ボルナウイルスは19世紀末から最近まで、ほ乳動物に感染するボルナ病ウイルス(BoDV)-1および-2のみが知られていたが、2008年に前胃拡張症を示すオウムでトリボルナウイルスが発見されたことを皮切りに、鳥類に感染するトリボルナウイルスが少なくとも15 種類同定されている。
当研究室ではジュウシマツからMuBV-1を新たなトリボルナウイルスとして分離し、病原性とほ乳類細胞での感染性に関してトリボルナウイルスの中では非常に特異なウイルスであることを明らかにした。 MuBV-1は病原性発現機序の解明の鍵となるウイルスである。そこで、MuBV-1がジュウシマツ以外の鳥種で病原性を示すか否か、および、他のトリボルナウイルスがジュウシマツで病原性を示すか否かを検討する。さらに、様々な鳥種にて、MuBV-1と他のトリボルナウイルスの動態と病態を比較することで、病原性発現機序に関与する要因にウイルスと宿主の両面から迫る。
トリボルナウイルスは鳥類に感染すると致死性の病原性を示すことから、先ずは日本の鳥類におけるトリボルナウイルスの感染状況を調べた。サンプルとして糞便を用いてRT-PCRによりトリボルナウイルスの遺伝子断片を増幅したのちに、塩基配列を決定することで遺伝子型を決定した。その結果、日本で飼養される愛玩鳥では4.3%、日本に飛来する野鳥では0.9%がトリボルナウイルスに感染していた。トリボルナウイルスの主要な遺伝子型はPaBV-2と-4であり、世界的な傾向と一致した。
現在もトリボルナウイルス感染症は愛玩鳥産業の中で大きな問題として認識され続けており、今後も疫学調査を続けることで、保有率の推移を見守り、発生を減らすことができるよう繁殖場との協働を行いたい。
フィリピンは世界的に有名な愛玩鳥の生産場があり、日本を含む世界各国へとフィリピン産の愛玩鳥が輸出されている。また、フィリピンではフィリピンイーグル (Pithecophaga jefferyi) など絶滅が危惧される鳥種が存在する。そこで、鳥類の感染症であり、トリで致死的な感染症を惹きおこすトリボルナウイルスや、人にも感染するクラミジアなど、鳥類への影響や公衆衛生上の問題となりうる病原体の疫学調査を行う。また、トリボルナウイルスやクラミジアでは近年新種の発見が相次いでいる。フィリピンにはフィリピン固有の鳥種が存在するためさらに新種が見つかる可能性が高く、疫学調査の過程で新種の発見を目指す。
近年、緑色の大きな外来種の鳥であるワカケホンセイインコ(Psittacula krameri manillennsis)が野生化して公園や住宅地に群生し、糞や鳴き声などで環境被害を引き起こしている。特に糞にはオウム病クラミジアなど人に感染する病原体が含まれている場合があり、免疫力が低下した人には大きな脅威となる。東京近郊でこの鳥の大群のねぐらか確認されており、今も拡大していると予想される。
そこで、野生化した飼い鳥から排泄された病原体の調査及び死亡個体の死亡要因の特定を行う。これにより、野生化した飼い鳥に接した際の防疫方法を示すことができ、市民の健康と安全を守とともに、野鳥をはじめとする流域の生物資源の保全に貢献する。
性の決定は、種の保存などの管理や、病気の予測などに重要であり、簡便に行える方法を確立する必要がある。
鳥類は生殖器官を含めた排泄のための穴が一つであり(総排泄腔)、見た目では雌雄を判断することができない。鳥類の性を決定するZ及びW染色体を分子生物学的手法で検出することで雌雄を判断する。ZWが雌、ZZが雄である。これまで、Z及びW染色体に存在するディレーションの入った異なる長さのCHD遺伝子をPCR方にて増幅し、ZとWを区別できるプライマーが報告されている。
そこで、胸の羽毛を用い核酸の抽出なしで直接増幅でき、かつ泳動の手間やクロスコンタミの危険性の少ないリアルタイムPCRの系を確立する。上述のプライマーを用いてリアルタイムPCRの系に改良しようとしたが、異なる増幅長の遺伝子断片が奇跡的にも同一の融解曲線のピークを示したため、プライマーの設計を検討中である。