東京大学大学院工学系研究科
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「コロナ禍の大学教育・研究活動 ~試行錯誤の記録を残す~ 」
機械工学総合演習第二 スターリングエンジンの設計製作演習
第1回は、『機械工学総合演習第二』に関わった方々によるZoom座談会の模様をお届けしましたが、今回は、4月上旬に開催された同演習のガイダンスで総合司会をした長藤圭介先生と、演習全体の取りまとめをした千足昇平先生へのインタビューです。3時間ほどのガイダンスの後半で、学生137人と教職員ら 40人余が一斉にZoomとGoogle Meetを併用し、さらにSlackやLINEも使う“マルチメディア利用実験”を敢行した様子を語ってくださいました。
なお、これらのツールを用いたオンライン演習の全体像を報告した動画もあります。ものづくり関係以外の演習においても参考になる内容となっておりますので、合わせてご覧ください。
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長藤: 4月3日金曜日が授業開始日で、総合演習第二のガイダンスは1週間後の4月10日金曜日でした。4月6日月曜日から、東大史上初のオンライン講義が始まり、それらを横目で見ながら、演習をどう進めていけばよいかを考えました。
本演習の対象のB3の学生は、本年度は137人です。午前と午後に2限ずつとるとしたら週20コマになりますが、演習は、月・火・木・金の3限4限で週8コマ相当、つまり40パーセントの時間をこの演習に費やすことになります。この頃は先行きが不透明で、オンラインで授業を始めたけれど、もしかしたら徐々に一部は対面でできるかもしれないという状況でした。そこで4月10日の時点では、最後まで全てオンラインでやりますとは言わずに、約1カ月後の5月18日の時点で、6月1日以降に対面OKかオンライン継続なのかを判断します、と学生に伝えました。
このスターリングエンジン(SE)演習は、原則全回出席です。唯一の必修で欠席するとフォローアップが難しいので、学生みんなが足並みを揃えることが大事です。それは対面のときでも同じです。総合演習全体の大きな流れとしては、CAD(コンピュータ支援設計)演習のあとに、SE設計、SE製作、SE以外の実験とコンセプトスケッチと、それからCAE(Computer-Aided Engineering)、計算機演習も含まれます。
例年どおりの日程で、後半は対面ができる前提でスケジュールを組むと、4月中はCAD演習です。ここでスターリングエンジンの図面を描けるように、ツールの使い方を教えた後、連休明けから、柳澤先生と及川さん(技術職員)が中心となり、機械系史上初めて、スターリングエンジン設計をオンラインでやることになりました。
<TAを増員>
この総合演習については、TA(ティーチングアシスタント)の学生も毎年かなり多くお願いしています。20数人という数は例年どおりですが、今回は早めにCAD演習から入ってもらうことにして、TAの枠をトータルで2倍弱に増やしました。TAにとっては、オンラインでどうサポートできるかの練習になります。対面のCAD演習であれば、みんな同じ部屋にいて「分からなかった人、手上げて」とできるのですが、オンラインではそうはいきません。どれだけ大変かが、最初は読めなかったので、とりあえずかき集めて、枠とお金を確保したという感じです。
設計はオンラインで進めるとして、製作をおこなう工房の部屋は、137人を4で割ったぐらいの人数しかキャパがありません。密になることが避けられないので、対面が難しいことはわかっていました。でも最初から全部オンラインでやりますと言ってしまうと、スターリングエンジンの設計はお絵描きにすぎない、と学生が理解してしまう可能性がありました。だからガイダンスの時点では、対面の可能性を残して、ただしオンラインになるとしたら、ここは違う教材を提供します、と説明しました。結果的に、木崎先生が考えてくださった教材(工程設計)などを提供したのですが、このときはまったくの白紙でした。どういうものが提供できるか分からない状態で、ガイダンスでは堂々と「こういうことをやります」と言いきりました(笑)
現在(8月上旬)のところ、製作を希望する学生には、夏休みとAセメスターで、実際にスターリングエンジンをつくってもらう計画を立てていますが、ガイダンスの時点でも、「卒業までになんらかの形で実物を製作してもらうつもりなので、本気で設計してくださいね」ということをメッセージとして伝えました。
<ZoomとGoogle Meetの併用、さらにSlack、LINEも>
ガイダンスでは、コミュニケーションツールについても説明しました。UTASやITC-LMSは、教職員でもどのように使うか熟知している人はそれほど多くないだろうし、3年生も当然分からないということで、今のところ、こういう使い方が想定できますと話しました。実際にどのように使われるかは、みんなで使いながら考えようというスタンスでした。
この日、学生137人と教職員・TAを合わせてZoomとMeetの併用の練習をしました。Zoomの部屋は大教室として、常に開けた状態にします。ここは一番発言力が強く、ここでしゃべるとみんなが聞かなければいけない状況になるので、全員集合とか、ちょっと注目みたいなことをする場に設定します。
Meetはグループ分けをして、その中でディスカッションをしてもらう場として使います。Zoomの機能であるブレイクアウトセッションを試してみましたが、周りが見えなくなって、やり取りができなくなるところに問題がありました。137人を4人ずつに分けるので、Meetのグループを34個立ち上げる必要がありました。
それからSlackも使いました。これはグループチャットのツールですが、LINEよりも長い文字情報を扱えますし、過去ログを読めば、後から入った人でも、それまでの経緯を追うことができます。3年生は、もともと彼らのSlackのワークスペースがあったので、学生のあいだでの利用状況を聞いてもらいました。加入は強制できないので難しいところではありますが、これでみんなが助け合う仕組みをつくりました。
それから、4、5人のグループ内でのコミュニケーションにはLINEを使って、個人的にやり取りしてもらうことにしました。「自分のPCが落ちました」とか、「ちょっとトイレに行ってくる」みたいなことをSlackで言う人いないので、本当にプライベートなコミュニケーションツールにはLINEを使いました。
<オンラインで演習を行うには何が必要か>
先ほども触れましたが(⇒連載第1回)、柳澤先生が、まずZoomとMeetの併用を提案されました。先生はご自身の講義と、CAD演習が4月にあるので、3月末ぐらいから先行して自主的にいろんなツールを試しておられ、様々なノウハウを持っておられました。それで柳澤先生が柱になってくださり、みんなであれこれ検討しました。
まず教員の打ち合わせでZoomとMeetの併用を試したあと、ガイダンスのときに、学生も含めてみんなでやってみようとなりました。でもMeetが実際に34個も同時に立ち上げられるかは、やってみるまで分からなかったので不安はありました。
学生34班分のMeet部屋34個は千足先生がつくってくださいました。これだけでもすごい数ですが、そのほかに教員のMeet部屋も必要だという話になりました。これは、けっこう重要で、複数の教員が一緒に授業を担当するときは、教員のMeet部屋はマストだと思います。
教室であれば、ちょっと相談があるときは手を振るなど合図して集まることができますが、オンラインでは不可能です。教員同士がZoomで相談を始めたら、全部皆に聞こえてしまうので、それは避けたいところです。そういう意味でも、Zoomと何かの併用は絶対必要だったというか、Zoomだけでの演習の実施はまず無理ということです。
TA間の連絡には、Slackを使っていたようです。学生の多くは、配付されたパソコンを使いつつ、スマホでSlackやLINEでのコミュニケーションをおこなっていたのではないかと思いますが、実際にどうしていたか聞いてみたいところです。
<演習を通して人と繋がる>
ガイダンスの最後には、みんなで機械系を盛り上げていきましょう、と言いました。オンラインの演習は、学生の皆さんだけでなく、教職員、TAも当然初めてです。リスクや事故を含め、いろいろ想定しているけれど、想定外のことも起こりうる。そして、1人でも作業が途中で止まってしまうと、その次の演習ができません。対面のときはそれなりに個別対応できても、オンラインだとやりづらい。でも、パソコン環境も含めて、本当にみんながみんなをサポートするつもりでいきます、といったことを言いました。
研究室配属前の学部生を対象とした「アドバイザー制度」というのがあります。アドバイザー教員は、それぞれ3~4人に面談をするなど、専門分野紹介の窓口となり相談にのる仕組みで、今の3年生に対しては、3回程度オフィシャルに実施しました。私はそれ以外にSlackでもやり取りしていましたが、学生の話を聞いていると、彼らには彼らなりの視点があって、他大学とか、他学部の友人がどんな環境で勉強しているかといった情報も入ってくる中で、いろいろ考えているようです。
一方通行の講義だけだと、同級生と話す機会がない。雑談するとか、プライベートな話をするというのは、その次のステップですが、そもそも自分の声を発する機会がないという話も聞いている。それに対してこの機械系は、演習を通して会話する機会があって、そこでチャットとか演習ではない話や相談もできる場があるというのは、すごく安心感があったと言っていました。
もちろん3年生全員がそう感じていたかどうかは分からないし、逆に辛かった、大変だったという学生もいると思います。1人でこもるのが好きな学生にとっては、やらされた感があったと思いますが、それは対面でも同じでしょう。この演習は、なるべく気持ちを揃えるためにお祭り感を出すのですが、強制的に4人で何かやれと言われているように感じたかもしれない… どういう感想を持っているか、もっと多くの学生に聞いてみたいところです。
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全体の取りまとめ役・千足昇平先生のコメント
千足: ガイダンスの日までに34班のMeet部屋をつくり、当日は、教員またはTAが各班のMeetに入り、確認するという一大イベントをやったのですが、指導者側のルールをきちんと決めておかないとマズイだろうなと、実施前から思っていました。
実際、ある班のMeet部屋には誰も行ってないとか、行ったら教員が3人もいる、といったことがありました。自分にとっては想定内のことでしたが、実際に失敗して、教える側の人間みんなが自覚を持つほうが良いというか、なあなあでやっているとミスするから気合い入れてやりましょうね、というメッセージを教職員たちに送ることを実は狙っていました。
実際、画面上でMeetとZoomをやりくりして、Meet部屋を出たり入ったりして学生と議論し、Slackにコメントを書いてとなると、なかなか難しい。ガイダンス当日に小さな穴が散見されたことで、かなり仕込みをしておかないと無理だという意識が共有できたように思います。Slackからのメッセージがスプレッドシートに出てくるシステム(⇒動画3)は、命綱だったと思います。
演習を受けた3年生がどう感じたか、フィードバックはもらえていませんが、われわれ教職員やTAを人間として見てくれたんじゃないかなと思います。あまりにもうまくいくと、人間じゃない何かが向こうにいる感じになりますよね。慌てふためいているところが人間らしいというか、ふだんの講義では淀みなく話している先生も、想定してないことが起こるとやっぱりグダグダになるんだ、と分かって和んだかなと思います。また教員を助けるために出席管理のSlackアプリをつくってくれた学生もいましたし、演習全体にわたって学生達の協力が不可欠でした。
僕は長藤先生のことを「長藤隊長」と呼んでいたんですが、隊長を助けるために、みんなで頑張っていたところがあります。まず教員の数名で相談して、方向性が決まってきたら、他の先生方にも「こういう感じでいきましょう」と伝えたりして、意思統一を図ってきましたが、準備期間が短すぎたというのが、今回辛かったところではあります。毎日何かしらの締め切りがあって、徹夜しないと終わらないという状況は本当にきつかったです。
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この連載記事は「ポストコロナの未来社会に関する新たな研究課題のスタートアップ支援」の助成を受け、西村多寿子(東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 特任研究員)が執筆します。西村は、連載記事の文責を負い、関連動画の編集に関与しています。