東京大学大学院工学系研究科

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「コロナ禍の大学教育・研究活動 ~試行錯誤の記録を残す~ 」

第7回「これまでにない作品を創造した学生達(1)」

連載第1~4回に取り上げた「オンラインものづくり演習」は、Aセメ(秋学期)に入り、さらに”進化・深化”しましたが、本記事では、その成果が垣間見える学生達の力作をご紹介します。

「創造設計演習2020」の最終日となった2020年12月25日、学生たちが自由課題として製作した作品の中で、各部門の最優秀賞・優秀賞に選ばれた作品がオンライン上で紹介されました。演習の最終日に評価会を行うのは毎年のことですが、全員がオンラインで参加し、部門によっては動画製作までを課題に含む試みは初めてだったそうです。今回はメカトロ(mechatronicsの略語)部門で受賞した作品を製作した学生達に、製作秘話を語ってもらいました。【聞き手・編集 西村 多寿子】

メカトロ演習の自由課題では4人ずつのチームに別れ、「おもしろい」を要求機能としたメカトロニクス作品を企画、設計、製作し、動画で発表します。「おもしろい」という主観的で曖昧な要求に対するアイデア発想と、それを工学的に具現化する過程を通して、新しいものを作り出す創造力を養う課題です。

【最優秀設計賞】作品名 Balooooney (8班)

4人のプレイヤが、ウェブページ上に作った街の中で散らばった風船を集めていくリモートオンラインゲームです。画面上で風船を集めると手元にある本物の風船が膨らむようになっており、手元の風船を割らずにゲーム画面上の風船10個を集めて制限時間内のゴールを目指します。時代を考えて、リモートで同じ映像を見ながら遊べるゲームを考えました。発表動画は、各班員が個別にプレイしてクリアしたときの動画を併せて作成しました。

https://youtu.be/TSRYN8L3LNQ

大平:オンラインゲームではどうしてもプレイヤに現実的な緊張感をもたせにくいので、そこをなんとかしたいなと皆で考え、風船を使って再現しようということになりました。実際に制作してみるとなかなか思い通りにいかない部分も多々あって、先生方にアドバイスを受け、試行錯誤しながら作っていきました。やはり「任天堂はすごい!」と実感した経験でした。


角川:僕が担当するプログラムコードの部分では、センサやアクチュエータは授業で扱ったのですが、課題を作る上で一気に同時に使うと、どこかの値が干渉したりして、うまく動かて実際に形にするにはもっと深い理解が求められることがわかり、非常に勉強になりました。オンラインで情報を共有しながらの作業は個人的には大変でしたが、オンラインならではのアイデアが出たという部分に関しては良かったと思います。


神谷:私はソフトの担当で、Blender(ソフトウェア名)での3DCGモデル制作に力を入れました。私が自由課題でメカトロを選択したのは、必要なものではなく、面白いと思えるものを作りたいという思いがあったからなので、動画にすることでより映える、楽しめる作品を作ろうと思って作業しました。

(実はナレーションも神谷さん担当で、あるYou Tuberを参考に、テンポやトーンを研究して作り込んだそうです。本人は恥ずかしくてあまり人には話していないそうですが、素晴らしいナレーションだと評判です)


鬼頭 肝心の風船を膨らませるのも意外と実演しようとするとうまくいかなかくて焦ったりして、ある程度妥協したところもありましたが、とにかく作品の特色となる機能を最低限実現できるように力を尽くしました。最終的にはなんとか形になって良かったです。このゲームは4人がリモートで遊ぶ形なのですけれども、オンラインでもリモートでも、工夫すればリアルなスリル感のある遊びができるということ が伝われば嬉しいです。

【最優秀設計賞】作品名:SlideQuest ONLINE (14班)

スライドクエストという既存のボードゲームをメカトロにしました。ステージを前後左右に傾けて、穴に落ちないように協力しながら、球をゴールまで運ぶボードゲームです。アプリ「Blynk」からスマホ1台で、オンラインで遊ぶことができます。発表動画は実際のテレビ番組を模し、制作風景や遊び方、作品への思いをまとめたドキュメンタリ調のものを制作しました。

https://youtu.be/6a7hXyDM4SE

本多:制作にあたっては、スケジュール管理と役割分担をしっかりしようと努めました。余裕をもって動画編集に取り組めるように、発表の2週間前には本体を完成させました。班員それぞれの得意分野が活かせ、かつ負担が一部の人に集中しないように役割分担しました。

古田:スケジュールが決まっていたので、危機意識をもてたのがよかったです。また分担が明確だったので、相談が必要な部分は後で対面したときに話すことにして、それまで各自の作業に集中できました。ただ、私はボード部分のデザイン担当だったので、機械系の授業のはずなんですけど、私がやったのはお絵描きだけで、他の人たちに全部やってもらった感じです。

本多:ボードの4種類の絵をすべて古田さんが描いてくれましたが、ご覧のようにとてもクオリティが高いです。24日の発表会のときに、中尾先生から東京に入るほうがいいのではないかと勧められたくらいです(笑)

堀江 僕が担当する動画づくりの部分は、かなり時間を割り当ててもらったので、やれる限り最大限こだわって製作しました。今回はドキュメンタリ調の編集をしたのですが、実際のテレビ番組にどれだけ近づけられるかという点と、実機製作やその説明など余すところなくすべてを盛り込むことができるように、シーンの順番などを考えました。きちんとしたスケジュールを立てて分業がある程度なされるとよいものを作ることができる。ということを実感しています。

左から 堀江 古田 本多 福岡

*撮影時のみ、マスクを外してもらいました

<4人の力を合わせて>


福岡:これまで1人で行う演習をやってきて、創造性の限界を感じていたので、今回は、4人組でできる演習を選択しました。「皆で一つのことに取り組み、一緒に笑う」ということを経験したいな、と思って。そのために、個人としては、納期に間に合わせることと、最小限の部分をまず確実に動かすことに力を尽くしました。

本多:実は、試作の段階で、伊藤先生から「モータを4つも動かして、電力が足りるんですか?」と聞かれて、「多分大丈夫だと思います」と言ってたんですが、実際に一気に4つ動かしたら、案の定、足りないということになって、どうしようと焦りました。そうしたら福岡君がその日の夜に、秋葉原の秋月電子に買いに行って、その日の夜に追加で電源供給するキットを全部組み立てて、その日のうちに解決してくれた。すぐ行動してすぐ解決という彼のポテンシャルの高さを知りました。4人で作品を完成させたときの感動は、何事にも代えがたいものでした。

【優秀設計賞】 作品名:ピタゴラ装置用「どこでもドア」(7班)

入口のドアから入ったビー玉が、同時に出口から出てくる、あたかも「同じモノが瞬間移動したように見えるドア」です。入口の前に設置したセンサがビー玉の接近と色を検知し、その情報をsocket通信で出口に伝え、サーボモータを回転させてタイミング良くドアの開閉と同色のビー玉の射出を行うという仕組みです。発表動画ではこれを用いたピタゴラ装置を構築し、番組パロディの編集で面白おかしく披露しました。

浅井:最初に皆で話し合って、どこでもドアのようなものを作りたいということが決まりました。次に、どういう機能を備えていけばいいか、という段階になると、アイデアはいろいろ出て、たとえば電磁石を使って、ボールが入る速度と同じ速度で出口から出る(早く入れれば早く出てくるし、ゆっくり入れればゆっくり出てくる)ようにしようというアイデアもあったのですが、最終的には技術的に簡単ということを重視して、アイデアを選んでいきました。実際に作ってみると、結構時間がぎりぎりだったので、技術的に簡単なほうを採用していったのは間違ってなかったと思います。

大泉:自分は通信部分の担当だったので、まず作品を成立させるために、リアルタイムでビー玉の色情報を入口装置と出口装置間でやりとりするためのプログラムの構築を早い段階で終わらせるよう努めました。Arduinoという基盤のマイコンと、パソコンをつなぐシリアル通信は、授業で扱っていましたが、それを2台のArduino間で結ぶ通信の方式は未経験だったので自分で調べなければならず、調査にものすごく時間がかかりました。来年以降はネットワークの規定課題を作ってあげて欲しいです。


大河原:僕はメカの設計を担当しました。動画に映るからどこでもドアの外装はこうしようとか、映らないから中身の機構は見栄え度外視でより簡素にしようなど、動画で発表することを意識して設計を進めました。設計は、春学期、秋学期と勉強してきたことを生かせたので、それほど手間はかかりませんでしたが、設計したものをいざ作ってみるとなると、なかなか難しい。基本的にプラ段ボールを使って、ドアの枠は割りばし、ドアの軸は竹串で作りましたが、身の回りの材料を使ってボンドで留めると意外ともろくて、すぐとれてしまう。実装の大変さを感じました。

赤松:僕は入り口側のドアのハード面を担当しました。どこでもドアということで、ワープしている感覚の再現をすることを第一に考えました。結果的には、要求機能を実現するために最小限の要素しか詰め込むことができなかったのですが、難しい機構や複雑なものを作らなくても面白いものは作れるし、見せ方次第でその面白さはさらに変化しうるのだと感じています。 TAさんが皆さん「面白いなー」と言ってくださって、とても嬉しかったです。

【優秀設計賞】 作品名:走れ!トナカイ2.0 (11班)

4人のプレイヤが協力して一台の四足歩行ロボットを操作し、制限時間内にゴールを目指す作品です。ロボットの4本の足はそれぞれ人の足と連動して動くようになっていて、プレイヤは一人につきロボットの足1本を操作します。ロボットを四足歩行させるためにはそれぞれの足が適切なタイミングで正しく動く必要があり、4の協力とコミュニケーションが不可欠になります。発表動画では、実際にゴールを目指す様子を撮影しました。残念ながら惜しいところで、制限時間内ゴールはかないませんでしたが、ロボットを歩かせることの難しさ、リアルタイムでコミュニケーションを行うことの難しさや、回を重ねることで次第に上達する実感という作品の「おもしろさ」が伝わればと思います。

寺島:メカトロの作品らしく派手に動くものを作ろうということと、年末年始のテレビ番組を意識した映像の構成にすることで、見て面白い動画にすることに拘りました。それで、僕らの身体を動かして遠隔で操縦するトナカイにしようとなったのですが、最初は指を動かすつもりでした。でも指でなくて、足を動かしたら面白いんじゃないかという案が出てきて、最終的にこの形になりました。

福井先生にはかなり早い段階で、通信に関しては単純なものにするように指導があり、当時はよくわからなかったのですが、後から考えれば制作時間的にとても的確なアドバイスでした。オンラインでの共同作業も大変でしたが良い経験になったと思います

田中:僕は、自分たちが足に装着するカラートラッキングのプログラミングの部分と、最後に本体の外装部分を担当しました。苦労したのは、カラートラッキングのプログラミングです。洋服や皮膚の色に反応してカラートラッキングにノイズが入ってしまうし、足の動きもなめらかにならず、アドバイスを受けてローパスフィルタや逆運動学について勉強しました。でも毎回、どんどんアップデートしていけたので、知識や経験はとても大事だなと思いました。 それにしても、 四足歩行ってこんなに複雑なんだと思いました。

:僕は主に動画回りの担当でしたので、どのように見てもらいたいか、どう感じて欲しいかなど動画の中での視聴者の感情の動きを設計することを意識しました。ストーリ性があるという点がこの作品の特徴だと思ったので、ストーリ性を最初から最後まで動画の中で失わせないようにしようと思って作りましたが、説明パートがだれないようにしたり、飽きないようにしてもらう点が難しかったと思います。

寺尾:作品を作る上で直面する問題はいくつも出てくるので、一つのやり方に固執せず、すぐに別のやり方に切り替える事が成功への近道の一つだと感じました。個人での制作とチームでの制作は、それぞれメリットもデメリットもありますが、上手いことハマった時のチームのパワーは凄いと思いました。

(座談会では先生方からどのようにしたら、ゴールまで歩かせることができたのかの改善案がさまざまに出され、盛り上がりました)

ー最後に、教員の伊藤先生と柳澤先生にコメントをいただきました。


伊藤 学生の皆さんが頑張って、その頑張り方がさまざまで、横で見ていて面白かったなとしみじみ思いました。最初に設計を固めて、最初のプランとできあがったものの差が一番少ないのが14班で、最初に言ったものと一番違うものができてるのが8班で、どちらにしてもすごくいいものができあがっている。7班、11班も、それぞれに特色がありました。いろいろあって面白かったなというのが今回のメカトロでした。


柳澤:例年メカトロ演習は楽しみにしていますが、全体的に作品のレベルが上がり、バリエーションが豊かになってきていると感じます。今回も、これまでにない作品が生み出されたと思います。それは皆さんの日常的な努力ももちろんありますが、コロナ禍のさまざまな制約の中で皆さんが考え、創意工夫を凝らした結果が表れているのだろうと思っています。


たとえば今回、ソフトウエア通信系など、メカトロニクスの演習の中では扱わなかった技術を使った作品が目立ちました。「やったことがあるのか」と聞いてみると「初めてやりました」という学生が多くて、初めてであれだけの作品が作れる、自主的に学習してそれを応用する力を持っている。となると、教員の役割って何かなと考えさせられました。教えるということはもちろんですが、それ以上に彼らのポテンシャルを引き出して、教員の想定以上のことを発揮させる環境を用意することが大事かもしれません。今回はコロナ禍で、開発から試行錯誤の中で最終的にこのような形になりましたが今後の教育に組み込んでいきたい思わせてくれる作品が多かったです

伊藤 太久磨 先生

柳澤 秀吉 先生

<編集後記>

今回のインタビューは、各班の学生が「予定時間になったら指定のZoom部屋に入る」ように予め段取りして実施しました。学生が入室すると、指導教員の伊藤先生、柳澤先生のほかに、下の写真にある西村、長藤先生、中尾先生が出迎える形です。長藤先生は、全体の取りまとめ役なので、学生達も予期していたでしょうが、中尾先生は想定外(!?)。中尾先生と西村は、この日が初対面でしたが、長藤先生が入室時の学生に冗談っぽく「中尾先生がいるけど、安心していいから」と声をかけていたのが印象的でした。きっと(おそらく、たぶん?)やさしい先生だと思いますが、お目付け役のように存在感がありました。

中尾先生は、学生たちの作品(写真)の中に登場しています。どこにいるか探してみてください.......答えは写真のあとに書きました。

答え:11班「走れ!トナカイ2.0」のトナカイとそりの間にサンタの服を着た中尾先生がいます。そりを覆うカバー上の小さな白い箱の表面に書かれている文字は「単位」です。中尾先生は、学生達に「単位」を運んでくれるサンタクロースだったんですね!

東大機械メカトロ演習2020