私たち生命分子遺伝学分野では、これまでに単細胞生物を用いた分子遺伝学研究で培ってきた研究アプローチを、多様な生物種に由来する膜輸送体システムのはたらきを解析する研究へと拡張させてきました。研究対象が拡張していった経緯はあるのですが、今となってはタンパク質合成に関わる研究と一線を画しています。それでも「生きた細胞」を用いて、「生命の本質的なしくみを理解したい」という根本的な考えに変わりはありません。
細胞内のさまざまな機能分子が働く環境は一定に保たれる必要があります。この細胞内の恒常性(ホメオスタシス)に大きく寄与するのは、膜を介して必要な物質を取り込んだり、不必要で有害な物質を排出する膜輸送体群です。ゲノム上には様々な物質群にかかわる膜輸送体をコードする遺伝子が数多く存在しており、なかには未だ機能が明らかにされていないものもあります。このような膜輸送体遺伝子の発現制御や、発現したタンパク質への制御によって細胞内の恒常性は保たれています。機能が明らかにされていない膜輸送体タンパク質を個体や組織を使って解析するのは困難ですが、取り扱いが容易な単細胞生物に移植することで迅速な機能解明が可能になります。しかも分子遺伝学のアプローチによって、生きた細胞膜上の環境で膜輸送体タンパク質を分子の機能として評価できるようになります。また、さまざまな抗生物質を速やかに細胞外に排出する機能性を獲得し、効かなくなってしまった多剤耐性細菌そのものを扱うのは大変危険を伴いますが、この排出にかかわる膜輸送体分子を安全な大腸菌で解析することで、多剤耐性獲得のメカニズムを容易に解析できるようになります。
私たちの研究室では現在、膜輸送体のなかでも特に Mg2+ のような金属カチオン輸送体の機能解明に興味を持ち研究を進めています。RNA 合成反応(転写)やタンパク質合成反応(翻訳)といった遺伝子の発現機構では数多くの酵素が活性に Mg2+ を必要としています。そのため、遺伝子発現の恒常性を実現するためには細胞内の Mg2+ 濃度の厳密な制御が必要になります。また、マグネシウムの過不足はヒトのさまざまな疾患にもかかわることが明らかになってきました。これまでにも、さまざまな膜輸送体タンパク質の機能制御機構や遺伝子発現レベルでの分子機構が明らかにされていますが、類似するカチオン輸送体との関連性などを含め、まだまだ未解明な点が多く残されています。
ゲノムにコードされたさまざまな膜輸送体分子群について、(1) 基質特異性の棲み分けや、(2) 遺伝子レベルでの発現制御や、(3) タンパク質レベルでの機能制御のパターンがどのように細胞内恒常性を保つのか、進化的に維持されてきたのかなどを探る分子遺伝学的研究を用意しています。
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