムスリムは、アッラーのご満足だけを求めて、行動することがずっと簡単になり、欲求の支配から解放されて、魂がクルアーンの光で満ち溢れた状態になり、体も心もきれいに浄化され、しっかり充電して、また、次のラマダーンが来るまでの一年間、新たなアッラーとの関係を始めることができます。これが、私達ムスリムが、一ヶ月間のラマダーン学校を卒業する、ということです。ラマダーンが始まる前と、終わった後では、インシャーアッラー、どれだけ自分に大きな変化があるか、楽しみです。

ある敬虔な方の言葉に、

「空腹は、アッラーの元では、彼の宝庫に保管されており、お好きな者にしかお与えにならない。」

というものがあります。

この一ヶ月、アッラーの元で特別な、空腹を、アッラーのために感じることができる祝福されたラマダーンに、私たちのことを愛してやまないアッラーが、私たちのために準備してくださったラマダーン学校を、ちゃんと卒業できますように。

みなさんに、アッラーの祝福とご援助がありますように。

◆断食の詳しいやり方は下の添付ファイル「ラマダーンに備えよう(前編、後篇)」をご覧ください。

私たちの魂は、人間のことを愛して止まないアッラーから吹き込まれたものです。ですから、私たちの魂の健康を保つためには、魂の栄養を摂る事が必要で、それは地面からではなくその反対の、天から、つまり、私たちを創ってくださった創造主アッラーからしか摂れないのです。

ラマダーンが終わると、イードルフィトル(断食明け祭)が来ます。

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