シャミセンガイの仲間


これまで、シャミセンガイの仲間の分類には殻の形態や色彩が用いられてきましたが、近年では筋肉の配置などの内部形態も分類形質として利用されています。

しかし、近年の日本産シャミセンガイ類の分類においてこれらの分類形質を反映した研究例はなく、分類学的に大きな問題をはらんでいます。

ここでは私の研究成果を交えて、シャミセンガイの分類学に関する最新の知見を紹介します。

シャミセンガイは腕足動物門(Brachiopoda)に属しています。 一見すると二枚貝(軟体動物門)のようですが、その中には大きな触手冠をもっています。

腕足動物門は近年まで無関節綱(Inarticulata)と有関節綱(Articulata)に分類されてきましたが、現在では無関節綱を 舌殻亜門(Linguliformea) と 頭殻亜門(Craniiformea) に二分し、有関節綱を 嘴殻亜門(Rhynchonelliformea) とする分類体系が支持されています。 シャミセンガイの仲間は、このうち舌殻亜門(Linguliformea)に属しています。

日本でこれまでに棲息が確認されている現生のシャミセンガイの仲間は4種で、すべてシャミセンガイ科(Lingulidae)に属しています。

舌殻亜門(Linguliformea)

舌殻綱(Lingulata)

シャミセンガイ目(Lingulida)

シャミセンガイ科(Lingulidae)

ミドリシャミセンガイ Lingula anatina (Lamarck, 1801)

ウスバシャミセンガイ Lingula reevei Davidson, 1880

ドングリシャミセンガイ Lingula rostrum (Shaw, 1798)

オオシャミセンガイ Lingula adamsi Dall, 1873

また、同じく舌殻綱シャミセンガイ目に属するスズメガイダマシ科(Discinidae)のDiscradisca属2種も日本周辺から報告されています。 これらの種は外見はカサガイに似ており、岩や貝殻の表面に付着して生活しています。

スズメガイダマシ Discradisca stella (Gould, 1926)

スゲガサチョウチン Discradisca sparselineata Dall, 1920

瀬戸内海で得られたスゲガサチョウチンの仲間

これまでシャミセンガイの仲間の分類は、殻の色や模様に基づいて行われてきました。しかし殻の形質は変異も多いため、近年では殻の開閉に用いられる筋肉痕の配置などが分類形質として重要とされています。

最近まで、日本産シャミセンガイの筋肉痕の配置に言及した研究例は、Emig(1984)が陸奥湾から得られたシャミセンガイ標本の筋肉痕の配置を既知種と比較した研究が知られるのみでした。そこで私は2012年に、瀬戸内海で得られたシャミセンガイの筋肉痕の詳細な観察を行い、これらの筋肉に新たに日本語の名称を付して発表しました。今後は、日本産のシャミセンガイの分類においても、このように殻の形質と併せて筋肉痕の配置も観察する手法がスタンダードとなることでしょう。

左:

背殻をはずし,消化管と生殖巣を取り除いた状態のシャミセンガイの1種Lingula sp.

右:

D-E. Lingula sp. の背殻(D)および腹殻(E)にみられる筋肉痕の配置(ともに殻の外側からみた配置)

F-G. 同, 背殻(F)および腹殻(G)からみた筋肉の配置の模式図

Aa, 前閉殻筋,Ap, 後閉殻筋,Ll, 縦走側筋,Oa, 前方斜筋,Oia, 前方内斜筋,Oim, 中央内斜筋,Oip, 後方内斜筋,Ola, 外側斜筋,Olm, 内側斜筋,Pl, 体壁線

広瀬ほか(2012)より改変

M. Hirose 2014