検証:豊橋市の多目的屋内施設(新アリーナ)計画

問題点の整理と解説

2024年2月18日更新

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 市民団体「住民投票の実現をめざす市民の会」が、17,628人の有効署名(必要数の約3倍)を集めて浅井豊橋市長に直請請求した「豊橋公園への新アリーナ建設の賛否を問う住民投票条例案」は、2月9日の豊橋市議会臨時会において、自民党、公明党、まちフォーラムなどの反対多数で否決されました。


 この直接請求は昨年2月に次いで2回目となるものでしたが、浅井市長は条例案に対して前回と同様、「本条例を制定する意義は見出し難い」との意見を付しました。


お知らせ

豊橋球場移設計画の中止を求めるオンライン署名(change.org)にご協力をお願いします

序章

 今から4年前、愛知県豊橋市の市長選挙を3週間後に控えた10月20日、豊橋公園にほど近い八町通に住む義男(71)は遅い朝食をとった後、いつものように老眼鏡をかけてパソコンの前に座り、地元新聞の記事に目を通していた。


『 新アリーナ構想 豊橋市長選出馬予定3氏の見解 

浅井氏(※1)は(中略)多くの市民の総意を得た形で施設を考えていくべきだと主張した。そして、場所は豊橋公園以外で、着手時期は未定とした。』(※2)


「おーい、母さん!」、義男は食事の後片付けをしていた妻の多恵子を大声で呼んだ。

「母さん、浅井候補が新アリーナを豊橋公園以外にするって言っとるぞ。」

「あら、そう。それじゃあ、みんなで浅井さんを応援せんといかんね。」

「『市民の総意を得た形で考えていく』って言っとるわ。」

「浅井さんなら市民の声をちゃんと聞いてくれそうね。わたし、パートのひとたちにも浅井さんをよろしくって言っとくわ。」


しかし…、

 この会話から1年半の後、義男と多恵子を含む多くの豊橋市民が、浅井氏の信じがたい裏切り行為に言葉を失うことになる。


※1 浅井由崇 現豊橋市長

※2 令和2年10月20日 東愛知新聞Webサイト

はじめに


 豊橋公園への多目的屋内施設(新アリーナ)整備計画の概要と経緯、整備後に予想される問題点を整理して、わかりやすく丁寧に解説しています。

 愛知県豊橋市の新アリーナ計画のガイドブックとしてお役立てください。あわせて、問題点を絞ってわかりやすく解説した下記動画も是非ご覧ください。


 このサイトはコンテンツが多いため、下の目次から読みたい項目をクリックして直接ジャンプすることをお勧めします。

1.アリーナ(多目的屋内施設)とは

 豊橋市は、2027年度の完成を目指して、豊橋公園内に5,000人規模のアリーナを新たに建設する計画を進めています。

 現在、豊橋市には総合体育館があります。体育館とアリーナはどちらもスポーツを行うための施設ですが、それらの担う役割は大きく異なります。

 一般的に、体育館は主として市民自らがスポーツを行うための施設であるのに対し、アリーナはプロスポーツやコンサートなどの興行の舞台であり、数千人から数万人を集めるイベントを開催するための集客施設です。

 そして、「観るスポーツ」の顧客経験価値(感動・熱狂・驚き・非日常体験など)を最大化させるために、アリーナには例えば以下のようなさまざまな設備が備えられます。

バスケットボールBリーグが公表している「ホームアリーナ検査要項 2026-27シーズン新B1用」より、アリーナに求められる要件を抜粋して箇条書きにしたチャート。大型映像設備、スイート、ラウンジ、サブアリーナ、メディア用スペースなど。併せて他アリーナの大型映像設備とスイートの写真も掲載している。

アリーナに求められる要件の一例

 つまり、アリーナは、私たちがイメージする”規模の大きな体育館”とはまったく異質なものです。大がかりな演出用設備やメディア用設備を備えるとともに、国王、大統領、首相などの国賓にも対応可能なラグジュアリーな観戦スペースも設けられます。

 そして、VIPだけでなく高額な料金を支払った一般人に対しても、一般観戦者と差別化したこうした特別な観戦スペースや飲食サービスのもてなしが提供されます。


 また、豊橋市は、アリーナをプロスポーツやコンサートなどの興行に利用するだけではなく、MICE(展示会、博覧会、企業の研修、国際会議等)に活用したり、これまでの総合体育館のような市民利用防災活動拠点としての役割も担わせるとしています。

 こうした理由から、豊橋市は「アリーナ」ではなく「多目的屋内施設」と呼んでいます。


 このようにプロスポーツの興行用につくられたアリーナの整備(設計・建設)には、体育館の何倍もの費用がかかる上、こうした大がかりな施設の維持管理・運営にも毎年たくさんのお金が必要です。

 多目的屋内施設整備基本計画(令和5年8月)(基本計画)によれば、豊橋市が計画する新アリーナの整備費は、概算で150億円、毎年の維持管理・運営費は2億3千万円と見込まれています。


 また、このように、莫大なお金がかかるアリーナを興行事業者に貸し出す際の利用料を、市は1日あたり173万円と想定しています(多目的屋内施設関連市場調査報告書」22ページ)。


 つまり、アリーナとは本来、体育館のように市民が低料金で気軽にスポーツを楽しむための施設ではありません。

 市民は主に総合体育館や各地区の体育館を利用し、アリーナにはできるだけ多くの興行を招致して施設利用料収入を稼ぎ出し、投じた巨額の建設費や維持管理・運営費を少しでも多く回収すべきなのです。


 こうした施設の使い分け、及び5,000人規模の興行をこれから毎年一定数招致できる確かな見込みが、アリーナ整備の最低条件です。

 しかし、23年8月に公表された138ページに及ぶ基本計画の中で、この点についての記載はわずか半ページに過ぎず、根拠を示さない単なる市の「期待」が書かれているだけです。


 以下に、基本計画に書かれている施設の概要を示します。


 現在の豊橋球場を移設後、その跡地に建設する計画で、5,000席以上の観覧席を備え、建築面積は約12,700平方メートルです。また、現在の武道館のうち、柔道場、剣道場、弓道場については、新アリーナに複合化・集約化する計画となっています。

6月9日に公表された「多目的屋内施設整備基本計画(案)中間報告」に掲載されている豊橋公園内の施設配置図。現在豊橋球場がある場所に多目的屋内施設が配置されている。

多目的屋内施設(新アリーナ)の豊橋公園内配置計画例

多目的屋内施設(新アリーナ)の施設計画

 座席数を豊橋市にある既存の公共施設と比較すると規模の大きさが分かります。

豊橋市の既存の公共施設と、豊橋公園に計画中の新アリーナとの座席数、駐車場台数および交通アクセス性の比較表。この表から、新アリーナの座席数は5,000席で、既存施設の座席数と比べて突出して多いことがうかがえる。一方、新アリーナには専用駐車場が無く、交通アクセスは既存施設よりも悪いことがうかがえる。

豊橋市の既存の公共施設と、豊橋公園に計画中の新アリーナとの座席数、駐車場台数および交通アクセス性の比較表

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2.これまでの経緯

2-1.佐原市政


 2016年9月に男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)が発足し、それまで総合体育館をホームアリーナとしていた三遠ネオフェニックスは、B1リーグに参戦することになりました。このため、週末に総合体育館で興行される試合が急増し、市民の利用が圧迫される状況となりました。


 折しも、国は2016年から17年にかけて、スタジアム・アリーナを収益を生み出す集客施設として位置付け、地域に経済効果をもたらすことを狙ったスタジアム・アリーナ改革を打ち出しました。

 国は、全国に20か所のスタジアム・アリーナをつくることを目標に掲げました。その中の一つが、豊橋市が豊橋公園内に建設するとした新アリーナ(多目的屋内施設)でした。

 佐原前市長は新アリーナ構想に前のめりで、2017年3月24日には安部元首相らが出席して官邸で開かれた未来投資会議の場で、豊橋市の新アリーナ構想をプレゼンし、国の支援をお願いしています。


2-2.浅井市長の公約違反と市民無視の暴走の始まり


 2020年11月、豊橋市長選挙で浅井由崇氏が前市長佐原光一氏を破って新しい市長に当選しました。市長選の争点の一つが新アリーナ建設の是非でした。


 選挙直前の10月20日の東愛知新聞は、

「浅井氏は、策定計画を見直し、多くの市民の総意を得た形で施設を考えていくべきだと主張した。そして、場所は豊橋公園以外で着手時期は未定とした。」

と報じました。

 また、各家庭に配られた浅井氏の選挙公報には新アリーナについての記載は一切なく、代わりに「豊橋公園内エリアに郷土歴史博物館や吉田城復元などの建設計画の策定と推進」と記載されていました。


 新たに就任した浅井市長は新アリーナについて、「これまでの計画をゼロベースで再検討することとした」と語り、市民の誰もが豊橋公園内に新アリーナをつくる計画はなくなったものと思いました。


 ところが、それから1年半後の22年5月30日に浅井市長は突然、

「多目的屋内施設の整備について、建設候補地として「豊橋公園」を選定し、県の財政支援も受けて施設整備に向けた基本計画の策定業務等を進めていくこととしました」

との報道発表を行いました。


 市民にとってはまさに寝耳に水でしたし、この報道発表後も多くの市民新アリーナ計画の再始動に気付いていませんでした。市民の知らぬ間に、いつのまにか豊橋公園に新アリーナを整備するとの方針が、市長や一部の市幹部の間だけで秘密裏に決められていたのでした。


 その後、浅井市長から市民に対して、公約違反についての説明や計画についての説明一切ありません。


 市が豊橋公園を新アリーナの建設候補地として選定した根拠に挙げたのは、市が22年1月に民間コンサルティング会社(日本総研)に業務委託して作らせた、わずか28ページの形ばかりの多目的屋内施設関連市場調査報告書でした。


 この報告書では、豊橋公園を含む市内5か所の建設候補地を抽出した上で、それぞれの候補地ごとに7つの評価項目について点数を付け、それぞれの候補地の合計点を計算しています。

 そして、豊橋公園には、7項目すべてにほぼ満点に近い最高評価を与えた上で他の4か所の候補地大きく水をあけて豊橋公園を最適候補地と結論付けています。


 ところが、少なくとも私が読む限り、この報告書は豊橋公園が最適候補地であるとの結論を導くために、恣意的に事実を歪曲して書かれています。いわゆる「出来レース」です。

 最終的に220億円を超えるであろう豊橋市の巨大プロジェクトの基本方針を決めるにしては、あまりにもいい加減でお粗末な内容と言わざるを得ません。 

 この市場調査報告書の杜撰(ずさん)な中身の検証結果は、「市の強引な進め方(1)市場調査報告書から」で詳述しています


 なお、この報告書の表紙には「令和4年6月」と書かれているにもかかわらず、実際に市民に公表されたのは9月になってからで、豊橋公園への整備を前提に、8月に市が民間コンサルティング会社(日本総研)に基本計画の策定等を5,500万円で業務委託してしまった後でした。

 つまり、この時も、市は豊橋公園を建設候補地として選定した根拠を市民に示す前にコソコソと事を進めてしまいました。


 これまで、住民に対する説明会は、22年10月1日に八町小学校体育館において、八町校区以外の市民を締め出して開催した2時間足らずの説明会1回限りです。

 この説明会でも、市の曖昧で形式的な説明に、まだたくさんの出席者が質問しようと挙手しているにもかかわらず、予定の2時間が経過すると強制的に終了を宣言し、会場からは怒号が飛び交いました。

 市としては、「地元住民への説明会、やったから」というアリバイ作りの目的は達したということでしょう。

 その後も、23年6月の市議会において、市は今後住民説明会を開催する計画は無いと明言しています。


 更に、23年6月になっても、多目的屋内施設計画の説明は「広報とよはし」に一度も掲載されていません。

 市長は、市民に隠れて何をコソコソやっているのでしょうか。


2-3.建設予定地の選定における市の大失態


 豊橋公園東側の北側エリア(市民プール跡地、武道館、テニスコートのあたり)への整備を前提に日本総研が新アリーナの基本計画の中間報告書案の提出を準備していた矢先の22年11月25日、新アリーナ建設予定地の半分ほどが、愛知県が指定した「家屋倒壊等氾濫想定区域」に含まれていると中日新聞が報じました。

 記事によると、豊橋市は新アリーナ建設予定地が豊橋公園の北側を流れる朝倉川の「家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食)」に含まれていることを確認しないまま、5月に豊橋公園への建設計画を発表していました。

 そして、上で述べたように、業務委託先の日本総研では豊橋公園への整備を前提に基本計画の策定業務が既に進行していました。

 しかも、市はこの新アリーナを県指定の「広域防災活動拠点」として活用することを想定していました。

新アリーナの建設予定地が家屋倒壊等氾濫想定区域に含まれていることを報じた新聞記事(一部)

新アリーナの建設予定地が家屋倒壊等氾濫想定区域に含まれていることを報じた新聞記事(一部)

豊川水系豊川下流支川 浸水予想図(家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食))

 「家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食)」とは、洪水時の河岸(かがん)侵食により家屋の基礎を支える地盤が流出し、建物がその構造に依らず倒壊・流出するおそれがある区域です。平成27年の水防法改正により愛知県が指定しました。

 防災活動拠点は応援部隊と受援物資の集結・集積拠点で、当然ながら災害リスクが十分に低い場所への立地が求められます。


 ところが、あきれたことに、建設候補地が氾濫想定区域に含まれる事実が発覚した直の12月市議会においても、は「建築物を建てることに制限を課すものではない」、つまり氾濫想定区域に建物を建てることは法律や条令で禁じられていない」開き直り、豊橋公園内での整備を進めていく姿勢を崩しませんでした

新アリーナ計画を見直す考えが無いことを報じた新聞記事(一部引用)

(2022年12月6日付 中日新聞東三河版)

 さらに、市は12月市議会の答弁の中で、新アリーナの建設予定地を、これまで説明してきた「豊橋公園東側の北側エリア」(公園東側のスポーツ施設があるエリアのうち、陸上競技場と豊橋球場を除いた場所)から、突然「陸上競技場豊橋球場を含む豊橋公園東側のエリア全体」に変更しました。


 このことは、これまで市が説明してきた新アリーナ単体の整備から、市がこれまで言及してこなかった既存施設(豊橋球場、陸上競技場等)の再配置(移設)を含む豊橋公園東側エリア全体の大規模整備に方針転換したことを意味します。この方針転換もまた、市の独断で決められました。

 詳しい内容は、「市の強引な進め方(2)12月市議会から」にも書かれています。

令和3年3月に豊橋市が公表した「多目的屋内施設の基本計画策定に向けた基礎調査報告書」に掲載されている多目的屋内施設の配置パタンを示す豊橋公園の地図(図表6-4)に、朝倉川左岸の家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食)を重ねて表示した地図

多目的屋内施設の配置パタン(令和3年3月の基礎調査報告書の図表6-4)に家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食)を重ねた豊橋公園の地図 

 また、この12月市議会においては、市の河川課や防災危機管理課が21年11月には既にこの情報を把握していたにもかかわらず、新アリーナの担当部署が知ったのはその1年後の22年11月だったことも明らかとなり豊橋市部署間での情報共有の問題点が露呈しました


 市が豊橋公園を新アリーナの建設候補地選定した根拠だと説明してきた上述の多目的屋内施設関連市場調査報告書の中では、新アリーナの建設候補地の抽出条件の一つ、「ハザードマップにおいて、災害のリスクが高いとされている区域に指定されていない土地であること」を挙げています。

 それにも関わらず、この調査報告書では、明らかに災害のリスクが高い「家屋倒壊等氾濫想定区域」を含む豊橋公園を候補地として抽出した上に、断トツの最高評価を与えているのですから、市の調査報告書がいかに杜撰で信用のおけないものであるかがわかります。

2-4.住民投票をめざす市民グループの活動


 22年10月、こうした市民そっちのけの市の性急な進め方に危機感を持った市民らは、豊橋公園への新アリーナ建設の賛否について市民自らが意思表示する機会が必要だとして、「住民投票の実現をめざす市民の会」を立ち上げました。

 市民の会は、「豊橋公園への多目的屋内施設(新アリーナ)建設の賛否を問う住民投票条例案」の制定を目指し、住民投票条例案の直接請求に必要な、有権者の2%以上の署名を集めることを目標に、22年11月15日から1か月間、署名活動を行いました。

 その結果、目標の約3倍となる約17,000人分もの署名が集まり、審査を経て翌23年2月に有効署名数が15,991人(有権者数の5.4%)と確定しました。これを受けて市民の会が浅井豊橋市長宛に条例制定を請求しました。


 ところが、浅井市長はこの請求に対し、あろうことか「条例を制定する意義は見いだしがたい」との意見を付した上で議会に上程し、23年2月27日に開かれた豊橋市議会本会議において、住民投票条例案は、自民党、公明党、まちフォーラムの反対によって否決されてしまいました。この市議会の判断は、多くの市民の声を踏みにじる結果となりました。

住民投票条例案否決を報じた新聞記事(一部引用)(2023年2月28日付 中日新聞東三河版)

2-5.半年遅れの基本計画案の公表


 23年6月9日、市が民間コンサルティング会社(日本総研)に業務委託してつくらせた多目的屋内施設整備基本計画(案)中間報告」(以下、基本計画案)が公表され、同日に開催された総務・建設消防委員会連合審査会で審議されました。


 当初の計画では、22年11月下旬には委託先から提出される予定でしたが、その直前に「家屋倒壊等氾濫想定区域」の問題が発覚し、提出が約5カ月遅れの23年4月末にずれ込んでいました。


 公表に先立ち31日、浅井豊橋市長が突然記者会見を開き、上記基本計画案の大枠について説明しました。

主な内容は以下の通りです。


豊橋公園内豊橋球場を豊橋総合スポーツ公園(B地区)へ移設し、その跡地に新アリーナを建設する。

 この移設先は県の津波災害警戒区域に指定されており、津波発生時に最大2.3メートルの浸水が予想される。


これまで約100億円と見込んでいた事業費が、球場の移設費用も含め総額220億円に膨らむ。

 今後さらに増える可能性がある。


新アリーナの維持管理・運営の収支は、毎年5,900万円の赤字となる見通し。


民間事業者に数十年にわたる新アリーナの運営権を売り渡すBTコンセッション方式を採用する。


豊橋球場の移設の概算事業費は36億円。


 これを受けて6月12日より7月20日まで、基本計画案に対するパブリックコメントの募集が行われました。

 パブリックコメントとは、市民生活に広く影響を及ぼす市政の基本的な計画、条例等を立案する過程において、これらの案を公表し、その案について市民等から広く意見を募り、これらの市民の声を考慮した上で意思決定を行う手続きです。

2023年5月31日に開かれた浅井豊橋市長の記者会見の内容を報じた6月1日付中日新聞東三河版の記事(一部)の引用。豊橋公園への新アリーナ建設計画に関して、現在豊橋公園内にある豊橋球場を海沿いの豊橋総合スポーツ公園南側へ移設し、その跡地に新アリーナを建設すると報じている。併せて、事業費の総額が220億円に膨らむことも報じている。

球場移設を報じた新聞記事(一部引用)(2023年6月1日付 中日新聞東三河版)

2-6.野球場の移設先選定における市の度重なる失態


 ところが、6月24日になって、浅井豊橋市長が記者会見の中で野球場の移設先と説明した豊橋総合スポーツ公園(B地区)が、「特定避難困難地域」に含まれている事実が新聞報道により明らかとなりました。

 「特定避難困難地域」とは、津波到達時刻までに津波が来ない安全な地域への避難(水平避難)が間に合わず、津波避難ビルへの垂直避難も困難な地域のことです。指定したのは豊橋市です。

 市は、「家屋倒壊等氾濫想定区域」を見落として整備方針の大幅な見直しを迫られた失敗から、何も学ばなかったのでしょうか。

 

 この報道を受けて、浅井豊橋市長は7月4日の定例記者会見で、慌てて豊橋球場移設先と同じ豊橋スポーツ公園内に既設の市総合体育館とアクアリーナ豊橋を津波避難ビルとして活用する方針を示しました。併せて、球場移設先に液状化対策と3m以上の盛り土を行い、野球場の観客席を避難場所として活用することも明らかにしました。


 この会見の中で、浅井市長は、5月31日に野球場の移設を発表した時点で、既にこうした課題を認識していた旨の発言をしましたが、この言葉を額面通り受け取った市民が一体どれだけいたでしょうか。市のドタバタぶりが見て取れます。

豊橋球場の移転先が市指定の特定避難困難地域に含まれていることを報じた中日新聞記事

豊橋球場移転先が避難困難地域と報じた新聞記事(一部引用)(2023年6月24日付 中日新聞朝刊)

2-.パブリックコメントの分析結果と市の対応


 8月18日、基本計画案に対して市民から寄せられた全てのパブリックコメントが公表されました。全部で4,685人から提出がありました。「アリーナ賛成です」、「バスケットがしたいです」といった、基本計画案に対する意見とは言い難いコメントも多数含まれていましたが、そうしたものを除いても1,000人以上から意見が寄せられ、この問題に対する関心の高さがうかがえます。

 市が公表している「パブリックコメント手続要綱の考え方」には、「複数の意見が提出された場合、類似した意見ごとにまとめて公表する。」と書かれていますが、市は自ら定めたこのルールを無視して、全ての意見をそのまま公表しただけでした。


 そこで、当ホームページを運営する「市民不在の新アリーナ計画に反対する豊橋市民の会」では、公表された全ての意見をデータベース化し、抽出キーワードによるパブリックコメントの分析を行いました。

全てのパブリックコメントの中の、説明不足に関するコメント、市民の声に関するコメント、アクセスに関するコメント、野球場移設に関するコメントをキーワードを使って抽出した結果をまとめた一覧表

多目的屋内施設整備基本計画(案)中間報告についてのパブリックコメントの分析結果

 この分析結果より、かねてより指摘されていた駐車場不足を問題視する意見が150件(人)以上と大変に多いことがわかります。また、豊橋球場を海沿いの豊橋総合スポーツ公園に移設する計画に反対または疑問との意見も124件(人)あり、移設計画を疑問視する多くの意見が寄せられました。

 また、計画への説明が不十分、住民説明会を開催すべきとの意見が100人以上から寄せられており多くの市民が計画に対する理解が不十分だと感じていること、市民そっちのけで事を進めてきた市の姿勢に対して不満や不信感を持っていることがわかります。


 これだけ多くの市民が、市に対して説明不足との意見を提出しているわけですから、当然、市は一旦立ち止まって市内各地で住民説明会を開催し、計画を丁寧に説明すべきです。その中で、多くの市民が懸念している駐車場問題や野球場の移設問題についての市の考え方をきちんと示すべきです。まともな自治体であればそうするでしょう。


 ところが、驚くべきことに、市はパブリックコメントを公表したその日に、ホームページ上に「多目的屋内施設整備基本計画」の最終版を公表しました。さらに、その中身を見ると、6月9日に公表された基本計画案から実質的に全く変わっていませんでした。つまり、市は、4,685人から提出されたパブリックコメントの意見を基本計画に全く反映せず、完全に無視しました。


 市は、一体何のためにパブリックコメントを募集したのでしょうか。市が意見を募集するにあたって公表した『「多目的屋内施設整備基本計画(案) 中間報告」についての意見募集の趣旨及び目的には、「皆さまにご提出いただいたご意見を参考に最終的な計画を策定する予定です。」と書かれています。

 市は、最初から市民の意見を聴く気など全く無かったわけです。これは、138ページもある基本計画案に目を通し、時間をかけて一生懸命意見を書いて提出した市民を欺く行為です。

 結局、パブリックコメントの募集は、市にとってのただのアリバイづくりに過ぎませんでした。

2-予算案の可決と整備費用総額の予測


 豊橋市議会9月定例会の最終日、2057年まで30年間の新アリーナを含む豊橋公園東側エリアの整備、維持管理・運営費230億円あまりの債務負担行為が、自民党、公明党などの賛成多数で可決されました。

 この230億円の中には、新アリーナの設計・建設費、新アリーナ整備に伴う豊橋公園東側エリアの施設整備費34億円(野球場の解体費用を含む)、新アリーナと公園東側エリアの30年間の維持管理・運営費が含まれますが、市は230億円の算定根拠や内訳を公表していません。


 また、市は、豊橋球場の移設整備事業は新アリーナ整備事業とは別の事業との立場に立ち、その土地代、建設費については、今回の債務負担行為の中に含まれていません。

 しかし、実際には新アリーナを建てるために豊橋球場を移設するわけですから、これらは一つの事業と捉えるべきです。この二つを別々の事業とする市の考え方には、見かけの新アリーナ整備費をできるだけ安く見せたいとの市の思惑が透けて見えます。


 「2-6.野球場の移設先選定における市の度重なる失態」で述べたように、豊橋球場移設地には地盤改良や盛り土が必要です。市が6月9日に「野球場の再編(案)について」の中で示した概算事業費36億円に、こうした費用が含まれているかどうかはわかっていません。場合によっては50億円程度はかかるものと思われます。


 加えて、65年以上の使用を想定している新アリーナは、定期的に大規模修繕を行いながら使用していくことになります。その費用は建設費150億円のおよそ30%に相当する45億円程度と想定されます


 結局、新アリーナ関連事業の整備費と30年間の維持管理・運営費は、230億円に野球場の移設費50億円と大規模修繕費45億円とを加え、さらに物価上昇分を加えた330億円~350億円程度になるものと推定されます。

2-2回目の住民投票をめざす市民グループの活動


 23年10月、市民団体「住民投票の実現をめざす市民の会」は、再び「豊橋公園への多目的屋内施設(新アリーナ)建設の賛否を問う住民投票条例」の制定を求めて2回目の署名活動を行いました。

 この署名活動は、「市民一人一人が建設の賛成/反対の意思を示す住民投票」を実施するよう市長に直接請求するためのもです。

 その結果、直接請求に必要な有権者の50分の1(5,908人)の約3倍にのぼる17,628人の有効署名が集まりました。これは、前回の署名活動の有効署名数15,991人を上回る数です。

 これを受けて1月22日、市民団体「住民投票の実現をめざす市民の会」は、新アリーナ建設の賛否を問うための住民投票条例の制定を浅井豊橋市長宛に直接請求しました。今後、臨時の市議会が招集され、審議されることになります。

2-10.ここまでの市の進め方の総括


 以上のように、浅井氏が豊橋市長に就任して以来、新アリーナ計画に関するなりふり構わぬ暴走はとどまるところを知りません。


 そして、ついに、75年前に整備され子どもたちを中心に多くの市民に利用されてきた豊橋球場を豊橋公園から追い出し、南海トラフ巨大地震までのカウントダウンが刻々と進む中、あろうことか、わざわざ海沿いの「特定避難困難地域」へ移設しようとする愚かな計画案まで飛び出しました。

 

 このような市長や一部の幹部職員の独善的で強引な進め方は、ユニチカ跡地問題での前市長の過ちと共通するものがあります。

 浅井市長は前回選挙の自身のビラに、「豊橋市には、市長の独断を許す邪気が存在しています。一言で言えば、現在の豊橋市政は予算、人事を握る市長に職員、議員が忖度せざるを得ない状況に陥っています。」と書いて、前市長を批判していました。まさに、浅井市長自身が今やっている強引な進め方そのものです。


 この新アリーナ計画の最大の問題は、こうした市民不在の強引な進め方でしょう。失敗したときに、そのツケを払うのは私たち市民です。

 現在の計画を一旦白紙に戻し、さまざまな立場や考え方の多くの市民が参加したオープンな議論を行い、市民主体で計画をつくり直すべきです。


 一方、市議会は市民の代表として、市民の意思に基づいて市政の推進・発展を目指すことを職務としています。

 豊橋市議会議員は、前市長と市の大失策「ユニチカ跡地問題」を止められず、一般市民が自力で解決した過去に学ぶべきでした。

 ところが、市議会(自民党、公明党、まちフォーラム)は市民グループが請求した住民投票条例案の制定に反対するなどし、今回もまた愚かな過ちを犯しました。

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3.豊橋市は何のためにアリーナをつくるのか

 そもそも、豊橋市は何のためにアリーナをつくろうとしているのでしょうか。

豊橋市が公表した多目的屋内施設の基本計画策定に向けた基礎調査報告書 令和3年3月には、以下の4つの目的が書かれています。

(1)総合体育館の老朽化への対応

(2)総合体育館の利用の過密化の解消

(3)プロスポーツ観戦、エンタメ等の来場者による経済効果を活用したまちづくり

(4)防災活動の拠点としての活用


これらのうち(3)に関して、アリーナをつくると地域経済が活性化するシナリオが新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」の中で説明されていますので、それを分かりやすく図にしてみました。

豊橋市が考える、新アリーナをつくると地域経済が活性化するシナリオを順を追って説明しているフローチャート

豊橋市が考える新アリーナを核とする地域経済の活性化シナリオ

 しかし、「新アリーナをつくれば、それを契機に次々と都合の良いことが起き、それらが連鎖していくだろう」とい「風が吹けば桶屋がもうかる」的な期待は本当に現実となるのでしょうか。


 例えば、2025年に愛知県新体育館が完成すると、愛知県内で1万人規模のライブコンサートを開催できる会場が4施設に増えます。それらの施設と競い合って、全国から多くの人が訪れるようなコンサートを5,000人しか収容できない豊橋の新アリーナに毎年一定数招致することができるのでしょうか。


 また、新アリーナ来場者が中心市街地(まちなか)を経由することで、興行開催日の開催時刻を挟んだ前後数時間に、一時的にまちなかがにぎわうことはあるにしても、それによって地域経済が活性化すると言うのはあまりにも短絡的過ぎないでしょうか。総額230億円以上を投じるアリーナ事業によってもたらされる経済効果を一体どれくらいと見込んでいるのでしょうか。

 具体的な経済効果について市はこれまで一切明らかにしていません。


 新たにアリーナをつくっても市が挙げている上記(1)~(4)の課題解決につながらないのであれば、あるいは上記課題を解決する手段がアリーナ建設に限らないのであれば、「そもそも何のためにアリーナをつくるのか」という根本的な疑問に突き当たります。


 何のためにつくるのかでは、こうした点についてさらに踏み込んだ検証を行っています。

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4.予想される問題点

 新アリーナは、一旦つくってしまうと最低でも65年以上、子や孫の代まで使われ続ける施設なのに、市は都合の良い市民受けする話を語るばかりで、問題点や課題に正面から向き合おうとしていません。 


 この章で取り上げている問題点は一部に過ぎませんが、そのいずれに対しても打ち手が限られ、解決が極めて困難なものばかりです。市民にとってはメリットよりデメリットの方がはるかに大きく、今後市民に及ぼす悪影響は計り知れません。

 本当は、そのことを市が誰よりも一番良くわかっているはずです。


 それなのに、なぜ、市はなりふり構わず強引に突き進むのでしょうか。この問いに対する答えは、論理的には一つしかありません。

 「豊橋公園にアリーナをつくること」、それ自体を目的としているからです。



 ここでは、豊橋市が2023年8月に公表した多目的屋内施設整備基本計画(令和5年8月)(基本計画)の内容から豊橋公園内に新アリーナをつくった場合に予想される問題点を整理して解説しています。

 問題点がたくさんあるので、最初の目次に戻って、ご自分の興味のある問題点をクリックして読み始めることをお勧めします。


 また、2024年2月、市民グループ「住民投票の実現をめざす市民の会」が作成したチラシにも、豊橋公園への新アリーナ建設計画についての6つの疑問、懸念点が簡潔にまとめられています。

令和6年2月に「住民投票の実現をめざす市民の会」が作成したチラシ。豊橋公園への新アリーナ建設計画についての6つの疑問点、懸念点が簡潔にまとめられている。

豊橋公園の新アリーナ計画で最も気になる6つのこと

(住民投票の実現をめざす市民の会)

 なお、豊橋市はこれまでに新アリーナ(多目的屋内施設)に関して以下の計画や調査報告書を公表してきており、今回公表された基本計画は、これまでの計画や調査結果を基礎としながら、更新された計画等を踏まえた新たな計画と位置づけられています。


公表:19年3月 新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023

(以下、まちづくり基本計画)


公表:21年3月 多目的屋内施設の基本計画策定に向けた基礎調査報告書

(以下、基礎調査報告書)


公表:22年9月 多目的屋内施設関連市場調査報告書

(以下、市場調査報告書)

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4-1.そもそも、税金でアリーナをつくる大義がない

  「3.豊橋市は何のためにアリーナをつくるのか」で述べた新アリーナ整備の4つの目的のひとつ「総合体育館の老朽化への対応」は、総合体育館を改修すれば済む話です実際に改修に向けた調査を終え、22年3月に豊橋市総合体育館改修検討調査報告書が提出されています。

 そして、豊橋市総合体育館は、26年9月に開幕するアジア競技大会におけるテコンドーと空手の競技会場となることから、24年度から25年度にかけて、アジア競技大会に向け改修が計画されています。


 新アリーナをつくる4つの目的の中で、市民が最も望んでいる「総合体育館の利用の過密化の解消」と、市がことさらに強調する「防災活動拠点としての活用」に対しては、新た体育館をつくれば解決します。体育館の何倍もお金がかかるオーバースペックなアリーナなど必要ありません。

 体育館はアリーナの3分の1以下の建設費でつくれますし、豊橋公園以外の場所につくれば、豊橋球場移設費も要りません。格安で整備することができます。


 ところが、豊橋市は、「プロスポーツやコンサートを観に来た来場者による経済効果を活用したまちづくり」という、市民に対するお仕着せの目的を持ち出し、整備すべき施設を「体育館」から「アリーナ」にすり替えました。


 「1.アリーナ(多目的屋内施設)とは」で述べたように、アリーナと体育館は別物です。

 体育館は、自治体がすべての市民に対し、公共サービスとして無料または低料金でスポーツを楽しむ場を提供する施設です。その整備費や維持管理・運営費は公共サービスのための必要経費ですから、税金を充てるのは当然です。


 一方で、アリーナは違います。アリーナは、お金を払って興行を観に来た観客に対して、感動や熱狂を体験する場を提供する施設です。これは市民に対する公共サービスではありません。なぜならば、観客は市民に限らず、市の言葉を借りるならば、「年齢、性別、国籍を超えて全国から訪れる人たち」だからです。


 ですから、アリーナ事業に多額の市民の税金を充てるというのであれば、市は、アリーナ事業による地元への経済効果がアリーナに投じる税金を上回るとの見通しと、その確かな根拠を示さなければなりません。


 しかし、「3.豊橋市は何のためにアリーナをつくるのか」で述べたように、市は具体的な経済効果について一切明らかにすることなく、「アリーナ」と「市民が使う体育館」を兼用にすれば、利用過密化の解消と地域経済の活性化を同時に解決できるとして、ついでに防災活動拠点の機能もおまけで追加し「多目的屋内施設」を計画しました。

 市民利用に対してオーバースペックなアリーナを使用することは、アリーナの収支を著しく悪化させる要因になります。


 さらに、豊橋市がアリーナ整備にこだわるもう一つの理由は、男子プロバスケットボールBリーグの最上位リーグB1リーグに所属し、豊橋市をホームタウンとする三遠ネオフェニックスのホームアリーナを準備することです。

 男子プロバスケットボールBリーグは26年シーズンの改革で、Bリーグ基準を充足する5,000人以上のホームアリーナを持つことを最上位リーグBリーグ・プレミア)所属の要件の一つに掲げています。

 現在、B1リーグに所属する三遠ネオフェニックスがホームアリーナとしている豊橋市総合体育館は、Bリーグ基準を満たさず、このままでは最上位リーグに残留することができなくなります。


 しかし、いくら地元のプロリーグチームとは言え、市が多額の税金を投入して民間企業のためにアリーナを用意するというのはおかしな話です。企業活動に必要な施設は企業自らが資金調達して整備すべきです。ですから、市も表向きにはそのような説明はしていません。

 それでも、市が市民そっちのけで強引かつ拙速に事を進める背景には、24年10月に迫ったBリーグ審査に間に合わせるためではないかと、多くの市民は考えています。


 基本計画の中で毎年の収支を赤字と予測し、アリーナの経済効果もはっきりしない中で、多額の税金を投入するアリーナをつくることに大義はありません。市の税金は市民のために使われるべきです。


 一般市民の目線でも、プロスポーツの試合や人気アーティストのライブコンサートを観るのに、「愛知県体育館や日本ガイシホールまで行くのは嫌だ。税金がどれだけかかってもいいから、推しのアーティストのコンサートを地元のアリーナで観たい」という市民がどれほどいるのでしょうか。

 日本ガイシホールへは、豊橋駅からJRで55分、JR笠寺駅で降りれば徒歩3分で着いてしまいます。

4-.収支予測が甘すぎて、赤字垂れ流しの箱モノとなる懸念

 市が「アリーナ」に固執するのであれば、市は肝心な魅力あるプロスポーツやコンサート等のコンテンツを新アリーナに呼び込むための戦略を持っているのでしょうか。

 近年は、大都市圏だけでなく全国各地でドームやアリーナの建設が進み、地方も巻き込んだコンテンツの招致合戦が激化しています。つくれば、プロスポーツや有名アーティストがホイホイと来てくれるような状況にはありません。


 そこで、ここからは、市がどこまで真剣に考えているのか、23年8月に公表された基本計画を検証してみます。

 基本計画89ページの図表7-6には、市が想定する新アリーナの年間利用日数が書かれています。

2023年8月に公表された「多目的屋内施設整備基本計画」に掲載されている新アリーナの想定年間利用日数が書かれた一覧表。スポーツ興行、コンサート興行、MICEそれぞれの想定利用日数が書かれている。

想定年間利用日数(多目的屋内施設整備基本計画より)

 年間、118日です。しかし、根拠は一切書かれていないため、22年9月に公表された市場調査報告書の内容を確認しました。

 市場調査報告書の18ページに書かれているプロスポーツ興行での想定利用日数をまとめると、以下の通りです。

2022年9月に公表された「多目的屋内施設関連市場調査報告書」に書かれている、新アリーナでのスポーツ興行の想定年間利用日数の表。プロスポーツの種類ごとにそれぞれの利用日数が書かれている。

スポーツ興行の想定年間利用日数

(22年9月に公表された多目的屋内施設関連市場調査報告書より)

 つまり、スポーツ興行の想定利用日数は、試合、設営・撤去を含め、年間75日です。

 75日だったものが基本計画(23年8月)で13日増えて88日となった理由は不明です。おそらく、基本計画では下で述べるようにコンサートの想定利用日数が減ったため、年間総利用日数が前回調査から減らないように、プロスポーツ興行の日数を適当に水増しして数合わせしたのでしょう。

(追加情報)

 長坂尚登市議会議員 からの情報では、基本計画ではB1リーグの試合日数を4日増やして28日、それに伴い、設営・撤去日数を8日増やして38日と想定しているようです。

 これは、三遠ネオフェニックスが毎年プレーオフに進出して準決勝まで勝ち進む前提で見積っているためです。しかし、2017-18年シーズン以降三遠ネオフェニックスは一度もプレーオフに進めていません。



 それでは、激しい招致合戦の中で、市はどのようにして毎年これだけの数のプロスポーツの試合を新アリーナに呼び込むのでしょうか。


 市場調査報告書(22年9月)には、Bリーグ以外の上記プロスポーツを新アリーナに招致できるとする理由を、「過去に豊橋市で(1回でも)開催したことがあるから」とだけ書かれていました。

 たったこれだけの理由で、今後毎年招致できると想定しているのです。卓球Tリーグに打診して好感触を得ているとか、相撲協会と個別に話をして毎年巡業に来てもらえるよう交渉を重ねているわけではありません。そもそも人気が高く、引く手あまたの大相撲の巡業を毎年呼べるはずがありません。

 これでは、「予測」ではなく勝手な「期待」に過ぎません。


 一方、上の表からわかるように、スポーツ興行の想定利用日数の7割以上がBリーグの三遠ネオフェニックスの試合です。はっきり言えば、フェニックス頼みです。現在でも豊橋市総合体育館で年間24試合が行われていることから、当面は新アリーナでも同じ試合数を行えるでしょう。


 しかし、新アリーナは今後65年以上使用される施設です。三遠ネオフェニックスが今後何十年間も継続して新アリーナで毎年24試合を行う保証などありません。途中で豊橋市とのホームタウン契約を解消したり、Bリーグのトップカテゴリー(Bリーグ・プレミア)から陥落したり、財務状況が悪化してチーム自体がなくなったりすることだってあるかもしれません。

 こうしたリスクを市はどのように考えているのでしょうか。市は相変わらず「だんまり」をきめこんでいます。



 それでは、次にコンサートについても検証してみます。


 市場調査報告書(22年9月)では、新アリーナでの年間コンサート数を30日と想定していましたが、基本計画では6日に激減しています。その理由を、市は、今後もアイプラザ(1,469席)を使い続ける方針に転換し、ホールコンサート機能を削ったからだと説明していますが、そもそも30日ものコンサート需要なんてあるはずがありません。


 アイプラザの利用料は1日約25万円で、新アリーナの173万円と比べて破格の安さなので、通常は1,500人以下のホールコンサートに新アリーナが利用されることなどあり得ません。


 それでは、アイプラザの定員を超えるアリーナコンサートについてはどうでしょうか。

 愛知県内で1万人以上の規模のコンサートを行える施設としては、バンテリンドーム ナゴヤ(ナゴヤドーム)、日本ガイシホール、名古屋市国際展示場(ポートメッセなごや)新第1展示館があり、2025年夏には最大17,000人収容の愛知県新体育館も完成します。いずれも公共交通機関でのアクセスが極めて良好な立地です。


 これにより、新アリーナが完成する頃には、県内で1万人規模のライブコンサートを開催できる会場は4施設になっており、5,000人しか収容できない新アリーナはあまりにも中途半端で、エンタメを企画・運営するプロモーターにとっては魅力を感じないでしょう。

 市の市場調査報告書でも、スポーツ施設運営事業者やイベントプロモーターにヒアリングした意見の中に、コンサートツアーは厳しいとの意見がありました。

 新アリーナに人気有名アーティストのライブコンサートを招致できる可能性は限りなく低いでしょう。


 ところが、19年3月に公表されたまちづくり基本計画の17ページには、次のように書かれています。

「新アリーナでは、プロスポーツ以外にもエンターテイメント性の高いコンサートや展示会など様々な催しが開催されることから、全国から年齢、性別、国籍を超えて多くの方が本市を訪れます。」

 市は、豊橋公園に「横浜アリーナ」か「さいたまスーパーアリーナ」でもつくる気でいるのでしょうか。「独りよがり」にも、ほどがあります。



 最後に、MICEについても触れておきます。


 MICEとは、企業等の会議、企業等の行う報奨・研修旅行、国際機関・学会等が行う国際会議、展示会・見本市などのことで、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称です。


 市場調査報告書(22年9月)では、MICEの想定利用日数を年間7日としていましたが、基本計画では、12日に増えています。理由は書かれていません。おそらく、「おまけ」しただけでしょう。

 これまでのプロスポーツ興行やコンサートと同様、基本計画には想定利用日数の根拠が一切示されていません。そこで、市場調査報告書(22年9月)を見てみると、21ページに次のような文章が並んでいます。


「(中規模展示および企業会議等を)呼び込む余地があるものと思われます。」


「MICEなどの多目的利用の需要を高めていく、また潜在的なニーズを掴まえていくことが、本市における課題とも言えます。」


「立地面から考慮すると十分利用可能性があるものと考えられます。」


 つまり、MICEについても確たる根拠に基づいているわけではなく、市長や市幹部のいわば「心意気」ひとつで想定利用日数を決めただけとしか思えません。


 以上、基本計画市場調査報告書(22年9月)に書かれている想定利用日数とその根拠を精査してきました。

 その結果、根拠の乏しい単なる「期待」、「独りよがり」、「心意気」だけで、毎年40回以上の興行需要があると結論付け、肝心のプロスポーツやコンサート等のコンテンツの招致については、戦略どころか何も考えていないことが明らかになりました。


 ところで、市場調査報告書(22年9月)では、事業収入を試算する際の利用料金を173万円/日(試合日)と想定しており、これは8,000人収容の浜松アリーナの利用料金と同額です。

 一方、26年開業予定のアイシンアリーナ(Bリーグ シーホース三河のホームアリーナ、5,000人収容、JR三河安城駅から徒歩)の利用料金は120万円/日です。

 近隣のアリーナと比較して、新アリーナの想定利用料金は明らかに高過ぎます。上述のように、興行の招致は競争です。こんな高い料金で招致できるはずがありませんから、実際にはアイシンアリーナと同程度の料金設定にせざるを得ないでしょう。


 その結果、実際の収入は、基本計画(23年月)に書かれた収入予測から大きく減り、毎年5,900万円の赤字としている市の収支予測からさらに赤字が膨らむことは必至です。まったく、あきれるほど甘く、杜撰な収支予測です。つくっても使われない赤字垂れ流しの箱モノをつくってしまう典型的な失敗パターンです。


 豊橋市に必要な施設は、興行が来る当てのない「お荷物」アリーナではなく、市民が使いたいときに使える体育館なのです。

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4-3.豊橋公園が一部の民間事業者の独占的な金儲けの場になる

 ここでは、新アリーナの整備、管理、運営等の事業手法の話をします。なじみの無い方がほとんどだと思いますので、できるだけ分かり易く説明します。


 これまで、豊橋市では、既に設置されている多くの公共施設の維持管理・運営に「指定管理者制度」を活用してきました。

 「指定管理者制度」とは、既存の公共施設の管理、運営をノウハウのある民間事業者やNPO法人等に包括的にアウトソーシングする制度のことで、指定管理者は豊橋市が公募によって選定、指名します。指定期間は5年間が一般的です。狙いは、民間事業者等のノウハウ活用と競争原理による管理コストの削減です。


 一方、これとは別に、民間事業者が公共施設等の設計、建設、維持管理、及び運営を一括して担うPFIと呼ばれる事業手法が全国で急速に広がってきました。

 PFI事業では、PFI事業者が複数の異業種企業と企業連合を組んだ上で、PFI事業者自らが銀行から資金を調達し、設計会社、建設会社、維持管理・運営会社等と個別契約を結ぶなど、全てのプロセスを民間主導で行います。

 PFI事業では、民間の資金、民間事業者の経営上のノウハウや技術的能力が十分に発揮されるため、市民の立場からすると、「指定管理者制度」と比べてさらに良質な公共サービスをより安い税負担で享受することができます。


 既に豊橋市で行われているPFI事業には以下のようなものがあります。

・豊橋市北部学校給食共同調理場整備・運営事業

・豊橋市芸術文化交流施設(穂の国とよはし芸術劇場「プラット」)整備等事業

・豊橋市斎場整備・運営事業


 新アリーナもPFI事業として計画されていますが、これまでの豊橋市のPFI事業がすべてBTO方式と呼ばれる方式で実施されてきたのに対し、新アリーナは市として初となるBTコンセッション方式を採用することが基本計画の112ページに記載されています。全国でも、愛知県新体育館に次いで2例目となります。


 BTコンセッション方式とは、数十年間の施設の運営権を民間事業者に渡してしまう方式です。

 これにより、民間事業者はアリーナの市民利用などの公共サービスやアリーナの貸館業務の提供だけでなく、より多くの利益を稼ぎ出すために施設利用料金を柔軟に設定したり、アリーナを活用したさまざまな収益事業を、いちいち市の許可を得ることなく自由に行うことができます。


 例えば、基本計画では、全節で述べたMICEでの利用も想定していますから、市が契約で禁止しない限り、運営権を取得した事業者が、宗教団体が開催する研修会のためにアリーナを使わせても構わないということです。


 さらに、こうした収益事業を行うために、市が最低限必要と要求する施設や設備に加えて、事業者自らが企画する収益事業のために必要な設備等を、予め入札時の提案書に織り込むこともできます。

 例えば、豊橋公園の立地を最大限に生かし、木立に囲まれた独立型チャペルをもった結婚式場を併設したり、高級フレンチレストランやカフェをつくるなどすれば、アリーナの貸館収入とは別に、1年を通して安定した収益が期待できます。


 このように、BTコンセッション方式では、事業者が独占的な運営権を得ることで、大きな裁量を持つことになります。市は、一旦運営権を渡してしまったら、契約内容や条例に反しない限り、事業者の収益活動に何十年にもわたって口を挟むことができなくなります。施設の運営権とは、このように強大で絶対的な権利です。


 このように強大で独占的な運営権を、行政はどうして事業者に渡してしまうのでしょうか?


 2025年夏の開業をめざしてBTコンセッション方式で建設が進んでいる名古屋市の愛知県体育館のように、利用需要が高く維持管理・運営費を上回る大きな収益を見込める場合には、事業者は契約期間(30年間)を通して見込まれる総利益から維持管理・運営費の見込額を際し引いた額を、運営権対価として愛知県に前倒しで支払います。言い換えれば、県は運営権を事業者に売り渡すのです。

 これにより、県にとってはこの運営権対価の金額分だけ建設費を抑えることができ、税金を節約できるというメリットがあります。

 具体的には、設計・建設費は約400億円ですが、事業者が県に対して運営権対価200億円を支払うため、県が負担するのは差額の200億円だけです(月間事業構想 23年8月号)。


 ところが、基本計画の91ページを見ると、新アリーナ単独での維持管理・運営の収支予測が5,900万円/年の赤字と書かれています。つまり、新アリーナは利益を生み出さない施設なのです。

 更に言えば、前節で述べたように、貸館収支予測の前提となる興行等の想定利用日数も根拠の乏しいただの「期待値」ですから、実際の収入はもっとずっと少なく、実質的にはもっと大きな赤字が予想されます。


 収支予測が赤字なのですから、運営権対価は当然0円ということになります。つまり、市は豊橋市の中心部に位置する豊橋公園という一等地のまん中につくる新アリーナの30年間の独占的な運営権を、タダで1民間企業に渡してしまうことになります。


 そもそも、豊橋公園は市民みんなのものです。公園の土地は国有地です。これまでは、誰でも公園内の公共施設を無料、もしくは極めて安い料金で利用することができました。駐車場も無料でした。

 ところが、豊橋公園に新アリーナができ、民間事業者が運営権を握ると、こうした状況は変わってしまいます。


 例えば、基本計画の71ページには、こども広場(移設した現在の児童遊園)の中に有料の屋外遊戯施設の設置を検討すると書かれています。駐車場も有料となります。先ほど例として挙げた高級レストラン、カフェなどがつくられれば、もちろん有料です。


 新アリーナの市民利用料金についても、総合体育館の利用料金よりも相当高く設定されるかもしれませんし、公園内で開かれるイベントの多くが有料になるかもしれません。市が公共の福祉のために運営するわけではありませんから、料金設定も割高になることが予想されます。


 一方で、これまでの児童公園は、子ども広場としてリニューアルされるものの、その面積は大きく減ってしまいます。

 つまり、今後は「豊橋公園はお金を払って楽しむ場所」になってしまう恐れがあります。市民が支払ったお金は、独占的に運営権を握る民間事業者の懐にどんどん吸い込まれていくしくみです。市に入るわけではありません。

 市の公園って、そういうところでしょうか?


 もう一度、書きます。

 豊橋公園は市民みんなのものです。我々市民が一体いつ、1民間事業者の独占的な金儲けのために豊橋公園を自由に使わせてもいいと言いましたか?

 公園は空き地ではありません。もし、金儲けしたいのなら、市内の使われていない空き地を買って、そこでやってください。

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4-4.子どもたちが使う豊橋球場の移設先は超危険地域

 「はじめに」に書かれているように、5月31日の浅井豊橋市長の記者会見で、豊橋公園内にある豊橋球場を豊橋総合スポーツ公園(B地区)へ移設し、その跡地に新アリーナを建設する計画であることが明らかになりました。

 しかし、この移設先は海岸からわずか50mほどの液状化危険度が「極めて高い」とされている場所で、その周辺一帯は県の「津波災害警戒区域」にも指定され、南海トラフ巨大地震が発生した際には、津波により最大2.3メートルの浸水が予想されている極めて危険な地域です。


 この点について、浅井市長は5月31日の記者会見の中で、「近くに避難ビルがある。ソフト対策で対応する」、「津波の予想到達時刻は地震から80分後なので、時間的余裕はある」との見解を示しました。避難ビルとは、ホテルシーパレスリゾートを指しているものと思われます。

豊橋総合スポーツ公園とその周囲の津波浸水想定域における最大浸水深さの分布を色分けして示した地図。牟呂地区に浸水深さが1mから3mのエリアが広範囲に広がっている様子が見て取れる。

津波による最大浸水深さ分布(地震・津波ハザードマップ)

 ところが、6月24日付け中日新聞朝刊が驚くべき事実を報道しました。この移設先は、豊橋市が国土交通省の指針に基づいて指定した「特定避難困難地域」に含まれていたのです。

特定避難困難地域」とは、津波到達時刻までに津波が来ない安全な地域への水平避難が間に合わず、津波避難ビルへの垂直避難も困難な地域のことです。

2023年6月24日付中日新聞の社会面に掲載された、豊橋球場移設先が「特定避難困難地域」に含まれることを報じた記事の抜粋

豊橋球場移設先が「特定避難困難地域」に含まれることを報じた新聞記事(一部引用)

(2023年6月24日付 中日新聞社会面)

下記の地図は、「豊橋市津波避難行動指針」に示されている「特定避難困難地域」です。(赤く塗られた地域)

「豊橋市津波避難行動指針」に掲載されている特定避難困難地域を示した地図

特定避難困難地域(豊橋市津波避難行動指針より)

 市は、球場移設先が、市自らが設定した「特定避難困難地域」に含まれることに気付かずに、移設を決めたようです。あまりにもお粗末で、無責任です。

 豊橋球場はこれまで主に子どもたちを中心に使われてきましたので、移設後もこれまでと同様、子どもたちの試合や練習に多用されるでしょう。

 新たな球場には3,000席の内野席が設けられ、外野席もあります。当然、これら数千人に対する津波からの避難手段を確保しなければなりません。


 この報道を受けて、浅井豊橋市長は慌てて、記者会見で以下の二つの対策案を発表しました。

 対策案① 市総合体育館とアクアリーナ豊橋を津波避難ビルに指定する

 対策案② 移設先に液状化対策と盛り土を行い、野球場の客席を津波避難場所とする


 ところが、この対策案①、②はともに津波からの避難対策にはなり得ません。

 

 豊橋市津波避難行動指針の「5.避難困難地域の検討」(21ページ)では、高齢者や車いす利用者等の避難可能距離の上限を0.5km(直線距離)と規定しています。これは実際の避難距離750mに相当します。

 ところが、野球場の移設先から市総合体育館までの実際の避難距離は約1kmですから、対策案①は市が自ら策定した行動指針に従っていません。

豊橋球場の移設先予定地から市総合体育館と津波避難ビル(ホテルシーパレスリゾート)までの避難経路と避難距離を示した地図

移設先野球場から市総合体育館までの避難経路

 対策案②についても、さまざまな問題があります。


 愛知県市町村津波避難計画策定指針」、及び「津波避難対策推進マニュアル検討会報告書 市町村における津波避難計画策定指針(総務省消防庁)」には、

津波避難ビルを指定する際、海岸に直接面していないこと。

海岸方向にある緊急避難場所へ向かっての避難をするような避難路の指定は原則として行わない。

と書かれています。

 海からわずか50mしか離れていない場所に津波避難場所を整備すれば、付近の多くの人たちわざわざ海の方向に向かって逃げることになってしまい、上記の計画策定指針に反することになります


 さらに、地震発生時、仮に、盛り土して避難場所とした野球場にとどまって津波から逃れたとしても、周囲一面が標高1m以下の地域では水が引くまで数日以上かかり、孤立した数百人、数千人が過酷な屋外で救助を待つ間に、衰弱、脱水、熱中症、低体温症、エコノミー症候群、ストレスなどで、体力の無い高齢者や子ども、怪我人が多数「災害関連死」で亡くなる恐れがあります。

球場移設先の周囲には広く標高1m以下の地域が広がっており、津波に襲われた場合、野球場は陸の孤島と化す

球場移設先周辺の標高を示す地図

 南海トラフ地震が刻一刻と迫る中、たくさんの子どもたちが集う施設をわざわざ海沿いの「特定避難困難地域」につくるなど、まともな行政が行うことではありません。

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4-5.今後、豊橋公園に他の建物を建てられなくなる

 この問題は、長坂尚登市議会議員が6月9日の市議会で指摘した、豊橋公園の将来にとって大変に重要な問題です。長坂議員のブログ豊橋公園で吉田城郭の復元、新アリーナで今後50年以上不可能に?に詳しく書いてあります。ここでは、この内容を参考に解説していきます。


 豊橋公園は、都市公園法に定められた建ぺい率の制限を受けます。建ぺい率とは、豊橋公園全体の面積に対する公園内の全ての建物の総建築面積の比率です。


 基本計画の76ページを見ると、豊橋公園全体(東側と西側の両方)の面積は約216,400平方メートルで、建ぺい率の上限は10%と定められていますから、公園内の全ての建物の建築面積の合計を

216,400×10%=21,640平方メートル

以下に収めなければなりません。


 一方、新アリーナを建てる前の時点で公園内に既に建っている建物(美術館、三の丸会館など)の建築面積の合計は6,582平方メートルです。※

※新アリーナを建てる際に武道館は取り壊すため、武道館の建築面積は含んでいません。


 よって、新アリーナも含め、今後建てる建物の建築面積の合計は

21,640―6,582=15,058平方メートル

以下に収めなければなりません。

 そして、基本計画案の66ページには、新アリーナの建築面積が約12,700平方メートルと書かれていますから、豊橋公園内に新アリーナを建ててしまうと、公園内に建てられる建築面積は

15,058-12,700=2,358平方メートル

しか残らないことになります。


 また、アリーナの建設に伴い、前述の4-2節で述べたレストランやカフェ、相撲場、テニス観覧席なども計画されますから、実際には残された建築面積は2,358平方メートルよりもずっと小さくなります。


 そうなると、アリーナ建設後には、豊橋公園内で何かの建物を取り壊さない限り、他の建物をほぼ何も建てられなくなります。美術館博物館の増築もできませんし、浅井市長が選挙公報に公約として挙げていた「郷土歴史博物館」も建設できなくなります。

 但し、公約に挙げた「郷土歴史博物館」に関して言えば、浅井市長は既に「(新アリーナは)豊橋公園以外で」という公約を破ろうとしているわけですから、市民としては一つ破っても二つ破っても同じという冷めた見方もあります。


 この建ぺい率の問題は、今後65年以上先までの豊橋公園全体の活用方法に大きな制約を課すものです。65年とは言わないまでも、10年先、四半世紀(25年)先の豊橋公園のビジョン(あるべき姿)を、市と市民が一緒になって描いた上で、その1構成要素として新アリーナを位置付けるべきなのです。


 しかし、基本計画の75~76ページでは、都市公園法への対応として、わざわざ既存施設の建築面積の整理と、今後立地可能な建築面積(建築余地)の算出までしておきながら、「新アリーナは建築余地に収まる」という結論で終しまっています。新アリーナを建てた後のことなんて、お構いなしです。

 浅井市長や市の幹部は10年先どころか、せいぜい自分の任期中のことしか考えていないのでしょう

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4-6.自然、歴史、文化を感じる市民憩いの場が失われる

 豊橋市の中心部、豊川、朝倉川の南側に広がる緑豊かな豊橋公園には、吉田城址に代表される貴重な歴史遺産、美術館などの文化施設、豊橋球場、陸上競技場、武道場など市民のためのスポーツ施設、児童遊園などがあります。


 昔から毎年春には桜まつり、6月には納涼まつり(夜店)、10月には豊橋まつり・造形パラダイスの会場として、多くの豊橋市民が子どもの頃から親しんできた思い出の詰まった場所です。

 そして、現在の豊橋公園も昔と変わらない閑静で落ち着いた原風景を残し、懐かしく穏やかな時間が流れる市民の憩いの場所です。


 ところが、市は75年もの歴史がある豊橋球場を豊橋公園から追い出し、そこに建築面積12,700平方メートル、高さ25m程度の巨大な建築物を建てようと計画しています。この高さは7階建てのビル相当で、下の写真にある豊橋市役所西館庁舎の7階の高さとほぼ同じです。

豊橋市役所西館庁舎(中央の建物)

 長い間多くの市民から親しまれ、多くの市民の思い出の舞台となってきた豊橋公園は、一部の民間企業が独占的利益を稼ぎ出す興行の舞台へと、その姿を大きく変えてしまいます。

 豊橋公園の景観は一変してしまいます。樹齢何十年ものたくさんの樹木が伐採され、多くの自然が失われ、公園の生態系への影響も懸念されます。


 陸上競技場やテニスコートとは違い、アリーナは屋内施設です。興行は建物内部の閉鎖空間で行われるのですから、建物自体をわざわざ市街地の緑豊かな公園内につくる必要性など全くありません。

 仮につくるにしても、市民から憩いの場を奪うのではなく、車でのアクセスがよく十分な広さの駐車場を確保できる利便性の良い郊外の空き地につくればよいだけの話です。その方が、市民もアリーナ来場者もありがたいはずです。


 豊橋公園の自然については、urikaedeさんのブログ「もり~ゆ 野巡りの日々、第3章」とInstagramに大変に詳しく綴られていますので、この機に是非そちらもご覧ください。写真も豊富で、かなりのボリュームです。「まなざし自然観察会」の報告を読むと、身近な豊橋公園の自然の豊かさにあらためて気づかされます。

 urikaedeさんも豊橋公園への新アリーナ建設が公園の自然や生態系に及ぼす影響を大変危惧されており、ブログの中で新アリーナ問題に対する考えを語っておられます。

豊橋市役所13階の展望ロビーから撮った緑豊かな豊橋公園全景写真

豊橋市役所東館13階展望ロビーから望む豊橋公園(平成20年3月)

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4-7.車で直接行けないアクセスの悪さ

 基本計画68ページを見ると、豊橋公園内には、公園利用者のためにこれまでと同程度(400台)の規模の駐車場をつくる計画となっています。

 あわせて、79ページには、「基本的には興行・大規模イベント利用者向けの駐車場は設けない方向で進めます。」と書かれています。このため、観客は新アリーナまで直接車で行くことができません。


 これは、豊橋公園内に広い駐車場スペースを確保できないためですが、それだけでなく豊橋市は敢えて新アリーナまで直接車で行くことを制限する方針です。よって、少なくとも当面の間は、土日祝日であっても、市は市役所の来庁者用駐車場や沖野にある市役所職員用駐車場を開放することはしないでしょう。


 その理由は、「3.豊橋市は何のためにアリーナをつくるのか」で述べた好連鎖を起こすために、できるだけ多くの新アリーナ来場者を中心市街地(まちなか)に呼び込むためです。

 来場者がアリーナの近くまで直接車で乗り付け、イベント終了と同時にさっさと車に乗り込んで帰られてしまったら都合が悪いのです。

 できるだけ多くの来場者に豊橋駅、または豊橋駅周辺(まちなか)の駐車場を利用させ、そこから豊橋公園まではまちなかを通って徒歩または市電で来てもらうことで、これらの人たちにまちなかの商業施設でお金を使わせる魂胆です。


 これが、市がわざわざ専用駐車場をつくるスペースのない街の中心部の豊橋公園を選び、新アリーナ来場者に過度な不便を強いる理由の一つです。

 通常、こうした集客施設を計画する際には、第一にアクセスの良い立地を検討します。アクセスが悪いと客足が遠のくからです。しかし、豊橋市はアリーナ来場者の利便性など眼中にありません。


 2月5日に豊橋市公会堂において、豊橋商工会議所青年部が主催した「とよはしシビックプライドシンポジウム」が催されました。豊橋公園への新アリーナ建設の機運を高める狙いです。


 この中で、パネルディスカッションのパネリストのひとりが、新アリーナの建設場所は豊橋公園がふさわしいとし、次のように発言しました。

『駅から豊橋公園までの経路を「フェニックス通り※」として歩行者天国にし、その中で楽しめるいろいろな工夫をして「あっという間にアリーナに着いてしまう」ことで移動の負担を軽減させ、まちのにぎわいをつくる効果も生まれる。』


※豊橋市をホームタウンとするB1リーグ「三遠ネオフェニックス」から名付けた名称


 「歩行者天国って、昭和かよ!」と思わず、突っ込みたくなりました。歩行者天国で豊橋の経済が活性化?

 豊橋市は、23年4月にオープンしたイオンモール豊川や、25年に岡崎市本宿にオープン予定のアウトレットモールに対抗して、歩行者天国で豊橋市のまちなか商店街に客を奪還するのでしょうか。

 一体、経済効果をどれくらいと想定しているのでしょう。


 春や秋の穏やかな日ならともかく、猛暑日の日中、北風が吹きつける真冬の夜、雨の日、強風の日、あるいは花粉が飛ぶ季節に、1.8kmをのんびり楽しみながら歩きたい人がどれほどいるのでしょう。

 Bリーグのブースター(ファン)であっても、試合は楽しみたいが会場までは車で速く楽に行きたいと考える人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。平日、仕事が終わってから急いで車で応援に駆けつけたい人もたくさんいるでしょう。


 まさに、新アリーナ来場者のことなど考えず、「つくる立場」の都合しか考えない身勝手なお仕着せに過ぎません。

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4-8.杜撰な市民アンケートで隠された駅周辺駐車場不足

 基本計画79ページには、交通手段別の来場者予測が載っています。この予測は、22年10月に市が市民を対象に行ったアンケート調査を基に試算した結果だと説明されています。


 実は、同様の調査は過去にも行われており、2019年3月に公表されたまちづくり基本計画の24ページにも載っています。こちらは、2011年11月に公会堂で開催されたJpopアーティストのライブコンサートにおいて、どのような交通手段で来たかを尋ねたアンケート調査を基に予測したものです。


 これら二つの調査結果を比較してみました。

2019年3月に公表された「まちづくり基本計画」に記載されている交通手段別来場者予測数と、2023年8月に公表された整備基本計画に記載されている交通手段別来場者予測数の比較表

これまでに公表された二つの計画の交通手段別来場者予測の比較

 二つの調査結果を比較して最初に気付くのは、同じ目的同じ分類方法に従って調査を行っているのに、両調査の結果が大きく異なっているという点です。

 基本計画では「駅周辺駐車場まで車で来る人数」が前回調査より1,00人も少なくなっており、「豊橋駅から市電」は1,700人増え、「豊橋駅から徒歩」はなんと2,600人も少なくなっています。

 これらの人数は来場者5,000人あたりの人数です。


 調査には当然ばらつきがありますが、それにしても結果があまりにも違いすぎます。明らかに不自然です。

 そこで、基本計画の来場者予測の基となった、22年10月に市が実施したアンケート調査の内容を確認しました。すると、アンケートの設問自体に問題があったことが明らかになりました。

2022年10月に豊橋市が実施した市民アンケート調査票の中で交通手段について尋ねた設問

 この問13では、「本施設までどのような交通手段を用いますか」と尋ねていますから、新アリーナ(豊橋公園)までの交通手段である1、2、3、5、6、7のいずれかを選択するのが自然です。


 ところが、この問13の選択肢に紛れ込ませた4だけは、新アリーナではなく経由地である豊橋駅までの交通手段です。

 たとえば、自宅から豊橋駅周辺の駐車場まで車で行き、車を置いた後に豊橋駅前から市電に乗って豊橋公園まで行こうと考えている人(即ち図の4⇒3)は、何番を選んだでしょうか?

 4を選んだ人と3を選んだ人がいるはずです。(○は一つ)と書いてあるのでどちらにするか迷った人も多いでしょう。

 それにもかかわらず、基本計画案では「豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数」を、上記設問で4を選んだ人数だけで算出しています。即ち、「豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数」を実際より過少に見積っている可能性があります。


 さらに、「豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数」に着目し、基本計画案の27ページに記載されているアンケート結果を詳しく見てみます。

黄色の棒グラフは、駅周辺駐車場を利用すると回答した人の年齢層ごとの割合。青色の棒グラフは、アンケートに回答した年齢層別人数

駅周辺駐車場を利用すると回答した人の年齢層ごとの割合(黄色)と年齢層ごとのアンケート回答者人数(青)

 上の棒グラフは、交通手段を尋ねた問13に回答した1,004人の年齢層別の分析結果です。

 新アリーナでプロスポーツやライブコンサートを楽しむ主な世代と考えられる20代から40代では、約4割弱の人が豊橋駅周辺駐車場を利用すると回答しています(黄色の棒グラフ)。そして、50代以上では年齢層が高くなるほど、駐車場利用割合が低下していきます。

 一方、回答者の人数(青い棒グラフ)は年齢層が高くなるほど多くなっており、50代以上の回答者数合計は20代から40代の回答者数合計の約2倍です。


 つまり、大規模興行の主要な観客層として想定される比較的若い年齢層の行動を、明らかに中高年に偏ったサンプリングデータを用いて予測していることになります。

 この不適切な調査方法によっても、「豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数」実際より過少に見積っている可能性があります。


 今回の基本計画案(23年6月)の作成については、豊橋市からの委託株式会社日本総合研究所(日本総研)5,500万円で請け負っています。私はこれまで、日本総研を日本を代表するシンクタンクだと思っていたのですが、中間報告とは言え、大学1年生でもしないようなレベルの低いデータ分析で重要な結論を導いていることにあきれてしまいました。


 以上の分析より、少なくとも交通手段を尋ねた問13は杜撰なアンケートであり、その結果は全く信頼できないことがわかりました。

 これが、先ほど述べた二つの調査結果が著しく異なる要因の一つと考えられます。


 そこで、豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数が、前述のまちづくり基本計画19年3月)で示されている2,500人だと仮定します。

 そして、基本計画案80ページに書かれている「自家用車1台に1.79人が乗車する」との想定に従えば、同ページに書いてある783台よりもはるかに多い約1,400台の車が豊橋駅周辺駐車場に押し寄せることになります。


 ところが、基本計画80ページには、

「豊橋駅から豊橋公園に至るまちなかの公共駐車場並びに民間駐車場の利用状況を調査したところ、約1,200台程度の駐車余地がある」

と書かれてありますから、これらの駐車余地を全て使っても駐車場が足りません。


 つまり、基本計画案で述べている「自家用車でまちなかの公共・民間駐車場に停め、本施設(新アリーナ)に来場を促す対策」を採用できないという、豊橋市にとってはまことに都合の悪い結果に帰着します。

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4-9.駅周辺道路の大渋滞とまちなかからの客離れ

 4-8節で述べたように、新アリーナで5,000人規模のイベントが開催されると、興行開始の数時間前から、約1,400台の車が中心市街地の駐車場に押し寄せ、イベント終了後には帰る車が駐車場から一斉に出てきます。


ここで、1,300台のイメージを駐車場の収容可能台数と比べてみます。

えき地下駐車場 138台

まち地下駐車場 127台

パーク500 500台

松葉公園地下駐車場 211台


これらの合計 976台


 これらの駐車場がすべて空だったとしても収容しきれない台数です。駐車場に入る車が集中すると、入庫待ちの車が道路の左側をふさいで延々と並ぶことになり、豊橋駅周辺道路で大渋滞が発生します。また、運転者は空き駐車場を探しながら運転するために脇見が増え、交通事故を誘発しやすい状況に陥ります。


 基本計画79ページには、(興行・大規模イベント時における周辺交通対策の取り組み例)が4つ書かれていますが、どれも実効性や実現性に疑問を感じる凡庸なものばかりで、「真面目に検討してないな」という印象を受けます。

 例えば、ICT技術を活用した駐車場の事前予約や利用状況の可視化を対策の取り組み例として挙げています。

 しかし、駅周辺には数台規模から500台規模まで大小たくさんの駐車場があり、それぞれ運営会社もバラバラです。会社の垣根を越えてこれらの駐車場の利用状況を一括してスマホ等で確認できるシステムを構築するのは容易なことではありませんが、基本計画案には具体的な計画や内容は一切書かれていません。


 実施に困難が予想される施策を取り組み例として挙げるのであれば、せめて課題の整理くらいは行って欲しいものです。


 仮に、市が基本計画案で予測している年間約40回の興行が開催されるとしたら、駅周辺道路でこうした大渋滞が頻発することになります。

 アリーナへ行くために駅周辺の駐車場を目指す車だけでなく、駅まで家族を送迎する車、買い物客の車、バス、タクシーなども巻き添えを食います。


 これまでに述べてきたように、市は新アリーナの来場者をまちなかに呼び込んで商業施設で消費してもらうことを目論んでいます。

 確かに、試合終了後にファン同士がスポーツバーなどで交流したり、コンサートの帰りにまちなかの飲食店に立ち寄ったりすることはあるでしょう。

 しかし、それと引き換えに、まちなかの駐車場の混雑や駅周辺道路の大渋滞によって、一般客が来店機会を失うことも起こるはずです。

 アリーナでイベントが行われている数時間は潮が引いたように一時的に渋滞が解消するものの、駐車場はどこも満車で一般客は駐車できず、来店を断念することになるでしょう。

 その結果、イベントが始まる数時間前からイベントが終わるまでの時間帯は普段よりもかえって来客数が減ってしまう恐れがあります。


 さらに懸念されるのは、新アリーナができると、突然の混雑に巻き込まれるのを心配して、買い物や飲食をする客が中心市街地(まちなか)を避けるようになるかもしれないという点です。

 新アリーナで興行が催されるのは、まちなかの商業施設が最も集客を期待する週末の昼間と平日の夜ですから、興行の有無にかかわらず、恒常的にこの時間帯の来客数が減ってしまうかもしれません。


 特に、まちなかで商売されている方は、是非この点について考えていただきたいと思います。


 車でのアクセスの問題点については、「車でのアクセスと交通渋滞」にも関連情報が載っています。

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4-10.公共交通機関(市電)の輸送力不足と混雑

 基本計画79ページの交通手段別の来場者予測では、3,500人もの人が、豊橋駅を経由して来る結果となっています。しかし、4-8節で説明したように、杜撰な市民アンケート結果を基にしたこの交通手段別来場者予測は信頼に値しません。

 代わりに、まちづくり基本計画19年3月)の24ページに載っている来場者予測を見ると、豊橋駅(駅周辺駐車場)経由で来る人が約4,000人います。


 豊橋駅と新アリーナとの間は約1.8km、徒歩で23分かかりますから、これらの人の多くは市電を利用しようと考えるでしょう。特に、興行が終わって駅方向へ戻る際には市電を利用してさっさと帰りたいと考える人が多いでしょう。

 これに対して、市電で輸送できる人数は最大でも900人程度と見込まれるため、約3,000人の来場者は豊橋駅(まちなかの駐車場)と新アリーナとの間を歩かなければなりません。真夏も真冬も夜も雨天でも、歩きたくなくても歩くしかありません。興行終了後はアリーナのタクシー乗り場も長蛇の列でしょう。


 新アリーナでの興行開始の2時間前くらいから、市電や路線バスなどの公共交通機関は大混雑します。日頃から市電や路線バスを利用している人も、長蛇の列に並んで長時間の乗車待ちを強いられることになります。

 特に市電を利用する機会の多い八町、東田、井原、岩田、豊岡、平川、平川本町、多米周辺の住民は大きな影響を受けてしまいます。

 

 市電の輸送力の実測データを含めた詳しい検証結果は、「公共交通機関(市電)の輸送力」をご覧ください。

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4-11.周辺住民の生活環境悪化

 新アリーナ(多目的屋内施設)の建設予定地である豊橋公園周辺の住民は、交通渋滞、治安の悪化、騒音などを大変心配しています。


 市はこれまで新アリーナ周辺に観客専用の駐車場は設けないと言ってきました。しかし、建設後にアクセスの不便さ故に興行来場者数が伸び悩むことは容易に想像できます。

 観客数を確保できなければ、魅力あるイベントを招致することもできません。魅力あるイベントが来なければ、観客はますます減ってしまいます。

 市に対しては新アリーナ利用者から多くの不満が寄せられるに違いありません。


 こうした負のスパイラルから抜け出すために、市が市役所の駐車場や市役所職員用の駐車場を開放してしまうのではないか、あるいは朝倉川を挟んだ北側(沖野)に大規模な駐車場をつくってしまうのではないかと周辺住民は心配しています。

 市がつくらなくても、民間の駐車場がつくられる恐れもあります。仮にそうなった場合、豊橋公園周辺の狭い生活道路では一体どのような渋滞が発生するのでしょうか。


 2022年11月26日、これをシミュレーションする機会がありました。この日、愛知県政150周年記念イベントとして航空自衛隊ブルーインパルスによる展示飛行が行われ、午後1時36分に豊橋公園内の吉田城址上空をブルーインパルスが飛行することが事前にアナウンスされていました。


 吉田城址のすぐ近くで周辺の視界が開けている朝倉川の北側には、飛行を一目見ようと多くの車が訪れ、本来は一般に解放されていない市役所職員用の駐車場(約420台)は満車となり、付近には多くの路上駐車も見られました。

 そして、ブルーインパルスが一瞬にして上空を飛び去ると、これら約500台の車が一斉に帰り始め、豊橋公園東側の狭い生活道路は瞬く間に車で埋め尽くされ、渋滞は40分経っても解消されませんでした。

令和4年11月26日、愛知県政150周年記念イベントとして行われた航空自衛隊ブルーインパルス展示飛行を見に来た車によって、豊橋公園東側の生活道路各所で発生した渋滞の様子を撮影した写真。周辺道路6か所でほぼ同時刻に渋滞の様子を撮影した6枚の写真を、撮影場所を書き込んだ周辺道路地図上に表示してある。

ブルーインパルス展示飛行を見に来た車により豊橋公園東側道路で発生した大渋滞の様子(写真)

ブルーインパルス展示飛行を見に来た車により豊橋公園東側道路で発生した大渋滞の様子(動画)

 豊橋公園内に新アリーナが建設され、朝倉川を挟んだ北側エリアにたとえ500台程度であっても観客用駐車場がつくられてしまうと、毎週末に開催される興行の度にこうした大渋滞が発生し、周辺住民の日常生活に深刻な影響が及びます。そして、さらに規模の大きい駐車場がつくられると周辺住民の日常生活は破壊されてしまいます。


 なお、「周辺住民の生活環境悪化」ページにも関連情報が掲載されています。

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