検証:豊橋市の多目的屋内施設(新アリーナ)計画
公共交通機関(市電)の輸送力
豊橋市が予測した交通手段別の来場者人数
「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」に新アリーナ(多目的屋内施設)への交通手段別来場者予測が記載されています。
「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」に掲載されている交通手段別来場者予測
この中で、豊橋駅を利用する人を1,800人、中心市街地(まちなか)の駐車場を利用する人を2,483人と予測しています。
そして、これらを合計した4,283人のうち、880人が市電(路面電車)、3,295人が徒歩と予測しています。
ここでは、市電の輸送力を1時間あたり440人、2時間で880人と見積もっており、市電で運びきれない人数を徒歩の人数としています。豊橋駅から新アリーナまで徒歩で23分かかるため、徒歩の多くは積極的に歩こうとする人たちではなく、市電が混雑して乗れないため歩かざるを得ない人たちと考えるべきでしょう。
アリーナの収容人数に対して市電(路面電車)の輸送力が足りていないことは明らかです。
市電(路面電車)の輸送力の実測
市電の1時間あたりの輸送力を実際に測定してみました。
市電が1年で最も多くの客を輸送する日は豊橋まつりです。2022年は3年ぶりの開催となり、豊橋公園にも多くの人出がありました。来場者は、目当てのイベントに応じて市役所前電停または豊橋公園前電停を利用します。
10月15日と16日の両日、豊橋駅から来る市電から上記2つの電停で降りた人数をそれぞれ1時間ずつ数えました。
豊橋市電の輸送力の検証 豊橋まつりでの実測結果
両日とも1時間に15本という超過密ダイヤで運行されていました。通常は1時間に8本です。
一日目(土曜日)の午後2時から4時過ぎにかけて、2つの電停で降りた人数の合計は1時間で約750人でした。1本あたりの平均降車人数は50人でした。
二日目(日曜日)の午前から昼にかけては、2つの電停で降りた人数の合計は1時間で約900人でした。1本あたりの平均降車人数は約60人でした。
両日とも午前から午後にかけてほぼ均等に大量の人を運んでいたことがうかがえます。
この調査結果から、利用客が分散していれば、超過密ダイヤを組むことで1時間あたり最大約900人を効率よく輸送する能力があることがわかりました。
新アリーナ(多目的屋内施設)の来場者の輸送
ところが、豊橋公園に新アリーナがつくられたとすると、市電利用客は興行開始前と終了後の限られた時間帯に集中します。利用客が集中する場合には、市電の時間当たりの輸送力だけでなく、「集中する時間幅」と「乗車待ち時間」も考慮する必要があります。
[興行の開始前]
一つの予測ですが、豊橋駅前電停にやってくる人は興行開始のおよそ2時間前から30分前の時間帯に集中すると考えられます。集中する時間幅は1時間30分程度です。
そうすると、仮に豊橋まつり並みの超過密ダイヤを組んだとしても、実際に市電が輸送する来場者の人数は最大でも1,400人に満たないことになります。
[興行の終了後]
興行が終了すると、観客の多くが一斉に豊橋駅方面へ戻ろうとして豊橋公園前電停に押し寄せます。当然、電停には収まりきれません。ほとんどの人は屋根のない歩道で長蛇の列をつくって待つことになります。
一方、豊橋駅までの距離は1.8km、徒歩で23分です。歩こうと思えば歩けない距離ではありません。歩きたくはないけれど、歩けば乗車待ちをしている間に豊橋駅に戻れるかもしれない…。
この心理により、列を一目見て乗車をあきらめる人や、列に並んでみたものの途中であきらめて歩き出す人が続出するでしょう。
歩けば23分の距離なのに1時間以上も待ち続ける忍耐強い人は少ないと思われますから、超過密ダイヤを組んだとしても市電が輸送する総人数は900人程度にとどまることになります。
豊橋市電の輸送力の検証 利用客が短時間に集中する場合の輸送力
市電を運行する豊橋鉄道の負担
豊橋まつりの期間、大量の人を超過密ダイヤで運ぶため、上下線それぞれの電停に4名の係員を常駐させていました。それでも、乗車を待つ人が電停の安全地帯に収まらず、国道1号線上にはみ出す危険な光景が見られました。
豊橋市電の輸送力の検証 安全性に対する懸念
豊橋公園に新アリーナをつくった場合、短時間に多くの客が集中する上、夜の興行試合もあります。国道1号線に設けられた豊橋公園前電停の安全確保が重要な課題となります。当然、相当な数の誘導員の配置が不可欠です。
仮に多数の誘導員を手配し、乗務員の勤務体制を変更して臨時の過密ダイヤを組んだとしても、来場者が市電を利用するのは、興行の前後合わせて2時間30分程度だけです。市は興行だけでも年に63回開催されるとしています。そのたびに、豊橋鉄道がこうした特別運行体制をとることは難しいと思われます。
臨時ダイヤの運行本数が減れば、輸送人数は上で述べた人数よりもさらに減ってしまいます。
まとめ
市電(路面電車)の輸送力は、5,000人規模の巨大アリーナの観客を運ぶには全く足りません。また、乗客の安全確保が重要な課題であることがわかりました。
市は、新アリーナ計画を拙速に進めるのではなく、まずは重要課題に対する解決策を市民に対して丁寧に説明し、市民の理解を得るべきではないでしょうか。市民不在の計画推進には反対です。