2025年7月22日更新
25年7月20日、参議院選挙と同日に行われた愛知県豊橋市の「多目的屋内施設(新アリーナ)及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の継続の賛否を問う住民投票は、賛成106,157票、反対81,654票となり、賛成票が反対票を上回りました。
これを受けて22日、長坂市長は自らが8か月前に中断を申し入れた事業を再開するための手続きに入るよう指示を出しました。結果的に、昨年11月の市長選の公約を覆すことになります。
彼は市議時代には、新アリーナ計画のさまざまな問題点について舌鋒鋭く市側を追及してきました。そして、昨年11月、計画の中止と契約解除を公約に掲げて市長に当選しました。ところが、市長になってからの8カ月間、彼は新アリーナの問題点については貝のように口を閉ざして一切の言及を避け続け、住民投票前の市民に向けたYouTubeオンライン説明会でも事業者から提出されたプラン概要を淡々と読み上げただけで、計画の問題点を市民に伝えることはしませんでした。
彼は、市長になった直後から住民投票での決着に持ち込まれる可能性を予測し、住民投票の結果が仮に賛成多数に転んでも「示された民意に従う」として自らの公約転換を正当化できるよう、問題点への言及を封印してきたのでしょう。政治家としての信念を捨て、市長の椅子にしがみついたのだと私は理解しました。
豊橋市の新アリーナ計画は複雑でわかりにくいとの声を聞きます。その理由は大きく5つあります。
① 市民不在で強引に進められてきた (市民に知らせない、市民の声を聞かない)
② 市の度重なる失態により、当初計画が複雑に変遷、肥大化してきた
③ PFIの中でも一般に馴染みの薄いBTコンセッション方式が採用された
④ 事業者が提案する計画の一部しか市民・議員に公開されず、情報が不足している (事業者が開示を許可しない)
⑤ 浅井市政で議会多数派が市のチェック機能を果たしてこなかった
このWebサイトでは、複雑な新アリーナ計画の経緯と市民に明かされてこなかった問題点を整理して、わかりやすく丁寧に解説しています。
住民投票の制度や注意点など住民投票に役立つ情報も提供しています。
↑【必見!】 「豊橋公園の緑を未来につなぐ市民の会」共同代表の藤田茂樹さんがアリーナ問題の核心に迫ります。
豊橋市のアリーナ事業の問題点(1/2)
【豊橋住民投票の参考資料】
豊橋市のアリーナ事業の問題点(2/2)
【豊橋住民投票の参考資料】
5月15日に開かれた臨時市議会で、「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の継続の賛否を問う住民投票を実施することが決まりました。
多目的屋内施設とは、現在の豊橋球場を移設してその跡地に建てる5,000人収容の新アリーナのことで、武道場も集約されます。また、アリーナの建設と併せて、豊橋公園東側エリアのテニスコート、児童公園、駐車場なども再配置して整備する計画です。
住民投票とは、地方公共団体の行政上の重要事項に関して、住民が直接投票することによって意見を表明し、行政運営に住民の意向を反映させる仕組みです。
今回の住民投票は、昨年9月に豊橋市が事業者との間で契約を結んだ「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の継続について、投票資格者(豊橋市内に住む有権者)一人一人が賛成か反対かの意思を投票によって示すものです。
豊橋市で住民投票が実施されるのは初めてで、投票日は参議院議員選挙と同日の7月20日です。
住民投票についての詳しい解説は、6.住民投票 をご覧ください。
豊橋公園に新アリーナを建設する構想が初めて持ち上がったのは佐原市政の2016年でした。その後、20年の市長選挙において浅井前市長は、「場所は豊橋公園以外で」と訴えて当選したにもかかわらず、22年5月30日に突然、豊橋公園で新アリーナ整備を進めると報道発表しました。
これを起点に浅井前市長と計画推進派の議会会派は市民を無視して暴走を始め、市の度重なる失態もあって当初計画は大きく形を変え、肥大化していきました。
紆余曲折を経て24年9月には市民への十分な説明もないままに、強行的に事業者との間で30年間にわたる230億円の事業契約が結ばれてしまいました。
ところが、そのわずか1カ月半後に行われた11月の市長選挙で市民が選んだのは、事業の中止(契約の解除)を公約に掲げた長坂尚登市長(前市議)でした。
これに対し、計画推進派会派は選挙で示された民意を受け入れようとせず、長坂市長の契約解除を阻止するために、長坂市長に対して執拗な妨害を繰り返しました。事態は泥沼化の様相を呈し、多くの市民から住民投票での早期決着を望む声が日増しに大きくなっていきました。
これまで頑なに住民投票に反対してきた推進派議員もこうした市民の声に抗いきれなくなり、遂に住民投票で決着を図る選択をしました。
詳しくは、4.これまでの経緯 をご覧ください。
アリーナは最低でも60年以上使用される施設で、最初の30年だけで少なくとも230億円(公園整備費を含む)かかる巨大事業です。
全国26のBプレミア※用アリーナの中で、自治体の財政に対する負担の大きさは豊橋市が断トツの日本一です。
※Bプレミア:男子プロバスケットボールBリーグの中に26ー27年シーズンから新たに設置されるトップリーグ
また、高さ25mの巨大建造物は、これまでの閑静で落ち着いた豊橋公園の風景を一変させてしまいます。
今回の住民投票は、子や孫の代までの市の財政、市民の福祉、まちづくりなど、人口が減り続ける豊橋市の行く末を決める大切な機会です。
投票資格者(有権者)のみなさんは権利を放棄することなく、必ず投票に行きましょう。
住民投票で市民の皆さんが正しい選択をするためには正しい情報が欠かせません。
推進派会派(自民、公明、まちフォーラム、みんなの議会)の議員らは根拠も示さず、「賑わい創出」、「地域経済の活性化」、「スポーツ・文化の価値創出」などの美辞麗句を並べ立てて浮かれていますが、山積する問題点や負の側面についてはダンマリを決め込んでいます。
このWebサイトでは、客観的で正確な情報に基づき、複雑でわかりにくい新アリーナ計画の経緯と問題点を整理して、わかりやすく丁寧に解説しています。
Q&Aや解説動画(YouTube)も準備しています。住民投票に向けて是非ご活用ください。
豊橋市は浅井前市長の下、27年度の完成を目指して、豊橋公園内に5,000人規模のアリーナを新たに建設する計画を進めてきました。
現在、豊橋市には総合体育館があります。体育館とアリーナはどちらもスポーツを行うための施設ですが、それらの担う役割は大きく異なります。
一般的に、体育館は主として市民自らがスポーツを行うための施設であるのに対し、アリーナはプロスポーツやコンサートなどの興行の舞台であり、数千人から数万人を集めるイベントを開催するための集客施設です。
そして、「観るスポーツ」を含むエンターテイメントの顧客経験価値(感動・熱狂・驚き・非日常体験)を最大化させるために、アリーナには例えば以下のようなさまざまな設備が備えられます。
体育館とアリーナの比較
アリーナに求められる要件の一例
つまり、アリーナは、私たちがイメージする”規模の大きな体育館”とはまったく異質なものです。大がかりな演出用設備やメディア用設備を備えるとともに、国王、大統領、首相などの国賓にも対応可能なラグジュアリーな観戦スペースも設けられます。
そして、VIPだけでなく高額な料金を支払った一般人に対しても、一般観戦者と差別化したこうした特別な観戦スペースや飲食サービスのもてなしが提供されます。
こうしたプロの興行用につくられたアリーナの整備には、体育館の何倍もの費用がかかる上、大がかりな施設の維持管理・運営にも毎年たくさんのお金が必要です。
このように、アリーナとは本来、市民が低料金で気軽にスポーツを楽しむための施設ではありません。市民利用を主な目的とするのなら、オーバースペックなアリーナではなく体育館をつくるべきです。体育館は住民自らが低料金で気軽にスポーツを楽しんだり、さまざまな文化・教育活動や市が主催する行事を行うための公共施設ですから、税金を投じてつくる公設が基本です。
一方、興行を主目的とするアリーナをつくるのであれば、投じた巨額の建設費や毎年の高額な維持管理・運営費を回収し、さらに陳腐化が速い音響・映像機材などの高額な演出設備への継続的な追加投資のために、できるだけ多くの興行を招致して施設利用料収入を稼ぎ出すことが求められます。
こうしたアリーナを豊橋市のような人口規模の中核市が公設で整備する場合、仮に黒字運営ができたとしても建設費の回収までは難しく、建設のために拠出する巨額の税金が、住民が享受するベネフィット(恩恵)に見合うものかどうかを厳正に評価・査定し、その情報を公開して住民の合意形成を図る必要があります。
こうしたメリハリのある施設の使い分け、市民の合意形成、及び大規模な興行を毎年一定数継続的に招致できる確かな見通しが、アリーナ建設の最低条件です。
豊橋市は、計画中のアリーナをプロスポーツやコンサートなどの興行に利用するだけではなく、MICE(展示会、博覧会、企業の研修、国際会議等)に活用したり、これまでの総合体育館のような市民利用や防災活動拠点としての役割も担わせるとしています。
こうした理由から、豊橋市は「アリーナ」ではなく「多目的屋内施設」と呼んでいます。
多目的屋内施設整備基本計画(令和5年8月)(基本計画)では、新アリーナの整備費を150億円、その他の公園施設整備費を34億円、新アリーナを含む公園施設の毎年の維持管理・運営費の収支を1億3千万円の赤字と試算していました。
ところが、令和6年8月に公表された、「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリアの整備・運営事業」の事業者提案では、設計・建設費が230億7千万円に膨らんでいます。
一方で、維持管理・運営費は0円とされ、30年間の事業契約期間中、事業者が独立採算で事業を行っていく計画となっています。
事業方式は、新アリーナ以外の公園施設についてはPFI法に基づくBTO方式、新アリーナについては国が積極的に推し進めているBT+コンセッション方式とされています。
※BTO方式
民間事業者が公共施設を建設し、完成直後に地方自治体にその所有権を移転し、民間事業者が維持管理及び運営を行う事業形態。
※BT+コンセッション方式
民間事業者が、自らの提案に基づいて公共施設を設計・建設し、完成後にその所有権を地方自治体に移転し(BT方式)、その後に地方自治体が事業者に公共施設等運営権を設定(付与)し、事業者が維持管理・運営を行う事業形態(コンセッション方式)。 事業者は自らの裁量で自主事業を行うこともできる。
また、このように、莫大な費用がかかるアリーナを興行事業者に貸し出す際の利用料を、市は1日あたり173万円と想定しています(多目的屋内施設関連市場調査報告書 22ページ)が、事業者の裁量で決められる実際の貸館料についての情報は開示されていません。
以下に、事業者提案の施設概要を示します。
現在の豊橋球場を移設後、その跡地に建設する計画で、現在の武道館と弓道場については、新アリーナに複合化・集約化する計画となっています。
新アリーナ及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業によってもたらされるメリットについては、「広報とよはし」令和6年8月号、「広報とよはし」令和7年7月号でも紹介されています。
一方、下記動画では、事業者の提案内容の解説と併せて、その問題点が指摘されています。(時間 33:26~48:00)
座席数を豊橋市にある既存の公共施設と比較すると、その規模の大きさが分かります。
豊橋市の既存の公共施設と、豊橋公園に計画中のアリーナとの座席数、駐車場台数および交通アクセス性の比較表
【戻り方(スマホ)】
または、スマホの「戻る操作」で目次へ戻ってください。
そもそも、豊橋市は何のために多目的屋内施設(アリーナ)をつくろうとしているのでしょうか。
豊橋市が公表した「多目的屋内施設の基本計画策定に向けた基礎調査報告書 令和3年3月」には、以下の4つの目的が書かれています。
(1)総合体育館の老朽化への対応
(2)総合体育館の利用の過密化の解消
(3)プロスポーツ観戦、エンタメ等の来場者による経済効果を活用したまちづくり
(4)防災活動の拠点としての活用
事情を良く知らない市民は素直に納得してしまいそうなもっともらしい目的が並んでいますが、上記目的(1)、(2)、(4)に対しては、アリーナではなく3分の1程度の費用でつくれる「第2総合体育館」をつくれば事足ります。市民が利用するのに、大型映像装置やスイートを備えたプロ仕様の贅沢なアリーナなど必要ありません。
次に、目的(3)に関しては、アリーナをつくると地域経済が活性化するシナリオが「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」の中で説明されていますので、それを分かりやすく図にしてみました。
豊橋市が考える新アリーナを核とする地域経済の活性化シナリオ
しかし、「新アリーナをつくれば、それを契機に次々と都合の良いことが起き、それらが連鎖していくはず」という期待は本当に現実となるのでしょうか。
確かに、新アリーナ来場者が中心市街地(まちなか)を経由することで、興行開催日の開催時刻を挟んだ前後数時間、一時的にまちなかがにぎわうことはあるでしょう。
しかし、市の大甘な想定でも新アリーナでの興行はせいぜい月に4日程度しかありません。このうち半分以上はバスケットボールBリーグの地元チーム三遠ネオフェニックス(フェニックス)の試合です。
たったそれだけで地域経済が活性化すると言うのはあまりにも短絡的過ぎないでしょうか。
市は基本計画などで、新アリーナと豊橋公園東側エリアの姿だけは示してきたものの、新アリーナを活かした市街地の賑わい創出プランや具体的な地元経済活性化策、経済効果の中立的な試算結果等については、これまで一切説明してきませんでした。また、市議会で真剣に議論された形跡もありません。
経済効果を狙うのであれば、30年間で総額約300億円の市税が使われる新アリーナ(☞5-4.膨れ上がる事業費)よりも、もっと効率の良い施策がいくらでもありそうです。
浅井前市長と計画推進派の議員らが本当に「経済効果を活用したまちづくり」を目的として新アリーナ計画を推進してきたのか甚だ疑問です。
一方で、そもそもフェニックスのブースター(ファン)を除けば、一体どれほどの市民が、プロスポーツやコンサートなどのエンタメを楽しむためのアリーナ建設を望んでいるのでしょうか。
たまにプロスポーツの試合や推しのアーティストのライブコンサートを観るのに、「日本ガイシホールやIGアリーナまで行くのは嫌だ。税金がどれだけかかってもいいから市内のアリーナで観たい」という市民がいるのでしょうか。
日本ガイシホールへは、豊橋駅からJR笠寺駅まで55分、降りて徒歩3分、IGアリーナは地下鉄名城線名城公園駅と直結しており、豊橋駅から最短1時間10分で着いてしまいます。どちらも抜群の好アクセスです。
さらに、内閣府とスポーツ庁が策定した「スタジアム・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン 令和4年12月(令和5年12月改訂版)」には、「Bリーグを想定した5,000席程度のアリーナは、エンタメの開催にマッチしづらく、イベント開催時の収益確保が困難」と記載されています。
また、市の市場調査報告書の中でも、スポーツ施設運営事業者やイベントプロモーターの意見として、「コンサートツアーであれば1万人規模を集客できないと採算上は厳しい」との記載があります。
つまり、5,000人収容の新アリーナをつくったとしても、人気アーティストのライブコンサートを招致するのは極めて難しいと言わざるを得ません。
結局、豊橋市民が市内でプロスポーツ観戦やコンサートを楽しむためのアリーナなど、市民に対する単なるお仕着せに過ぎません。
以上より、市が示してきた4つの目的のために、30年間で総額約300億円の市税を投じて新アリーナをつくることなど、到底市民の理解を得られません。浅井前市長や計画推進派議員が、頑なに計画を進めようとしてきた本当の狙いは別のところにあると考えざるを得ません。
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豊橋新アリーナ建設計画の経緯については、豊橋公園の緑を未来につなぐ市民の会のホームページ豊橋新アリーナ問題を考えるの中に、時系列で記載されています。
また、下記動画では、経緯がIGアリーナとの比較も交えて簡潔に整理されており、豊橋の新アリーナ計画が異様なスピードで進められてきたことがわかります(時間 20:55~33:26)。
2015年に男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)が設立され、豊橋市総合体育館をホームアリーナとしていた三遠ネオフェニックスは、16年の開幕からB1リーグに参戦することになりました。このため、週末に総合体育館で興行される試合が急増し、体育館の市民利用が圧迫される状況となりました。
折しも、国は2016年から17年にかけて、スタジアムとアリーナを収益を生み出す集客施設として位置付け、地域に経済効果をもたらすことを狙ったスタジアム・アリーナ改革を打ち出しました。
国は、全国に20か所のスタジアム・アリーナをつくることを目標に掲げました。その中の一つが、豊橋市が豊橋公園内に建設するとした新アリーナ(多目的屋内施設)でした。
当時の佐原光一市長は新アリーナ構想に前のめりで、議会への事前の説明もなく、17年3月24日に安倍首相らが出席して官邸で開かれた未来投資会議の場で豊橋市の新アリーナ構想をプレゼンし、国に支援をお願いしています。
翌18年、市が行った新アリーナの建設・運営に関する民間提案募集に対して、クロススポーツマーケティング社から応募がありました。市は、審査を経てクロススポーツマーケティング社を協議対象者として選定し、事業実施に向けた協議を重ねた後、最終基本協定書案を作成して協議対象者に回答を求めました。
すると、協議対象者は回答期限直前になって、
「(協議対象者の協力企業である)三遠ネオフェニックスが豊橋市をホームタウンとして、新アリーナを30年間使い続けるとの協定を豊橋市と三遠ネオフェニックスとの間で結ぶ」
との新たな条件を提示してきました。
しかし、こうした協定は、本来、協議対象者とその協力企業である三遠ネオフェニックスとの企業間で交わされるべきであり、そこに市が関与すべきでないとの判断から、19年7月に市は協議を打ち切りました。
20年11月、豊橋市長選挙で浅井由崇氏が佐原光一氏を破って新しい市長に当選しました。市長選の争点の一つが新アリーナ建設の是非でした。
選挙直前10月20日の東愛知新聞は、
「浅井氏は、策定計画を見直し、多くの市民の総意を得た形で施設を考えていくべきだと主張した。そして、場所は豊橋公園以外で、着手時期は未定とした。」
と報じました。
また、各家庭に配られた浅井氏の選挙公報には新アリーナについての記載は一切なく、代わりに「豊橋公園内エリアに郷土歴史博物館や吉田城復元などの建設計画の策定と推進」と記載されていました。
新たに就任した浅井市長は新アリーナについて、「これまでの計画をゼロベースで再検討することとした」と語り、市民の誰もが豊橋公園内に新アリーナをつくる計画はなくなったものと思いました。
ところが、それから1年半後の22年5月30日に浅井市長は突然、
「多目的屋内施設の整備について、建設候補地として「豊橋公園」を選定し、県の財政支援も受けて施設整備に向けた基本計画の策定業務等を進めていくこととしました」
との報道発表を行いました。
市民にとってはまさに寝耳に水でしたし、この報道発表後も多くの市民は新アリーナ計画の再始動に気付いていませんでした。市民の知らぬ間に、いつのまにか豊橋公園に新アリーナを整備するとの方針が、市長や一部の市幹部の間だけで秘密裏に決められていたのでした。
その後、浅井市長から市民に対して、公約違反についての説明は一切ありませんでした。
市が豊橋公園を新アリーナの建設候補地として選定した根拠としたのは、市が22年1月に民間コンサルティング会社(日本総研)に業務委託して作らせた、わずか28ページの形ばかりの「多目的屋内施設関連市場調査報告書」でした。
この報告書では、豊橋公園を含む市内5か所の建設候補地※を抽出した上で、それぞれの候補地ごとに7つの評価項目について点数を付け、それぞれの候補地の合計点を計算しています。
※豊橋公園、岩田運動公園、豊橋総合動植物公園、アイプラザ豊橋、高師緑地公園
そもそも、公園は空き地ではありません。 建設候補地としてなぜ公園を選ぶのでしょうか?
そして、豊橋公園には、7項目すべてにほぼ満点に近い最高評価を与えた上で、他の4か所の候補地に大きく水をあけて豊橋公園を最適候補地と結論付けています。
ところが、少なくとも私が読む限り、この報告書は豊橋公園が最適候補地であるとの結論を導くために、恣意的に事実を歪曲して書かれています。いわゆる「出来レース」です。
豊橋市の巨大プロジェクトの基本方針を決めるにしては、あまりにもいい加減でお粗末な内容と言わざるを得ません。
この市場調査報告書の杜撰(ずさん)な中身の検証結果は、「市の強引な進め方(1)市場調査報告書から」で詳述しています。
なお、この報告書の表紙には「令和4年6月」と書かれているにもかかわらず、実際に市民に公表されたのは9月になってからで、豊橋公園への整備を前提に、8月に市が民間コンサルティング会社(日本総研)に基本計画の策定等を5,500万円で業務委託してしまった後でした。
つまり、この時も、市は豊橋公園を建設候補地として選定した根拠を市民に説明することなく、コソコソと事を進めてしまいました。
結局、24年11月に浅井市長が選挙で落選して職を退くまでの間、住民に対する説明会は、22年10月1日に八町小学校体育館において、八町校区以外の市民を締め出して開催した2時間足らずの説明会1回限りでした。
この説明会でも、市の曖昧で形式的な説明に、まだたくさんの出席者が質問しようと挙手しているにもかかわらず、予定の2時間が経過すると強制的に終了を宣言し、会場からは怒号が飛び交いました。
市としては、「地元住民への説明会、やったから」というアリバイ作りの目的は達したということだったのでしょう。
また、毎月各家庭に配られる豊橋市の広報誌広報とよはしの誌上で新アリーナが紹介されたのは、既に基本計画の策定と実施方針・要求水準書の作成を終え、事業者の入札公告がなされた後の24年1月でした。
豊橋公園東側の北側エリア(市民プール跡地、武道館、テニスコートのあたり)への整備を前提に日本総研が新アリーナの基本計画の中間報告書案の提出を準備していた矢先の22年11月25日、新アリーナ建設予定地の半分ほどが、愛知県が指定した「家屋倒壊等氾濫想定区域」に含まれていると中日新聞が報じました。
記事によると、豊橋市は新アリーナ建設予定地が豊橋公園の北側を流れる朝倉川の「家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食)」に含まれていることを確認しないまま、5月に豊橋公園への建設計画を発表していました。
そして、上で述べたように、業務委託先の日本総研では豊橋公園への整備を前提に基本計画の策定業務が既に進行していました。
しかも、市はこの新アリーナを防災活動拠点として活用することを想定していました。
新アリーナの建設予定地が家屋倒壊等氾濫想定区域に含まれていることを報じた新聞記事(一部)
豊川水系豊川下流支川 浸水予想図(家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食))
「家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食)」とは、洪水時の河岸(かがん)侵食により家屋の基礎を支える地盤が流出し、建物がその構造に依らず倒壊・流出するおそれがある区域です。平成27年の水防法改正により愛知県が指定しました。
防災活動拠点は応援部隊と受援物資の集結・集積拠点で、当然ながら災害リスクが十分に低い場所への立地が求められます。
ところが、あきれたことに、建設候補地が氾濫想定区域に含まれる事実が発覚した直後の12月市議会においても、市側は「建築物を建てることに制限を課すものではない」、つまり「氾濫想定区域に建物を建てることは法律や条令で禁じられていない」と開き直り、豊橋公園内での整備を進めていく姿勢を崩しませんでした。
新アリーナ計画を見直す考えが無いことを報じた新聞記事(一部引用)
(2022年12月6日付 中日新聞東三河版)
さらに、市は12月市議会の答弁の中で、新アリーナの建設予定地を、これまで説明してきた「豊橋公園東側の北側エリア」(公園東側のスポーツ施設があるエリアのうち、陸上競技場と豊橋球場を除いた場所)から、突然「陸上競技場や豊橋球場を含む豊橋公園東側のエリア全体」に変更しました。
このことは、これまで市が説明してきた新アリーナ単体の整備から、市がこれまで言及してこなかった既存施設(豊橋球場、陸上競技場等)の再配置(移設)を含む豊橋公園東側エリア全体の大規模整備に方針転換したことを意味します。この方針転換もまた、市の独断で決められました。
詳しい内容は、「市の強引な進め方(2)12月市議会から」にも書かれています。
また、この12月市議会においては、市の河川課や防災危機管理課が21年11月には既にこの情報を把握していたにもかかわらず、新アリーナの担当部署が知ったのはその1年後の22年11月だったことも明らかとなり、豊橋市の部署間での情報共有の問題点が露呈しました。
市が豊橋公園を新アリーナの建設候補地に選定した根拠だと説明してきた上述の「多目的屋内施設関連市場調査報告書」の中では、新アリーナの建設候補地の抽出条件の一つに、「ハザードマップにおいて、災害のリスクが高いとされている区域に指定されていない土地であること」を挙げています。
それにも関わらず、この調査報告書では、明らかに災害のリスクが高い「家屋倒壊等氾濫想定区域」を含む豊橋公園を候補地として抽出した上に、断トツの最高評価を与えているのですから、市の調査報告書がいかに杜撰(ずさん)で信用のおけないものであったかがわかります。
22年10月、こうした市民そっちのけの市の性急な進め方に危機感を持った市民らは、豊橋公園への新アリーナ建設の賛否について市民自らが意思表示する機会が必要だとして、「住民投票の実現をめざす市民の会」を立ち上げました。
市民の会は、「豊橋公園への多目的屋内施設(新アリーナ)建設の賛否を問う住民投票条例」の制定を目指し、住民投票条例案の直接請求に必要な、有権者の2%以上の署名を集めることを目標に、11月15日から1か月間、署名活動を行いました。
その結果、目標の約3倍となる約17,000人分もの署名が集まりました。その後、市選挙管理委員会が約2カ月をかけて署名簿を厳格に審査し、さらに7日間の署名簿の縦覧・異議の申出を経て、翌23年2月18日に有効署名数が15,991人(有権者数の5.4%)と確定しました。これを受けて市民の会が浅井豊橋市長宛に条例制定を請求しました。
ところが、浅井市長はこの請求に対し、あろうことか「条例を制定する意義は見いだしがたい」との意見を付した上で議会に上程し、2月27日に開かれた豊橋市議会本会議において、条例案は市議会会派自民党、公明党、まちフォーラムの反対によって否決されてしまいました。この市議会の判断は、多くの市民の声を踏みにじる結果となりました。
☞住民投票制度の詳細はこちら
23年6月9日、市が民間コンサルティング会社(日本総研)に業務委託してつくらせた「多目的屋内施設整備基本計画(案)中間報告」(以下、基本計画案)が公表され、同日に開催された総務・建設消防委員会連合審査会で審議されました。
当初の計画では、22年11月下旬には委託先から提出される予定でしたが、その直前に「家屋倒壊等氾濫想定区域」の問題が発覚し、提出が約5カ月遅れの23年4月末にずれ込んでいました。
公表に先立ち5月31日、浅井豊橋市長が突然記者会見を開き、上記基本計画案の大枠について説明しました。
主な内容は以下の通りです。
・豊橋公園内の豊橋球場を豊橋総合スポーツ公園(B地区)へ移設し、その跡地に新アリーナを建設する。
・移設先は県の津波災害警戒区域に指定されており、津波発生時に最大2.3メートルの浸水が予想されるが、避難の時間的余裕はある。
・これまで約100億円と見込んでいた事業費が、球場の移設費用も含め総額220億円に膨らむ。
今後さらに増える可能性がある。
・新アリーナの維持管理・運営の収支は、毎年5,900万円の赤字となる見通し。
・民間事業者に数十年にわたる新アリーナの運営権を売り渡すBTコンセッション方式を採用する。
・豊橋球場の移設の概算事業費は36億円。
球場移設を報じた新聞記事(一部引用)(2023年6月1日付 中日新聞東三河版)
ところが、浅井豊橋市長の記者会見から間もない6月24日、浅井豊橋市長が記者会見の中で野球場の移設先と説明した豊橋総合スポーツ公園(B地区)が、津波の「特定避難困難地域」に含まれている事実を中日新聞が報じました。
「特定避難困難地域」とは、津波到達時刻までに津波が来ない安全な地域への避難(水平避難)が間に合わず、津波避難ビルへの垂直避難も困難な地域のことです。豊橋市自らが指定していました。
市は、「家屋倒壊等氾濫想定区域」を見落として整備方針の大幅な見直しを迫られた失敗から、何も学ばなかったのでしょうか。
この報道を受けて、浅井豊橋市長は7月4日の定例記者会見で、慌てて豊橋球場移設先と同じ豊橋総合スポーツ公園内に既設の市総合体育館とアクアリーナ豊橋を津波避難ビルとして活用する方針を示しました。併せて、球場移設先に液状化対策と3m以上の盛り土を行い、野球場の観客席を避難場所として活用する考えも明らかにしました。
この会見の中で、浅井市長は、5月31日に野球場の移設を発表した時点で、既にこうした課題を認識していた旨の発言をしましたが、この言葉を額面通り受け取った市民が一体どれだけいたでしょうか。市のドタバタぶりが見て取れます。
豊橋球場移転先が避難困難地域と報じた新聞記事(一部引用)(2023年6月24日付 中日新聞朝刊)
6月9日に公表された基本計画案を受けて、6月12日より7月20日まで、基本計画案に対するパブリックコメントの募集が行われました。
パブリックコメントとは、市民生活に広く影響を及ぼす市政の基本的な計画、条例等を立案する過程において、これらの案を公表し、その案について市民等から広く意見を募り、これらの市民の声を考慮した上で意思決定を行う手続きです。
8月18日、市民から寄せられた全てのパブリックコメントが公表されました。全部で4,685人から提出がありました。「アリーナ賛成です」、「バスケットがしたいです」といった、基本計画案に対するパブリックコメントとは言い難いコメントが多数含まれていましたが、そうしたものを除いても1,000件以上の意見が寄せられ、この問題に対する関心の高さがうかがえます。
市が公表している「パブリックコメント手続要綱の考え方」には、「複数の意見が提出された場合、類似した意見ごとにまとめて公表する。」と書かれていますが、市は自らが定めたこのルールに従わず、全ての意見をそのまま公表しただけでした。
そこで、公表された全ての意見を独自にデータベース化し、独自に抽出キーワードによるパブリックコメントの分析を行いました。以下にその結果を示します。
多目的屋内施設整備基本計画(案)中間報告についてのパブリックコメントの分析結果
この分析結果より、かねてから指摘されていた駐車場不足を問題視する意見が150件(人)以上と大変に多いことがわかります。また、豊橋球場を海沿いの豊橋総合スポーツ公園に移設する計画に反対または疑問との意見も124件(人)あり、移設計画を疑問視する多くの意見が寄せられました。
また、「市民への説明が不十分」、「住民説明会を開催すべき」との意見が100人以上から寄せられており、多くの市民が計画に対する理解が不十分だと感じていること、市民そっちのけで事を進めてきた市の姿勢に対して不満や不信感を持っていることがわかります。
これだけ多くの市民が、市に対して説明不足との意見を提出しているわけですから、当然、市は一旦立ち止まって市内各地で住民説明会を開催し、計画を丁寧に説明すべきでした。その中で、駐車場問題、野球場の移設問題、近隣の環境問題など、市民の不安や疑念に丁寧に答えるべきでした。まともな自治体であればそうするでしょう。
ところが、驚くべきことに、市はパブリックコメントを整理することなく公表したその日に、ホームページ上に「多目的屋内施設整備基本計画」の最終版を公表しました。さらに、その中身を見ると、6月9日に公表された基本計画案から実質的に何も変わっていませんでした。つまり、市は、4,685人から提出されたパブリックコメントの意見を基本計画に反映せず、完全に無視しました。
市は、一体何のためにパブリックコメントを募集したのでしょうか。市が意見を募集するにあたって公表した『「多目的屋内施設整備基本計画(案) 中間報告」についての意見募集の趣旨及び目的』には、「皆さまにご提出いただいたご意見を参考に最終的な計画を策定する予定です。」と書かれています。
市は、最初から市民の意見を聴く気など全く無かったわけです。これは、138ページもある基本計画案に目を通し、時間をかけて一生懸命意見を書いて提出した市民を欺く行為です。
結局、パブリックコメントの募集は、市の単なるアリバイづくりで終わりました。
豊橋市議会23年9月定例会の最終日、新アリーナを含む豊橋公園東側エリアの整備費、維持管理・運営費として、総額230億7千万円の債務負担行為が自民党、公明党などの賛成多数で可決されました。
この約230億円の中には、新アリーナの設計・建設費、その他の豊橋公園東側エリア施設の整備費(豊橋球場の解体費用を含む)、及び新アリーナと公園東側エリアの30年間の維持管理・運営費が含まれますが、市はこれら費用の明確な内訳や算定根拠を示しませんでした。(☞ 令和5年9月29日 一般会計予算特別委員会議事録)
23年10月27日、「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の入札公告が行われました。事業期間は57年9月までです。
一方、市は、豊橋球場の移設整備事業は新アリーナ整備事業とは別の事業との立場に立ち、その土地代、建設費については、この債務負担行為に含めませんでした。
しかし、実際には新アリーナを建てるために豊橋球場を移設するわけですから、これらは一体の事業と捉えるべきです。これらを別々の事業だとする市の考え方には、見かけの新アリーナ整備事業費をできるだけ安く見せたいとの市の思惑が透けて見えます。
「4-6.野球場の移設先選定における市の度重なる失態」で述べたように、豊橋球場移設先を津波避難場所として整備するためには、地盤改良や盛り土などの地震・津波対策が必要です。市が23年6月9日に「野球場の再編(案)について」の中で示した概算事業費36億円には、これらの対策費用は含まれていません。
その後、24年7月26日付の「豊橋総合スポーツ公園B地区 野球場整備基本計画」では、事業費が42億円と示されています。
加えて、65年以上の使用を想定している新アリーナは、定期的に大規模修繕を行いながら使用していくことになります。その費用は建設費(後の事業者提案では約200億円)のおよそ30%に相当する60億円程度と想定されます。
なお、特定事業契約書(案)第53条では、契約締結日以降の国内賃金水準又は物価水準の変動(上昇)により設計・建設費が膨らんだ場合、一定割合を超える額については、事業者からの求めに応じて市が負担することとされています。
結局、新アリーナ関連事業の整備費と30年間の維持管理・運営費の総額は、230億円に野球場の移設費42億円と大規模修繕費60億円とを加え、さらに物価上昇分を加えた350億円程度になるものと推定されます。
市の度重なる失態と場当たり的な対応に不安や疑念を抱く住民をよそに、なおも強引に計画を推し進めようとする市に対し、23年10月、市民団体「住民投票の実現をめざす市民の会」は、再び「豊橋公園への多目的屋内施設(新アリーナ)建設の賛否を問う住民投票条例」の制定を求めて2回目の署名活動を行いました。
この署名活動は、「市民一人一人が建設の賛成/反対の意思を示す住民投票」を実施するよう市長に直接請求するためのものです。
その結果、直接請求に必要な有権者の50分の1(5,908人)の約3倍にのぼる17,628人の有効署名が集まりました。これは、前回の署名活動の有効署名数15,991人を上回る数です。
これを受けて24年1月22日、市民の会は、住民投票条例の制定を浅井豊橋市長宛に直接請求しましたが、2月9日の豊橋市議会臨時会において再び自民党、公明党、まちフォーラムなどの反対多数で否決されました。
この直接請求に対し、浅井市長は条例案に対して前回と同様、「本条例を制定する意義は見出し難い」との意見を付しました。
☞住民投票制度の詳細はこちら
新アリーナ建設を巡り、市の不正行為や市長の不法行為の疑いが発覚し、浅井豊橋市長が刑事告発される事態になりました。
長坂尚登豊橋市議(現豊橋市長)が公文書公開請求をして、新アリーナの市場調査業務を受託した日本総合研究所(日本総研)が市に提出した全ての成果物の公開を求めたのに対し、豊橋市は、日本総研が市の完了検査を経て納品した調査報告書の存在を明かしませんでした。
(この納品された調査報告書を豊橋市自ら修正したものが、市民に公開された「多目的屋内施設関連市場調査報告書」です。)
その後、市議が行政不服審査請求を行いましたが、市は弁明書(弁明書は公文書)の中で「すでに公開した文書以外は不存在」と主張し、上記日本総研が納品した報告書の存在を隠し続けました。
ところが、23年4月に起こされた新アリーナを巡る住民訴訟の過程で、日本総研が市に納品した調査報告書(豊橋市が修正する前のもの)の存在が明らかになったことから、市民が「虚偽公文書作成、同行使」の疑いで浅井豊橋市長を刑事告発し、豊橋署が24年5月20日付で受理しました。
上記市場調査委託業務に関して、委託期限より遅れて日本総研から提出された調査報告書について、市は委託期限に間に合ったように偽装するため、関係書類に実際よりも1か月前の偽った日付を記載していたことも発覚しました。
豊橋市長の刑事告発を報じた新聞記事(一部引用)
(2024年5月22日付 中日新聞東三河版)
新アリーナ市場調査委託業務の日付偽装を報じた新聞記事(一部引用)
(2024年5月31日付 中日新聞東三河版)
この日本総研に委託して作成された多目的屋内施設関連市場調査報告書を巡っては、日本総研から市に提出された報告書の収支予測が、豊橋市によってこっそりと繰り返し書き換えられていたことが判明しています。
日本総研が市に提出した報告書の収支予測には、新アリーナが採用することになるBTコンセッション方式による黒字収支予測とBTO方式による赤字収支予測とが併記されていました。
ところが、これを市自らが繰り返し修正し、最終的に市民に公開した報告書では、BTコンセッション方式による黒字収支予測が報告書から消され、BTO方式による5,900万円/年の赤字収支予測のみが記載されていました。
新アリーナはBTコンセッション方式を採用したにもかかわらず、これ以降、このBTO方式の赤字収支額をベースにして基本計画が作成されていくことになります。不可解です。
毎年の維持管理・運営費が5,900万円の赤字収支となる前提で作成された基本計画では、この30年分の赤字額17.7億円を市が指定管理料の名目で事業者に補填するとされ、その分だけ事業費が膨らむことになりました。
つまり、信じ難いのですが、市が故意に事業費を膨らませた疑いがあるということです。もし、これが事実であれば、大変大きな問題です。
下記動画では、当初から長坂市議と共にこの問題を追及し続けてきた藤田茂樹さんがこの改竄疑惑について詳しく解説していますので、是非ご覧ください。(時間 48:00~57:45)。
応札事業者は1社のみで、落札事業者は、スターツコーポレーションを代表企業とする企業グループ TOYOHASHI Next Park グループ です。グループには、愛知国際アリーナ(IGアリーナ)の設計・建設を行った前田建設工業が参画しています。落札価格は、市議会が23年9月に可決した債務負担行為230億7千万円よりわずか300円安い金額でした。
そして、その2か月後に議会に報告された落札事業者の提案概要に示された資金計画の内訳は、市が策定した基本計画の想定とは大きく異なるものでした。
豊橋市の基本計画と事業者提案との事業費比較
基本計画では、設計・建設費を総額184億円(新アリーナ:150億円、その他の公園施設整備費:34億円)、維持管理・運営業務の年間収支を1.28億円の赤字と試算していました。
市は、30年間の維持管理・運営費の赤字額を38.4億円(1.28億円/年×30年)と見積り、これを豊橋公園東側エリア全体の維持管理・運営に要する指定管理料に相当する費用として事業費に盛り込みました。
ところが、落札事業者の提案では、設計・建設費が230億7千万円(新アリーナと公園施設整備費)、維持管理・運営費とその他諸費用は0円となっており、事業者が独立採算で30年間維持管理・運営を行うとの内容でした。
この事業者提案の設計・建設費は、基本計画の想定額より46.7億円も高く、これを延べ床面積1㎡あたりに換算すると88.5万円/㎡※となり、これは基本計画で示された75万円/㎡より13.5万円も高い金額です。
※ 愛知豊橋市長坂なおと のblog 「新アリーナ建設費46億円増の怪。このまま契約大丈夫?」 2024年8月12日 より
(追記 25.7.19)
25年7月14日に開かれた「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」等に関する調査特別委員会で、事業者より設計・建設費の内訳が示されました。
総額230億円のうち、多目的屋内施設の設計・建設費が195億円、公園整備費は市の基本計画に示された金額と同じ34億円です。
床面積は市の基本計画より約2,000㎡増大するとともに、床面積あたりのコストは93万円/㎡との驚きの金額が示されました。
市は事業者との間の秘密保持義務に従い、市民や議会に対して事業者提案の概要しか公開していないため、この金額の妥当性を検証することはできませんが、相場から考えて明らかに高過ぎます。
しかし、契約締結議案を審議する24年9月11日の市議会総務委員会では、自民、公明、まちフォーラムの議員らは事業者提案の設計・建設費が市の計画を大きく超えている理由や、逆に市が38.4億円かかるとしていた30年間の維持管理・運営費を0円としている根拠を質すこともなく、開示された事業者提案の概要だけで契約締結議案に賛成し、可決させてしまいました。
一方、会派「新しい豊橋」の長坂尚登市議(現市長)と日本共産党豊橋市議団の斎藤啓市議からは、事業者提案に内在するリスクや計画を進めてくる中で出てきた疑惑について踏み込んだ質疑がありましたが、市側は従来通りの表面的で曖昧な答弁に終始し、疑念が晴れることはありませんでした。
5-7節では、この委員会で長坂市議が指摘している事業者提案のリスクについて詳述しています。
また、この2か月後には豊橋市長選挙が迫っており、新アリーナ計画に反対する長坂尚登市議が既に市長選への立候補を表明していたことから、一般市民から 「事業者との事業契約の締結を市長選前には行わないことを求める請願」 が出され、上記総務委員会で審議、採決が行われましたが、「不採択」となりました。
そして、9月27日の市議会定例会での議決を経て、遂に新アリーナ等整備・運営事業の特定事業契約が締結されました。議決で契約締結に反対したのは、日本共産党豊橋市議団3名と会派「新しい豊橋」4名の計7名でした。
多目的屋内施設の事業契約締結を報じた新聞記事(一部引用) (2024年9月28日付 中日新聞東三河版)
以上のように、浅井豊橋市長の4年間の在任期間中、新アリーナ計画に関するなりふり構わぬ暴走は、とどまるところを知りませんでした。
そして、ついに、75年前に整備され、子どもたちを中心に多くの市民に利用されてきた豊橋球場を豊橋公園から追い出し、南海トラフ巨大地震までのカウントダウンが刻々と進む中、あろうことか、わざわざ海沿いの「特定避難困難地域」へ移設するという愚かな計画案まで飛び出しました。
このような浅井市長や一部の幹部職員の独善的で強引な進め方は、ユニチカ跡地問題での佐原光一前市長の過ちと共通するものがあります。
浅井市長は前回選挙の自身のビラに、「豊橋市には、市長の独断を許す邪気が存在しています。一言で言えば、現在の豊橋市政は予算、人事を握る市長に職員、議員が忖度せざるを得ない状況に陥っています。」と書いて、前市長を批判していました。まさに、浅井市長自らが行ってきた強引な進め方そのものです。
この新アリーナ計画の最大の問題は、こうした市民不在の強引な進め方でしょう。失敗したときに、そのツケを払うのは私たち市民です。
現在の計画を一旦白紙に戻し、さまざまな立場や考え方の多くの市民が参加したオープンな議論を行い、市民主体で計画をつくり直すべきです。
一方、市議会は市民の代表として、市民の意思に基づいて市政の推進・発展を目指すことを職務としています。
豊橋市議会議員は、前市長と市の大失策「ユニチカ跡地問題」を止められず、一般市民が自力で解決した過去に学ぶべきでした。
ところが、市議会(自民党、公明党、まちフォーラム)は市民グループが請求した住民投票条例案の制定に反対するなどし、再び愚かな過ちを犯しました。
24年11月3日、豊橋市長選挙が告示され、事実上、現職浅井由崇氏、近藤喜典氏(元市議 自民党推薦)、長坂尚登氏(元市議 無所属)の3人の争いとなりました。
浅井氏と近藤氏は新アリーナ計画の推進を訴え、長坂氏は計画の中止と締結済みの契約の解除を訴えました。新聞各紙はこぞって、新アリーナ計画が今回の市長選の最大の争点と報じました。
豊橋市長選の争点を報じた新聞記事(一部引用)
(2024年11月2日付 毎日新聞中部朝刊)
11月10日、投開票の結果、長坂尚登氏が初当選し、17日に豊橋市長に就任しました。
初登庁日となった翌18日、長坂市長は公約どおり、新アリーナ等整備・運営事業契約の解除手続きを指示しました。21日には事業者に対して契約解除の申し入れを行い、契約解除に向けた協議を開始する旨の通知を行いました。
新アリーナは、プロバスケットボールBリーグに所属する三遠ネオフェニックスのホームアリーナとして使用される予定で、26-27年シーズンから始まるBリーグ・プレミアに参戦するための要件の一つです。
12日、Bリーグの島田慎二チェアマンは、「仮にアリーナ建設が破談になれば、当然のことながらBプレミアライセンスは取り消しとなる」と語りました。
豊橋市の契約解除の申し入れを報じた新聞記事(一部引用)
(2024年11月23日付 中日新聞東三河版)
長坂市長のこうした動きに対し、計画推進派の豊橋市議会会派(自民党、公明党、まちフォーラム)をはじめ、大村愛知県知事、神野吾郎豊橋商工会議所会頭、自民党愛知県議会議員らは一斉に反発し、近隣市長などからも計画継続を求める声が上がりました。
また、長坂氏の当選直後には、市民グループ「新アリーナを求める会」が計画継続を求める署名活動を始めました。市民団体は、市内外から約13万4千人分の署名を集め、12月3日にこれらの署名とともに計画継続を求める請願書を市議会に提出しました。
請願は、12月20日の市議会本会議において、計画推進派会派の賛成多数で採択されました。 法的拘束力はありませんが、計画推進派会派は市長に対して25年2月25日までに結果を報告するよう求めました。
※ 住民投票などの直接請求のための署名は市内有権者に限定され、選挙管理委員会が1カ月以上かけて厳密に審査するのに対し、請願のための署名は子どもや市外の人でも可能で、重複や代筆等の確認もありません。
長坂市長と計画推進派の市議会会派との対立が激化する中、計画推進派の市議会会派と、計画反対派の市議会会派(共産党・新しい豊橋・みらい市民)双方から別々に、新アリーナ等整備・運営事業の継続に関する住民投票条例(案)が提出されました。
ところが、12月26日の本会議において、推進派会派は自らが提出した住民投票条例案を突然撤回した上で、反対派会派が提出した住民投票条例案にも反対し、新アリーナ建設の賛否を問う住民投票はまたもや実施されないことになりました。
自民党の山本賢太郎議員は条例案撤回の理由として以下の3点を挙げました。
(1)契約解除した際に市が負う損失補填額が不明瞭で、市からの説明もない
(2)契約解除が行われた後の代替案や今後の対応が、現時点で示されていない
(3)客観的で必要な情報を公平かつ公正に提供することが非常に困難
しかし、これらはいずれも条例案を提出する時点で想定されていたことであり、一連の行動は市民の目には彼らの自作自演の芝居のようにも写ります。
さらにその直後、自民党は突如、「豊橋市議会の議決すべき事件を定める条例」の改正案を提出しました。
(注:事件とは事柄、事案のことです)
地方公共団体の議会が議決すべき事件を規定した地方自治法第96条第1項第5号では、契約の締結を議決事項と規定していますが、契約の解除は含まれていません。
提出された改正案は同条第2項を根拠として、「議会の議決を経て締結した契約は、解除にも議会の議決を必要とする」もので、公布されれば、長坂市長は、計画推進派が多数派を占める議会の議決を経なければ、新アリーナ事業の契約を解除できなくなります。
地方自治法の趣旨に反するとの疑義が出る中で、推進派会派は、議論が不十分なまま強引に採決に持ち込み、改正案は推進派会派の賛成多数で可決されてしまいました。
これに対し、長坂市長は、条例改正案が法令に違反する、または議会の権限を越えると判断し、1月14日に議会に対して再議書を提出し、再議を求めました。
契約解除に議決が必要となる条約改正案の可決を報じた新聞記事(一部引用)
市長が市議会に再議書を提出したことを報じた新聞記事(一部引用)
再議とは、議会の議決などに異議がある場合に、市長が議会に対して審議と議決のやり直しを求めるものです。
再議には、議会の議決に異議がある場合に市長の任意の判断で行使できる任意的再議と、議会の議決が議会の権限を超えたり法令に違反すると認められる場合に市長が行使の義務を負う義務的再議とがあります。今回の再議は、義務的再議に当たります。
普通地方公共団体の議会の議決又は選挙がその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、当該普通地方公共団体の長は、理由を示してこれを再議に付し又は再選挙を行わせなければならない。
日本共産党豊橋市議団の 斎藤啓市議が再議書をXで公開しています。
再議書の要点(概要)
※ここをタップ(クリック)すれば開きます
第1 議決事件の対象とならないと解される事務を議決事件として追加している
総務省自治行政局行政課長「地方自治法第96条第2項に基づき法定受託事務を議決事件とする場合の考え方について(通知)」(総行行第68号 平成24年5月1日)
この通知において、
「地方自治法第96条第2項の規定に基づき、条例により議会の議決すべきものとすることができる事項には、従前より、法令が明瞭に長その他の執行機関に属する権限として規定している事項及び事柄の性質上当然に長その他の執行機関の権限と解さざるを得ない事項は含まれないと解されている。」ことを留意事項としている。
さらに、この通知では、議決事件の対象とならないと解される事務が分類、整理されており、このうち、分類Ⅱの類型(8)として、「財務関係の事務 入札・契約、給付金の支給、国税徴収の例で行う滞納処分等の財務関係の事務(法第96条第1項に係るものを除く。)」が挙げられている。
契約の解除は、「契約が締結された後に、その一方の当事者の意思表示によって、契約関係を遡及的に解消し法律関係を清算するものであり、まさに「入札・契約、・・・・等の財務関係の事務」である。
従って、契約の解除は、「議決事件の対象とならないと解される事務」である。
第2 立法事実が存在しない
提案議員は、 条例改正(議案会第 17 号) の提案の理由等について、 「契約を締結する重みと契約を解除する重みは同じであると考えており、議会の議決権限の範囲を縮小する「議案第 119 号 議会の議決に付すべ き契約及び財産の取得又は処分に関する条例の一部を改正する条例 」に対応するため、契約の解除に関することを議決事項に加える」旨説明している。
しかし、行政実例(行実昭和33 年9 月1 9日 自丁行発 第159号福岡県総務部長宛行政課長回答)において、契約解除についての議決の要否については、「契約内容の変更としての議会の議決は要しないものと解する」とされており、立法の必要性を裏付ける事実がない。
また、本件議案の提案の経過から、本件議案は、本件特定事業契約の解除を阻止することを目的に提案されているといえるため、条例の一般性に反し不合理である。
このように、本件議案には、立法の必要性を裏づける事実及び立法の内容の合理性を基礎づける事実がないため、立法事実が存在しない。立法事実を欠く法令は違法・無効となる。
以上より、本件議案に係る議決は、議会の権限を超え又は法令に違反すると認めるので、再議に付すものである。
1月29日の市議会臨時会において再議が行われ、条例改正案は再び賛成多数で可決されました。
これを受け、長坂豊橋市長は再議における議決が議会の権限を超えたり法令に違反するとして、2月18日に大村愛知県知事に対して議決取り消し裁定を求め審査を申し立てました。
条例改正案が再可決されたことを報じた新聞記事
(一部引用)(2025年 1月30日付 毎日新聞中部 愛知)
豊橋市長が愛知県知事に審査を申し立てたことを報じた新聞記事
(一部引用)(2025年2月19日付 中日新聞 愛知県内版)
これを受けて長坂市長は4月22日、市議会に条例改正案の議決の取り消しを求める訴えを名古屋地方裁判所に起こしました。 (下記の図「再議の流れ」参照)
【事業継続を求める請願への対応】
3月市議会定例会が開会した2月26日、昨年12月に地元市民団体が市議会に提出し採択された新アリーナ事業の継続を求める請願に対し、市長は 「採択する議決の重みは認識しているが、市長選の結果を尊重すべきで契約の継続は検討しない」 と議会に報告しました。
一方で、長坂市長は、「仮に住民投票が行われた場合、その結果次第では継続を図る事もあるかもしれない」とも述べ、住民投票による決着の可能性に含みを持たせました。
【長坂市長の選挙ビラ問題】
新アリーナ推進派市議らは、長坂市長に対する不信任決議案の提出も視野に、長坂市長の選挙ビラに難癖をつけて市議会で厳しく追及しました。
24年11月の豊橋市長選で長坂氏陣営が作成、配布した法定ビラに浅井市長のパワハラ体質を指摘したインターネット記事が引用されていた点について、昨年12月の市議会定例会で市は、ビラの内容の真偽を調査して市議会に報告すると答弁していました。
3月4日、市調査委員会は、法廷ビラで引用された記事に記載されていた浅井市長の二つのパワハラ事案は確認できなかったとする調査結果を公表しました。
長坂氏陣営の豊橋市長選挙法定ビラ1号(裏面 一部引用)
この調査結果を受けて、3月5日の本会議では自民党が法定ビラ問題についての緊急質問を提案し、7名の議員が長坂市長に対して緊急質問を行いましたが、市長は引用記事の内容が事実でないと断定はできないとの見解を示しました。
この問題に関連し、3月7日夜になって長坂市長は緊急記者会見を開き、3月6日に市職員と思われる人物から浅井前市長のパワハラに関するかなり具体的な情報提供を受けたことを明らかにし、これを踏まえて改めて第三者による再調査を行う考えを示しました。
3月12日、長坂市長の緊急記者会見を受けて、再び本会議でこの問題に関する長坂市長への緊急質問が行われました。その後、自民、公明、まちフォーラム、とよはしみんなの議会4会派の議員23名は、法定ビラ問題や新アリーナ計画を巡る市長の一連の対応は市民の市政への信頼を大きく失墜させるとして、長坂市長への問責決議の動議を提案し、問責決議案はこれら会派の賛成多数で可決されました。
長坂市長の問責決議案可決を報じた記事(一部引用)
(2025年3月13日付 中日新聞愛知県内版)
新アリーナ事業の契約解除に動いている長坂市長は、2025年度の当初予算案に新アリーナ関連事業費を盛り込んでいませんでした。しかし、3月24日の予算特別委員会において、新アリーナ推進派市議から整備費用を盛り込むことを求める組み換え動議が提出され可決されました。
これを受け長坂市長は豊橋球場の解体費用など2億6100万円を増額する修正案を市議会に提出し、本会議でこの修正案を含めた新年度予算案が賛成多数で可決されました。
この後、長坂市長は「契約解除に向けた手続きを引き続き進める」と述べました。
以下の3月14日のCBCニュース動画では、3月市議会開催期間中に起こったことことが分かり易くまとめられています。
【市議会臨時会】
5月15日に開催された豊橋市議会臨時会に、公明党、自民党、共産党などが共同で新アリーナ計画継続の賛否を問う住民投票条例案を提出しました。
同時に、会派「新しい豊橋」からも投票日以外は同じ内容の住民投票条例案が提出されましたが、投票日を7月の参議院議員選挙と同日と定めた前者の条例案が賛成多数で可決されました。
これを受けて、「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の継続の賛否を問う住民投票条例が同日施行されました。
豊橋市における住民投票の実施は初めてとなります。
住民投票条例案の可決を報じた新聞記事(一部引用)
(25年5月16日付 中日新聞東三河版)
住民投票条例案の可決を報じた新聞記事(一部引用)
(25年5月16日付 毎日新聞愛知面)
住民投票は住民の意思を確認するために行うもので、投票結果に法的拘束力はありませんが、長坂市長は「(事業継続に)賛成多数であれば事業を継続する、反対多数であれば継続しない、つまり事業をやめる」と明言しました。
これにより事実上、住民投票の結果をもって新アリーナ事業の継続か中止かが決することになりました。
それにしても、これまでに3回も頑なに住民投票条例案を否決し続けてきた自民、公明、まちフォーラムなどの推進派会派が、なぜここにきて態度を一転させ住民投票条例案に賛成したのでしょうか。
昨年12月定例会で自民党の山本賢太郎議員が住民投票条例案撤回理由として挙げた3つの状況は、現在も変わっていません。
この疑問に対して、条例案提出者の一人である公明党の尾林伸治議員は臨時会の質疑の中で、5月9日に市民団体「新アリーナを求める会」から市議会宛に住民投票を求める要望書が提出されたことが理由の一つと認めています。
住民が地方自治法に則り、規定の署名を集めて直接請求した住民投票条例案を2度も否決しておきながら、推進派団体からの要望書を受け取ったら1週間も経たないうちにあっさりと住民投票条例案を可決成立させてしまった豊橋市議会多数派の無節操な言動にはあきれるばかりです。
【戻り方(スマホ)】
または、スマホの「戻る操作」で目次へ戻ってください。
多目的屋内施設(新アリーナ)は、一旦つくってしまうと最低でも65年以上、子や孫の代まで使われ続ける施設なのに、浅井前市長は都合の良い市民受けする話を語るばかりで、問題点や課題に正面から向き合おうとしてきませんでした。計画推進派の議員たちも同様です。
この章で取り上げている問題点を黙認して計画を進めれば、今後市民に及ぼす悪影響は計り知れません。
ここでは、豊橋市が23年8月に公表した多目的屋内施設整備基本計画(令和5年8月)(基本計画)の内容を中心に、24年8月に一部が明らかになった落札事業者の提案内容を含め、豊橋公園内に新アリーナをつくることの問題点を整理して解説しています。
問題点がたくさんあるので、最初の目次に戻って、ご自身の興味のある問題点をクリックして読み始めることをお勧めします。
なお、豊橋市はこれまでに新アリーナ(多目的屋内施設)に関して以下の計画や調査報告書を公表しており、基本計画は、これらの計画や調査結果を基礎としながら、更新された計画等を踏まえた新たな計画との位置づけです。
公表:19年3月 「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」(まちづくり基本計画)
公表:21年3月 「多目的屋内施設の基本計画策定に向けた基礎調査報告書」(基礎調査報告書)
公表:22年9月 「多目的屋内施設関連市場調査報告書」(市場調査報告書)
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「3.豊橋市は何のためにアリーナをつくるのか」で述べたように、市は新アリーナ建設の4つの目的を市民に示してきました。
しかし、現在37万人の人口が2050年には約30万人にまで減少すると見込まれる豊橋市において、30年間で総額300億円(☞ 5-4.膨れ上がる事業費)近い市の税金を投じて贅沢なプロスポーツ仕様のアリーナをつくる必要性が全く見えてきません。
それでも、浅井前市長や計画推進派議員(自民、公明、まちフォーラムなど)は、脇目も振らず、がむしゃらに計画を進めてきました。
その後、新アリーナ建設の是非が最大の争点となった24年11月の市長選挙で、計画に反対し契約解除を公約に掲げた長坂尚登市長が誕生し、計画中止の民意が示されたにもかかわらず、計画推進派議員らは執拗に契約解除阻止の動きを続けています。
一体、何が彼らをそこまで突き動かしているのでしょうか。
これまでの経緯から、彼ら計画推進派が、男子プロバスケットボールBリーグに所属する地元チーム三遠ネオフェニックス(フェニックス)のためのBリーグ基準のホームアリーナを準備することを目論んでいることは疑う余地がありません。
Bリーグ基準のホームアリーナは、トップリーグ「Bプレミア」への参入を希望する全てのチームに求められる参入要件のひとつで、新アリーナの要求水準書も日程計画もすべてがBリーグの審査基準や審査スケジュールに沿った形でお膳立てされてきました。
それでも、浅井前市長は一貫してこうした見方を否定し、「フェニックスは新アリーナを利用するスポーツ興行主のひとつに過ぎない」との説明を繰り返しました。
しかし、いくら否定しようとも、実態は「フェニックスのための新アリーナ」なのです。少なくとも多くの市民の目にはそう映っています。
それにしても、フェニックスがいくら地元のプロスポーツチームだからと言っても、なぜ、一民間企業のために巨額の税金を使ってそこまでしようとするのでしょうか。大きな疑問です。彼ら計画推進派の真意を推し測ることは難しいのですが、以下では私の個人的な推測を述べることにします。
こうしたハコモノ事業に対しては、とかく利益誘導、利権がらみといった見方がなされます。特に、事業を受注した企業グループに参画する地元企業にとっては大きな機会ですから、そうしたことは当然あると思います。
これに加えて、私は、新アリーナ計画の本当の狙いは、国が強力に推し進めるPFIコンセッション手法を活用したスタジアム・アリーナ改革の方針に沿った公設アリーナの整備に先鞭をつけ、地方の中核市におけるモデルケースとして国や自公政権に実績をアピールすることだと考えています。
また、新アリーナは当初から愛知国際アリーナ(IGアリーナ 25年7月開業予定)のサテライトとして位置付けられ、県から補助金も支給されていることから、国だけでなく県の意向にも沿う形で進められてきました。
即ち、豊橋市の新アリーナ計画は、自公政権が打ち出したスタジアム・アリーナ改革という大義名分の、懲りない箱物行政への安易な便乗に過ぎず、勝ち馬に乗ろうとした佐原元市長や浅井前市長、計画推進派議員らの政治的な思惑から浮上してきたものというのが私の見立てです。決して、市民ニーズに照らして企画立案したものではありません。
そうであるとすると、先ほど述べた市がフェニックスのホームアリーナに固執する理由も見えてきます。新アリーナの市場調査報告書や基本計画を見る限り、新アリーナの興行利用想定のうち7割以上はBリーグの試合です。現時点でBリーグの試合以外で確定的な、あるいは見通しのある利用想定は一つもありません。
こうした状況では、フェニックスが豊橋市をホームタウンとし、豊橋でBリーグのホームゲームを毎年決まった回数開催し続けることが、新アリーナ建設の絶対条件です。フェニックスが浜松市に拠点を移してしまったら、もはや新アリーナをつくる意味は完全に失われてしまいます。
浅井前市長や計画推進派議員らは、地元チームへの熱い思いからなどではなく、単に政治的な思惑からフェニックスのホームアリーナに固執しているに過ぎないと思われます。
一方で、フェニックスもそうした自身の置かれた絶妙な立ち位置をよく理解した上で、市民を分断するアリーナ論争をまるで他人事のように傍観し、自分たちは1円も負担することなく、豊橋市の税金でつくられたホームアリーナが完成するのをまるで「お客さん」のように待っているだけなのです。
豊橋市の新アリーナ計画の最大の問題は、新アリーナ建設に対する市民の合意形成がなされていない点です。
具体的には、以下の二点です。
① 男子プロバスケットボールBリーグに所属する地元チーム三遠ネオフェニックス(フェニックス)のホームアリーナ建設に巨額の税金を投じることに対する合意形成
② 市街地にある閑静な豊橋公園の中に巨大な建造物を建てて公園の姿を大きく変えることに対する合意形成
浅井市長の下、市は、前節5-1で述べた新アリーナ建設の本当の目的から市民の視線をそらすため、「3.豊橋市は何のためにアリーナをつくるのか」で紹介した、「市民のため」の4つの目的だけを市民の前に並べました。
さらに、浅井前市長は計画当初から市民への説明もそこそこに、トップダウンで計画を進めてきました。そのプロセスに市民の意思を反映する余地はなく、市民の合意形成プロセスは置き去りにされました。
浅井前市長や計画推進派会派(自民、公明、まちフォーラム)は、こうした市民の目を欺き市民を蚊帳の外に置く拙速な進め方ではなく、地元プロリーグチームフェニックスの集客力と発信力を活用したまちづくりや地域経済活性化策について、市民に開かれた十分な議論を行うべきでした。
そして、その議論の過程で、フェニックスのホームアリーナ建設に市民の税金を投じることについて、丁寧に市民のコンセンサスを醸成していくべきでした。
ところが、計画推進派会派は、あろうことか市民から出された2回の住民投票条例案をいずれも否決し、更に昨年12月26日の市議会本会議では、自らが提出した住民投票条例案を意味不明な理由で突然撤回した上で、計画反対派会派が提出した住民投票条例案にも反対し、三度にわたって市民の意思を反映させる機会を封じてきました。
また、浅井前市長は、市民説明会を開こうともせず、市民から寄せられた数多くの貴重なパブリックコメントを捨て置き、合意形成の機会を自ら踏み潰してしまいました。
建てても建てなくても多くの市民が失望する、出口の見えない市民対立の構図をつくりあげてしまった責任は、佐原元市長、浅井前市長と、市の暴走に加担した市議会議員(自民・公明・まちフォーラムなど)にあります。
一方、フェニックスもただ傍観しているだけではなく、プロスポーツチームの発信力を活かし、ブースター(ファン)の力も借りるなどして、地元企業から建設資金の寄付を募ったり、Bリーグに関心のない多くの市民を巻き込むべく行動を起こしたりすべきでした。
自ら動こうとしない民間企業フェニックスの親方日の丸的な企業姿勢には驚くばかりです。今後、フェニックスに対する地元市民の見方が冷ややかになっていくことは避けられないでしょう。
豊橋市の中心部、豊川、朝倉川の南側に広がる緑豊かな豊橋公園には、吉田城址に代表される貴重な歴史遺産、美術館などの文化施設、豊橋球場、陸上競技場、武道場など市民のためのスポーツ施設、児童遊園などがあります。
古くは、動物園や体育館、児童文化センター、市民プールなどもありましたが、時とともにそれぞれ移転したり閉鎖したりして、少しずつその姿を変えてきました。それでも、現在の豊橋公園は昔と変わらぬ緑に囲まれた閑静で落ち着いた原風景を残し、多くの市民の子ども時代の思い出の詰まった、懐かしくゆったりとした時間が流れる市民の憩いの場所です。
豊橋公園に限らず、公園は市民みんなの大切な財産です。今ある姿は、これまでこの地で暮らしてきた何世代もの市民らのその時々の総意によってつくられてきた結果です。そして、私たちには、この公園を私たちの子や孫に大切に残していく責任があります。
その公園に、市が市民の合意もないままに高さ25mの巨大な建造物を建て、公園の風景を一変させてしまうことなど許されるはずがありません。
また、アリーナは体育館とは異なり、市民がスポーツを行うことを主目的とする施設ではなく、主にプロが行うスポーツ興行をお金を払って楽しむための施設です。観客は市民に限りませんし、逆にBリーグ観戦などに関心が無い多くの市民には恩恵が少ない施設です。
市民の大切な公園の中に一部の人たちだけがエンタメを楽しむ施設を勝手につくり、そこに生きているたくさんの木々を伐採し公園の姿を変えてしまうことに、多くの市民は納得しないでしょう。
更に、この新アリーナ事業はコンセッション方式という事業スキームによって実施され、新アリーナの30年間の独占的な運営権を民間事業者にタダで渡してしまい、この事業者が維持管理・運営をしていくことになります。これにより、民間事業者はいちいち市の許可を得ることなく、自らの裁量で新アリーナを活用した自由な営利活動を行うことができます。
これは、市民みんなの豊橋公園が一民間企業の独占的な金儲けの場となることを意味します。公園は空き地ではありません。金儲けしたいのなら、市内の使われていない空き地を自分で買って、そこで市民に迷惑をかけずに思う存分やってください。
今回の件で、浅井前市長や計画推進派議員は、豊橋公園に対する市民の思いを完全に読み誤りました。
アリーナに反対する市民の多くは、豊橋公園の自然豊かな原風景が、事業者やプロスポーツ企業の営利活動のために壊されてしまうことに我慢がならないのです。
樹齢何十年ものたくさんの樹木が伐採され、多くの自然が失われ、公園の生態系への影響も懸念されます。豊橋公園の自然については、urikaedeさんのブログ「もり~ゆ 野巡りの日々、第3章」とInstagramに大変に詳しく綴られていますので、この機に是非そちらもご覧ください。写真もたくさん紹介されています。「まなざし自然観察会」や「Tree Tree Tours」の報告を読むと、身近な豊橋公園の自然の豊かさにあらためて気づかされます。
建設予定地が豊橋公園でなかったなら、ここまで多くの市民が反対することはなかったかもしれません。
豊橋市役所東館13階展望ロビーから望む豊橋公園(平成20年3月)
豊橋公園に新アリーナを建設する構想が初めて持ち上がったのは佐原市政だった2016年でした。それ以降、市は外部の調査・コンサルティング会社に繰り返し調査や計画の策定を業務委託し、その時点で想定される設計建設費の試算結果を公表してきました。
下のグラフは、新アリーナ事業の設計建設費の推移を示しています。維持管理・運営費は含まれていません。
新アリーナの設計建設費の推移
なお、当初は新アリーナだけを建設する方針でしたが、22年11月に当初の建設予定地が朝倉川の「家屋倒壊等氾濫想定区域」に含まれていることが発覚し、市は、既存施設の再配置を含む豊橋公園東側エリア全体の大規模整備へと方針を転換しました。
このため、23年8月の基本計画以降の設計建設費には、新アリーナ以外の公園施設整備費(基本計画では約34億円)も含まれています。
新アリーナの収容人数は当初から変わっていないのに、23年8月の基本計画で示された想定額が突然184億円と倍増している理由は、この公園施設整備費が含まれていることに加え、建設資材価格や人件費の高騰によるものです。これは全国各地で進むアリーナ建設計画に共通する課題です。
事業者から提案された整備費が、基本計画の想定額より更に46億円も高い230億円となった理由については、事業者が未だに詳しい提案内容の開示を許諾していないため不明ですが、延べ床面積1㎡あたりの工事費に換算すると88.5万円/㎡となり、その時点の相場から考えて明らかに高過ぎます。
結局、新アリーナの整備費(豊橋公園東側エリア内の公園施設の整備費を含む)は当初の3倍に膨れ上がることになりました。
ところが、新アリーナ及び豊橋公園東側エリアの整備・修繕に係る費用は、この230億円だけでは済みません。私の試算では、下の図に示すように今後30年間でおよそ354億円かかります。
新アリーナ及び豊橋公園東側エリアの整備・修繕に係る費用(推定)
内訳と算定根拠は、以下のとおりです。(番号は図の中の番号と対応)
① 24年9月の事業契約における設計建設費
事業提案概要の中の資金計画に書かれている230億7千万円で、その全額は豊橋公園東側エリアに整備される新アリーナと公園基盤施設の設計建設費です。
② 物価変動による設計建設費の増額(推定額)
特定事業契約第53条では、契約締結日以降に国内の賃金水準や物価水準が変動(上昇)した場合に、事業者は設計・建設費の変動分のうち1.5%を超える額を市に請求できるとされています。
これを、国土交通省が公表している建設工事費動向の指標である「建設工事費デフレーター(建設総合)」を使って試算すると、約15億円となります。
③ 大規模修繕費(推定額)
大規模修繕とは、劣化した建物や設備をしゅん工時の施設水準に回復させるための大規模な修繕のことで、要求水準書では施設引渡し後15年から20年までの間に1回想定されています。契約では、市がその費用を負担することになっています。
スポーツ庁の算定値と物価上昇率に基づくと、延べ面積1㎡あたりの費用はおよそ28万円と算定され、新アリーナに適用すると約59億円となります。
④ 野球場移設費用
豊橋公園東側エリア全体の大規模整備への方針転換に伴い、市は23年5月に、豊橋公園内の豊橋球場を豊橋総合スポーツ公園(B地区)へ移設し、その跡地に新アリーナを建設する方針を打ち出しました。当初の計画では必要のない費用でした。
市は、「豊橋総合スポーツ公園B地区野球場整備基本計画 令和6年7月26日」の中で、移設予定地が海沿いの埋立地であることから、津波対策として野球場3面全てを標高3.5mになるように盛土するとともに、その圧密沈下対策と液状化対策も併せて行う必要があるとしています。
こうした状況を踏まえ、市は、移設費用を42億円(用地購入に13億円、設計・整備費に29億円)と想定しています。但し、今後の設計結果次第では、更に費用が膨らむ可能性があります。
⑤物価変動による野球場移設費の増額(推定額)
野球場全体の整備完了は、新アリーナの開業から2年遅れの29年10月で、整備が長期にわたることから、より物価変動の影響を受けやすいと考えられます。
①から⑤の費用をすべて加算すると354億円となります。
なお、市は本事業に対して国から補助金69億円が交付されると見込んでおり、そのとおりであるとすれば実際に市が拠出する税金は推定285億円です。
この節では、ここまで設計建設・修繕費のみについて述べてきました。
一方、「4-11.事業者の決定、特定事業契約の締結」で述べたように、事業者は30年間の維持管理・運営費を0円として提案してきましたので、実際に事業者の提案に沿った維持管理・運営がなされるとすれば、市が支払う30年間の総事業費は推定285億円となります。
一部の市民がエンタ-テイメントを楽しむための新アリーナに30年間で285億円もの巨額を投じることは、それと同額の市民サービスや市の事業が削られることを意味します。現在約37万人の人口が2050年には約30万人にまで減少すると見込まれる豊橋市にとって、明らかに身の丈に合わない事業だと言わざるを得ません。
本事業は、コンセッション方式で実施されるため、新アリーナの実際の運営は市が行うわけではなく、運営権を設定された事業者が行います。
☞5-6.事業者とフェニックスのためのコンセッション方式
しかし、これはあくまでも市の事業なのですから、事業の構想・計画段階において、市は当然、肝心の魅力あるプロスポーツやコンサート等のエンタメコンテンツを新アリーナに呼び込むための戦略と見通しを持っていたはずです。新アリーナという箱物をハードだとすれば、いわばソフトの戦略です。
近年は、大都市圏だけでなく全国各地でアリーナの計画や建設が進んでおり、地方も巻き込んだコンテンツの招致合戦が激化しています。つくれば、プロスポーツや人気アーティストがホイホイと来てくれるような状況にはありません。
そこで、ここからは市がどこまで真剣に検討していたのか、23年8月に公表された基本計画を検証してみます。
基本計画89ページの図表7-6には、市が想定する新アリーナの年間利用日数が書かれています。
年間、118日です。設営・撤去の日も含まれます。しかし、根拠は一切書かれていないため、22年9月に公表された市場調査報告書の内容を確認しました。
市場調査報告書の18ページに書かれているプロスポーツ興行での想定利用日数をまとめると、以下の通りです。
つまり、スポーツ興行の想定利用日数は、試合、設営・撤去を含め、年間75日です。
75日だったものが基本計画(23年8月)で13日増えて88日となった理由は、当時の長坂尚登市議からの情報によると、基本計画ではBリーグの試合日数を4日増やして28日、それに伴い、設営・撤去日数を8日増やして38日と想定したからです。これは、三遠ネオフェニックスが上位8チームによって行われるチャンピオンシップに毎年進出して準決勝まで勝ち進む前提で見積っているためです。都合のよい前提条件です。
これらの情報より、基本計画では試合日数をおよそ37日、設営・撤去日を50日程度と想定していることがわかります。
それでは、激しい招致合戦の中で、どのようにして毎年これだけの数のプロスポーツの試合を新アリーナに呼び込むのでしょうか。
市場調査報告書(22年9月)には、Bリーグ以外の上記プロスポーツを新アリーナに招致できるとする理由として、「過去に豊橋市で開催したことがある」とだけ書かれていました。
たったこれだけの理由で、今後毎年招致できると想定しているのです。卓球Tリーグに打診して好感触を得ているとか、相撲協会と個別に話をして毎年巡業に来てもらえるよう交渉しているわけではありません。そもそも人気が高く、引く手あまたの大相撲の巡業を毎年呼べるはずなどありません。
これでは、「予測」ではなく、根拠のない勝手な「期待」です。
一方、上の表からわかるように、スポーツ興行の想定利用日数の7割以上がBリーグのフェニックスの試合です。はっきり言えば、フェニックス頼みです。現在でも豊橋市総合体育館で年間24試合が行われていることから、当面は新アリーナでも同じ試合数を行えるでしょう。
しかし、新アリーナは今後60年以上使用される施設です。フェニックスが今後何十年間も継続して新アリーナで毎年28試合を行う保証などありません。途中で豊橋市とのホームタウン契約を解消したり、BリーグのトップカテゴリーBプレミアから陥落したり、財務状況が悪化してチーム自体がなくなったりすることだってあるかもしれません。
こうしたリスクを市はどのように考えているのでしょうか。市はこれまで「だんまり」をきめこんできました。
それでは、次にコンサートについても検証してみます。
市場調査報告書(22年9月)では、新アリーナでの年間コンサート数を30日(設営・撤去を含む)と想定していましたが、基本計画では18日(設営・撤去12日を含む)に半減しています。その理由を、市は、今後もアイプラザ(1,469席)を使い続ける方針に転換し、ホールコンサート機能を削ったからだと説明しています。
アイプラザの利用料が1日約25万円なのに対し、新アリーナの想定利用料は1日173万円です。せいぜい1,500人程度しか集客できないホールコンサートに新アリーナを利用しても採算が取れません。
それでは、アイプラザの定員1,500人を超えるアリーナコンサートについてはどうでしょうか。
愛知県内で1万人以上の規模のコンサートを行える施設としては、バンテリンドーム ナゴヤ、日本ガイシホール、ポートメッセなごや 新第1展示館があり、25年7月には最大17,000人収容の愛知国際アリーナ(IGアリーナ)も開業します。いずれも公共交通機関でのアクセスが極めて良好な立地です。
さらに、名古屋市港区の「みなとアクルス」に、1万人規模を収容できる新しいアリーナが建設されるとの報道がありました。27年10月にも開業する見通しです。
これにより、豊橋の新アリーナが完成する27年には、県内で1万人規模のライブコンサートを開催できる会場は5施設になっており、5,000人しか収容できない新アリーナはあまりにも中途半端で、エンタメを企画・運営するプロモーターにとっては魅力を感じないでしょう。以前から指摘されている点です。
実際に、内閣府とスポーツ庁が策定したスタジアム・アリーナに係るコンセッション事業活用ガイドライン 令和4年12月(令和5年12月改訂版)には、「Bリーグを想定した5,000席程度のアリーナは、エンタメの開催にマッチしづらく、イベント開催時の収益確保が困難」と記載されています。
また、市の市場調査報告書でも、スポーツ施設運営事業者やイベントプロモーターにヒアリングした意見の中に、コンサートツアーは厳しいとの意見がありました。
結局、新アリーナに人気アーティストのライブコンサートを招致できる可能性は限りなく低いと言わざるを得ません。
ところが、19年3月に公表されたまちづくり基本計画の17ページには、次のように書かれています。
「新アリーナでは、プロスポーツ以外にもエンターテイメント性の高いコンサートや展示会など様々な催しが開催されることから、全国から年齢、性別、国籍を超えて多くの方が本市を訪れます。」
市は、豊橋公園に「横浜アリーナ」か「さいたまスーパーアリーナ」でもつくる気でいたのでしょうか。「独りよがり」にもほどがあります。
最後に、MICEについても触れておきます。
MICEとは、企業等の会議、企業等の行う報奨・研修旅行、国際機関・学会等が行う国際会議、展示会・見本市などのことで、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称です。
市場調査報告書(22年9月)では、MICEの想定利用日数を年間7日(準備・設営・撤収の5日間を含む)としていましたが、基本計画では12日に増えています。市場調査報告書に倣うと、内訳は開催日が4日、準備・設営・撤収が8日といったところでしょう。増えた理由は書かれていません。
これまでのプロスポーツ興行やコンサートと同様、基本計画には想定利用日数の根拠が一切示されていません。そこで、市場調査報告書(22年9月)を見てみると、21ページに次のような文章が並んでいます。
「中規模展示および企業会議等を(中略)呼び込む余地があるものと思われます。」
「MICEなどの多目的利用の需要を高めていく、また潜在的なニーズを掴まえていくことが、本市における課題とも言えます。」
「立地面から考慮すると十分利用可能性があるものと考えられます。」
つまり、MICEについても確たる根拠や市場調査結果に基づいているわけではなく、浅井前市長や市幹部のいわば「心意気」ひとつで想定利用日数を決めただけとしか思えません。
以上、基本計画と市場調査報告書(22年9月)に書かれている想定利用日数とその根拠を検証してきました。
その結果、根拠の乏しい単なる「期待」、「独りよがり」、「心意気」だけで、毎年40回以上のイベント需要があると結論付け、肝心のプロスポーツ(Bリーグを除く)やコンサート、MICE等の招致戦略や見通しなど何もないことがわかりました。いわゆる「出たとこ勝負」です。
つくっても使われない赤字垂れ流しの箱モノをつくってしまう典型的な失敗パターンです。豊橋市に必要な施設は、興行が来る当てのない「お荷物」アリーナではなく、市民が使いたいときに使える体育館なのです。
(追記 25.7.19)
25年7月14日に開かれた「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」等に関する調査特別委員会では、事業者よりメインアリーナの年間利用日数が示されました。それによると、
プロスポーツ・コンサートなど:80日
(このうち、三遠ネオフェニックスの試合が24日+α)
MICEなど企業利用:20日
市民利用:60日
合計160日です。この中には、本番日だけでなく準備・撤収日も含まれており、興行・イベント数(本番日)は不明です。
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ここでは、新アリーナの事業スキーム(手法)の話をします。なじみの無い方がほとんどだと思います。
これまで豊橋市では、既存の多くの公共施設の維持管理・運営に指定管理者制度を活用してきました。
指定管理者制度とは、公共施設の管理、運営を民間事業者やNPO法人等に包括的にアウトソーシングする制度のことで、指定管理者は豊橋市が公募によって選定、指名します。指定期間は5年間が一般的です。狙いは、民間事業者等のノウハウ活用と競争原理による管理コストの削減です。
一方、これとは別に、民間事業者が公共施設等の設計、建設、維持管理、及び運営を一括して担うPFIと呼ばれる事業手法が全国で急速に広がってきました。
PFI事業では、PFI事業に応募しようとする複数の異業種企業が企業連合を組んで入札に参加し、選定された企業連合はPFI事業を行うための特別目的会社(SPCと呼ばれます)を設立します。
SPCは自ら資金を調達し、SPC内外の設計会社、建設会社、維持管理・運営会社等と個別契約を結ぶなど、全てのプロセスを民間主導で行います。民間の資金、経営能力、技術力(ノウハウ)が十分に発揮されるため、指定管理者制度と比べてさらに良質な公共サービスをより安く市民に提供することができるとされています。
☞ PFI事業の概要 内閣府PPP/PFI推進室 2023年7月
既に豊橋市で行われているPFI事業には以下のようなものがあります。
・豊橋市北部学校給食共同調理場整備・運営事業
・豊橋市芸術文化交流施設(穂の国とよはし芸術劇場「プラット」)整備等事業
・豊橋市斎場整備・運営事業
新アリーナもPFI事業として計画されていますが、これまでの豊橋市のPFI事業がすべてBTO方式と呼ばれる手法で実施されてきたのに対し、新アリーナは市として初となるBT+コンセッション方式を採用することが基本計画の112ページに記載されています。
コンセッション方式とは、施設(アリーナ)の所有権を公共(市)が有したまま、数十年間の施設の独占的な運営権を民間事業者に設定する事業方式です。
これにより、民間事業者はアリーナの貸館業務やアリーナの市民利用などの公共サービスの提供だけでなく、より多くの利益を稼ぎ出すために施設利用料金を柔軟に設定したり、アリーナを活用した自主事業を自らの裁量で提案、実施したりすることができます。一方で、市は事業者が契約内容や法令に反しない限り、事業者の事業運営に口を挟むことはできません。
そして、BT+コンセッション方式とは、市が作成した要求水準書(市が事業者に対して要求する施設の性能や業務の水準を規定した書類)に基づいて事業者が公共施設を設計・建設した後に、市がその施設を買い取り、その後の運営をコンセッション手法によって実施する一連の事業スキーム(手法)です。
この手法では、施設の整備(設計・建設)と運営に関する業務を包括的に契約することができ、事業者は市が要求する性能の施設や設備に加えて、事業者自らが提案する自主事業に必要な機能や設備を、入札時の提案書に入れ込むこともできます。
それでは、市はなぜ自らが持っている独占的な運営権を事業者に設定するのでしょうか?
2025年夏の開業をめざしてBT+コンセッション方式で建設が進んでいる愛知国際アリーナ(IGアリーナ)のように、利用需要が高く維持管理・運営費を上回る大きな収益を見込める場合には、事業者は契約期間(30年間)を通して見込まれる総利益から維持管理・運営費の見込額を差し引いた額をベースに、運営権対価を公共(県)に前倒しで支払います。言い換えれば、県はこの運営権対価と引き換えに運営権を事業者に設定するのです。
これにより、県にとってはこの運営権対価の金額分だけ実質的な建設費を抑えることができ、税金を節約できるというメリットがあります。具体的には、設計・建設費は約400億円ですが、事業者が県に対して運営権対価200億円を支払うため、県が負担するのは差額の200億円※だけです。
※愛知県の令和6年度予算案では愛知国際アリーナ(IGアリーナ)の整備推進費として257億円が計上されています。昨今の物価上昇や人件費高騰により設計・建設費が457億円に膨らんだものと思われます。
それでは、豊橋市の新アリーナについてはどうでしょうか。IGアリーナと比較してみます。
BT+コンセッション方式で建設・運営する2つのアリーナの比較
24年8月に公表された事業者提案に記載された新アリーナの資金計画を見ると、運営と維持管理業務に係るサービス購入料はすべて0円となっており、新アリーナの維持管理・運営はIGアリーナと同様に事業者の独立採算で行われることがわかります。
しかし、IGアリーナとの違いは運営権対価が0円という点です。つまり、豊橋市は新アリーナの30年間の独占的な運営権を、見かけ上はタダで民間事業者に設定することになります。
但し、実質的には「タダ」ではなく、この事業を仮に市が従来手法で行ったとすれば支払うことになるであろう維持管理・運営費を、コンセッションを活用することによって0円に抑えることができると理解すべきです。
それにしても、豊橋市の新アリーナはIGアリーナの3分の1の規模しかないのに、支払う金額はIGアリーナの契約金額とほぼ同じというのは、市民から見ると釈然としません。なぜ、こんなことになってしまうのでしょうか。
答えは簡単です。IGアリーナとは違い、豊橋の新アリーナは儲かる見込みが無いからです。言い換えれば、利用需要が無いからです。需要が無ければ、いくらコンセッション手法を使ったとしても設計建設費が安くなることはありません。そもそも建てる意味さえ疑わしくなります。
これ以外にも、コンセッション方式を採用し運営権を民間事業者に設定することで、別の問題も生じます。その一例として、メインアリーナの予約ルールを見てみます。
新アリーナにはメインアリーナとサブアリーナがあります。
サブアリーナは、原則通年の一般利用が想定されますが、事業者は興行等のために優先的に貸し出すことができます。
一方、メインアリーナについては、最初に運営権を持つ事業者が興行などに利用する日を優先的に押さえます。この中には、フェニックスが次期シーズンのリーグ戦の試合日程調整のために確保する89日以上の利用枠(※1)も含まれます。
その後、市は利用する年度の前年度11月頃になってから、事業者と協議して残っている日から60日(※2)(土日・祝日を24日以上含む)を選ばせてもらいます。
更に、市は、この60日の中から市が主催する行事(例えば、市内スポーツ大会)を「優先予約」として受け付け、その後に「優先予約」以外の市民利用の予約を受け付けます。
【参考資料】:多目的屋内施設 要求水準書 別紙28「一般利用日等の取扱い」
※1 2026-27シーズンB.PREMIERクラブライセンス交付規則 第19条
※2 最低保証日数
つまり、市が巨額の設計・建設費の全額を出して建てたにもかかわらず、最優先で予約できるのは事業者と三遠ネオフェニックスで、市に保証される利用日数は年間たったの60日だけです。それなのに、フェニックスが支払うのはアリーナの規定の利用料だけで、設計・建設費は1円も払いません。
これが本当に市民のためのアリーナと言えるのでしょうか。民間事業者に運営権が設定されてしまうと、こうした理不尽なことになるのです。
新アリーナの市民利用料金についても、総合体育館の利用料金よりも相当高く設定されるかもしれませんし、公園内で開かれるイベントの多くが有料になるかもしれません。駐車場も有料になります。市が市民のために運営するわけではありませんから、料金設定も割高になることが予想されます。
このように、今後、豊橋公園はお金を払って楽しむ場所になってしまうかもしれません。市民が支払ったお金は、独占的に運営権を握る民間事業者の懐にどんどん吸い込まれていくしくみです。市に入るわけではありません。
4-11.事業者の決定、特定事業契約の締結で述べたように、事業者の提案概要の「3.資金計画」では、設計・建設費が市の基本計画の想定額より46.7億円も高い230.7億円で、30年間の維持管理・運営費(市が指定管理料として事業者に支払う)は逆に38.4億円も低い0円とされています。これは、事業者が独立採算で維持管理・運営業務を行っていくことを意味します。
さらに、事業者の提案概要の「5.運営業務」には、愛知県新体育館や他施設と連携した運営として、
「愛知県新体育館で開催される人気アーティストのライブや国際スポーツ大会については、ライブビューイングを積極的に実施する等、愛知県新体育館のサテライトアリーナとして活用します。」
と書かれています。
ライブビューイングとは、IGアリーナなどで開催するライブ等を次世代通信インフラにより豊橋新アリーナに配信し、その映像を大型ビジョンに映し出して観客にライブ等を疑似体験させるイベントです。
また、令和6年9月11日の市議会総務委員会において、多目的屋内施設整備推進室主幹が以下のように答弁しています。
「事業費の大半を質の高いサービスを提供するための施設整備に投じることにより、運営収入・収益性を向上させる」
「アリーナに大型ビジョンや演出照明、音響など高機能な興行用設備を充実させるとともに、次世代通信インフラを導入し、他のアリーナ施設との相互連携することにより、通常のアリーナ興行に加え、多彩なライブビューイングの開催誘致を促進する」
以上の事実は、豊橋新アリーナがIGアリーナのサテライトアリーナとして、
① NTTが開発を進める次世代通信インフラの実証実験
② ライブビューイングの社会実験
という二つの実験の実験場として使われることを意味します。
そして、上述の基本計画との差額46億円はこうしたライブビューイングのための設備(大型ビジョン、演出照明機材、音響機器、通信設備など)に充てられるものと考えられます。
しかし、今後、例えばIGアリーナで開催されているコンサートを豊橋新アリーナに生配信するライブビューイングがどの程度人々に受け入れられるのかは予断を許しません。
次世代通信インフラにより遅延の無い高精細な映像が幅30mの超大型ビジョンに映し出され、映像に同期してコンピュータ制御された照明が会場の雰囲気を盛り上げ、高臨場感音響技術によってまるで目の前でアーティストが歌っているかのように聞こえるとしても、現実には目の前にアーティストはいないのです。
遠方のアリーナならいざ知らず、推しのアーティストのコンサートを観るのに、豊橋駅からわずか1時間6分で行けるIGアリーナまで行くのをためらう理由があるのでしょうか。甚だ疑問です。
事業者から、「ライブビューイングは今後需要が伸びて収入が増え、そこから維持管理・運営費も支払えると思いますから、46億円(税金)をその設備に投資します。」と提案され、その言葉を信じて言われるままに「ああ、そうですか。」と言って契約してしまったのが、豊橋市であり、推進派の市議らです。
つまり、この事業者提案自体が市に大きなリスクを負わせていることに市民は気付くべきです。
次に、新アリーナのこうした使われ方を踏まえた上で、豊橋市が負わされる事業契約のリスクについて述べていきます。
契約におけるリスクは次の5つです。
(1)事業者により過剰な設備投資が行われるリスク
企業が質の高い新しいサービスを提供する実験場として利用するために、要求水準書に記載された要求水準を大きく上回る、市民にとっては必要のない高額設備が税金で導入されるリスクがあります。
(2)高性能演出機材や次世代通信設備は陳腐化が速く、その維持費・更新費を市に押し付けられるリスク
次世代通信インフラIOWNは現在開発途上で、新たな先端技術を実装しながら第2世代、第3世代へと急速に進化を続けていきます。
それ以外の大型ビジョンなどの高性能演出機材についても陳腐化が速く、他の施設に劣らない高性能な設備を維持していくためには、設備や機器の頻繁な更新や交換が求められます。
契約には、こうした陳腐化による設備・機器の更新、交換についての規定がなく、その費用を市に押し付けられるリスクがあります。
特に、豊橋新アリーナがIGアリーナのサテライトと位置付けられていることから、今後IGアリーナが通信インフラの進化に追従していけば、豊橋新アリーナも付き合わされることは明らかで、その都度高額な通信設備の更新を求められます。
(3)市が負担する大規模修繕費が増加するするリスク
特定事業契約によると、大規模修繕費は豊橋市が負担するとされています。ここで問題となるのは、先ほど述べた陳腐化による設備や機器の更新・交換が大規模修繕に含まれるかという点です。
特定事業契約書(案)第82条には、
「市は、…中長期修繕計画を参考に、…劣化した建物や設備…を初期の要求水準に回復させるための大規模修繕を実施する…」
と書かれていますが、現時点で大規模修繕の内容・定義は何も決められていません。
今後、市と事業者との協議の中で、事業者が「劣化」には陳腐化も含まれると主張してくることが十分に予想されます。
事業者に押し切られてしまった場合、市は「契約に従って市の責任で」陳腐化した設備や機器の更新・交換を行わなければならなくなります。
(4)現時点で不確実性のある事由が将来発生した場合、赤字補填か事業者撤退かの選択を迫られるリスク
特定事業契約書(案)第89条第2項には、以下のように書かれています。
「…本事業の運営の根幹をなす事由の変更により事業者の利用料金に係る収入が著しく減少した場合、事業者は市に対してサービス購入料※の増額について協議を申し出ることができる。」
※サービス購入料とは、市が事業者に支払う費用
「運営の根幹をなす事由」としては、例えば三遠ネオフェニックスのBプレミアからの陥落や豊橋からの撤退、長期的なパンデミックや大規模な自然災害に伴う観客減少などが考えられます。そのような場合、市は事業者が事業を継続できる程度に税金で補填することになります。
さらに、豊橋市は、入札にあたっての事業者との個別対話結果79番の中で、事業者に対して以下のように回答しています。
「運営の根幹をなす事由という要件は、将来発生する事由の不確実性を踏まえたものであり、本事業の継続を直ちに不可能とするような極めて例外的な事象のみに限るといった、限定的な運用を意図したものではありません。」
市のこの安易な回答は、運営の根幹をなす事由が将来発生する不確実な事象を広く含むことを担保することになり、事業者のリスクは大きく軽減し、代わって市がそのリスクを引き受けることになります。
そして、市が事業者への追加のサービス購入料の支払い(補填)を断った場合、事業者に撤退されるリスクがあります。
(5)事業者撤退の際に賠償をほとんど受けられないリスク
特定事業契約第117条第1項によれば、事業者事由により契約が解除された場合、事業者は維持管理・運営費の年額の10分の1に相当する違約金を市に支払う義務を負っています。
ところが、契約で定めた維持管理・運営費は0円のため違約金も0円となり、事業者は違約金の支払いを免れます。この点は、令和6年9月11日の総務委員会において、多目的屋内施設整備推進室主幹も認めています。
一方、同条第2項によれば、事業者は、市が被った損害額を市に支払う義務を負っています。しかし、実務的には訴訟において市が損害額を立証することは難しく、市は事業者に撤退されても賠償をほとんど受けられない可能性が高いと言えます。つまり、事業者の撤退ハードルは極めて低く設定されています。
以上の根拠により、この事業契約は、事業者のリスクは最小、豊橋市のリスクは最大となる極めて不利な契約となっていると言うことができます。
契約締結議案を審議する24年9月11日の市議会総務委員会において、長坂市議(現豊橋市長)が上記リスクについて質疑を行っています。下の動画の12分00秒~35分40秒の部分です。
23年5月31日の浅井豊橋市長の記者会見で、豊橋公園内にある豊橋球場を豊橋総合スポーツ公園(B地区)へ移設し、その跡地に新アリーナを建設する計画であることが明らかになりました。
しかし、この移設先は海岸からわずか50mほどしか離れていない液状化危険度が「極めて高い」と判定されている場所で、その周辺一帯は県の「津波災害警戒区域」にも指定され、南海トラフ巨大地震が発生した際には、津波により最大2.3メートルの浸水が予想される極めて危険な地域です。
さらに、6月24日付け中日新聞朝刊が、この移設先が特定避難困難地域に含まれていることを報じました。
特定避難困難地域とは、津波到達時刻までに津波が来ない安全な地域への水平避難が間に合わず、津波避難ビルへの垂直避難も困難な地域のことで、豊橋市が国土交通省の指針に基づいて指定したものです。
市は、球場移設先が、市自らが設定した「特定避難困難地域」に含まれることに気付かずに、移設を決めてしまいました。あまりにもお粗末で、無責任です。
豊橋球場移設先が「特定避難困難地域」に含まれることを報じた新聞記事(一部引用)
(2023年6月24日付 中日新聞社会面)
この報道を受けて、浅井豊橋市長は慌てて、記者会見で以下の二つの対策案を発表しました。
対策案① 市総合体育館とアクアリーナ豊橋を津波避難ビルに指定する
対策案② 移設先に液状化対策と盛り土を行い、野球場の客席を津波避難場所とする
ところが、対策案①は津波からの避難対策としては問題があります。
豊橋市津波避難行動指針の「5.避難困難地域の検討」(21ページ)では、高齢者や車いす利用者等の避難可能距離の上限を0.5km(直線距離)と規定しています。これは実際の避難距離750mに相当します。
ところが、野球場の移設先から市総合体育館までの実際の避難距離は約1kmですから、対策案①は市が自ら策定した行動指針に従っていません。
移設先野球場から市総合体育館までの避難経路
対策案②について、市は1年後の24年7月26日に公表した「豊橋総合スポーツ公園B地区野球場整備基本計画」の中で、整備方針と整備計画を示しました。
それによると、メイン球場を災害対策基本法による津波の指定緊急避難場所として指定できるよう計画し、津波発生時に、野球場の利用者だけでなく、隣接のサッカー場や少年野球場の利用者と周辺地域の住民等の緊急避難場所とするよう整備を行うとのことです。
具体的には、メイン球場とサブグラウンドの計画高さを、津波による基準水位、海面上昇量、及び液状化による地盤沈下量を考慮して標高3.5mとなるよう盛土します。併せて、液状化対策と圧密沈下対策を実施します。
しかし、対策案②についても、さまざまな問題があります。
「愛知県市町村津波避難計画策定指針」、及び「津波避難対策推進マニュアル検討会報告書 市町村における津波避難計画策定指針(総務省消防庁)」には、
・津波避難ビルを指定する際、海岸に直接面していないこと。
・海岸方向にある緊急避難場所へ向かっての避難をするような避難路の指定は原則として行わない。
と書かれています。
海からわずか50mしか離れていない場所に津波避難場所を整備すれば、付近の多くの人たちがわざわざ海の方向に向かって逃げることになってしまい、上記の計画策定指針に反することになります。
さらに、地震発生時、避難場所とした野球場にとどまって津波から逃れたとしても、周囲一面が標高1m以下の地域では水が引くまで数日以上かかり、孤立した数百人、数千人が過酷な屋外で救助を待つ間に、衰弱、脱水、熱中症、低体温症、エコノミー症候群、ストレスなどで、体力の無い高齢者や子ども、怪我人が多数「災害関連死」で亡くなる恐れがあります。
球場移設先周辺の標高を示す地図
南海トラフ地震が刻一刻と迫る中、たくさんの子どもたちが集う施設をわざわざ海沿いの「特定避難困難地域」につくるなど、まともな行政が行うことではありません。
基本計画68ページを見ると、豊橋公園内には、公園利用者のためにこれまでと同程度(400台)の規模の駐車場をつくる計画となっています。
あわせて、79ページには、「基本的には興行・大規模イベント利用者向けの駐車場は設けない方向で進めます。」と書かれています。このため、観客は新アリーナまで直接車で行くことができません。
これは、豊橋公園内に広い駐車場スペースを確保できないためですが、それだけでなく豊橋市は敢えて新アリーナまで直接車で行くことを制限する方針です。よって、少なくとも当面の間は、土日祝日であっても、市は市役所の来庁者用駐車場や沖野にある市役所職員用駐車場を開放することはしないでしょう。
その理由は、「3.豊橋市は何のためにアリーナをつくるのか」で述べた好連鎖を起こすために、できるだけ多くの新アリーナ来場者を中心市街地(まちなか)に呼び込むためです。
来場者がアリーナの近くまで直接車で乗り付け、イベント終了と同時にさっさと車に乗り込んで帰られてしまったら都合が悪いのです。
できるだけ多くの来場者に豊橋駅、または豊橋駅周辺(まちなか)の駐車場を利用させ、そこから豊橋公園まではまちなかを通って徒歩または市電で来てもらうことで、これらの人たちにまちなかの商業施設でお金を使わせる魂胆です。
これが、市がわざわざ専用駐車場をつくるスペースのない街の中心部の豊橋公園を選び、新アリーナ来場者に過度な不便を強いる理由の一つです。
通常、こうした集客施設を計画する際には、第一にアクセスの良い立地を検討します。アクセスが悪いと客足が遠のくからです。しかし、豊橋市はアリーナ来場者の利便性など眼中にありません。
23年2月に豊橋市公会堂において、豊橋商工会議所青年部が主催した「とよはしシビックプライドシンポジウム」が催されました。豊橋公園への新アリーナ建設の機運を高める狙いです。
この中で、パネルディスカッションのパネリストのひとりが、新アリーナの建設場所は豊橋公園がふさわしいとし、次のように発言しました。
『駅から豊橋公園までの経路を「フェニックス通り※」として歩行者天国にし、その中で楽しめるいろいろな工夫をして「あっという間にアリーナに着いてしまう」ことで移動の負担を軽減させ、まちのにぎわいをつくる効果も生まれる。』
※地元Bリーグチーム「三遠ネオフェニックス」から名付けた名称
「歩行者天国って、昭和かよ!」と思わず、突っ込みたくなりました。歩行者天国で豊橋の経済が活性化?
豊橋市は、23年4月にオープンしたイオンモール豊川や、25年秋に岡崎市本宿にオープン予定の三井アウトレットパークに流れていく客を、歩行者天国で豊橋市のまちなか商店街に呼び込むつもりなのでしょうか。
一体、経済効果をどれくらいと想定しているのでしょう。
春や秋の穏やかな日ならともかく、猛暑日の日中、北風が吹きつける真冬の夜、雨の日、強風の日、あるいは花粉が飛ぶ季節に、1.8kmをのんびり楽しみながら歩きたい人がどれほどいるのでしょう。
Bリーグのブースター(ファン)であっても、試合は楽しみたいが会場までは車で速く楽に行きたいと考える人の方が圧倒的に多いのではないでしょうか。平日、仕事が終わってから急いで車で応援に駆けつけたい人もたくさんいるでしょう。
まさに、新アリーナ来場者のことなど考えず、「つくる立場」の都合しか考えない身勝手なお仕着せに過ぎません。
基本計画79ページには、交通手段別の来場者予測が載っています。この予測は、22年10月に市が市民を対象に行ったアンケート調査を基に試算した結果だと説明されています。
実は、同様の調査は過去にも行われており、19年3月に公表されたまちづくり基本計画の24ページにも載っています。こちらは、11年11月に公会堂で開催されたJpopアーティストのライブコンサートにおいて、どのような交通手段で来たかを尋ねたアンケート調査を基に予測したものです。
これら二つの調査結果を比較してみました。
これまでに公表された二つの計画の交通手段別来場者予測の比較
二つの調査結果を比較して最初に気付くのは、同じ目的で同じ分類方法に従って調査を行っているのに、両調査の結果が大きく異なっているという点です。
基本計画では、「駅周辺駐車場まで車で来る人数」が前回調査より1,100人も少なくなっており、「豊橋駅から市電」は1,700人増え、「豊橋駅から徒歩」はなんと2,600人も少なくなっています。
これらの人数は来場者5,000人あたりの人数です。
調査には当然ばらつきがありますが、それにしても結果があまりにも違いすぎます。明らかに不自然です。
そこで、基本計画の来場者予測の基となった、22年10月に市が実施したアンケート調査の内容を確認しました。すると、アンケートの設問自体に問題があったことが明らかになりました。
2022年10月に豊橋市が実施した市民アンケート調査票の中で交通手段について尋ねた設問
この問13では、「本施設までどのような交通手段を用いますか」と尋ねていますから、新アリーナ(豊橋公園)までの交通手段である1、2、3、5、6、7のいずれかを選択するのが自然です。
ところが、この問13の選択肢に紛れ込ませた4だけは、新アリーナではなく経由地である豊橋駅までの交通手段です。
たとえば、自宅から豊橋駅周辺の駐車場まで車で行き、車を置いた後に豊橋駅前から市電に乗って豊橋公園まで行こうと考えている人(即ち図の4⇒3)は、何番を選んだでしょうか?
4を選んだ人と3を選んだ人がいるはずです。(○は一つ)と書いてあるのでどちらにするか迷った人も多いでしょう。
それにもかかわらず、基本計画案では「豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数」を、上記設問で4を選んだ人数だけで算出しています。即ち、「豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数」を実際より過少に見積っている可能性があります。
さらに、「豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数」に着目し、基本計画案の27ページに記載されているアンケート結果を詳しく見てみます。
駅周辺駐車場を利用すると回答した人の年齢層ごとの割合(黄色)と年齢層ごとのアンケート回答者人数(青)
上の棒グラフは、交通手段を尋ねた問13に回答した1,004人の年齢層別の分析結果です。
新アリーナでプロスポーツやライブコンサートを楽しむ主な世代と考えられる20代から40代では、約4割弱の人が豊橋駅周辺駐車場を利用すると回答しています(黄色の棒グラフ)。そして、50代以上では年齢層が高くなるほど、駐車場利用割合が低下していきます。
一方、回答者の人数(青い棒グラフ)は年齢層が高くなるほど多くなっており、50代以上の回答者数合計は20代から40代の回答者数合計の約2倍です。
つまり、大規模興行の主要な観客層として想定される比較的若い年齢層の行動を、明らかに中高年に偏ったサンプリングデータを用いて予測していることになります。
この不適切な調査方法によっても、「豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数」を実際より過少に見積っている可能性があります。
基本計画(23年8月)の作成については、豊橋市からの委託で株式会社日本総合研究所(日本総研)が5,500万円で請け負っています。私はこれまで、日本総研を日本を代表するシンクタンクだと思っていたのですが、大学1年生でもしないようなレベルの低いデータ分析で重要な結論を導いていることにあきれてしまいました。
以上の分析より、少なくとも交通手段を尋ねた問13は杜撰なアンケートであり、その結果は全く信頼できないことがわかりました。
これが、先ほど述べた二つの調査結果が著しく異なる要因の一つと考えられます。
そこで、豊橋駅周辺駐車場まで車で行く人数が、前述のまちづくり基本計画(19年3月)で示されている2,500人だと仮定します。
そして、基本計画案80ページに書かれている「自家用車1台に1.79人が乗車する」との想定に従えば、同ページに書いてある783台よりもはるかに多い約1,400台の車が豊橋駅周辺駐車場に押し寄せることになります。
ところが、基本計画80ページには、「豊橋駅から豊橋公園に至るまちなかの公共駐車場並びに民間駐車場の利用状況を調査したところ、約1,200台程度の駐車余地がある」
と書かれてありますから、これらの駐車余地を全て使っても駐車場が足りません。
つまり、基本計画案で述べている「自家用車でまちなかの公共・民間駐車場に停め、本施設(新アリーナ)に来場を促す対策」を採用できないという、豊橋市にとってはまことに都合の悪い結果に帰着します。
5-10節で述べたように、新アリーナで5,000人規模のイベントが開催されると、興行開始の数時間前から、約1,400台の車が中心市街地の駐車場に押し寄せ、イベント終了後には帰る車が駐車場から一斉に出てきます。
ここで、1,400台のイメージを駐車場の収容可能台数と比べてみます。
えき地下駐車場 138台
まち地下駐車場 127台
パーク500 500台
松葉公園地下駐車場 211台
これらの合計 976台
これらの駐車場がすべて空だったとしても収容しきれない台数です。駐車場に入る車が集中すると、入庫待ちの車が道路の左側をふさいで延々と並ぶことになり、豊橋駅周辺道路で大渋滞が発生します。また、運転者は空き駐車場を探しながら運転するために脇見が増え、交通事故を誘発しやすい状況に陥ります。
基本計画79ページには、(興行・大規模イベント時における周辺交通対策の取り組み例)が4つ書かれていますが、どれも実効性や実現性に疑問を感じる凡庸なものばかりで、「真面目に検討してないな」という印象を受けます。
例えば、ICT技術を活用した駐車場の事前予約や利用状況の可視化を対策の取り組み例として挙げています。
しかし、駅周辺には数台規模から500台規模まで大小たくさんの駐車場があり、それぞれ運営会社もバラバラです。会社の垣根を越えてこれらの駐車場の利用状況を一括してスマホ等で確認できるシステムを構築するのは容易なことではありませんが、基本計画案には具体的な計画や内容は一切書かれていません。
実施に困難が予想される施策を取り組み例として挙げるのであれば、せめて課題の整理くらいは行って欲しいものです。
仮に、市が基本計画案で予測している年間40回以上の興行が開催されるとしたら、駅周辺道路でこうした大渋滞が頻発することになります。
アリーナへ行くために駅周辺の駐車場を目指す車だけでなく、駅まで家族を送迎する車、買い物客の車、バス、タクシーなども巻き添えを食います。
これまでに述べてきたように、市は新アリーナの来場者をまちなかに呼び込んで商業施設で消費してもらうことを目論んでいます。
確かに、試合終了後にファン同士がスポーツバーなどで交流したり、コンサートの帰りにまちなかの飲食店に立ち寄ったりすることはあるでしょう。
しかし、それと引き換えに、まちなかの駐車場の混雑や駅周辺道路の大渋滞によって、一般客が来店機会を失うことも起こるはずです。
アリーナでイベントが行われている数時間は潮が引いたように一時的に渋滞が解消するものの、駐車場はどこも満車で一般客は駐車できず、来店を断念することになるでしょう。
その結果、イベントが始まる数時間前からイベントが終わるまでの時間帯は普段よりもかえって来客数が減ってしまう恐れがあります。
さらに懸念されるのは、新アリーナができると、突然の混雑に巻き込まれるのを心配して、買い物や飲食をする客が中心市街地(まちなか)を避けるようになるかもしれないという点です。
新アリーナで興行が催されるのは、まちなかの商業施設が最も集客を期待する週末の昼間と平日の夜ですから、興行の有無にかかわらず、恒常的にこの時間帯の来客数が減ってしまうかもしれません。
特に、まちなかで商売されている方は、是非この点について考えていただきたいと思います。
車でのアクセスの問題点については、「車でのアクセスと交通渋滞」にも関連情報が載っています。
基本計画79ページの交通手段別の来場者予測では、3,500人もの人が、豊橋駅を経由して来る結果となっています。しかし、5-9で説明したように、杜撰な市民アンケート結果を基にしたこの交通手段別来場者予測は信頼に値しません。
代わりに、まちづくり基本計画(19年3月)の24ページに載っている来場者予測を見ると、豊橋駅(駅周辺駐車場)経由で来る人が約4,000人います。
豊橋駅と新アリーナとの間は約1.8km、徒歩で23分かかりますから、これらの人の多くは市電を利用しようと考えるでしょう。特に、興行が終わって駅方向へ戻る際には市電を利用してさっさと帰りたいと考える人が多いでしょう。
これに対して、市電で輸送できる人数は、超過密ダイヤを組んだとしてもせいぜい900人程度と見込まれるため、約3,000人の来場者は豊橋駅(まちなかの駐車場)と新アリーナとの間を歩かなければなりません。真夏も真冬も夜も雨天でも、歩きたくなくても歩くしかありません。興行終了後はアリーナのタクシー乗り場も長蛇の列でしょう。
新アリーナでの興行開始の2時間前くらいから、市電や路線バスなどの公共交通機関は大混雑します。日頃から市電や路線バスを利用している人も、長蛇の列に並んで長時間の乗車待ちを強いられることになります。
特に市電を利用する機会の多い八町、東田、井原、岩田、豊岡、平川、平川本町、多米周辺の住民は大きな影響を受けてしまいます。
市電の輸送力の実測データを含めた詳しい検証結果は、「公共交通機関(市電)の輸送力」をご覧ください。
豊橋市電の輸送力の検証 利用客が短時間に集中する場合の輸送力
新アリーナ(多目的屋内施設)の建設予定地である豊橋公園周辺の住民は、交通渋滞、治安の悪化、騒音などを大変心配しています。
市はこれまで新アリーナ周辺に観客専用の駐車場は設けないと言ってきました。しかし、建設後にアクセスの不便さ故に興行来場者数が伸び悩むことは容易に想像できます。
観客数を確保できなければ、魅力あるイベントを招致することもできません。魅力あるイベントが来なければ、観客はますます減ってしまいます。
そして、市に対しては新アリーナ利用者から多くの不満が寄せられるに違いありません。
こうした負のスパイラルから抜け出すために、市が市役所の駐車場や市役所職員用の駐車場を開放してしまうのではないか、あるいは朝倉川を挟んだ北側(沖野)に大規模な駐車場をつくってしまうのではないかと周辺住民は心配しています。
市がつくらなくても、民間の駐車場がつくられる恐れもあります。仮にそうなった場合、豊橋公園周辺の狭い生活道路では一体どのような渋滞が発生するのでしょうか。
22年11月26日、これをシミュレーションする機会がありました。この日、愛知県政150周年記念イベントとして航空自衛隊ブルーインパルスによる展示飛行が行われ、午後1時36分に豊橋公園内の吉田城址上空をブルーインパルスが飛行することが事前にアナウンスされていました。
吉田城址のすぐ近くで周辺の視界が開けている朝倉川の北側には、飛行を一目見ようと多くの車が訪れ、本来は一般に解放されていない市役所職員用の駐車場(約420台)は満車となり、付近には多くの路上駐車も見られました。
そして、ブルーインパルスが一瞬にして上空を飛び去ると、これら約500台の車が一斉に帰り始め、豊橋公園東側の狭い生活道路は瞬く間に車で埋め尽くされ、渋滞は40分経っても解消されませんでした。
ブルーインパルス展示飛行を見に来た車により豊橋公園東側道路で発生した大渋滞の様子(写真)
ブルーインパルス展示飛行を見に来た車により豊橋公園東側道路で発生した大渋滞の様子(動画)
豊橋公園内に新アリーナが建設され、朝倉川を挟んだ北側エリアにたとえ500台程度であっても観客用駐車場がつくられてしまうと、興行の度にこうした大渋滞が発生し、周辺住民の日常生活に深刻な影響が及びます。そして、さらに規模の大きい駐車場がつくられると周辺住民の日常生活は破壊されてしまいます。
なお、「周辺住民の生活環境悪化」ページにも関連情報が掲載されています。
【戻り方(スマホ)】
または、スマホの「戻る操作」で目次へ戻ってください。
豊橋市で「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の継続の賛否を問う住民投票が行われることになりました。多目的屋内施設とは新アリーナのことです。豊橋市で初めてとなる住民投票です。
住民投票とは、住民の福祉に重大な影響を与える可能性がある事項など地方公共団体の行政上の重要事項に関して、住民が直接投票することによって意見を表明し、行政運営に住民の意向を反映させる仕組みです。
住民投票は、住民による地方政治への直接参加、直接参政の一手法であり、地方自治の基本である間接民主制を補完・活性化する意義があります。1)
言い換えると、選挙は投票で「人」を選ぶのに対し、住民投票は一つのテーマ(案件)に関して、その賛否や最も適切だと思われる案を有権者自身の直接投票で決めるものです。
簡単に言えば、選挙は「人」を選び、住民投票は「事柄」を決めるということです。2)
住民投票には、憲法や法律に基づき住民投票の結果がその地方公共団体の団体意思、議会又は長その他の執行機関の行動を拘束する「拘束型住民投票」と、議会又は長その他の執行機関が自らの意思を決定する上で、住民の多数意見を知るために行われる「諮問型住民投票」があります。1),3),4),5)
住民投票制度の類型を整理した図
拘束型住民投票としては、憲法95条に基づく地方自治特別法の制定に関するもの、政令市の廃止・特別区の設置、議会の解散、議員・長の解職や長のリコール請求、合併協議会の設置の協議があります。1),5)
一方、住民投票条例に基づく諮問型住民投票には、住民からの直接請求または議員や市長の提案により、その都度住民投票条例を議会の議決により制定して実施する「個別設置型」と、あらかじめ住民投票に必要な要件を条例で定めておき、要件を満たした場合に実施する「常設型」があります。1),7)
豊橋市の多目的屋内施設(新アリーナ)計画に関連してこれまでに議会で審議された4回の住民投票条例案は、いずれも個別設置型の諮問型住民投票を実施するためのものです。
さらに、この個別設置型は条例案の発案者に応じて3つに分類されます。
自治体の条例に基づく住民投票実施までの流れ
(豊橋市の住民投票条例案を赤字で記載)
23年2月(1回目)と24年2月(2回目)に審議された「豊橋公園への多目的屋内施設(新アリーナ)建設の賛否を問う住民投票条例案」は、地方自治法第74条の規定に基づき、住民が有権者の1/50以上の署名を集めて当時の浅井市長に条例の制定を直接請求したものです。
これに対し、浅井市長はいずれの条例案にも「本条例を制定する意義は見出し難い」との意見を付してこれを議会に付議し、推進派会派(自民、公明、まちフォーラム)が反対して否決されたため、住民投票の実現に至りませんでした。
これらの経緯は下記の節に詳しく書かれています。
一方、事業者との事業契約が結ばれた後の24年11月に事業契約の解除を訴えて当選した長坂市長の下で、24年12月(3回目)、25年5月(4回目)に審議された「多目的屋内施設(新アリーナ)及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業の継続の賛否を問う住民投票条例案」は、地方自治法第112条の規定に基づき、議員により提出されたものです。
このうち、24年12月に計画に反対する市議会会派(共産党・新しい豊橋・みらい市民)が提出した条例案は、再び自民、公明、まちフォーラムなどの反対により否決されてしまいました。
その後、長坂市長と市議会推進派議員との対立が泥沼化していく中、市民からは一日も早い新アリーナ問題の決着が望まれていました。3月に推進派議員が開催した6回の説明会の場でも毎回、参加者から住民投票への強い要望が出されました。
これまで頑なに住民投票を拒んできた推進派会派(自民、公明、まちフォーラムなど )も、ついにこうした市民の声に抗(あらが)いきれなくなり、25年5月の臨時会に推進派会派を含む全会派が住民投票条例案を提出し、住民投票条例が可決成立しました。
長坂市政のこれらの経緯の詳細は下記をご覧ください。
一般的に諮問型住民投票には法的拘束力はなく、結果の尊重義務が設けられているだけです。尊重義務とは法的義務ではなく、市長や議会に対して「できるだけ住民投票の結果に従ってください」といった趣旨のものです。6)
豊橋市で成立した住民投票条例にも法的拘束力はなく、以下の条項が含まれています。
第17条 市長及び市議会は住民投票の結果を尊重しなければならない。
この点に関して、事業の契約解除を進める長坂市長は5月の臨時会の質疑において「(事業継続に)賛成多数であれば事業を継続する、反対多数であれば継続しない」と答弁しており、一方で事業推進の立場で自民党などと共同で条例案を提出した公明党豊橋市議団の団長 尾林伸治議員からもこうした市長の方針に従うとの発言がありました。
こうしたことから、今回の新アリーナ事業を継続するか中止するかは、事実上この住民投票で決着することになります。住民投票の結果によって、今後65年以上先までの市民の福祉、市の財政、まちづくりなど豊橋市の進む方向が大きく変わります。
豊橋市の住民投票は、令和7年度に行われる参議院議員通常選挙と同じ7月20日に実施されます。
そして、それに向けて投票運動が行われることになります。投票運動とは、他の投票資格者(投票の資格がある人)に対して直接又は間接に「賛成」または「反対」への投票を呼びかける行為です。もちろん、議員だけでなく私たち一般の市民も投票運動を行うことができます。
議会の議員や長を選ぶ選挙では、選挙を公正に行うために公職選挙法によって選挙運動にさまざまな制限が設けられており、違反した場合には罰金・禁固・懲役などの厳しい刑罰が科せられます。
これに対し、住民投票は公職選挙法の適用外で、投票運動は各地方自治体の住民投票条例に従って行われます。
豊橋市で成立した住民投票条例の第15条では「住民投票に関する投票運動は、自由とする。」とされ、同条第2項は「投票運動の期間は、投票日の前日までとする。」と定めています。
このため、買収、脅迫など不法な行為をしない限り、誰もが投票日の前日まで自由に投票運動を行えるものと早合点してしまう人がいるかもしれません。
ところが、第15条第3項では住民投票と同日に行われる参議院選挙の公示日以後は投票運動を行うことができないと定めています。(ただし、投票資格者によるインターネット等を利用する方法は除かれます)
つまり、一般の個人や団体が実際に投票運動を行えるのは、参議院選挙の公示日の前日までということになり、公示日から投票日の前日までの17日間はウェブサイト等を利用する方法を除き投票運動を行うことができません。
ここでのウェブサイト等を利用する方法とは、インターネット等を利用する方法のうち、電子メールを利用する方法を除いたものをいいます。例えば、ホームページ、ブログ、SNS(ツイッター(X)、フェイスブック等)、動画共有サービス(YouTube、ニコニコ動画等)、動画中継サイト(Ustream、ニコニコ動画の生放送等)等です。
☞インターネット等を利用する方法による選挙運動の解禁等(総務省)
また、公示日から投票日の前日までの期間にウェブサイト等を利用した投票運動を行えるのは、あくまでも投票資格者のみです。豊橋市外に住んでいる方や豊橋市内在住であっても投票資格を持たない方は公示日以降は投票運動ができません。
下の図は以上をまとめたものです。
豊橋市住民投票の投票運動ができる期間
(個人の場合)
【参考】「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の継続の賛否を問う住民投票条例 第15条
第15条 住民投票に関する投票運動は、自由とする。ただし、買収、脅迫その他投票資格者の自由な意思が拘束され、若しくは不当に干渉され、又は住民の平穏な生活環境が侵害されるものであってはならない。
2 前項の投票運動の期間は、投票日の前日までとする。
3 前項の規定にかかわらず、同項の期間に、本市の区域内で行われる公職選挙法の規定による選挙の期日の公示又は告示の日から当該公示又は告示に係る選挙の期日までの期間が重複するときは、当該選挙が行われる区域内において、当該重複する期間、第1項の投票運動(投票資格者によるインターネット等を利用する方法( 同法第142条の3第1項に規定するインターネット等を利用する方法をいう。) を除く。)をすることができない。ただし、当該選挙について同法の規定に違反しないで行われる選挙運動又は政治活動が、第1項の投票運動にわたることを妨げるものではない。
ここまでは、住民投票条例に定められた投票運動のルールについて説明してきましたが、今回のように選挙の期日と住民投票の期日が同日となる場合には、その投票運動が選挙運動に当たらないかについても留意する必要があります。
豊橋市議会の会派(自民党、公明党、共産党など)が新アリーナ事業継続に関して対立する状況では、意図せず住民投票運動が同日に行われる参議院議員選挙の選挙運動に該当してしまうということもあり得ます。
こうした状況は豊橋市に限りません。川崎市など原則として選挙と同日に実施するとしている諮問型住民投票(常設型)を定めた住民投票条例では、「公職選挙法その他の選挙関連法令の規制に反する行為」の禁止を定めています。8)
今回の豊橋市の住民投票条例にはこうした規定はありませんが、いずれにしても、もしその投票運動が選挙運動に該当すれば、公職選挙法によるさまざまな制限を受けることになり、違反すれば罰せられる恐れもあります。
ただし、私の個人的な見解ですが、意図的でない限り一般の市民の皆さんが草の根で行う投票運動が選挙運動とみなされる恐れはほぼないものと思われます。
なお、投票運動についての注意点は、豊橋市のホームページや広報とよはしの号外1にも詳しく記載されています。
また、下記動画でもわかりやすく解説されています(時間 0:00~15:17)。
多目的屋内施設(新アリーナ)及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の継続の賛否を問う住民投票の投票用紙は、以下の様式です。「事業継続に賛成」、「事業継続に反対」のどちらか一方の選択肢の上の欄に○を書きます。
○以外の事項を記載すると無効となってしまいます。 なお、不在者投票や代理投票、点字投票が可能です。
豊橋市の住民投票の投票用紙の様式
条例による住民投票は、市町村合併に関するもの(合併型)とそれ以外の地域の重要な課題に関するもの(重要争点型)とに分けられます。9)
14年4月1日から25年4月1日までの11年間に全国で条例に基づき実施された重要争点型住民投票は27件あります。9)
以下の表は、これら27件の住民投票の実施自治体名、実施日付、類型、住民投票条例の名称の一覧です。
なお、住民投票条例の中には、
「住民投票は、1の事案について投票した者の総数が当該住民投票の投票資格者数の2分の1に満たないときは、成立しないものとする。この場合においては、開票作業その他の作業は行わない。」
などの成立要件を規定しているものがありますが、豊橋市の住民投票条例にはこの成立要件に関する規定は設けられていません。
1) 一般社団法人 選挙制度実務研究会編 「住民投票制度の手引 条例の制定から運用まで」 国際情報センター,2020年9月28日
2) 今井一 「住民投票 -観客民主主義を超えて-」 岩波新書,2000年10月20日
3) 菅谷慎一郎(2024) 「住民投票と議会の関係性に関する一考察」 公益財団法人 後藤・安田記念東京都市研究所リサーチ・ペーパー No.24 2024年3月 3頁
https://www.timr.or.jp/library/docs/research_paper-20240325.pdf
4) 総務省 地方行財政検討会議 第一分科会(第7回) 2010年10月29日 (配布資料3-1) 地方公共団体における住民投票
https://www.soumu.go.jp/main_content/000087296.pdf
5) 宇那木正寛 住民投票制度の現状と課題① 自治法務研究 2024春 89頁
https://www.rilg.or.jp/htdocs/uploads/089-097_76.pdf
6) 宇那木正寛 住民投票制度の現状と課題② 自治法務研究 2024夏 96頁
https://www.rilg.or.jp/htdocs/uploads/095-099_77.pdf
7) 米原市 住民投票制度とは
https://www.city.maibara.lg.jp/material/files/group/2/43990610.pdf
8) 川崎市 住民投票条例逐条説明書 2022年3月31日
https://www.city.kawasaki.jp/shisei/category/58-2-5-3-0-0-0-0-0-0.html
9) 一般社団法人地方自治研究機構 【条例による住民投票の実施状況】(令和7年5月18日更新)
https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/046_referendum.htm
10) 総務省 地方自治月報 第58号~第61号 条例による住民投票に関する調
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/bunken/chousa.html