研究テーマ【2】

研究テーマ

次世代生産システムに向けたICTに基づく品質マネジメントシステムの提案

(平成27-29年度科学研究費助成事業)

キーワード

インダストリー4.0,統計的工程管理(SPC),タグチメソッド,損失関数,状態変化追跡方法,抜取検査

概要

生産現場でICT (Information and Communication Technology)を活用した取組みが急速に進められています.この背景には,次世代生産システムの思想を与える「インダストリー4.0」と呼ばれるプロジェクトがあります.特に,ネットワークでつながれた工場内の各種装置から大量の製造条件に関するログデータや製品の計測データがリアルタイムに抽出・収集され,これらを分析する取組みはその中心です.ここで重要となるのがデータの分析です.本研究では,従来における品質管理の方法を踏まえ,ICTが整備された製造環境に即したデータ分析に基づく品質マネジメントシステムを提案します.このとき,データ分析をコスト概念と結びつけ,ムダや損失をヒトが知覚可能な形へ可視化するための方法論について検討していきます.

研究背景

生産現場に大きなイノベーションの波が来ています.日本IBMでは,生産機器から得られる生産条件のログデータや製品の測定データをリアルタイムに収集・分析し,異常や故障につながる予兆を予測し,予防保全を支援するソリューションの提供を始めています[1].コンサルテーションを含めたパッケージ価格は4000万円にもおよび,その価値を窺い知ることができます.また,富士通は,オムロンの一工場で生産機器からのログデータをもとに,生産状況をリアルタイムに把握するシステムを構築しました.ここでは収集されたデータの単なる分析に留まらず,生産ラインの可視化を実現し,生産ラインに潜むムダを見つけ出す取組みを実践しています[2].生産現場でICT (Information and Communication Technology)を活用したこれらの取組みの背景には,次世代生産システムの思想を与える「インダストリー4.0」と呼ばれるプロジェクトがあります.

インダストリー4.0とは,ドイツにおける第4次産業革命を意味し,工場内の装置をネットワークでつなぎ,自律・分散して連携する新たな生産体制の確立を目指す,ドイツが産学官共同で推進するプロジェクトの名称です[3].特に,ドイツが2011年11月に発表した高度技術戦略「High-Tech Strategy 2020 Action Plan」で掲げた施策の1つとして上げられています.

インダストリー4.0の根底を支える技術として,インターネットを基幹とするICTは必須です.特に,工作機械や加工装置をインターネットと接続して他の機器やコンピュータと連動する仕組みを提供するIoT(Internet of Things)技術は重要です.IoT技術の実用例として,加工装置を手掛けるとある機械メーカーにおいて,これまでは現地に行かないと確認できなかった稼働状況データをインターネット経由で一元管理し,障害やエラーなどのトラブルに対処する取組みがあります[3].具体的には,センサーを通じて収集された製造条件や製造装置の稼働状況などのデータがネットワークを通じてリアルタイムに送信され,システムによりデータを一元管理し,サポート対応の担当者がアクセスして分析します.データに対する分析を通じて,異常検知,障害対応や予防保全などのサービスの提供に取り組んでいます(図1参照).ここで重要となるのがデータの分析です.

図1 IoT技術を応用したリアルタイムな保守作業

伝統的な品質管理の方法では,品質規格値外の製品を不適合品とし,不適合品の発生割合を品質の基本的概念・指標として,これを管理・保証することが主たる眼目と考えられてきました.したがって,多くの品質管理手法においてもこの概念を踏襲する形で方法論が形成されてきた経緯があります.しかしながら,これらの解析方法では収集されたデータ・情報を十分に活用するものとは言い難いと言えます.同じ適合品であっても,規格値付近と目標値付近の製品では,出荷後に消費者に与えるであろう影響には雲泥の差を生じる恐れがあります.データサイエンスが隆盛する現在において,ICTが整備された製造環境に即したデータ分析手法の確立は重要な一分野として考えられています.

研究目的

本研究では,既述のデータ収集環境下を想定し,リアルタイムなデータ分析を活用する品質管理手法の開発を目指します.特に,単なる計量データの分析に留まらず.これらをコスト概念と結びつけ,工程異常の見過ごしがどれだけのムダを発生するのか,あるいはどれだけの損失を生じるのか,といった点を可視化する方法について探究します.そもそも品質管理自体は直接的な正の財を生みません.だからこそ,それを疎かにすることの損失を示すことにより厳格な品質管理への道標を与えたいと考えています.

また,データやその分析結果はヒトが理解できてはじめて価値を有します.本研究では,データをヒトの目で知覚可能な形へと可視化するプロセスにも着目し,従来より叫ばれる「見える化」「可視化」から,分析を通じてデータの持つ特性をグラフィカルにわかりやすく表現する「情報可視化」「見せる化」の技術についても取り入れていくことを考えます.

参考文献