東京大学大学院工学系研究科

ポストコロナ社会の未来構想

教育・研究の取り組み

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学生主導の研究プロジェクトの取り組み

東京大学の学生の中には、勉学の他に様々な活動にも参加している人がいます。今回登場するのは、性別、国籍、専攻が異なる学生から成る有志のグループで、男女共同参画に関わるプロジェクト等で、すでにいくつか実績をあげています。2020年6月27日に開催された「ポストコロナ社会の未来構想シンポジウム」の学生セッションにて、本グループは、様々な悩みをかかえる人をオンラインで支援する糸口をつくるためのアイディアを提示し、現在は具体的な仕組み構築のために着々と準備を進めています。以下は、このグループの学生による進捗状況の報告と活動への思いです。

皆さん初めまして。私たちは、性別、国籍、専攻が異なる学生から成る有志のグループ、「Towards Gender Equality at UTokyo(https://ja.ge-at-utokyo.org/)」です。

ポストコロナ社会の未来構想シンポジウムで、「『研究生活』や『研究と私生活の両立』におけるお悩み解決サポートのためのオンラインツール構築」を提案し、学術戦略室から支援を頂けることになりました。この記事では、私たちが提案したツールの概要と、提案に至った経緯についてご紹介します。

【1】提案したツールの概要

私たちが提案したのは、東大の構成員がインターネットを通じてアクセスできる、UTASやITC-LMSなどといったオンラインシステムの「お悩み解決特化版」です。

このオンラインツールには、東大内の研究者から集めた、様々な悩みとその解決に利用した制度などを紹介する体験談が集積されます。構成員は、自由にこれらの体験談を閲覧し参考に出来ます。また、多くの人が体験談を目にし、多様な個人の在り方を知ることが期待されます。

更に、ツールには、悩んでいる人が学内のメンターに個別相談できるシステムも組み込まれます。自分と同じような悩みを経験した人に相談しやすくなり、既存の制度ではカバーしきれない個別の事情にアプローチできることが期待されます。

以上が、提案した時点で私たちが想定していたツールの概要です。現在は、具体的に研究者の方々にどのような悩みがあり、どのような機能がツールに必要とされているのかをアンケート調査し、グループ内で集計・分析しているところです。


【2】提案に至った経緯

「コロナ禍で急速に進んだ大学内のオンライン化にオンラインツールをこじつけて、大学内の男女共同参画という話題を取り上げるきっかけにしてほしい。」これが提案動機です。提案が採択されるかは二の次でした。

私たちは「こうあるべき」という強い主義主張は持っていません。集団を「男女」という二つだけの性に分けて語ること自体、時代遅れでしょう。あえて「男女」という言葉を使って団体名にある「Gender」を訳すのは、曖昧さを避けるためと、グループ始動のきっかけにあります。

始まりは、「何故、東大の研究者の女性比率は、大学院生から教授へとキャリアを重ねるほど下がっていくのか。」という疑問でした図1。メンバーは全員が博士課程在学中か、進学を考えている学生です。自分がまさ置かれている環境への興味から派生した疑問で、「女性の比率を上げるべきか」という議論以前の話です。

 図1 キャリアを重ねるごとに減る女性比率

        (出典: UTokyo Databook, 2019

この疑問へのヒントを得るべく、昨年度は東大内の研究者へのインタビューを行いました。分かったことは、主に以下の三点です。

1. 東大に女性研究者をサポートする制度や取り組みが既に多く存在すること。

2. しかしそれらの制度があまり知られていないこと。

3. 例え知られていたとしても、利用条件などがハードルとなっているケースが存在すること。

今年度は、昨年度見えてきた課題に、可能な範囲でアプローチすることが目標でした。その一つが、オンラインツールです。悩みの当事者が、既存の制度をフル活用し、当事者以外も多様な個の在り方を学べることを目指しました。

なぜ、当事者以外も対象なのでしょうか。理由は、無意識の偏見(unconscious bias)によって、善意が必ずしも皆にとって心地よい環境に繋がらない可能性があるからです。

例えば、ある女性研究者が会議の場にいた時、「彼女の家のこともあるから、会議を夕方6時までには終わらせるようにしよう」と考えることは、妥当でしょうか。

まず「家のこと」は、女性にパートナーがいるなら、その方に頼める可能性はないのでしょうか。参加者が男性だけなら、全員が夜遅くの会議を歓迎したのでしょうか。男性の誰かも、早く帰らなければいけなかったのではないでしょうか。そもそも「家のこと」が無くても、全員早く家に帰りたかったのではないでしょうか。

勿論、この問いに正解はなく、会議の参加者の個別の事情によります。問題は、「男女」という大きな括りで考えようとすると、「“一般的な”女性」と「“一般的な”男性」という偏見の産物が登場することです。そこに、私たちの知識外の個別の事情は考慮されません。

この無意識の偏見の向かう先は女性だけではなく、前述のように男性にも、誰にでもなり得ます。何か制度を作る際に、個別の事情ではなく、ある程度「“一般的な”人」を想定しなければ、収拾がつかないでしょう。提案したツールは、この理想と現実のギャップを補完するためのものです。

【3】これからの活動

提案後に様々な意見を頂き、あらゆる悩みを持つ人に向けたツールが求められていることが分かりました。また、アンケート調査では、関係教職員の皆さまのご協力のもと、300名近くに回答いただけました。

調査では、多くの貴重な、時に厳しい意見も頂きました。関心の高さを感じるとともに、「男女共同参画」というトピックの繊細さを改めて感じます。今後は機能を絞り込み、設計へ移る計画です。

経過をこちらでまたご紹介できたらと考えています。

グループでは、博士課程の女子学生を取り上げた短編ムービーも作成しています。目的は、まだ進路を決めていない女子学生に、研究者の存在を身近に感じてもらうことです。ツールと連動させた公開も検討しています。更に、グループとしての発展性を考え、最近「Toward Diversity」というサークルとして登録しました。

お悩み解決サポートと謳ってはいますが、今回提案したツールが全ての悩みを解決に導けるわけではないと思います。ただ、一人でも多くの人が、互いの多様な在り方を知り、より心地よい環境とはどのようなものかを考えるきっかけになれたらと期待しています。