オノマトペと言語理論

ワークショップ

オノマトペと言語理論:統語と意味の接点から

日本言語学会145回大会@九州大学箱崎キャンパス(2012年11月25日(日)午前10〜12時)

発表者:

秋田喜美 (大阪大学)

臼杵 岳 (福岡大学)

虎谷紀世子(ヨーク大学)

・大関麻衣 (北海道大学)

当日は、たくさんの裏番組がある中、大勢の方々にお越しいただきました。ご参加くださった皆様にメンバー一同心より御礼を申し上げます。ここでは、ワークショップ時にフロアから得られた質問・コメントについて回答・議論してまいります。お気軽に反応をお寄せいただけますと幸いです。ご質問くださった皆様、ありがとうございました!

秋田

akitambo at lang dot osaka hyphen u dot ac dot jp

【要旨】Hamano (1986/1998)およびKita (1997)以降,オノマトペ(擬音・擬態語;例:がちゃん、きらり、わくわく)の理論言語学的関心が高まりを見せている。その関心の大部分は,那須(2002)の音韻研究やTsujimura (2005),Kageyama (2007),Toratani (2007)の意味・統語研究のように,オノマトペと一般語の共通性に向けられてきた。音象徴的・形態的逸脱性の記述が殆どであった国内外オノマトペ研究の背景を踏まえると,これは重大な分野の進展と言える。しかし,オノマトペの一般的特性が一般理論で扱えるのはいわば当然の帰結であり,その特異な面(オノマトペがオノマトペたる所以)まで捉えられて初めて,真の理論的貢献が可能となると思われる。本ワークショップの目的は,オノマトペの統語的・意味的特異性に正面から向き合うことで,オノマトペ研究から一般言語理論への積極的貢献という新たな道を探ることにある。

【Q&A】(※スライドはページ末からもダウンロードできます。)

目次:

1. まとめ

2. 質問・コメント

a. 全体・複数発表(スライド:イントロディスカッション

b. 秋田論文スライド

c. 臼杵論文スライド

d. 虎谷論文スライド

e. 大関論文スライド

3. 参考文献

※注:

i. 各発表への質問・コメントに対しては、基本的に発表者本人が回答しております。矢印以下のピンク色の部分です。それ以外のメンバーが口を挟んでいる場合は名前を添えてあります。

ii. 念のため、「HP掲載可能」としてくださった質問者の方々もお名前のイニシャルのみ表示してあります。万一、お名前掲載のご希望がございましたら、上のアドレスまでお知らせ願います。

1. まとめ

(1) とりわけ重要な課題

a. オノマトペの品詞論・範疇問題に今一度真剣に取り組んでいく必要がある。

i. 一般語(漢語サ変動詞、形容動詞、副詞、引用の「と」)との関係を体系的・網羅的に調べない限り、一般言語理論への貢献は遠い。

ii. オノマトペの範疇未指定説も同様に追究していかねばならない。

b. オノマトペの特定の用法における「子どもっぽさ」の意味するところを、発達的観点も含め考察していく必要がある。

c. オノマトペの意味表示の精緻化が必須である。

d. オノマトペに含まれる複数の音象徴要素を同時に考察し、その優先順位を通言語的に分析する必要がある。

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2. 質問・コメント

a. 全体・複数発表


(1) SK氏:

オノマトペについては、動詞との関係ばかりが注目されるが、形容動詞との関係も考察すべきでは?

→これは、これまで大きく欠けていた視点だと思います。「一般言語理論への貢献」を目指すには、形容動詞も含めた一般語との対比は避けて通れないと思います。重大なご指摘ありがとうございます。尚、鈴木(2012)がこれに関連する観察を行っており、今後の展開に繋がるものと言えます。(秋田)

(2) KT氏&AS氏:

a. 形容動詞的な述語(どろどろだ)との関係(cf. 2a(1))。

→「どろどろだ/ぼこぼこだ/べとべとだ/きらきらだ/?にこにこだ/*とぼとぼだ/*うろうろだ」のような形容動詞的なオノマトペに関しては、データの整理も含めて、これから取りかかりたいと思います。形容動詞に関しては、Nishiyama (1999)で提案されている日本語の形容動詞の統語構造との関係を中心に議論ができればと思います。また、「mimetic + い」の形容詞にあたるものがないということも、オノマトペの一つの範疇的特性を示すものだと思います。(臼杵)

b. 品詞を通した上での議論の必要性。

→その通りです。品詞を通して議論をする必要性をご指摘頂きありがとうございました。多田(2010)は、オノマトペの語彙範疇に関して、Distributed Morphologyの語彙範疇未指定仮説に基づく提案をしています。私も多田(2010)の分析を支持し、オノマトペ自体の語彙範疇は統語部門に入るまで未指定だと思っていますが、統語部門で得た語彙範疇がどのように項構造拡張と関連していくのか、今後の研究課題としたいと思います。(臼杵)

(3) 匿名:

a. 子どものオノマトペ習得について:

「トントンたたく」、「トントンする」のお話がありましたが、「トントンってする」のような発話が子供から多いようです。「トントンってたたく」はよくわからないですが(発話があるか)、今日のお話の子供っぽい聞こえがするものがあるというお話を聞いて子供の習得のデータをもう少し見てみようと思いました。

→Hamano (1998)でも「○○と」より「○○(っ)て」のほうが類像性が高い(あるいは子供っぽい?)という記述がありました。子供に対しておもちゃの使い方を教えるときなど、「ほらここ、トントンって{して/たたいて}ごらん」ということもあると思います。「○○(っ)て」のほうがより音を直接引用している感じがありますが、類像性が低いと言われる擬情語には現れにくいかもしれません(「*ウキウキってする」)。(大関)

→それから、動詞のない「とんとんって。」のような発話も多いそうですね(Ohba et al. 2012)。さらに、ジェスチャーの伴い方という課題もあります。また、そもそも「子どもっぽい」ということが言語学的に何を示唆しているのか、についても言語獲得の観点も絡め議論していく必要がありそうです(→ 2a(4))。(秋田)

b. 日本語教育のことについてもコメントが出ていましたが、私も今関わっているので面白く聞かせていただきました。第二言語としてのオノマトペ習得についての論文など面白いものがありましたら教えていただきたいです。

→特にどのようなことに関心がおありか存じ上げないので、とりあえず日本語教育に関する様々な題材を扱っているものを以下に挙げておきます。

三上京子(2007)『日本語オノマトペとその教育』早稲田大学博士論文

日本語教育における日本語オノマトペの基本語の選定の試みや、教師と学習者それぞれに対して行った日本語オノマトペに関するビリーフのアンケート結果(学習者からの「オノマトペは子供っぽいから学習したくない」という意見含む)、多義的なオノマトペ(「ごろごろ」「ばたばた」等)の教授法に関する考察などなど、興味深い内容が盛りだくさんです。(大関)

→宜しければこちらもご参照下さい:

https://sites.google.com/site/akitambo/Home/biblio/bib#acq(秋田)

(4) N氏:

秋田・虎谷論文:

「とんとんする」などについて“childish” (©)という観察があったが、子どもの言語獲得との関係から、このchildishnessをどう見るか。オノマトペ動詞以外にchildishなオノマトペはあるか。

→この響きは副詞用法(例:とんとん(と)叩く)では生じないため、オノマトペ動詞自体の「他動性を嫌う」という性質と考えられます(Kageyama 2007; Akita 2009: Ch. 6)。また同じような性質が、育児語オノマトペ名詞(例:©わんわん(犬)、©ぶーぶー(車))にも見られます(Akita 2009: Ch. 6)。

一方、オノマトペ自体がchildishという例としては「©ぺんぺん」「©ぶんぶ」などがあります(Ogura 2006; 窪薗2005)。これらの語同様、「©とんとんする」などのchildishなオノマトペ動詞も、育児語というサブレキシコンに登録されているために、childishな響きを持つものと考えています(Akita, forthc)。(秋田)

(5) MS氏:

秋田・虎谷論文:

オノマトペの動詞化に伴うスルは動詞化のスルと同じか。「オノマトペ+スル」のスルにもドキドキスルとガタガタスルの場合、後者はガタガタスルとトの挿入が可能だが、前者は挿入できない。この場合両者のスルは同じか。オノマトペの動詞化とはそもそも一体どういうことかといった議論が必要である。

→オノマトペ動詞に見られる非他動性制約(虎谷論文も参照)が漢語サ変動詞には見られないなどの相違点はありそうですが、現段階では観察が足りておりません。今後、体系的な比較が必須だと思います。尚、Kageyama (2007)では7種類のオノマトペ動詞に対して、7つの「する」の語彙概念構造が想定されています。

コーパスを見る限りは、「オノマトペ+と+する」は基本的に稀です(秋田・臼杵2011)。Kageyama (2007)は、これが「びっくりとした{顔/??ニュース}」のように属性叙述で好まれるとし、この「と」をオノマトペと「する」の間の事象タイプ隔絶を橋渡しする要素としています。引用の「と」とも言われますが、最終的な結論には至っておりません。尚、4モーラ未満のオノマトペおよびそれからの派生形については、音韻的要件として「と」が付随します(例:{*ころっ/*ころん/*ころり/*ころころっ}転がる)(那須2002参照)。(秋田)

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b. 秋田論文

「オノマトペの形態統語的実現に関するフレーム意味論的一般化」

(1) WLY氏:

「がやがや」「ざわざわ」などは“大勢の人”の声の“形容”で単一生物の声と比べて、類像性がより低いかもしれません。「がやがや騒ぐ」という表現も多いかも。

→これらの「擬声語」が、「にゃーにゃー」や「けらけら」など他の擬声語と違い、個別に切り分けられた声の模写ではないという点については指摘があります(Akita 2009: Ch. 6)。これらのオノマトペを「擬態語」と考えて、類像性階層に沿っていると解釈することも可能だと思います。

(2) YTC氏:

中心的・周辺的フレーム要素の区別の基準は何でしょうか?特に項実現を考えた時に、周辺的フレーム要素が項として現れる場合はどのようなメカニズムで説明するのかに興味があります。

→今回は名詞修飾テストを用いましたが、現段階で明確な言語テストは提案されていないと思います。基本的には、事象固有のフレーム要素を「中核的」と見なし、事象一般のフレーム要素を「周辺的」と見なします(Fillmore 2008)。両者に明確な線引きを想定しないのも1つの方向性だと思います。

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c. 臼杵論文

「オノマトペの語彙的特異性と項構造の拡張」


(1) SK氏:

「BOkobokoと/boKOBOKOに」(大文字=高)のアクセントの違いをどうするか(cf. 「書き」におけるKAkiとkaKIは別語)。

→レキシコンではオノマトペ・ルートの範疇は未指定で、統語(例:~と、~する)が与えられて初めて副詞・動詞などの範疇を得ると考える(→ Distributed Morphology)。よって、アクセントの違いは語彙範疇の未指定性を指示する一つの証拠としてとらえられる。また、項構造の拡張に関して、ある特定の語彙範疇等の共通性等や特性が観察されるならば、オノマトペを伴う項構造の拡張現象は、オノマトペの語彙的範疇に関して何か積極的な示唆をしてくれるかもしれないと考えています。

(2) MB氏:

現行のオノマトペのLCSでは動詞と区別できていない。

→動詞のLCSのどこを修飾するかを示す意味構造を考案する必要があります。修飾位置に関して、イベント変数(e1→e2の様な表記)を使用することも可能でしたが、あえて語彙概念構造を使用することで、一つのフレームの中に(i)「修飾する位置」と(ii)「オノマトペ副詞の指定する様態」を記述することが可能となります。今回の項構造の拡張に関して、強制を使った説明をする際にこの2点がポイントでした。よって、副詞として動詞の語彙概念構造のどの部分を修飾するか、そしてどのような様態を指定するかを直感的に分かりやすくするために語彙概念構造を使用しました。

(3) WLY氏:

「“例外的”な構文」というのがありましたが、むしろ、オノマトペの面白い性質がある[から]こそ、更なるパターンが存在[するのだと思い]ます。「例外的」という表現だと、理論的枠組みに入りにくいことになるのではないかと思います。

→コメント、ありがとうございます。「理論的枠組みに入りにくいということになる」というのが、今回の問題提起でした。つまり、通常の動詞拡張に関する理論だけでは説明できない現象に関して、強制に基づく提案をするというストーリーです。「オノマトペの面白い特異性がさらなるパターンの存在を認可する」という現象を、一般語彙における項構造理論とは別の次元(派生段階)での派生としてとらえるというのが、強制を用いた説明となります(Jackendoff 1997, Pustejovsky 1995)。

(4) MS氏:

項構造の拡張というけれども、様態は項構造に関わらないのではないか。

「太郎が駅にとぼとぼと歩いた。」

「太郎が次郎をぼこぼこと殴った。」

→確かに、通常の「様態」が項構造の構築に関わり、イベントタイプを変更したりすることはありません。しかしながら、「壁をポスターでべたべたと貼った/太郎が駅にとぼとぼと歩いた」の様な文では、「べたべたと/とぼとぼと」の存在が構文交替や項構造のタイプシフト(非能格→非対格)に関わっていると考えております。

(5) KK氏:

a. (5b)[拓哉は駅にとぼとぼと歩いた]のような構文は、(i) pathがsatelliteで表されているわけではないという点、(ii) macro eventとしてのtranslational motionを表しているわけではないという点、でTalmyのtypologyにとって問題ではないのではないでしょうか?

→ご指摘ありがとうございます。確かに、(5b)では英語におけるto the stationの様なsatellite要素による拡張というわけではありません。「とぼとぼと」という副詞による拡張であるから(「駅に」による拡張ではない)、これは厳密にはTalmyの直接的な反例とならないと考えることもできると思います。しかし、本稿では逆の視点に立ち、議論をしました。つまり、日本語がverb-famed言語であるということから考えてみました。verb-framed言語では、基本的に複合動詞(動詞要素)によって項構造の拡張(Pathの付加)がなされるとすると、副詞であるにも関わらず動詞の項構造拡張に寄与するという事実は、Talmyのtypology にとってやはり問題であると考えました。Talmyの理論に関しては、まだ不学な部分もありますので、ご助言頂けると幸いです。

b. 「駅からとぼとぼと歩いた」も可能だと思いますが、これもTOWARDへのシフトから説明できるのでしょうか?

→ご指摘ありがとうございます。この例文もTOWARDでの説明は可能だと思います。「駅から」は始点ですが、implicitな着点があるのだと思います。そうすると、「駅からB地点へ」という意味になり、TOWARDでの説明が可能となります(「駅にとぼとぼと歩いた。」は逆に「A地点から駅へ」となり、始点がimplicitであると考えられます)。

(6) AS氏:

(26b)[壁をポスターで{*べたっと/べったりと/べたべたと}貼った]で、「べたべたと」の方は非常によいと思ったのですが、「べったりと」は悪いのではないかと思いました。直感的にも、反復的な意味を持つCVCV-CVCVが「充満」の意味に繋がるというのは理解しやすかったのですが、CVCCV-riが「充満」の意味に繋がるのはなぜなのかと少し疑問が残りました。CVCCV-riが壁塗り構文を可能にする他の例や、その理由にお考えがあれば教えていただきたいです。

→ご質問ありがとうございます。まず、CVCCV-riを含む壁塗り交替には「壁をポスターで{ぎっしり/びっちり/べったり}貼った」等の例がありますが、個人差はあるかもしれませんが、確かに「べったり」はこの中でも全体解釈は弱い方かもしれません(「べったり」の「べっ」に強調やポーズを置くと全体解釈がしやすくなります)。また、本稿において、CVCCV-riという音韻構造をもつオノマトペが全体解釈(holistic)(本稿での充満の意味)を持つということは、Akita (2011)やUsuki & Akita (2012)の「パンを{ふんわりと/ふっくらと/こんがりと}焼いた」に関する議論に基づくものです。

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d. 虎谷論文

「役割指示文法における構文:日本語擬態語動詞からの一考察」


(1) 一般副詞(例:確かに)との関係を体系的に示されたほうが納得し易い。

→そもそもオノマトペではない副詞が日本語には少なく、それらも「*やっぱりする」のように動詞化が不可能なのでは。

→ご指摘の通りだと思います。2a(2)でも触れられていますが、範疇問題に関し今後オノマトペと一般語との関係をより明確にさせていく必要があると思います。

(2) WLY氏:

口語的「擬態語+する」構文について。「ごしごし」は「こする」という動作の結びつきが非常に高いです。「チョキチョキ」と「切る」の結びつきもそうです。これも構文が成立する理由(動機づけ)なのではないかと思います。

あとは、「こする」「ごしごし」を上・下位語として扱う妥当性についてですが、「中核的」「周辺的」という関係ではないかと思いますが。

→ご指摘ありがとうございます。「結びつきの強さ」が上・下位語関係を表しているのではないかと思います。鋏の音としての「チョキチョキ」は、「何かを切った」という事象の成立を意味しています。「ごしごし」も「何かをこすった」という事象の成立を意味しています。こうした必然的内含関係のある組み合わせに関しては、代用が(口語的であれ)可能です。しかし、それがないものは代用形が難しくなります。「木の枝をチョキチョキ落とした。」*1「木の枝をチョキチョキした。」;「鋏でチョキチョキ散髪した。」*2「鋏でチョキチョキした。」。この点を考えると、上・下位という概念を用いたほうが妥当かと考えます。しかし、中核からはずれた動詞とオノマトペが結びつき代用形として使用されている場合があるのかは今後実例を当たって調査する必要があると思います。

注:

*1 ここでの上・下関係の条件は臼杵論文の項構造の拡張に関する論点の一つ「オノマトペは様態指定されている」(例:上位語(なぐる)ー下位語(ぼこぼこ<hitting>)→ぼこぼこになぐる)とも共通点がある(秋田p.c.)。

*2 Tamori (1988)の動詞なし表現(鋏で木をチョキチョキ。→切る/*落とす)とも共通点がある(秋田p.c.)。

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e. 大関論文

「日本語オノマトペの有声/無声の対立における音象徴と他動性」

(1) MS氏:

「音象徴」という用語は曖昧なので使用には注意を要する。たとえば<有声/無声>の対立を音象徴として扱っているがこの対立はそういった対立を有する言語にしか適用できない。中国語や韓国語にはそのまま適用できない。音象徴はある程度通言語的なものだと思うが、この点から言うと<有声/無声>は純粋に音象徴とは言いにくいのではないか。音象徴にもいくつかのタイプがあると考えられる。

→ご指摘の通り、音象徴はある程度通言語的なものですが、様々な音や意味尺度において見られるものです。音象徴研究で扱われる意味尺度には、形状、快さ、明るさ、強さなど様々ありますが、今回扱った語頭子音の<有声/無声>の対立における音象徴というのは、「大きさ」という意味尺度の音象徴の一つです。日本語の場合ですと、この「大きさの音象徴」というのは、母音と語頭子音の<有声/無声>の対立において観察されることがこれまでに明らかになっています。よって、<有声/無声>の対立に「音象徴」という用語を使っても問題ないと考えています。

(2) KS氏:

母音も込みで(=モーラで)見るべきでは(→2e(1))。

→Newman (1933)などにより母音の大小象徴の階層が提案されており、有声性に加えてそれが関わってくる可能性は十分あると思います。今後は、母音も含めるとどのような違いが見られるかについても検証していきたいと思います。

→これについて、慶応で産出実験を用いた日英比較をしています(Saji et al. 2012)。(秋田)

(3) WLY氏:

有・無声の対立をなしていても、異なる意味を担うケースもあります(ex:「ばらばら/ぱらぱら」→本をめくる音として「ばらばら」の使用はだめ)。考察するときにどのように扱っていますか?

→多義的なオノマトペの扱いということでよろしいでしょうか。まず、オノマトペを選定する時点で辞典の意味用法がまったく重ならないペアに関しては省きました(「くんくん/ぐんぐん」等)。その後、辞典の意味用法が部分的あるいは全体的に意味が重なっていたペアの用例をコーパスで検索しました。今回は膨大な量のデータを扱っていることもあり、すべての用例に対してはっきりとどの意味用法だと内省で判断するのは難しかったため、多義性は配慮しませんでした。今後より詳細な分析をするために、そういった観点も生かしていきたいと思います。

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3. 参考文献

Akita, Kimi (秋田喜美). 2009. A Grammar of Sound-Symbolic Words in Japanese: Theoretical Approaches to Iconic and Lexical Properties of Mimetics. Ph.D. dissertation, Kobe University.

---. 2011. A constructionist analysis of emphatic mimetics in Japanese. Proceedings of the Thirty-Fifth Annual Meeting of the Kansai Linguistic Society 31, 240-251.

---. Forthc. Register-specific morphophonological constructions in Japanese. BLS 38.

---・臼杵岳. 2011. 「僕らが銀座をぶらぶらとしない理由:オノマトペ述語の意味特性と『と』の分布再考」Morphology & Lexicon Forum 2011, 大阪大学, 2011年9月25日.

Fillmore, Charles J. 2008. Border conflicts: FrameNet meets Construction Grammar. Proceedings of the XIII EURALEX International Congress.

Hamano, Shoko. 1998. The Sound-Symbolic System of Japanese. Stanford: CSLI Publications.

Jackendoff, Ray. 1997. The Architecture of the Language Faculty. Cambridge, MA: MIT Press.

Kageyama, Taro. 2007. Explorations in the conceptual semantics of mimetic verbs. In Bjarke Frellesvig, Masayoshi Shibatani, and John Smith, eds., Current Issues in the History and Structure of Japanese, 27-82. Tokyo: Kurosio Publishers.

窪薗晴夫. 2005. 「日本語音韻論に見られる非対称性」『音声研究』9, 1: 5-19.

三上京子. 2007. 『日本語オノマトペとその教育』早稲田大学博士論文.

那須昭夫. 2002. 『日本語オノマトペの語形成と韻律構造』筑波大学博士論文.

Newman, Stanley S. 1933. Further experiments in phonetic symbolism. The American Journal of Psychology 45, 1: 53-75.

Nishiyama, Kunio. 1999. Adjectives and the copulas in Japanese. Journal of East Asian Linguistics 8, 3: 183-222.

Ogura, Tamiko. 2006. How the use of ‘non-adult words’ varies as a function of context and children’s linguistic development. In Mineharu Nakayama, Masahiko Minami, Hiromi Morikawa, Kei Nakamura, and Hidetoshi Sirai, eds., Studies in Language Science (5): Papers from the Fifth Annual Conference of the Japanese Society for Language Science, 103-120. Tokyo: Kurosio Publishers.

Ohba, Masato, Noburo Saji, Mutsumi Imai, and Tomoko Matsui. 2012. Developmental adjustment of iconic language in care-takers’ input. Proceedings of CogSci 2012.

Pustejovsky, James. 1995. The Generative Lexicon. Cambridge, MA: MIT Press.

Saji, Noburo, Kimi Akita, Mutsumi Imai, Katerina Kantartzis, and Sotaro Kita. 2012. The internal structures of sound-symbolic systems: The universal and language-specific portions of sound symbolism. Proceedings of CogSci 2012.

鈴木彩香. 2012. 「日本語オノマトペ述語の形式について:スル・シテイル・ダの選択基準を中心に」『日本語文法』12, 2: 162-178.

多田浩章. 2010. 「擬態語動詞における<知覚・属性>交替の特異性について」 第8回福岡大学コロキアム, 福岡大学, 2010年9月13日.

Tamori, Ikuhiro. 1988. Japanese onomatopes and verbless expressions. Jimbun ronshu: Journal of Cultural Science 24, 2: 105-129. Kobe University of Commerce.

Usuki, Takeshi, and Kimi Akita. 2012. A qualia account of mimetic resultatives in Japanese. Poster presented at the 22nd Japanese/Korean Linguistics Conference, NINJAL, Japan.

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