マイクロプラスチック

最終更新日:2020年11月1日

問題

現在世界の海にはどれくらいのマイクロプラスチックが浮いている?

①約1億個 ②約800億個 ③約5兆個以上




正解は・・・ ③約5兆個以上

海に浮かぶ5兆個にも及ぶこのマイクロプラスチックは,私たち人間,そして生物にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

マイクロプラスチックとは?

明確な定義はありませんが,一般的には直径5㎜以下のプラスチックのことを言います。マイクロプラスチックはその成り立ちから2種類に分けられています¹⁾。

一次的マイクロプラスチック:初めから小さいサイズで生産されたプラスチックのこと。洗顔料や歯磨き粉に使用されているものがこれに当たります。 

二次的マイクロプラスチック:もともと大きなサイズで生産されたが,紫外線,熱,風,波などの物理的な力によって破砕され,細かくなってマイクロプラスチックとなったもの。食品の容器・包装や,合成繊維を使った服を選択するときに生じる繊維くず,食器を洗う時に生じるスポンジくずなどがこれに当たります。

冒頭でも述べたように,現在世界全体で約27万トン,数にして約5兆個以上ものマイクロプラスチックが海に浮かんでいると推定されています²⁾。しかしこの推計には直径0.3㎜以下のマイクロプラスチックが含まれていないこと,年間480~1270万トンのプラスチックごみが海に流出していると推定される³⁾ことを考えると,実際にはこれ以上のマイクロプラスチックが存在する可能性もあります⁴⁾。

マイクロプラスチックの生物への影響

実験室内での観測や実際の海での観測により,大小200種類以上の生物がマイクロプラスチックを取り込んでしまっていると考えられています。取り込まれたマイクロプラスチックは,生物に対し物理的,化学的な影響を及ぼします⁴⁾。

小さい生物が受ける物理的な影響

直径20nmほどの小さいマイクロプラスチックは,細胞膜を通過して生物組織の損傷などを引き起こします。生体内に物理的異物であるマイクロプラスチックが存在することによる影響は粒子毒性と呼ばれており,PM2.5のような微小粒子が体内に侵入することによる影響と同様のものと考えられています。マイクロプラスチックを取り込んだ牡蠣の生殖能力の低下や,ワムシと呼ばれる動物プランクトンの抗酸化酵素(酸素が酸化しやすい物質と過剰に反応し生体に有害な物質を作るのを防ぐために作られる酵素)の過剰な活性化などがその例として挙げられます。

粒子内の有害な化学物質による影響

プラスチックに使用される添加剤

プラスチック製品は,その生産の過程で加工しやすくしたり,丈夫にしたり,色を付けたりするために様々な化学物質(添加剤)が添加されており,これらの物質はプラスチック製品をより便利なものにするためになくてはならないものです。しかしその一方で,添加剤には生物に悪影響を与えるものが存在し,これらはマイクロプラスチックになった後も残留します。ペットボトルキャップに使われるノニルフェノール(乳がんや子宮内膜症を引き起こす可能性がある)や,レジ袋に使われるフタル酸エステル類(発達障害や繁殖機能の低下を引き起こす可能性がある)がその例です。

海洋中の有害物質の吸着

海の中には,有害な化学物質が生物に影響を与えないほど低い濃度で存在します。これらはかつて様々な製品に使用されていましたが,現在は条約の規制などにより使用が禁止されています。しかし自然に分解されないという性質により今日まで海中に残存しています。このような化学物質は疎水性である,つまり油に溶けやすいという性質から,海を漂うマイクロプラスチックに吸着され,その内部で周辺海水中のおよそ十万~百万倍の濃度になると考えられています。1960年代まで工業的な用途で多く使われ1970年代初頭に使用が禁止された,奇形児やがん,免疫力の低下を引き起こす「ポリ塩化ビフェニル(PCBs)」という化学物質がその代表的なものです。(PCBsのように分解されず,生物濃縮される有害な化学物質を残留性有機汚染物質(POPs)という。)

生物に取り込まれたマイクロプラスチック粒子は,それ自体は体内に残ることなく体の外へ排出されます。しかしマイクロプラスチックに含まれる有害物質の一部は生物の体の中に残ってその生物に影響を及ぼし,さらに食物連鎖を通じて生態系全体に影響を与えると考えられます。最終的には人間が間接的に有害な化学物質を取り込んでしまう可能性もあります。プラスチックは微生物などによって分解されることはないので,生物に吸収されることなく排出され再び海を漂い,内部に有害物質を蓄積します。マイクロプラスチックはまさに「汚染物質の運び屋」と考えられるのです。

影響を受けるのは生物だけじゃない?

上述のように,マイクロプラスチックは生物に対し物理的,化学的な影響を及ぼしますが,このような生物に与える影響は間接的に漁業などの産業にも影響を与える可能性があります。マイクロプラスチックを取り込んだ魚を食べた人に健康被害が確認された場合,消費者が魚類の食の安全性に対し疑問を抱くようになります。現状海の中のマイクロプラスチックを取り除く方法が確立されておらず,またマイクロプラスチックは世界中の海に存在するため,どの地域の生産者も完全に安全性を保障することが難しく,魚類の消費が世界全体で減少する可能性があります。

また,マイクロプラスチックが海に浮かんでいるという情報がきれいな海やビーチを観光資源とする国や地域に対し負の印象を与える可能性もあり,その地域の観光業に影響を及ぼすのではとも考えられます。

マイクロプラスチック問題を解決するには

現状はっきりと影響が現れているわけではありませんが,今後海のマイクロプラスチック濃度が増加するにつれて現れる影響を考えると,この問題に対し解決法を考える必要性は十分にあると考えられます。マイクロプラスチック問題の対策には以下の2つの考え方があります。

①マイクロプラスチックをこれ以上増やさない

マイクロプラスチックは非常に小さく,現在のところ一度海に出てしまったものを回収し除去するための確立された方法がありません。そのため海に流出するマイクロプラスチックやそのもとになるプラスチックの流出を抑え,これ以上マイクロプラスチックを増やさないという予防原則的な対策が現時点では中心となっています。具体的な対策としては3R(リデュース,リユース,リサイクル),なかでもリデュースの推進,生分解性かつバイオマスプラスチックによる使い捨てプラスチックの代替などがあります。

生分解性・バイオマスプラスチック

生分解性プラスチックとは通常のプラスチックと同様に使うことができ、使用後は自然界に存在する微生物の働きで、最終的に水と二酸化炭素に分解され自然界へと循環するプラスチックのことをいい,バイオマスプラスチックとは再生可能なバイオマス資源を原料に、化学的または生物学的に合成することで得られるプラスチックのことをいいます⁵⁾。万が一海に流出してしまっても,生分解性プラスチックの場合は微生物によって分解され,バイオマスプラスチックの場合も時間はかかるが分解できる素材であるため,マイクロプラスチックとして残留せず,これ以上のマイクロプラスチックの発生を抑制することに寄与すると考えられます。

しかし現在使われているプラスチックを完全に置き換えるには,耐水性や丈夫さという点でまだ課題があります⁶⁾。このような性質を得るために添加剤を材を使用すると結局汚染物質が海へ流出してしまうので,添加剤に頼らずにこういった性質を獲得する必要があり,現在も研究が進められています。また,生分解性プラスチックの特徴である分解されやすさは地上のしっかりと管理された環境でのみ発揮され,実際の自然環境,特に海洋中ではその特徴を十分に発揮できないという課題もあります。海洋中での良好な生分解性を獲得するための研究が現在でも進められています。


3R(リデュース,リユース,リサイクル)の推進

2015年時点で,世界で生産されるプラスチックのうちリサイクルのために回収されているのは9%,焼却されているのは12%であり,残りの79%は埋め立てられるか,環境中に放棄されていると推定されています⁷⁾。そしてそれら79%のうちのいくらか,年間480~1270万トンのプラスチックごみは海に流出していると考えられます。このようなプラスチックが最終的にマイクロプラスチックになってしまうため,私たちは,排出されるプラスチックごみ自体を減らすこと,つまり3R(リデュース,リユース,リサイクル)を推進することも問題の解決には重要であると考えます。

しかしこれら3つのRの中で,リサイクルはほかの二つに比べたくさんの費用や人手,エネルギーを必要とします。またリサイクルの中でも,回収したものの品質が同一製品の原料としての基準に満たない場合,より低品質な原料としてリサイクルされることがあり(このようなリサイクルをダウンサイクルと言います。),これが繰り返されるとやがてリサイクル不可能になってしまいます。このことから経済的,環境的に見て,リサイクルは完全に持続可能な解決策というわけではないと考えられます。

以上のことから,3Rにも優先順位をつけ,特にプラスチックごみをもとから減らすリデュースを推進していくことが重要であると考えられます。

②マイクロプラスチックを減らす

先ほど現状海に浮かぶマイクロプラスチックを除去することは難しいと述べましたが,長期的に考えると,私たちはマイクロプラスチックの実用的な回収・除去技術を開発することが必要であると考えます。最初に述べた通り,現在推計されている海の表層にあるマイクロプラスチックの量は,年間で海に流出するプラスチックごみの推計量に比べ極端に少ないです。このことから海に流れ出たごみの大部分は堆積物として海底に蓄積されていると考えられています。単位面積当たりの堆積物に含まれるマイクロプラスチック量が海面の約4倍であるという計算結果も出ています。また,海底と海の表層との間でのマイクロプラスチックの流れはよくわかっておらず,陸からの流入を抑えるだけではマイクロプラスチック濃度の上昇が止まらない可能性があります。

以上のことより,私たちはマイクロプラスチックの実用的な除去・回収技術は長期的な問題への対策として重要であると考えます。ここでは現在研究・開発が進んでいたり,すでに実用化が進んでいる技術をいくつか紹介します。

1.超音波を用いた回収方法

この方法は信州大学繊維学部の秋山佳丈准教授および森脇洋教授らの研究グループによって提唱,実証されたもので, 微細な流路中で超音波が照射されることにより微小な粒子が流路中央に集まる音響収束と呼ばれる現象を利用しています⁸⁾。このグループの研究では,途中で3つに分岐する微細な流路とその左右に超音波を照射できる装置を備えたデバイスが試作されています。この流路に直径が15 µm のポリスチレン微粒子やナイロン 6 およびポリエチレンテレ フタレート(PET)のファイバーを含む水を流し側面から超音波を当てると,プラスチックの微粒子や繊維はほぼすべて中央の流路に集まります。水は3つの流路に均等に流れていくので,中央の流路には元の3倍の濃度のマイクロプラスチックが集まっているのです。この仕組みを応用し,3つの分岐をいくつも設けることによって濃度を通常の何倍にも高めて回収することができると考えられています。

この技術の大きなメリットは,今までサンプリングに使われていたプランクトン用ネットではとることができなかった,直径が300㎛より小さいマイクロプラスチックを容易に回収・分別できるということです。そのためマイクロプラスチックを回収・除去するというより,直径5μmほどの小さいマイクロプラスチックの分析や調査に用いるのに適した技術であると考えられます。

2.シービン(Seabin)

これは株式会社平泉洋行によって作られたプラスチック製の2層の筒型容器,その中のメッシュ状の網,ポンプからなる装置です。内側の筒が上下することで周囲の水を吸い込む流れを作り,中に付いているメッシュ状の網で水中に含まれるプラスチックなどのごみをとり,下にあるポンプで水のみを排出するという仕組みです。大きいものでは20リットルほどの容器を,小さいものでは直径300㎛のマイクロプラスチックまでを回収することができます⁹⁾。電気さえあれば24時間人の手を借りず自動で動作するので,使用者に負担を強いることもありません。この装置はすでに商品として販売されており,2020年1月時点で39の国と地域で860台が使用されています。

直径300㎛未満のプラスチックを回収できない,性能を発揮できる環境が限られている(波の高さ0.3m以下,流束1.5knotsなど)などの課題点はありますが,マイクロプラスチック問題の将来的な解決策として有効なものであると考えられます。

3.油とマグネタイト粉末を用いた回収方法

これは,マイクロプラスチックと植物油が両方とも極性を持たない(電気的なかたよりがない)ために互いに引き合うことと,マグネタイト(磁鉄鉱〔Fe₂O₃〕,つよい磁性をもつ)の粉末と植物油も互いに引き合うことを利用して,油とマグネタイトの粉末を混ぜたものにマイクロプラスチックを吸着させ,その混合物を電極にひきつけて回収するという方法です¹⁰⁾。考案した人が20mlの水にマイクロプラスチックを混ぜ,そこに一定濃度のマグネタイト粉末が混入した植物油を入れて実験を行った結果,分光計の計測では全体のうち平均96.42%,顕微鏡による分析では99.66%のマイクロプラスチックが吸着されました。

プラスチックには極性を持つものと持たないものがありますが,日常的に使われる通称「4大プラスチック(ポリエチレン,ポリスチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル)」のうち,ポリエチレン,ポリスチレン,ポリプロピレンの3つは極性を持ちません。マイクロプラスチックの発生源の一つはこれらのプラスチックからなる製品のごみと考えられるので,この回収方法も将来的な問題の解決に貢献する可能性があります。現在はまだ小規模な室内実験での成功にとどまっており,今後も実用化に向け研究が進んでいくことが期待されます。

この方法は18歳のアイルランド人フィオン・フェレイラさんによってgoogleサイエンスフェア2019にて考案されたもので,化学の授業で習った「同じ電荷をもつ物体同士がひきつけられる」反応と,「マグネタイト粉末を使ってこぼれた油を掃除する手法」という論文からヒントを得て考案されたそうです。

マイクロプラスチックに関しては,その有害性や環境に影響をおよぼす仕組みなど,まだわかっていないことも多く,今後も研究の進展が望まれています。しかし,すでにたくさんの研究・調査によりそれが将来私たちにとって脅威になる可能性が示されています。私たちは,ただ研究が進み事実が明らかになるのを待っているだけでなく,マイクロプラスチックとは何なのか,それらが環境や生物にどんな影響を与えるか,どんな解決方法があるのかを自ら理解し行動に移していく必要があると考えます。

この問題を解決できるかどうかは私たち自身の行動にかかっているのです。

参照した文献・サイト

1.「海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組」 環境省(2016)

2.「Plastic Pollution in the World's Oceans: More than 5 Trillion Plastic Pieces Weighing over 250,000 Tons Afloat at SeaMarcus Eriksen ; Laurent C. M. Lebreton; Henry S. Carson; Martin Thiel; Charles J. Moore; Jose C. Borerro; Francois Galgani; Peter G. Ryan; Julia Reisser(2014), Plos One, Vol. 9, No. 12, e111913

3.「Plastic waste inputs from land into the ocean 」J. R. Jambeck, R. Geyer, C. Wilcox, T. R. Siegler, M. Perryman, A. Andrady, R. Narayan and K. L. Law(2015), Science,  Vol. 347, Issue 6223, pp. 768-771 

4.「マイクロプラスチック汚染の現状,国際動向および対策」 高田秀重(2018),廃棄物資源循環学会誌,Vol. 29, No. 4, pp. 261- 269

5.「バイオプラスチック概況」日本バイオプラスチック協会(2018)

6.「TSC foresight Vol.36 バイオプラスチック分野の 技術戦略策定に向けて」国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO(2019) 

7.「Production, use, and fate of all plastics ever made 」Roland Geyer, Jenna R. Jambeck, and Kara Lavender Law(2017),Science Advances Vol. 3, no. 7, e1700782 

8.「超音波による繊維くずを含むマイクロプラスチックの回収技術開発に成功」国立大学法人信州大学 繊維学部 株式会社泉技研(2019),信州大学プレスリリース

9.株式会社 平泉洋行ホームページ https://seabin.co.jp/ 最終閲覧日2020年10月28日

10.「アイルランド人のティーンが水中からマイクロプラスチックを除去する方法を考案し、Googleのグローバル・サイエンス・コンテストで優勝!」 WingArc1st データのじかん(2019) https://data.wingarc.com/fionn-ferreira-and-microplastic-removal-21363 最終閲覧日2020年11月1日