NINO HIRAI / 平井 仁乃
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凪ぐな溢れて
[ Necklace ] Silicone, Mesh「ケミカルながら温度感のあるジュエリー」がコンセプト。シリコーンには制作するタイミングによって変化する感情がそのまま現れます。今回の作品は、制作することへの「興味や関心に対する気持ちが凪いで動けなくなる感覚が怖い。どんな形でもいいから溢れて欲しい。」という気持ちが現れたと思います。
昨年度、専門課程3年次の卒業制作でシリコーンを使用したブローチを制作しました。インスティチュートコースに進学後、昨年度に感じたシリコーンへの興味を追求すべく、素材研究やシリコーンでモノづくりをしたい理由について考えました。そこで一つの答えとして出てきたのが「ケミカルながら温度感のあるジュエリー」というコンセプトです。
柔らかく、生き物の様に姿を変えるシリコーン。表面には湿度が感じられ、触れていると体温が移る有機的な無機物です。金属のような硬さや正確性はなく、硬化前は粘着質で柔らかく成形も難しい特性。このコントロールの効き辛さは初め、大きな課題でした。しかし次第にこの特性こそが、作品の生命力の源になっていると感じるようになりました。
今年度の卒業制作では形を制御するために使用していた金属部分を排除し、シリコーンと成形に必要なメッシュのみを使用しました。ネックレスにすることで昨年度より体に触れる面積を広く、メッシュは柔らかいものを使うことで体に添うように工夫しました。
力加減や量や押し出し方は制作する日によって違います。その違いをシリコーンは受け止め、形を作り出してくれます。自分では無意識だったにもかかわらず、色や形や大きさに気持ちが表れていることに気づいたとき、シリコーンと自分が近づいたと感じます。
この1年、どれだけ自分の気持ちが沈んでいても、作品への熱意が希薄になり制作が乱雑になってしまっても、出来上がった作品には、これでいいと思える気の抜けた面白さや愛らしさがありました。シリコーンがそんな姿でいてくれたからこそ私は完全には温かさや優しさを諦めずに済んだのだと思います。
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