3. 糖尿病の昆虫モデル作成ーインスリン作用の理解に向けてー

糖尿病の昆虫モデル作成

ーインスリン作用の理解に向けてー

研究の背景

糖尿病には、インスリン産生ができない1型とインスリンに応答できない2型があります。遺伝性の2型糖尿病家系の中には、インスリン受容体遺伝子に変異がある例が知られています。インスリンの作用機構や病態の解析は、培養細胞やマウスなどの個体を使って研究されてきました。一方、インスリン、その受容体およびシグナル伝達経路は、昆虫にもよく保存されています。これらが欠損したショウジョウバエの突然変異体では、体細胞の栄養状態が悪くなり、 細胞の増殖と成長が阻害されます。ショウジョウバエは世代時間も短く、成長も早いので、インスリン作用の解析ならびに病態モデルとしても期待できます。

研究の目的

ショウジョウバエの1型、2型糖尿病に相当する突然変異体を用いて、特にこれまで不明な点が多い生殖細胞形成過程におけるインスリン・シグナル伝達系の役割を明らかにすることを目指します。また、これらの突然変異体は、糖尿病モデルとして有効です。さらにそれらの表現型を回復させる薬剤、天然物も探索します。

研究の展開

■ショウジョウバエのインスリン受容体変異体では、精子数が有意に減少していました。

■突然変異体では、精子のもとになる生殖幹細胞の分裂効率が低下していました。また、精母細胞の細胞成長も阻害されていました。

■インスリンシグナル伝達系は、ショウジョウバエの精子幹細胞の細胞周期をG2期からM期に進行させることがわかりました。

■インスリン産生細胞にのみ細胞死を誘導したところ、受容体の突然変異体と同じような表現型がみられました。この個体は1型糖尿病モデルとして有効なので、マウスなどのモデル動物と比較検討をおこなっていきます。

■インスリン伝達経路は、ショウジョウバエの精子形成過程において、生殖幹細胞の分裂促進と精母細胞の成長促進に働いていることがわかりました。

現在進行中の研究課題

■インスリン伝達系の下流で働く転写因子などTOR伝達系などのfoxoシグナル伝達系が精子幹細胞の分裂、精母細胞の成長に必要か検討しています。

■ショウジョウバエのインスリン産生細胞欠失個体、インスリン受容体突然変異体が1型、2型糖尿病モデルとして有効か、さらに検討しています。

■2型糖尿病モデルの表現型を回復させる薬剤をスクリーニングしています。

将来展望

■ショウジョウバエの精子形成過程における細胞の増殖、成長、分化に関する知見をマウスなどと比較検討することにより、生殖医療、再生医療への貢献をめざします。

■ショウジョウバエモデルを1次スクリーニングに用いて、インスリン作用の改善に効果を示す糖尿病治療薬の探索をおこないます。これが可能になれば開発コストの削減、時間短縮、スクリーニング規模の拡大も期待できます。