久我研究室では、「一人一芸」をモットーにし、大学院生一人一人に一つのテーマを割り振り、各人の創意や工夫を尊重した形で自由に研究を進めてもらっています。ただ、大学院生が自由に研究ができるとは言っても、やはり実験系の研究室ですので、これまでに研究室が蓄積してきた実験装置やノウハウなどにより、ある程度の制約はあります。ですので、大まかに言うと、次に挙げる二つの分野における研究を進めてもらうことになります。
一つは、量子エレクトロニクスと呼ばれる基礎学問的な色合いの強い分野の研究と、もう一つは、最近始めた、物理学温故知新と私が勝手に名付けた活動です。(印刷物、webなどで使うようになったのはごく最近(2007年に入ってから)ですが、口頭のセミナーなどでは1992年から使っていました。) この「物理学温故知新」を本格的に考え始めた理由については、「研究室を志望する学生さんに言っておきたいこと」もあわせて参照してください。
相関基礎科学系研究室紹介冊子掲載内容 2012年版
Dグループ研究室紹介 2012年版
量子エレクトロニクスは、レーザーを主な武器にして光と物質の相互作用を調べる基礎学問的な色合いの強い分野です。その手がける研究内容は、伝統的な分光学的研究から、現在の最先端でもあるレーザー冷却、原子気体ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)、量子情報処理・量子コンピューターなどまで、非常に広範囲にわたっています。
ご存じの方も多いと思いますが、2005年には量子光学の基礎理論と超精密分光法の開発に対してノーベル物理学賞が与えられました。過去に遡ると、原子気体BEC(2001年)、レーザー冷却(1997年)、イオントラップ(1989年)、レーザー分光(1981年)など、数年に一回の割合で量子エレクトロニクス関係の研究者がノーベル物理学賞を獲得しています。このような状況からも、量子エレクトロニクスが物理学の中でも本当に基礎的な分野であり、なおかつ時代の最先端を行く研究分野であることが窺い知れます。
なお2009年のノーベル物理学賞は、光ファイバーと電荷結合素子(CCD)の開発に対して贈られました。これらの素子は量子エレクトロニクスの基礎研究から産まれ、今日の最前線の研究には必要不可欠なものとなっています。ちょっと強引ですが、やはり量子エレクトロニクスの一つの側面、一員でしょう。
私たちがこれまで手がけてきた研究テーマ(○)、および現在行っている研究テーマ(★)は以下の通りです。
★ 簡便な単一光子源の開発。
○★ 共振器量子電気力学関係の研究。
○ 気体原子のボースアインシュタイン凝縮(BEC)相の研究。
○ レーザー冷却された気体原子の線形・非線形分光。
○ 電磁誘導媒質透明化効果を用いた光情報の凍結と再生。
○ 量子相関をもつ二光子を用いた量子論の非局所性の検証実験。
○ 導波路型非線形光学素子を用いた、ファイバー内ツインビームの高効率発生。
○ 原子波コヒーレントビームスプリッター、反射鏡、原子波干渉計の研究。
光(電磁波)に関する古い時代の実験を現代の技術で再現し、学問の本質についての理解を深めるのと同時に、新たな技術・応用について模索しています。
2012年には、実験においてもっとも重要な"測る"ことについて、その基本からを見つめなおした解説書、「"測る"を究めろ! ー物理学実験攻略法ー」を出版しました。大学における物理学実験の副読本を想定して著したものですが、企業などで研究に携わる方も含めたすべての研究者に、その立ち位置をもう一度確認するためにも、是非読んでいただきたいと思っています。もちろん、一般社会の"科学好き"の方が読んでも、いろいろ考えるヒントが得られるものと自負しております。
2010年には、ハンバリー-ブラウンとトゥイスの二光子相関実験(古いといっても1956年頃)を再現し、カオス光(冷却原子からの共鳴蛍光)の自己強度相関(g(2)(0))が2となることを実験的に初めて確認しました。(参考文献 Optics Express, 18, 6604-6612 (2010))
これまで、国立科学博物館の展示物(フィゾーの歯車による光速度測定)の技術指導、駒場の自然科学博物館でのフーコーの回転鏡による光速度測定実験などに協力しています。
現在、再現しようと考えている題材としては、カシミール力の測定、グース・ヘンシェン変移などがありますが、題材としてふさわしいかどうか決めかねている部分もあります。むしろ若い人の視点から積極的にアイディアを出していただき、議論を通じて決めていきたいと考えています。
また、1、2年生向けの基礎物理学実験にも深く関与しており、新種目開発なども行っています。これまでに、電気伝導度測定(すでに基礎物理学実験からは外れている)、ケーターの可逆振子、減衰振動・強制振動の実験種目を開発しました。