賞与(ボーナス)とは、毎月の給与とは別に臨時的・一時的に支払われる賃金の総称です。
賞与の支払いには法律による規定はなく、支払有無を含めて会社が任意でルールを設定できます。
夏季・冬季賞与、決算賞与、期末手当、年末一時金など、その呼び方も会社によってさまざまです。
また賞与計算とは、賞与を計算する一連の業務を指します。
賞与は従業員のモチベーションアップにつながる重要なものですが、査定では適切で公正な評価が求められます。
賞与額は従業員間で比較されることもあるため、適切な評価を行わなければ、賞与支給をしてもかえって従業員の不満につながってしまう可能性があるからです。
ここでは、賞与の種類や適切な査定、賞与計算のポイントを解説します。
賞与計算のスケジュールは一般的に下記になります。
従業員の評価
賞与の計算
賞与の支給
届出書の提出
成果連動型の賞与などでは、従業員ごとに評価をおこない、それを元に賞与の計算と支給を実施します。
賞与を支給した後は、日本年金機構などへの届出書の提出をもって賞与計算の業務が完了します。
以下では、賞与計算に関わる評価期間と、賞与の支給時期について詳しくご説明します。
賞与の評価期間とは、成果連動型などの賞与支給額を決定するために、従業員の実績や勤務態度を評価する期間を指します。
一般的な評価期間は6ヶ月間です。
例えば、7月と12月に賞与が支給される場合は、評価期間を下記に設定するのが一般的です。
7月支給分の評価期間:前年10月〜3月
12月支給分の評価期間:4月〜9月
試用期間のある人や休職・退職者
試用期間や休職・退職ともなって出勤していない期間は、評価期間に含めないことがあります。
中途採用者
就業規則に特別な定めがない場合、基本的に勤務開始日から査定期間の対象となります。
賞与の査定対象外となる条件は、就業規則に明記しておく必要があります。
賞与を実際に従業員などに支給する時期です。
賞与の支給時期は、評価期間の2~3ヶ月後とする会社が多いです。
評価期間が終了したのちに、従業員ごとの評価と賞与計算を行うため、毎月の給与と比べて支給時期は遅くなるためです。
そのため、賞与支給月の直前に大きな実績を残したとしても、次回の評価期間に反映されることが多いです。
賞与額を決める際のポイントをまとめました。
従業員に賞与を支給する際の大前提として、あらかじめ賞与支給の基準やルールを明確にして、労働条件通知書や就業規則などに記載しておきましょう。
明確で公正な基準がないと、従業員とトラブルになったり不満につながる可能性があります。
賞与の評価では、下記のような人事考課項目を基準とすることが一般的です。
各項目について、加点や減点をしながら複合的に従業員の評価を決定します。
業績評価
評価基準:売上達成率や目標販売数など
個人やチームにおいて設定した目標について、どの程度達成できたかに応じて評価します。
定量的な数値は公平性があり、賞与の評価項目として組み込みやすいでしょう。
能力評価
評価基準:業務に必要なスキルの習得度、マネジメント力など
個人の業務遂行能力やスキルに基づいて評価します。
行動評価
評価基準:チームへの貢献度、業務に対する責任感、判断力、自己管理能力、勤務態度など
個人が起こした具体的な日々の行動や態度を評価します。
退職予定者や休職予定者の賞与支給には注意が必要です。
退職予定者や休職予定者について、他の従業員と異なる条件で賞与支給の判断をする場合は、その理由や基準をあらかじめ就業規則に明記しておきましょう。
就業規則などに明記されていない場合
就業規則などに明記されていないにも関わらず、他の従業員と大きく差をつけた扱いをしてしまった場合、従業員との間でトラブルになったり、労働基準法に違反する恐れがあります。
会社としては、就業規則などに明記した会社規定に沿って、適正に賞与の支給有無や支給額を決定する必要があります。
賞与には、会社によってさまざまな種類があります。
ここでは賞与の種類について、主なものをご説明します。
基本給や資格手当、役職手当など、毎月の給与と連動して支給する賞与です。
給与連動型賞与では、下記のように、固定給に会社規定の支給率をかけて賞与を計算します。
基本給の2ヵ月分
基本給+役職手当の1.5ヵ月分
業績良好な従業員には5%増額して支給するなど、業績によって一定率を増減させるも可能です。
個人やチームの業績によって支給額が増減する賞与です。
会社にもたらした利益によって賞与金額が決定されるので、査定基準として公平性を保つことができ、従業員のモチベーションアップをはかることができます。
例外的に、あらかじめ支給時期と支給額が確定している賞与です。
就業規則や労働条件通知書などで「毎年6月と12月に300,000円を支給する」などと、支払時期や金額が明記されているケースがこれにあたります。
こういった支給を約束している賞与は、支払わなければ労働基準法違反を問われるため注意が必要です。
また、役員賞与も支給額・支給時期が確定している賞与と言えます。
役員賞与は、法人税の計算に含める場合は事前に支給日や支給額の届出をし、届出通りの支給が必要なためです。
決算月前後に会社の業績によって支給をする賞与です。
会社の利益を従業員に還元するために支給することが多く、必ずしも毎期支給するとは限りません。
就業規則などで「会社の業績によっては支給しないこととする」と規定しておくといいでしょう。
年俸制で年俸額を14分割して6月や12月に多く支払うケースや、年俸とは別に賞与を設定するケースがあります。
前者は正確には賞与とはいえませんが、年俸制の場合には下記を検討してから契約内容を決定しましょう。
賞与を含めて年俸を設定する
業績や成果に応じて賞与を年俸とは別に支払う
従業員などに支給する賞与の金額も、給与と同様に支給額と控除額によって決まります。
下記の式で計算した結果が、実際に従業員などに支給する額です。
総支給額 - 控除額 = 差引総支給額(手取り額)
賞与の計算手順は下記です。
従業員ごとに総支給額を決定する
各種の控除の計算をする
賞与の種類に応じて、総支給額の決定を行います。
例えば、業績連動型賞与であれば、従業員ごとに賞与評価期間の評価をおこない、賞与額を決定します。
賞与の計算でも、給与と同様に控除項目があります。
賞与計算の控除項目は下記です。
社会保険料
雇用保険料
源泉所得税
なお賞与計算では、住民税の控除は行いません。
<社会保険料の計算>
賞与の社会保険料の計算式は下記になります。
社会保険料の額 = 標準賞与額 × 社会保険料率
標準賞与額とは、支給する賞与額で、1,000円未満の端数を切り捨てた金額です。
健康保険料、厚生年金保険料の保険料率をそれぞれ標準賞与額にかけて、社会保険料の控除額を計算します。
保険料率は、給与計算と同様です。
詳しくは、「給与計算の社会保険料の計算」のページをご覧ください。
<雇用保険料の計算>
賞与の雇用保険の計算は、給与計算の場合と同様です。
詳しくは、「給与計算の雇用保険料の計算」のページをご覧ください。
<源泉所得税の計算>
賞与の源泉所得税の計算は、下記の手順で実施します。
従業員が甲欄か乙欄か確認する
賞与の総支給額から社会保険料などを控除した後の金額を確認する
所得税率を確認する
源泉所得税額を計算する
甲欄と乙欄で計算方法が違うため、それぞれについて説明します。
なお、賞与の源泉所得税の計算では、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を利用します。
国税庁:源泉徴収税額表(令和6年分)はこちら
甲欄の計算方法
甲欄は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している社員が該当します。
賞与支払月の前月の給与支給額から、社会保険料などを控除した後の課税額を求めます。
甲欄のうち、社員が提出した「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に応じた扶養人数の欄を参照し、
「1」の金額を含む行の左側に記載された「賞与の金額に乗ずべき率」を確認します。
社会保険料などの控除後の金額に、「3」で確認した率を乗じて税額を求めます。
乙欄の計算方法
乙欄は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない社員が該当します。
賞与支払い月の前月の給与支給額から会保険料などの額を引いた課税額を求めます。
乙欄を参照し、「1」の金額を含む行の左側に記載された「賞与の金額に乗ずべき率」を確認します。
社会保険料などの控除後の金額に、「2」で確認した率を乗じて税額を求めます。
その他の場合
下記の場合は、給与所得の源泉徴収税額表(月額表)を参照して税額を求めます。
・前月の給与がない場合
・社会保険料などを除いた賞与額が前月の社会保険料などを除いた給与額の10倍を超える場合
それぞれの従業員へ下記を行います。
賞与の支給
賞与明細書の発行
賞与支給の方法としては下記が一般的です。
銀行振込
現金手渡し
金融機関への振込依頼をする場合は、入金までに3営業日程度かかる場合もありますので注意が必要です。
賞与の計算では、毎月の給与と同様に、各種の保険料などを控除します。
賞与にかかる健康保険や厚生年金保険の保険料を納付するために、支払った賞与の金額などを届け出るのが「被保険者賞与支払届」です。
賞与を支給した場合は、忘れずに賞与支払届の提出を行いましょう。
届出書:被保険者賞与支払届
届出期日:支給日から5日以内
届出先:日本年金機構(健康保険の場合は健康保険組合)
代表者や役員に支給した賞与は、原則として法人税などの計算に算入できません。
計算に算入したい場合は、事前に届け出ておく必要があります。
届け出た内容の通りに役員賞与を支給することで、法人税などの計算に算入することが可能です。
届出書:事前確定届出給与
届出期日:下記のうちいずれか早いほう
・事前確定届出給与を定めた株主総会などの決議をした日または職務を開始する日から1か月以内
・会計期間開始の日(事業年度開始の日)から4か月以内
届出先:納税地の所轄税務署
年4回以上賞与がある場合には、賞与支払届は提出しません。
その代わり、算定基礎届や月額変更届を提出する際の「通常の報酬」に含めて計算する必要があります。