4. 血液癌に関与する遺伝子の発生遺伝学的研究 -癌化機構の理解をめざして―

血液癌の発生に関与する遺伝子の同定と癌化機構の発生遺伝学的解析

研究の背景

細胞癌化に関わる癌抑制遺伝子は、哺乳類のみならず多細胞生物の間に広く保存されています。一方、ショウジョウバエでは古くから癌をおこす劣性の突然変異が知られています。ショウジョウバエから同定された癌抑制遺伝子の中には、哺乳類の相同遺伝子が発見され、癌のバイオマーカーとして臨床に使用されている例もあります。

研究の目的

ショウジョウバエmxc遺伝子の突然変異体の中には、幼虫期の造血組織が肥大化するものが知られています。この組織内の細胞を正常なショウジョウバエ成虫の腹部に移植すると宿主組織内に浸潤したり、頭部にも“転移”して増えるという「白血病」様の表現型を示します。この突然変異体の原因遺伝子が作る産物はヒストンmRNAに結合するタンパク質です。他の複数のタンパク質と複合体を形成して、ヒストンmRNAの転写やプロセンシングをおこないます。ヒトにもこれと機能的に相同なタンパク質が知られており、ヒストンの細胞周期特異的な発現に必須な役割を担うことが報告されています。この変異体は血液癌のモデルとして有用です。この原因遺伝子がショウジョウバエの血球細胞の発生においてどのような機能を持っているかを明らかにするとともに、それの機能変化により、血球細胞が癌化する機構の理解をめざします。

研究の結果と展開

■ショウジョウバエの血球細胞の発生、分化に関与する遺伝子mxcについて分子発生生物学的な解析をおこなっています。

■この遺伝子の癌化突然変異体の中には、幼虫期の造血組織内で未分化な血球細胞が異常増殖しています。このため組織が肥大化することがわかりました。

■これらの変異体の造血細胞において、Mxcタンパクの局在、機能がどのように変化しているかを明らかにする細胞生物学的解析を進めてい ます。

■以上のような解析結果から、同タンパク質が突然変異をおこすことにより、血球細胞が癌化するメカニズムを推定する研究をおこなっています。

研究の応用と将来的展望

■白血病の昆虫モデルを確立します。このモデルが示す癌化表現型を抑制、増強する遺伝子群を探索するスクリーニングをおこなっています。

■このモデルが示す表現型を抑制する薬剤を探索するスクリーニングもおこなっています。

■遺伝子改変が容易な昆虫モデルを用いて、血液がんの発症におけるmxcファミリータンパク質の役割を明らかにしてゆきます。昆虫モデルの研究から新たに同定された遺伝子群がヒトにも保存されているか、それらが白血病の発症とも関連があるかについても調べてゆきたいと考えています。