墨の作り方

墨は、どのように作られるのだろうか?

書道においてなくてはならないのが、墨です。

書道をする上で必要な 筆・紙・硯・墨を文房四宝(ぶんぼうしほう)と言います。

墨で書かれた文字は、保存状態が良ければ、何百年も残ります。

では、その墨は、どのように作られているのでしょうか?

『墨運堂』ホームページを参考にまとめてみました。

墨の始まり

墨は、煤(すす)と膠 (にかわ)そして香料を混ぜてできています。 膠を混ぜて固めた製墨法が、 いつの頃から始められたか不明ですが、木簡の資料から、漢代には行われ ていたものと思われます。

  中国の魏の国の違誕(いたん)が、 煤を臼で挽いて膠と混ぜ合わせる方法を発明したといわれ、唐代には、 すでに製墨法は完成されていました。

唐墨(中国製)と和墨(日本製)

中国の墨のつくり方

(すす)と膠 (にかわ)を練り合わせ, その墨の塊を大きな金槌で何百回も叩いて練り合わせます。打つことで 膠はへたり(弱くなる)、粘りが弱く なって磨った時に筆の滑りが良くなります。

  中国の水は硬度300以上の硬水で、この硬水に墨を磨った 時に膠を均一に分散させるために、石のような硬い墨を造ります。 磨るのに手間がかかりますが細かい 粒子の墨を得ることができます。

日本の墨の作り方

墨匠が手足で均質に練りあげ、膠をゆっくり乾燥させてひび割れ を防ぐことに力を注ぎます。

  日本は軟水圏にあり、その水は物を溶かし易く中国のような 苦労を必要としません。磨る手間がかからず、 色は淡いがさらっとした透明感のある墨が好まれます。

日本の風土の中では中国の墨を使用していると湿度のために ひび割れを起こしやすいので、保存に注意を必要とします。

日本では、重量比で煤と膠とを10対6に混ぜ合わせる のが一般向きとされ、細字、かな用の墨は膠の含有率を少し減らして粘度を下げます。

固形墨の原料について

固形墨の原料は、(すす)・ 膠(にかわ)・香料です。

夏場は気温が高く湿気の多いため膠が腐りやすく、 墨造りに適しません。墨造りは毎年十月中旬から 翌年四月末位までの寒期に行います。

膠(にかわ)

 牛や鹿の皮から作る動物性のたんぱく質で、本来水には溶け ない煤を包み込み、 水の中で安定させるのが役割です。また、紙の上に置かれた煤を定着させる接着剤としての役割も持ちます。

紀元前1470年のエジプト王の墓所の壁に、膠の製造工程が 図解されており、 その墓の副葬品の椅子や机の接着には膠が使われ ていたということです。 皮を煮て、一番にとれる膠がもっとも良く後になるほど質が落ちます。

膠の特性

①ゲル化する・・・水温が18℃以下になると急激に増粘し、ついにはゼリー状に固まります。ゲル化温度は膠により異なります。

②加水分解する・・蛋白質なので、水中では急激に膠の高分子の鎖が切断され粘度低下を起こし、酸化作用により炭酸ガスと水に変化します。

③腐敗する・・・・・動物性蛋白質ですから細菌の最高の食料であり、非常に腐敗し易いです。

香料

膠の匂いを消すために用いられましたが、 使う人の気持ちを落ち着かせるという副次的な作用もあります。 墨に使用する香料は刺激的な香りではなく、側に置いておくと、 そこはかとなく香りが漂ってくるという 「幽香」です。

香料には、昔は天然香料の麝香(じゃこう)竜脳(りゅうのう)・ 白檀(びゃくだん)・甘松末・梅花などが使われていました。

今では、合成香料の梅花・麝香等多種普及しています。

墨の箱を明けた時に漂う香りは、 振香(ふりか)といって 包装時に箱に入れる香料の香りです。

麝香(じゃこう)は、麝香鹿(じゃこうじか)の香嚢です。この中に香料が入っています。

墨の種類

墨は、煤と膠、香料が原料です。

原料の1つである煤は、採り方によって二種類に分けられます。

油煙タイプ採りの「芯焚き法」と、松煙タイプ採りの 「直火焚き法」です。

「芯焚き法」

素焼きの皿に種油を入れ、イ草の芯を浸して火をつけ明かりとしたのがお灯明です。 そのお灯明の炎の先から10cm程離してお皿(釜)をかぶせ、 そのお皿に煤を集めて一定時間後掃き採ります。

 「手焚き油煙」は、小部屋にこのお灯明を沢山置き、 注油、お皿の回転、採煙を繰り返し採取します。

 「機械焚き」の場合も原理は同じです。この焚き方を しますと、炎の先から近い所で煤を集めるもので煤に高温が加わり、 焼き締めたような煤になります。 煤の粒子の大きさは、芯の太さで加減します。

細い芯で焚けば、 粒子の細かい煤になります。

太い芯で焚けば、 炎も大きく粒子の大きい煤を採ることができます。

「直火焚き法」

松煙採りは、アカマツの荒肌にキズをつけ、松やに (樹脂)のにじみ出た部分をそぎ取ったものを燃やします。 障子などで隔離された比較的大きな空間で空気の流通を少なくし、 まわりの障子・天井にたっぷり煤が付いたのを、羽ぼうきで払って 集めます。

 松材を直接不完全燃焼 させて煤を採る方法で、芯焚き法のように煤 自体に高温はかからないので、柔らかく凝集した粒子の煤に なります。

直火焚き法でも炎の大きさを加減 することにより、細かい粒子から大きな粒子まで採り分ける ことができますが、芯焚き程粒子 の大きさの揃った煤を採るためには、さらに分粒装置が必要になります。

採取した煤を使って墨を作りますが、直火炊き法で採取した松煙で作った物を松煙墨、芯焚き法で採取した油煙で作った物を油煙墨と呼んでいます。