検証:豊橋市の多目的屋内施設(新アリーナ)計画

市の強引な進め方(1)

市場調査報告書から


1.「多目的屋内施設関連市場調査報告書 令和4年6月」作成の背景

市はなぜ形ばかりの調査報告書を公表したのか?

 浅井市長は、2年前の市長選直前及び就任直後に「(新アリーナ建設は)豊橋公園以外で」「計画をゼロベースで再検討する」と述べました。しかし今、浅井市長は、市民への十分な説明もないまま、昨年5月に豊橋公園を建設候補地に決め、猛スピードで計画を進めています。


 9月になって公表された報告書はわずか28ページのペラペラのもので、建設に巨額の費用がかかる施設の市場調査としてはお粗末なものです。それは市も分かっているはずです。それなのに、市は形ばかりの調査報告書をなぜ公表したのでしょうか?


 それは、軽々に「豊橋公園以外」と言ってしまった浅井市長が、前言を翻して豊橋公園に新アリーナを建設するとの方針転換を正当化し、「きちんとゼロベースで検討した結果、あらためて豊橋公園を選定した」という言い逃れをするための免罪符にするためではないでしょうか。


調査報告書の概要

新アリーナのような大規模公共施設の建設から運営までのすべてを自治体が単独で担うことは難しく、現在では資金調達、設計建設、維持管理、運営等を民間事業者が役割分担することが一般的です。

この市場調査報告書は、施設の整備・運営等に関わる民間事業者やプロスポーツ、コンサートを企画・運営するプロモーターにとって、この新アリーナが利益を生み出して事業として成立するかを調査したものです。


しかし、調査とは言っても、わずか15社(企業名は非公表)の民間事業者(途中からは7社に減少)へのWEBによる聞き取り中心の調査だけに基づいて、豊橋公園を建設候補地と決め、事業化の可能性があると結論付けています。客観性に欠け、見積りが甘く、自己矛盾が目立ち、豊橋公園での事業化に都合のよい結果に導く恣意的な内容が目立ちます。

 

さらに、この報告書はあくまでも、「新アリーナが事業者にとって利益を生み出す施設となり得るか」を検討した結果に過ぎません。

最も大切な「アフターコロナ時代に市民が何を望むのか」については一切調査されないまま、市はこの事業性に関する報告書のみをもって建設推進を決定してしまいました。


浅井市長が猛スピードで突き進む理由

 この報告書の目的は「需要規模の把握」、「候補地の検討」、「事業化の可能性の整理」となっていますが、実際には前市長のときから「5,000席」、「豊橋公園」を決めていました。

 豊橋公園に建設すれば中心市街地(まちなか)を活性化できるはずと信じ込み、活動拠点とする三遠ネオフェニックスが2026年10月始動の新B1リーグに入れるように審査基準(5,000席以上のホームアリーナを持つこと)をクリアするためです。


 浅井市長が今になって猛スピードで突き進む理由は、たった一つ「新B1リーグの審査が2024年10月に迫っている」からです。新B1リーグの審査基準によれば、2024年10月に着工済みとなっているか、着工前であっても施工者が決定していることが必要です。豊橋市が公表しているスケジュールでは、2024年3月までに事業者の公募と選定を行い、2026年度中には完成となっています。新B1リーグの発足スケジュールと一致しています。


 以上の背景を知った上でこの調査報告書を眺めると、豊橋市の意図が手に取るように分かります。以下では、明らかに不可解な内容の「第3章 建設候補地の検討」を見てみます。


2. 報告書の「第3章 建設候補地の検討」の内容

(1)報告書に掲載されている建設候補地の比較検討表(報告書11ページ)

 豊橋市は、以下の比較表に示すように、建設候補地として市内5か所を抽出した上で、それぞれの候補地に対し7つの評価項目ごとに0~3個の★を付けて評価し、重要度に応じた重み付けもすることなく、単純に★の合計数で「豊橋公園」を建設候補地に決定しています。

「令和4年6月 多目的屋内施設関連市場調査報告書」に掲載されている建設候補地の比較検討表(報告書11ページ)

報告書に掲載されている建設候補地の比較検討表(報告書11ページ)

 ここで注目すべきは、豊橋公園の★が際立って多いことです。ほぼ満点です。

 この結果は、市が市場調査結果(事業者へのWEB聞き取り)を踏まえたとする建設候補地の不可解な抽出条件に基いて導かれています。

 以下、不可解な抽出条件について説明します。


)市が導き出した建設候補地の抽出条件(報告書7ページ、図表3-1)

 市場調査では、事業者から

「駅から1km圏内が望ましい」

「公共交通機関のアクセス性は重要」

「500m以内であれば公共交通機関による施設利用を確実に見込める(多数意見)」

「公共交通機関に利用を想定できる限界値が1km程度」

との意見がありました。

 その結果、市が導き出した建設候補地を決めるための条件がこれです。

市が導き出した建設候補地の抽出条件(報告書7ページ、図表3-1)

【不可解な抽出条件1】交通アクセス

 「市内線の駅から1km圏内」の立地を抽出条件に含めていますが、市内線は5,000人収容の新アリーナに対して明らかに輸送力が不足しています。

 市内線は市民にとって大切な移動手段であり、時間的に分散して利用する乗客を少しずつ運ぶのに適しています。しかし、興行前後の2時間程度の間に集中する数千人もの来場者を輸送することはできません。

JR、渥美線、市内線の1時間あたりの輸送力を比較した表

JR、渥美線、市内線の1時間当たりの輸送力

この表では、単純に1時間あたりの本数と定員の掛け算で輸送力を算出しています。

市内線の実際の輸送力については公共交通機関(市電)の輸送力を参照ください。

 当然ですが、市の市場調査に回答した事業者は、「公共交通機関」を、「新アリーナの来場者が希望すれば合理的な時間(例えば1~2時間)内にその全員を輸送する能力を持つ公共交通機関」と捉えているはずで、希望者全員を運ぶのに6時間以上を要するような輸送力の低い公共交通機関を意図して答えているわけではないはずです。

 ですから、市内線の駅から1km圏内」の抽出条件は外すべきです。

 そうすると、報告書8ページ「図表3-3 建設候補地の抽出」は、次の上段の図ではなく下段の図のようになります。

「図表3-3 建設候補地の抽出」として報告書8ページに掲載されている建設候補地の地図と、市場調査結果に基づき「市内線の駅から1km圏内」の抽出条件を外して描き直した建設候補地の地図との比較

公共交通機関の駅から1km圏内(紫の線で囲まれた領域)を示す図

公正な評価>

①豊橋公園は、数千人を運べる公共交通機関の最寄駅から1km圏内にありません。

市場調査の意見「駅から1km圏内」を踏まえれば豊橋公園は候補地になり得ません。

【不可能な抽出条件2】敷地の広さ

 市は、「施設と一定数の駐車場が確保できるだけの広さを有していること」を抽出条件にしています。しかし、市は「一定数」の具体的な数を示さないまま候補地を決めてしまいました。

 ここで、事業者への聞き取り調査結果から抽出した「一定数の駐車場」とは、当然新アリーナの興行来場者が使える駐車場を意味しているはずです。


 一方、市の方針は以下の通りです。

「多目的屋内施設の基本計画策定に向けた基礎調査報告書」(2021年3月)より

この方針は、2022年10月1日に開かれた八町校区説明会の場でも説明がありました。


 そうすると、既存施設の利用者用の400台の駐車場を設けても、興行来場者が使用できる駐車スペースは残されておらず、興行来場者用の駐車場を確保できない豊橋公園は、「一定数の駐車場が確保できるだけの広さ」という抽出条件に合致しないことになります。


<公正な評価>

豊橋公園は、新アリーナの興行来場者用の一定数の駐車場を確保できないため、建設候補地として不適です


)公正に導かれた建設候補地の比較検討結果

 上記(2)の検討結果より、市場調査結果(事業者への聞き取り調査結果)から公正に導かれた建設候補地の比較検討結果は、下の表のようになります。

豊橋公園をアクセス性と敷地の広さ・形状について評価した結果の比較。豊橋市が行った比較検討結果では最高評価だったが、公正に行った比較検討結果では、「不適」だった

豊橋公園をアクセス性と敷地の広さ・形状について評価した結果

(豊橋市が行った比較検討結果と公正に行った比較検討結果)

 つまり、市が自ら選んだ事業者に対して自ら聞き取りやアンケートを実施した調査結果から、市が自ら決めた検討手順に従って公正に抽出条件を導き、この抽出条件に従って公正に候補地を比較検討したところ、

豊橋公園は建設候補地とはなり得ない

という結論に至りました

 豊橋市は、明らかな瑕疵のある報告書を訂正するとともに、すみやかに豊橋公園を候補地から除外するべきです。

 このような不公正な報告書を作成してまで思い通りに事を運ぼうとする市の強引な進め方には反対です。