法と法性、相
基本文法で記した通り、セルナーダ語には二つの法が存在する。この場合の「法」は動詞の語形が変化するものを意味する。直接法はいわゆるごく普通の表現であるが、他に「命令法」と呼ばれるものがある。
命令法を用いた文
sxupi:r! 眠れ!
【sxupi:r】眠れ sxupir動命
命令文の作り方は、不定法の語幹に後続する母音を長母音に変え、さらにrを語尾にくわえる。
この場合は sxup- が語幹なので、後ろの母音iが長母音i:となり、そこにrがついている。
時制、人称、名詞クラスによる活用は一切、関係しない。また、規則動詞であるか、不規則動詞であるかも関係ない。
法性
セルナーダ語には、法とは別に多数の「法性」が存在する。これらの法性は、動詞そのものの形は直接法を用い、後ろに特定の後置詞補助詞をつける。
・義務法 zev ~しなければならない
・禁止法 zun ~してはならない
・推奨法 sup ~すべきである
・確定推量法 tic ~に違いない、~はずである
・推量法 foy ~かもしれない、~だろう
・希求法 fog ~したい
・可能法 ci ~できる、~が可能だ
・意思法 yol ~するつもりだ、~しようとする
・勧誘法 sav ~しよう
・傾向法 che ~しがちだ
・容易法 yu ~しやすい
・困難法 mxaz ~しづらい
また、これらの法性は互いに矛盾しない限り、他の法性と組みあわせて使うことも可能である。
betnav ci tic yu ja:mzo.(俺は)敵を容易に倒せるに違いない
ここでは【ci】【tic】【yu】と三つの法性が使われている。可能、推量、容易、これらを組み合わせても意味的な矛盾は存在しないので、こうした文も成立しうる。ただし、実際にはここまで極端に法性を使うことは珍しい。
betnav ci tic yu ned ja:mzo.(俺は)敵を容易に倒せないに違いない
上記のように、否定を意味する【ned】、また受動形の【re】や、他の別種の後置補助詞をともに使うことも許されている。ただ、普通の話者なら次のようなより簡便な表現をするだろう。
betnav ci tic mxaz ja:mzo.(俺が)敵を倒すのは難しいに違いない
この文でも、先の例と意味的にはほぼ同じ文章となる。 セルナーダ語では動詞の後ろに、このように後置補助詞が複数並ぶことは、決して珍しいことではない。
相
セルナーダ語には現在形、過去形の二つの時制が存在する。ただ、これとはまた別の、時間的な区切りである「相」が存在する。
・開始相 da ~しはじめた
・進行相 li ~している、~しかけている
・継続相 del ~ し続ける
・終了相 go ~し終わった、~しきった
・未来相 fa ~するだろう
・経験相 sud ~したことがある
相はある行為が行われているとき「どのような過程か」を示すものである。
ma: da fo+sel ma:suzo.(彼女は)朝食を食べはじめる
【ma:】食べる masure動 三地現 【fo+sel】朝 名火 【ma:su】食事、食料 名地
ma: go fo+sel ma:suzo.(彼女は)朝食を食べ終える
最初の例文では、食事という行為をまだ始めたところだが、次の例文ではすでに行為は終了している。このような表現のために相は存在している。法性と同様、相も矛盾しない限り、組み合わせることができる。さらに、法性と相も動詞のあとに同じように表記する。
ma: go zev fo+sel ma:suzo.(彼女は)朝食を食べ終えなければならない
終了相【go】と義務法性【zev】を用いる、このような使い方も可能ということである。
相のなかでも、未来相と経験相は若干、他の相とは種類が異なる。未来相は本来、むしろ時制に近いものだが、セルナーダ語では相として扱われる。
ma: fa li fo+sel ma:suzo.(彼女は)朝食を(未来に)食べているだろう
例のような使い方が一般的である。
一方、経験相は時間軸としては過去に属するものだが、特に動詞を過去形にする必要はない(むろん、してもよい)。セルナーダ語は全体的に、時間に関してはかなり曖昧な表現も許容される。
ma: sud fo+sel ma:suzo.(彼女は)朝食を食べたことがある
動詞は現在形だが、上記の文は非文ではない。
動詞補助詞
後置詞のなかでも、動詞、動形詞、動副詞のみを補助する語が、後置補助詞には存在する。これらの語は特に「動詞補助詞」と呼ばれ、後置補助詞の一部を形成している。動形詞、および動副詞については、後述する。
以下のような動詞補助詞がセルナーダ語に存在する。
・徹底 zig ~し尽くす、~しまくる
・相互 tsal ~しあう
・並列 gam ~しながら
・失敗 nom ~し損ねる
cuchava zig reysule.(あたしは)男に話しまくる
徹底【zig】は「徹底的になにかを行う」ときに用いる。日本語で表現するなら、~しつくす、~しきる、~しまくる、といったような解釈が可能である
cuchava tsal reysule.(あたしは)男に(と)話しあう
相互【tsal】はお互いになにかする、ということである。~しあう、と訳するのが一般的だろう
cuchava gam reysule nodova tarsuyzo.(あたしは)男に話しながら酒を飲む
並列【gam】はある行為と並列して別の行為を行うときに使われる。~しながら、ということである
cuchava nom reysule.(あたしは)男に話し損ねる
失敗【nom】はある行為を行えなかったときに使う。~し損ねる、に相当する表現である
後置補助詞の順番
後置補助詞が動詞などのあとに複数、ならぶ場合、その順番は基本的には自由である。ただし、受動【re】と否定【ned】がそのなかに含まれている場合、必ず【re】の後ろに【ned】をつけなければならない。その間に他の後置補助詞が入るのは問題ない。
rxafsuma yurfa fahega re ned kadsule.少年の言葉は父親に喜ばれなかった
この順番であれば問題はない。
*rxafsuma yurfa fahega ned re kadsule.
一方、上記の場合は非文となる