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金属スクラップ問題

2020年11月8日

「金属スクラップ」を知っていますか?

金属スクラップとは鉄,銅やアルミなどの非鉄金属や貴金属,時にはプラスチックなども含む「未解体」「未選別」のスクラップのことを言います¹⁾。解体業者・工場や、一般家庭・事務所など様々な場所から、使用済みの金属製品として排出されます。中国をはじめとした海外へ多量に輸出され、手作業で分解され金属原料として再生利用されています。

何が問題なのか?

金属スクラップは工業品生産のための安価な金属資源として特に発展途上国で利用され,また先進国にとっては輸出による利益も大きく廃棄物処理も行えるために大量に輸出入されてきました。例として,日本の2016年時点(中国の雑品スクラップ輸入禁止措置前)での雑品スクラップの輸出量は約266万トンにも及びます²⁾(雑品スクラップは貿易統計における「その他の鉄スクラップ(輸出統計品目番号は7204. 49‒900)」であると考えられる³⁾)。しかし,このように金属スクラップが「有価物(値段をつけて取引されるもの)」として扱われていることが様々な問題を引き起こしています。

・条約や法律で規制されているはずの有害汚染物質を含む製品が無許可で輸出される

輸出先の国ではスクラップの分別が手作業で行われており,作業する人の健康に悪影響を与える危険性がある

・選別の後残った残渣の不法投棄や野焼きなど,不適切な処理が行われ,環境汚染が起こる

・国内での収集・保管・輸出までの過程で,不法投棄や不適切な解体・管理が行われる

・保管・輸送の過程では衝撃やバッテリーのショートが原因と考えられる火災が発生する

などが発生する問題の一例です¹-⁴⁾。

行き場を失う日本の金属スクラップ

2018年4月,日本において改正された廃棄物処理法(ごみの適切な処理に関する法律)が施行され,さらに同年10月にはバーゼル条約(国を超えるごみの移動に関する条約)の改正も行われました³⁾。この2つのルールで規制対象になったことや,中国側で金属スクラップの輸入が実質禁止された⁵⁾ことにより,金属スクラップの輸出量は2018年には164万トン,2019年には105万トンと大幅に減少しました²⁾。

では海外に輸出されなくなった金属スクラップはどこに行ったのでしょう?

今まで海外への輸出を行ってきた輸出業者がコストと手間の削減のためにスクラップの買い取り量を減らし,行き場を失った金属スクラップが国内に滞留していると考えられます⁵-⁶⁾。また,法による規制以前にヤード業者(廃家電などの解体,保管を行う業者)として活動していた企業約1300社のうち,現在約3分の2程度が廃業,あるいは無許可で事業を続けていると考えられています⁶⁾。法や条約にのっとって金属スクラップを扱うとルールの順守や追加のコスト,手間が必要となるためです。今後このような業者が増えることによる環境汚染の拡大が懸念されています。

参照した文献・サイト

1.「家電リサイクルに係る金属スクラップ・ 中古品の回収・輸出に関する問題 」寺園淳(2013)環境省 家電リサイクル制度評価検討小委員会 経産省 電気・電子機器リサイクルWG 第22回合同会合 www.env.go.jp › council › mat05

2.財務省 貿易統計 https://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm

3.「廃プラスチックと雑品スクラップの国内資源循環に向けた課題」寺園 淳・小口正弘(2019)環境経済・政策研究,Vol. 12, No. 2

4.「バーゼル法等説明会PART1」環境省,経済産業省(2018)www.env.go.jp › recycle › yugai › pdf › setumei01_H30

5.「雑品スクラップの危機!中国の規制強化と国内法改正の解説と対策」一般社団法人日本リサイクル業IT支援協会 リユース・リサイクル情報局(2018)最終閲覧日:2020年11月8日 https://www.jrits.or.jp/2r-info/2533

6.「首都圏で「違法金属くずの山」が次々現れた事情 廃棄物処理法守らず環境汚染する事例が続出」河野博子(2020)東洋経済新報社 https://toyokeizai.net/articles/-/374087?page=4 最終閲覧日:2020年11月8日

ごみが商品として国際的に取引されることにより,以下の問題が生じます。

・本来リサイクルの対象とならないはずのものが循環資源として不正に輸出される

・再生資源の越境移動後,輸出先のリサイクル処理の過程で環境汚染を引き起こす

上に述べた問題は金属スクラップに限らずプラスチックごみ古紙繊維などにも当てはまります。このような「廃棄物の越境移動」によって起こる環境問題は世界全体で考えなければいけない重要な課題だと私達は考えます。