検証:豊橋市の多目的屋内施設(新アリーナ)計画

車でのアクセスと交通渋滞

【全体概要の5-2.問題点2】

新アリーナ(多目的屋内施設)には来場者専用の駐車場がないので、観客は新アリーナに直接車で行くことができません。 


市民の自動車への依存

 平成23年の移動実態調査データによると、豊橋市では移動の70%が自動車利用で、鉄道・バスの利用は8%に過ぎません。徒歩移動を除くと、実に80%が自動車利用です。(豊橋市「交通課題の整理について」より)

 通勤・通学についても、豊橋市の自動車利用率は65%で、名古屋市の33%、全国平均の46%に比べて非常に高くなっています。

 このデータから、豊橋市の民間・公共施設は、集客数に対して他の自治体よりも高い割合の収容台数を持つ駐車場が必要であることが分かります。

平成23年の移動実態調査データにおける豊橋市の交通手段分担率を示す円グラフ。自動車が70%を占めている。

平成23年の移動実態調査における豊橋市の交通手段分担率

スタジアム・アリーナ改革の重要な要件:利便性

 スタジアム・アリーナ改革ガイドブック(第2版)」(スポーツ庁)には、「スタジアム・アリーナは、利便性の高い場所に立地すべきであり、駅や道路等のアクセスルートの整備や周辺エリアとのネットワーク形成等の一体的な開発が図られることが重要」と書かれています

 年間を通して開催される地元プロスポーツチームの試合を何度も観戦してもらうには、来場者の利便性を最も重視すべきです。

 来場者の利便性とは、会場へのアクセス負担の軽減、すなわち来場者にとって使い勝手の良い移動手段を使って来てもらうことです。上述したように豊橋市を中心とする東三河地域では自動車です。


来場者の利便性を軽視

 市は、多くの来場者が車で来ることを見越して、専用駐車場を設けるスペースがない豊橋公園を敢えて選定しました。そして、中心市街地(まちなか)の駐車場を利用させ、来場者に半ば強制的にまちなかを歩かせることを企図したのです。

豊橋公園に新アリーナをつくった場合に、車を使う来場者に負わされるアクセスの負担を整理したスライド。車を使う来場者は、身体的、時間的、金銭的負担(三重苦)を強いられる。

豊橋公園に新アリーナをつくったとき、車を使う来場者に負わされるアクセスの負担

 現在、三遠ネオフェニックス(Bリーグ)のホームアリーナは総合体育館です。臨時駐車場まで含めると4,000人の来場者に応えるだけの駐車場をほぼ確保しています。蒲郡街道や23号バイパスを通ればアクセスも容易です。

 総合体育館への車でのアクセスに慣れた来場者は、豊橋公園の新アリーナへのアクセスの負担を受け入れることは難しいでしょう。真夏も真冬も夜も雨天でも歩かされます。今よりもアクセスに時間がかかるだけでなく、まちなか周辺の渋滞や駐車場探しに備えるため一層の時間的余裕が必要になります。例えば平日の夜の試合では、会社で少し残業をしてから車で駆けつけることも難しくなります。


 その結果は明白です。来場者の減少、それに歯止めをかけるため市役所の駐車場や市職員用の駐車場の開放、それが引き起こす地域の生活道路の大渋滞、そしてまちなかの賑わい創出の失敗です。


市の近視眼的な計画

 巨額の費用をかけてつくる新アリーナが負の連鎖に陥る原因は、豊橋市が「まちなかの活性化」という政策にばかり目を奪われ、スタジアム・アリーナ改革の基礎的要件である施設利用者の利便性を軽視することにあります。


 新アリーナを地域の活性化や持続的成長の核として機能させるには、行政、新アリーナの利用者および地域の住民がすべてWIN-WINの関係であるべきです。

 新アリーナをどうしてもつくると言うなら、スポーツ庁のガイドブックにあるように、ショッピングモール、ホテルなどの集客施設と複合化できる場所に立地すべきです。そこに大規模な専用駐車場を設ければ、それらが大きなインセンティブとなり日常的な来場者を見込めるでしょう。


(参考)近隣のアリーナとの交通アクセスの比較

 計画中の新アリーナ(多目的屋内施設)を、交通アクセスの観点から近隣の既存または計画中のアリーナと比較しました。豊橋公園に計画されている新アリーナのアクセス性が、近隣のアリーナと比べて際立って悪いことが分かります。

豊橋公園に計画中の新アリーナと近隣アリーナとの交通アクセスを比較した一覧表。豊橋公園に計画中の新アリーナは、近隣アリーナと比べても交通アクセスが際立って悪い。

豊橋公園に計画中の新アリーナと近隣アリーナとの交通アクセス比較

全体概要の5-2.問題点3】

週末を中心に毎週のように豊橋駅周辺の道路で激しい渋滞が発生します。


中心市街地(まちなか)の駐車場

 まちなかの駐車場は、新アリーナへの来場者を見込んで整備されたものではありません。市民37万人の駐車場需要に応じつつ、駐車場経営として成り立つ規模を調査して整備されたものです。

 豊橋公園の新アリーナ計画は、5,000人もの収容人数がありながら自前の駐車場をつくらず、市民生活のために整備されたまちなかの駐車場を借りて済まそうとする乱暴な計画です。

※計画にある豊橋公園内の駐車場400台は、現状の豊橋公園の一般利用者用に確保されるものです。


新アリーナ来場者が利用可能な駐車台数

 では、Bリーグの試合が行われる週末の15時頃の駐車場空き状況はどうでしょうか?

 実は、「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」の27ページに、2018年11月3日(土)15時 天候:晴 の駐車場利用状況調査結果が載っています。

「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」の27ページに掲載されている中心市街地の駐車場利用状況調査結果

「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」に掲載されている中心市街地の駐車場利用状況調査結果

 この調査によると、中心市街地(まちなか)の全収容台数は3,468台、空き駐車台数は1,317台で、平均の空き率は38%でした。


市が予測したまちなか駐車場の利用者

 上記基本計画の65ページに交通手段別来場者予測が載っています。

市は、来場者5,000人のうち約2,500人がまちなかの駐車場を利用すると予測しています。

「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」に掲載されている交通手段別来場者予測の図

「新アリーナを核としたまちづくり基本計画 2019-2023」に掲載されている交通手段別来場者予測

豊橋駅周辺での大渋滞

 この2,500人は、仮に1台の車に平均1.5人が乗り合わせれば1,670台、2人が乗り合わせるとしても1,250台の車に相当します。

 来場者5,000人の場合、興行開始前の2時間程度の間に、空き収容台数1,317台に対して車1,250~1,670台程度の車が豊橋駅周辺を目指して押し寄せます。


 ざっと考えただけでも以下のような懸念があります。





 こうした懸念点に対して市が打てる対策は極めて限られています。




【まとめ

 結局、自動車移動に頼らざるを得ない豊橋市で、専用駐車場のない5,000人規模の巨大アリーナを豊橋駅から1.8kmも離れた豊橋公園につくれば、来場者(特に年間を通して観戦してくれる三遠ネオフェニックスのファン(ブースター))に過大なアクセス負担を押し付けることになります。


 さらに、来場者の車を中心市街地(まちなか)に駐車させることで、興業開催時とその前後に、まちなか駐車場でも吸収しきれない異常な駐車需要と交通渋滞が発生します。

 その結果、一般市民の豊橋駅および駅周辺施設の利用が妨げられ、生活や仕事に深刻な影響が生じます。これは、新川、松山、松葉、八町などの中心市街地の住民のみならず、中心市街地を訪れる可能性のある誰もが被る可能性があるのです。

 想定される新アリーナ来場者の負担や一般市民への悪影響を無視した市の計画には反対です。