動形詞と動副詞
この二つの品詞はセルナーダ語に独特のものである。両者とも、基本的には形容詞、副詞として用いるが、同時に動詞としての機能も備えている。
動形詞
動形詞には大きく、四つの用法がある
・形容詞的用法
・属格名詞的用法
・比喩用法
・動詞的用法
形容詞的用法
これは名前の通り、通常の形容詞のように用いる。
col era e:lon pe+sxe.ここは楽しい場所だ
【e:lon】楽しんだ、楽しい、愉快な、愉しげな、楽しむような 動形
【pe+sxe】場所、ところ 名地
例文では、e:lonは形容詞「楽しい」として使われている。
属格名詞的用法
ers ja:bin miznut.(それが)病気の原因だ
【ja:bin】病んだ、病的な、病気の、病むような 動形 【miznut】原因、理由 名地
この場合、ja:binは属格名詞「病気の」に似た使われ方をしている。
比喩用法
sxala ti:rafe u:tuszo.(彼女は)驚くような現実を知る
【sxala】知る sxulure動三地現 【ti:rafe】驚いた、驚かせた、驚くような、驚愕の 動形
上記の文では、ti:rafe は比喩的な使い方をされている。
動詞的用法
mav asron suyfuzo.(俺は)焼いた魚を食べる
【asron】焼いた、焼きの、炎の、焼いたような 動形
asron がこの例では動詞的な「焼いた」という表現になっている。動形詞を動詞的に用いるときは、原則として能動であり、かつ過去形となる。ただし時制に関しては、文脈によっては現在形になることもあるのであまり深く考えずともよい。
動形詞と後置補助詞
動形詞は文脈によってさまざまな解釈が可能なため、正確な文意を掴むのに若干の慣れが必要となる。ただし、その後ろに普通は動詞にのみ使われる法性、相、または使役などのための後置補助詞がくる場合は、「比喩的用法」「動詞的用法」のいずれかとして解釈する。動形詞は活用はしないが、後置補助詞の使い方は動詞と同じようにできる。
mavs ze:mgan re reysuzo.(彼は)殺されたような男を見る
(彼は)殺された男を見る
【ze:mgan】殺した、殺すような、殺人的な 【動形】
例文では、ze:mgan に受動を意味する re がついている。この後置補助詞が用いられるため、この文は比喩的用法、動詞的用法とのいずれかとして使われていると判断できる。だが逆にいえばこれは「そのどちらとも判断できる」ということでもある。この用法の存在がセルナーダ語の「厳密な解釈」を難しくしているが、どちらかを明確にする方法もあるので後述する。
さらに「動形詞は述語には決してなれない点」には、注意しなければならない。
上記の文だと、主語は省略され、その次に mavs という動詞がついている。ここでは動形詞ze:mganは、mavsの目的語である名詞reysuzoを修飾しているに過ぎない。
動副詞
動副詞には大きく、三つの用法がある
・副詞的用法
・比喩用法
・動詞的用法
これは「属格名詞的用法」に対応するものがない以外は、ほとんど動形詞と似たようなものである。
副詞的用法
通常の副詞のように用いるやり方である。
betnas o:layalm go+zun ja:mzo.(彼は)圧倒的に強い敵を倒す
【o:layalm】圧倒して、圧倒に、圧倒的に、圧倒するように 動副
【go+zun】強い、強靭な、強力な、力ある 形
【betnas】倒す、打ち倒す、退治する betnar動三火現
ここでは動副詞「o:layalm」は形容詞「go+zun」を修飾する副詞として使われている。
比喩用法
動副詞を比喩的表現として使うこともある。
rxafsa le:snalm tanjuga.少女は飛ぶように逃げた
【le:snalm】飛んで、飛行に、飛ぶように 動副
【tanjuga】逃げる、逃亡する tanjure動三地過
上の例では動副詞【le:snalm】は動詞「tanjuga」を比喩するために用いられている。
動詞的用法
動副詞は動詞のようにも使用される。
reysi bi+calm zemges gireysuzo.男たちは泥棒を殴って殺した
【bi+calm】殴って、殴打して、殴るように 動副 【gireys】盗賊、泥棒 名火
セルナーダ語では動詞を連続させることができないため、このように動副詞に動詞を修飾させることで、実質的に二つの行動を動詞的に表現させる。これは日本語などにも存在する、いわゆる複合動詞に似たやり方である(日本語の場合は「殴り殺す」となるが、このように訳してもむろん構わない)
動副詞と後置補助詞
動形詞と同様に、動副詞の後に動詞に用いられる後置補助詞がついた場合、比喩的用法、動詞的用法のいずれかとみなされる。
zu:valm ned yelselev.(俺は)切られずに生き残った
【zu:valm】切って、切ったように、切り離して 動副
【yelselev】生き残る、生存する、生き延びる yelselar動一火過
この場合、「切られていないように生き延びた」という解釈も可能である。(より正確に説明すれば、実際には切られたがまるで切られていないように、ということである)。比喩的と動詞的用法のいずれかを明確にする方法は、やはり後述する。
動形詞と同じように、動副詞も述語にはなれない。この文では「yelselev」が述語となり、動副詞とその後置補助詞「zu:valm ned」は動詞を修飾しているにすぎない。
動形詞、動副詞を用いた疑似従属節の作り方
動詞を使った従属節を作らずとも、それに似た表現をすることがセルナーダ語では可能である。ただし動形詞、動副詞を用いたこの節は、従属節ではなく「疑似従属節」と呼ばれる。動詞を用いた従属節とは異なる、あくまでも疑似的なものである。
be:tnan sud ned ja:mzo reys yas.敵を倒したことがない男がいる
【be:tnan】倒した、打倒した、退治した、打倒の、退治のような 動形
上記の文では be:tnan sud ned ja:mzo 敵を倒したことがない、という疑似従属節が 主語のreys を形容している。ここでは be:tnan が動詞的用法で疑似従属節を形成し、sud ned ja:mzo という部分は普通の動詞に後続するかのように表記されている。しかしこの文の動詞は yas のみである。
動副詞を使って疑似従属節をつくることもできる。
be:tnalm ja:mzo nas va:rin kilreysule.(彼は)敵を倒して立派な戦士になる。
【nas】なる canar動詞三火単 【va:rin】見事な、立派な、素晴らしい 形
この場合は be:tnalm ja:mzo 敵を倒して の疑似従属節が 動詞nasを動副詞的に修飾している。va:rin kilreysle 立派な戦士に の部分は動詞の目的語となっている。
疑似従属節を複数、組みあわせて文をつくることも可能である。
hxa:mon lo:notse reys mevgo o:wilm asuyzo gxutopo be:dalin rxafsazo.仕事で疲れた男は血を口から吐いて倒れた少女を見た
【hxa:mon】疲れた、疲労の、疲弊の、疲れるような 動形 【lo:no】働き、労働、仕事
【o:wilm】吐いて、吐くように 【asuy】血、血液 名地 【gxut】口 名地
【be+dalin】寝込んだ、倒れた(病、負傷、疲れなどで) 動形
まず、上記の文の中核の部分を抜き出すと reys mevgo rxafsazo 男は少女を見た、となる。hxa:mon lo:notse 仕事で疲れた が reys を修飾し、さらに o:wilm asyuzo gxutpo ba+dalinが rxafsa を形容しているため、全体としては例のような意味になっている。
さらには、従来の従属節と疑似従属節を用いた文もつくることができる。
te:nan ci rxo:bilm tigan yuriduszo yuridres betnas ers ranvin magboga.
恐ろしく強力な魔術を使える魔術師が凶暴な怪物を倒す
te:nan ci rxo:bilm tigan yudruduszo 恐ろしく強力な魔術を使えるは疑似従属節であり、yuridusを修飾している。この部分に動詞betnasをくわえることで、主節が形成されている。一方、ers ranvin magboga 凶暴な怪物 は単純な従属節であり、動詞betnasの目的語として名詞節になっている。
こうした従属節、疑似従属節の双方を用いるやり方はセルナーダ語ではごく一般的である。
全体として文脈にかなり依存した形で文を解釈する必要があるため、通常の従属節にくわえ、疑似従属節の使い方に慣れることがセルナーダ語の習熟には不可欠となる。
動形詞、動副詞にのみ用いる後置補助詞
このような後置補助詞には以下の三つがある。
【jes】動形詞、動副詞の時制を現在に限定する
【kac】動形詞、動副詞を比喩でないものに限定する
【met】動形詞、動副詞を比喩に限定する
ma:sun jes mets 食べる物 jesがなければ普通は 食べた物 となる
ze:mnon kac reys 死んだ男 kacがなければ 死んだような男、とも解釈できるが、この後置詞をつけることで意味を厳密にできる
ze:mnon met reys 死んだような男 metがなければ、逆に死んだ男ともうけとれてしまう
動副詞においても、これらの後置補助詞の使い方はまったく同じである。
ただし、二番目と三番目のような例、つまり「死んだ男」と「死んだような男」のようにまったく意味が違ってしまう場合をのぞき、こうした後置補助詞が使われることはあまりない。
疑似主語
動形詞、動副詞を用いた疑似修飾節には、疑似主語と呼ばれるものが存在することもある。
ba:sxun rxafsa tasjitutse reys torxes.少女が手のひらで叩いた男は倒れた。
上記の文では、一見すると主語が二つ、存在するようにも見える。rxafsa と reys である。しかしこの場合、rxafsa は実際には動形詞 ba:sxun の主語として機能している。こうした疑似従属節の主語は「疑似主語」と呼ばれる。この文全体の主語はあくまで reys である。
ここで重要なのは、rxafsa という疑似主語が ba:sxun という動形詞の「後ろについている」ことである。セルナーダ語では、疑似主語は通常の主語が存在する場合、動形詞や動副詞の直後につくが多い。これは主節の主語と誤解されることを嫌うためと思われる。ただし、通常の文のように最初に主語をつけることを好む話者もいる。また疑似主語がさらに前の従属節などで修飾されている場合にも、通常と同様の位置に主語が置かれるため、注意が必要となる。
目的語の動詞の前置
動形詞、動副詞を擬似従属節として使った文では、主文の動詞の目的語が前置される場合がある。
ju:milm ve+tan rxafsuzo resa menvega.夢見るように踊った少年を女は見つめた。
この文では、resa menvega が主文だが、目的語である rxafsuzo が主語の前に置かれている。これは rxafsuzo がすでに疑似従属節の目的語となっているためである。結果として 本来 SVOのはずの語順が OSV という奇妙な形になってしまっている。語順がこの例のように変化するのは例外的である。
resa menvega ju:mlm ve+tan rxafsuzo.
上記のような順番のほうが文法的にはわかりやすいのだが、実際には最初の例のように、主文の動詞の前に動形詞や動副詞を置くことがセルナーダ語話者の間では好まれるため、注意が必要となる。
以上、見てきたようにさまざまな意味で、動形詞、動副詞を使った疑似従属節は慣れるまで使い方が難しい。