山口大学の授業料改定手続きに対する山口大学教職員有志の声明
山口大学の授業料改定手続きに対する山口大学教職員有志の声明
山口大学の授業料改定スケジュールを白紙に戻し
関係者との十分な「対話と合意」の機会を設定してください
山口大学教職員有志
山口大学では、2026年4月以降の入学生の授業料改定が進められようとしています。この動きに対して危惧を抱いた教職員有志により学長宛に声明を発出いたしました。学内外の方に広く知っていただきたく、ここに声明を公開いたします。なお、声明への賛同者等に変更が生じましたらその都度更新していく予定です。本声明は、2025年10月17日14時に谷澤幸生山口大学学長宛に届け、またこのページにて公開を始めました。声明への回答期限は2025年10月24日(金)14時としております。
※声明下部に代表として「呼びかけ人」を記載しておりますが、このほかにも多くの山口大学教職員からご賛同をいただいております。
※中國新聞に取り上げられました→山口大学が授業料の引き上げ検討 教職員有志から「白紙」求める声明文(2025年10月18日付中國新聞)
※NHKで報じられました→山口大学が授業料引き上げ検討 来年度以降の入学生対象
※当声明のことは触れられていませんが、本件について共同通信で報じられました→ 山口大、授業料2割値上げへ 来春新入生から、組合反発
声明
2025年9月25日に、山口大学ホームページ内「お知らせ」上に「令和8年4月以降に入学を希望される皆様及び保護者の皆様」との見出しで授業料改定に関する「ご理解のお願い」(以下「お願い」と略記します)が掲載されました。現在は「重要なお知らせ」に場所を変え、同内容の文章が再掲されています(https://www.yamaguchi-u.ac.jp/news/44238/index.html)。
この「お願い」の内容は、令和8年(2026年)4月以降に入学される方の授業料の改定について、「具体的に準備を進めること」を伝えるものです。また、改定を必要とする理由として、国立大学法人化(2004年)以降運営費交付金が減らされ続けてきたことをはじめとした、国立大学を取り巻く財政状況の厳しさや、昨今の物価高騰が挙げられており、「これまでも教育・研究活動の充実に努めて」きたものの「その努力も限界を迎えて」いることが述べられています。その上で、この改定は、山口大学が「未来に向けてさらなる飛躍を遂げるための、不可避かつ責任ある決断であることをご理解いただきたく存じます」と述べられ、関係者の「ご理解とご協力」が求められる形となっています。
なおこの「お願い」が公表された時期は、総合型選抜試験の第2次選抜が実施される(9月28日~30日)数日前のことでした。したがって、当然ながら出願期間(9月1日~4日)と第1次選抜(結果通知が9月16日)の後に公表されたものとなっています。
以上の「お願い」につきまして、我々は、授業料値上げの是非以前に、この「お願い」が公表されるプロセスに、複数の大きな問題があると感じています。もちろん我々--最下段に記載した「呼びかけ人」と、氏名は記載していませんが多くの賛同人--も、現在の山口大学の財政状況が非常に厳しいことは理解しています。また、我々有志の中でも、授業料値上げそのものへの意見には差異も存在します。ただ、繰り返しとなりますが、授業料値上げの是非以前の、決定・公表のプロセスに大きな問題点があると我々は考えています。その点において我々有志は意見を共有しており、このようなやり方が前例として今後踏襲されることを防ぐべく、今回の声明発出に至りました。 以下に今回の決定・公表プロセスの問題点を述べさせていただきます。
1. 決定・公表のプロセスが学内に対してすら不透明であること
まず指摘したいのは、今回の決定・公表プロセスの不透明さです。我々教職員にすら、どういったプロセスで今回の「お願い」が導き出されたのか説明がされていないことは、大きな問題だと考えています。
この「お願い」が公表された後、2025年10月2日付で、山口大学教職員組合から、山口大学の谷澤幸生学長宛に、「授業料改定に関するお尋ね」(以下「お尋ね」と略記します)が出されました(https://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~yunion/news/news_295.pdf)。この「お尋ね」においては、「お願い」の公表経過と説明内容の提示が求められました。それに対して2025年10月10日付に届いた「授業料改定に関するお尋ねへの回答」(https://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~yunion/news/news_296.pdf以下「回答」と略記します)では、2024年度と2025年度に部局長との懇談会で授業料改定を話題とした以外には、2025年9月9日の教育研究評議会と2025年9月24日の経営協議会の2回の会議で議題としたのみであったそうです。加えて後者の経営協議会では、2025年10月30日に学長会見を行い、授業料改定を社会的に公表することが決定事項となっていたことが示されました。さらには、経営協議会と同日に開催された役員会にも諮っていないままの方針決定であったそうです(山口大学教職員組合ニュース第296号https://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~yunion/news/news_296.pdf)。ちなみに、我々教職員の多くは、現在(2025年10月17日)に至ってもまだ正式な説明は受けておらず、学部長や評議員、あるいは教職員組合や学生が把握した状況を漏れ聞くだけに留まっております。このようなやり方では、執行部と各学部および各教職員との間でこれまで醸成されてきた信頼関係を大きく損ない、無に帰してしまうこととなります。 改定やあるいはその公表に向けての検討プロセスが、学内に対してすらあまりに不透明であり、このような手続きを許容することはできません。
2. 決定・公表に至るまでの検討が不十分であること
第2に、第1の点とも関係して、決定・公表に至るまでの検討がそもそも不十分であることが問題です。
授業料を改定するにしても、今後どれだけの支出(増)が発生しうるのか、また、今後の運営費交付金の変動見通しがどの程度ありうるのか、授業料を改定した場合に志願倍率等にどのような変化が生じるのかといった検討を慎重に行った上で、必要な改定額を導き出すべきです。しかしながら今回、そうした慎重な検討が行われた形跡は見えません。例えば、2025年10月14日に開催された第271回教育研究評議会では、人文学部から「他大学に先駆けて学費を値上げすることのR8年度一般選抜の出願者数への影響」についての質問が出されたものの、それに対して谷澤幸生学長は「中・四国では山大単独値上げになる見込みだが、次年度は他の大学も値上げに踏み切ると予想。隔年現象で見れば来年度はもともと落ち込む見込みであるとともに、どの程度の落ち込みになるかは想定できない。」と回答したとのことです。なおここで「隔年現象」とされているのは、山口大学において、高志願倍率の年と低志願倍率の年が反復する現象のことを指します。要するにここでは、「おそらく他大学も2027年度には学費値上げに踏み切るであろうから、2年目以降の影響は少ないであろう」という根拠の示されないままの二重の「あろう」という不確かな想定と、 「よく分からないから想定しない」という検討を放棄する姿勢とが臆面なく述べられているだけであり、慎重な検討は行われないまま決定がなされていることがうかがえます。
また、増額の程度についても、教育研究評議会において、人文学部から「各部局への値上げ可能額照会」は行わないのかという質問が出されましたが、谷澤幸生学長は「当初検討したが、結論として全学同額とした。文科省が歓迎しないと思われる。」と回答したとのことです。実験等がある学部とない学部が典型的ですが、各学部で教育に要する経費は異なってきます。仮に授業料値上げを行うとしても、どの程度の額にするのが妥当なのか、実際に教育に携わっている教職員の意向を確認しながら決定すべきことであるにもかかわらず、「文科省が歓迎しないと思われる」ことを忖度しながら、執行部判断で一律同額に決定してしまったわけです。
以上のように、慎重な検討を行わないまま、その一方で文部科学省の反応には過敏な態度で、授業料改定を既定事項として進めていくやり方は、大学という公共性の高い教育機関の運営としても、科学的なエビデンスを重視すべき研究機関の運営としてもあり得ません。このような拙速かつ粗雑な検討に基づく決定を許容することはできません。
3. 教職員以外の他の関係者に対して不誠実であること
3点目に、教職員以外の、学外の方も含めた他の関係者に対して不誠実であることが問題だと考えています。ここまで、決定・公表に至るプロセスの問題点を述べてきましたが、この3点目が何よりも大きな問題だと我々は考えています。
まず、授業料改定の最も大きな影響を被る、受験生とその保護者や高等学校等への説明責任が果たされているように見えません。冒頭書いたように、この「お願い」は、当初一般の「お知らせ」と併記される形で公表されたものであり、かつ見出しのどこにも「授業料」に関連することが記されていませんでした。この「お願い」はその後「重要なお知らせ」に場所を移し再掲されましたが、見出しに「授業料」の文字がないのは相変わらずです。これでは、この改定に気づかない受験生や保護者が出る危険性が払拭できません。
さらに、2025年10月14日に開催された第271回教育研究評議会での報告添付資料を見ますと、2025年10月8日に開催された在学生向け説明会では、学生から「新しく入学してくる高校生には値上げについてきっちり説明を果たすのか、また入試時期に急な値上げの発表を行うことは適切ではないのではないか」という質問が出されています。これへの回答は、「改定の最終決定はまだであるものの、10月末までには授業料改定に関する情報をホームページや入試ページを通じて受験生にお伝えする予定。個別に高校を回って説明することは難しいため、ウェブサイト等を通じて迅速に伝えたい」というものでした。
繰り返しとなりますが、「お願い」が公表されたのは既に総合型選抜の出願も第1次選抜も終わった後です。また、今後の受験を検討している受験生や保護者、あるいは高等学校等にとっても、教職員である我々以上に寝耳に水の事態であったと思われます。
通常であれば、改定を検討している時点で各高等学校等を訪問して状況を説明し意見をいただいた上で検討を進めていくべきことで、今回の「お願い」はそもそもタイミングとしても方法的にもあり得ないものです。しかしそのことは措いておいて、仮に今回のようなタイミングと方法で公表するにしても、その時点での受験生や志願者に迅速に個別に説明すべきです。また高等学校等各関係部署にも説明のために訪問するのが当然です。授業料改定は、こうした方々にとって知らぬところで発生した事態です。説明責任は完全に授業料改定を決めた側にあります。にもかかわらず、山口大学は「ホームページや入試ページを通じて受験生にお伝えする予定」ですとか、「個別に高校を回って説明することは難しいため、ウェブサイト等を通じて迅速に伝えたい」といった方法で済ませようとしています。改定について「ご理解とご協力」をいただく立場にありながら、自身の労を厭うかのような安易な方法で――それも説明を届けるべき相手に届くかどうか確信の持てない方法で――説明を済ませてしまおうとするのは、山口大学に対する大きな不信を招くことになります。
また、授業料改定の影響を直接受ける可能性が低い在学生に対しても非常に不誠実です。2025年10月8日に在学生向けの説明会は実施されましたが、会場は山口大学の学生の多くが通う吉田キャンパスではなく、公共交通機関で2時間以上かかる常盤キャンパス(工学部)でした。説明会の時間も40分間と、非常に簡素なものでした。
なお、常盤キャンパスで実施することの是非についても山口大学教職員組合による「お尋ね」で問われています。これに対する「回答」としては、今回の授業料改定は、在学生を対象としたものではないものの、令和9年4月以降、大学院(中略)に進学する方は授業料改定の対象にする予定である」ため、大学院進学者が多い工学部の学生に学長の「決意と約束をお伝えし、ご理解とご協力をお願いする」という理由からであると述べられていました(https://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~yunion/news/news_296.pdf)。
確かに、最も大学院進学者が多いのは工学部のある常盤キャンパスであることは事実かもしれません。しかし、吉田キャンパスに所在する学部からも山口大学大学院に進学する学生は一定数います。ここでもまた、授業料改定を決めた側、すなわち説明責任を負う側が、説明を求める側の利便性も尊重せず、安易な方法で説明を済ませてしまおうとする態度が見えています。
山口大学は、今後の大学運営の方針を示す「明日の山口大学ビジョン2030」を公表しており、その中にある「山口大学の使命(ミッション)・目指す大学像」には、以下の文言があります。
山口大学の経営は、対話と合意を基本としつつ、学長のリーダーシップのもと、戦略的マネジメントと強力なガバナンス体制を構築します。その両輪によって、山口大学はすべての学生、教職員が誇りと喜びを持って学修や職務に取り組み、地域・社会からも信頼される大学として一層進化します。また、すべてのステークホルダーに対して積極的な情報公開を行い、透明性の高い大学経営を実践します。(https://www.yamaguchi-u.ac.jp/info/university_vision/index.html)
受験生や保護者及び高等学校等は、あるいは在学生は、山口大学が「信頼」を築いていこうとしている「ステークホルダー」と位置づけられる存在であるはずです。にもかかわらず、ここまで指摘したような、「対話と合意」のむしろ対極にあるような不誠実な説明の方法では、「信頼」を得られるはずもなく、かえってこれまでに築き上げてきた「信頼」を毀損してしまうことになります。「山口大学の使命」に照らし合わせても、今回の不誠実なやり方は、言行不一致としか言いようがありません。
以上3点の問題を踏まえ、山口大学教職員有志としては以下のことを要望します。
1. 令和8年(2026年)4月に授業料を改定するというスケジュールをいったん白紙に戻してください。学生説明会での回答にあるとおり、「改定の最終決定はまだ」であるのなら、それは可能なはずです。
2. その上で、学内外の関係する人々との十分な「対話と合意」の機会を設定し、正当性をもった決定を導いてください。それこそが、「山口大学の使命」に立ち戻った本来のやり方であると考えます。
以上
2025年10月17日
山口大学
医学部 教育・学生支援機構 教育学部 経済学部 工学部 国際総合科学部 時間学研究所 人文学部 ひと・まち未来共創学環 理学部
教職員有志一同
呼びかけ人(50音順)
秋谷直矩 池田勇太 石田俊 上田由紀子 上道茜 川尻剛士 黒羽亮太 桑畑洋一郎 杉野弘明 竹中幸史 塚田広人 南雲泰輔 野坂昭雄 速水聖子
藤川哲 真木隆行 Michel de Boissieu 村上龍 村田裕一 森朋也 森下徹 谷部真吾 山本冴里 脇條靖弘
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お問い合わせ先:yuhmt2025@gmail.com(山口大学教職員有志)