大久保 このパートでは、皆さんに西部エリアの魅力を十分知っていただき、「また浜松に行こう」と思ってもらい、お友達に「浜松いいよ」「浜松美味しいから行こうよ」と言ってもらえるような時間にしたいと思っています。私は観光を専門としておりますので、ツーリズムに結び付けたお話も伺っていきたいと思っています。
加茂社長のお話は、ウナギの話からどんどん広がりSDGsまで、ウナギを軸に、こんなに話が広がるんだと感動しながらお聞きしていました。友永校長にはまず、加茂社長の講演に対する感想と、併せて御校の取り組みも紹介いただければと思います。
友永 非常に勉強になりました。ありがとうございました。とても興味深く聞かせていただきました。私どもも今、ウナギについて学生といろいろな取り組みをさせていただいています。地方から浜松に来た時に何を食べたいかと聞くと、ウナギ、餃子、今ではさわやかも挙げられるようになりました。その時に、私たちも含めウナギのことをどれだけ知っているのだろうかと気づき、現在は浜名湖の漁業組合、養鰻組合と一緒に活動をさせていただいています。昨日も養鰻場の見学に行ってきました。露地池、ハウス、さらにもっと新しい取り組みが行われ、最近ではオスウナギ、メスウナギというのもできているようです。28度の温度帯で1年かけて育て、病気になったらもう少し温度を上げてウイルスと戦わせ抗菌剤を使わないようにするなど、いろいろ聞いて勉強しているところです。加茂社長の話を伺い、もっと勉強しなければと思いました。そして、社長の作る、育てるという話、若い人が勉強したいとやって来る話、シェフがもう一度社長のところで勉強し直すという話も、学生を育てている立場として非常に心に響きました。
先日は能登の珠洲市に伺い、炊きだしとして「ぼくめし」を作らせていただきました。舞阪や雄踏の方はご存知だと思いますが、ウナギが大きくなると「ぼく」と言います。もう商品にならなくなったそれを蒲焼にし、細かく切ってごぼうご飯に混ぜたものが郷土飯の「ぼくめし」です。これを能登の炊きだしで提供し、浜名湖ではウナギをこんな風に食べるんだということを伝えてきました。学生にもいい勉強になったと思います。
大久保 先ほど校舎内の展示を拝見しましたが、SDGsの取り組みを浜名湖だけでなくいろいろやっておられるんですね。
友永 学生たちが「クロダイバーガー」を作りました。何でクロダイなの?と、浜名湖のクロダイについて考えてもらえるきっかけになればと。クロダイがアサリや海苔などに影響を及ぼしていること、浜名湖が日本最古の海苔の養殖場だということ、海水の濃度が非常に上がって昔は汽水が多かったが、今は三ヶ日の方でもサバが釣れることなど、皆さんにもう少し浜名湖を知ってもらいたい、バーガーだったら分かりやすいのではないかとクロダイバーガーを作らせていただきました。
加茂 素晴らしいですよ。ドウマンガニとかエビとかは魚価が高いので漁師も獲るのですが、クロダイのように市場に出した時お金にならないものは獲らないんです。クロダイは頭が良くて定置網の下をすり抜けていくので、特殊なタイ網を使わないと獲れない。エイも銛で突いたりしないとなかなか駆除できない魚です。クロダイも時期によっては、お刺身にすると最高に美味しいのですが、それ以外の時期は特有の臭さがある。それをハンバーガーにして、ちょっと味を加えていただけるのはすごいですよ。僕のところでも、小さいクロダイを浜松動物園や浜名湖分場と一緒に動物のエサにならないかと考えまして。シロクマは食べたようで、私のところで備蓄して冷凍しておけば食べてもらえる。そんな取り組みもしています。
大久保 季節によって味が変わるという話がありましたが、お魚にしても日本の食材というのは季節感が非常に重要ですよね。
友永 海苔の一番美味しい時期がいつか考えたことありますか? 採ろうと思えば年中採れますが、寒暖差がある2月頃が一番いい時期です。じゃあその時期に舞阪や雄踏の店にたくさん人が並んでいるかというと、そういうことはない。旬に一番いいモノを食べてほしいのですが、スーパーなどでいつでも手に入るし、ネットでも買える。子どもたちに旬というものを知ってほしいと思っています。
大久保 旬の時期に浜松に美味しいものを食べに来てもらう、そういう情報発信が重要ですよね。
加茂 僕も今日のように広報できる時には積極的に参加させていただき、宣伝させてもらいます。仲買、問屋業、卸売業の立場で飲食店に、今これが獲れたから使ってくれと言っても単価とかいろんな面で使えないことがあります。ですが、消費者の皆さんが「今この魚が美味しいんだって」「食べに行くから」と言ったら、飲食店もスーパーも必ず用意しますよね。まずは魚を知ってもらう、美味しさを知ってもらう、もっと違う広報の仕方があってもいいのではないかと思います。
大久保 ウナギは通年食べられていて、土用の丑というイベントもありますが、必ずしもそれが旬ではないですよね。浜松とウナギの関係性というか、そういうアプローチもあるのかと。
加茂 昔浜松にはウナギ屋は一軒もなかったんです。元々は定食屋さんからです。例えば駅前の八百徳さんも八百屋でしたし、モール街の渥美さんは料理屋でした。ウナギも浜名湖の天然ウナギしかなかった。親父から聞いた話ですが、浜名湖で日本初の養殖がスタートし、天然から養殖に変えてくださいという時に飲食店はどこも嫌だと言ったという、そういう時代でした。それからウナギの養殖が盛んになって少しずつ浜松、浜名湖はウナギの養殖が盛んだと知られるように。そしてこの地に来たらウナギを食べようとなり、飲食店に行ったらメニューにウナギがあった。それを好んで食べるお客さんが多くなってウナギ屋になった。そういう経緯で専門店が生まれた。これが浜松のウナギの歴史です。
大久保 面白いですね。
加茂 僕が海老仙に入った頃は、お正月もお盆もお客さんが来た時も、ごちそうといえばお寿司でした。それが徐々にウナギがブランド化され、浜松に来たらウナギ。ウナギがまだ安い頃、出張族の皆さんは3,000円位で納まれば必ずウナギを食べて帰った。当時はそういうお客さんがいて多く売れたのですが、今はもう圧倒的に観光客です。それも浜松にウナギを食べに行くのではなく、「この店に食べに行く」時代になっています。そういうものが旅行には必要じゃないかと思います。
大久保 それがガストロノミーツーリズムですね。
加茂 本当にそうですよ、この暑い中3時間くらい待って食べてくださる。お店の方も凝縮しちゃって、早めに売り切れにしちゃって。4,000円、5,000円のウナギを家族で来て2万円位払って、なおかつ待ってもらって。ディズニーランドのジェットコースターと全く一緒だと思います。ありがたいです。ウナギだけでなく、この食材を食べに行くという気持ちで来てくれれば、きっと皆さんに楽しんでもらえる。餃子も少しずつ浜松の食文化の一端になっていくと思います。
大久保 餃子にしてもウナギにしても、浜松の料理人がそれを追求していったから、美味しくなり、市民の皆さんも美味しいから食べる。そうして広がっていったというところもあると思います。
友永 浜松は素晴らしく野菜が美味しいです。けれど浜松の人はそんなに気付いていない。例えば美味しい三ヶ日みかんを買いますか? 三ヶ日みかんはもらうものだよとなる。美味しいキャベツがあっても、「うっちゃるから持っていけばいいよ」と、買わないんです。野菜が高くなってももらえるから興味がない。他所の県から浜松に来た人からは、「こんなに美味しい野菜、どこで売っているの?」と必ず聞かれるのですが。これだけの日照率があり、水も豊富で、赤土、砂地といういい土もある。大久保地区で300種類位の野菜を作っている。そこにレストランがあったら、畑から野菜を採ってきて、それだけで美味しい料理ができると思います。
大久保 舌が肥えている市民の皆さんがいるから、料理人さんの腕が磨かれていくということはないんですか?
加茂 先生が言うように、浜松には良い素材が近くにあるので。こんなこと言ったらあれですが、食文化はないんですよね。すぐそこに新鮮なものがあるから、例えば発酵食品とかそういう物を作らなくてもいい。ハモは長生きで絞めても一日生きていて身持ちがいいので京都で重宝され文化になった。浜松はモチガツオみたいな生きたカツオが食べられる町で、そんな町はなかなかないです。手を伸ばせばすぐ食材があるという町なので、逆に素材を前面に出して「採(獲)れたて」というだけでもいけるんじゃないかと思います。
友永 じゃあこの野菜を東京で売ろうとなると、1日、2日経ってしまいます。そうすると美味しさも「まぁいいんじゃない」という程度になってしまう。外に出せないので食べに来てもらうしかない。来てもらわないとこの魅力は通じないと思います。
加茂 ドウマンガニも地元で食べるから美味しいです。他にも四国やフィリピンとか同じような種類が獲れるんですが、空輸や一日経ってくるとストレスでアンモニア臭が生まれてしまう。これは他の魚も全部一緒で、ウナギもそうです。立て場に立てるのも泥抜きとか言いますが、ストレスを解放させ身をしっかりさせているんです。だからこっちに来ないと美味しく食べられないということです。
大久保 カニも死んだ瞬間から美味しくなくなると言いますよね。
加茂 ドウマンガニも、死んだら全然だめです。
大久保 ちゃんと生きている一番美味しい瞬間を食べましょうということを、どうやって発信していったらいいんでしょう。たくさんの人に発信する必要はないんですよね。
加茂 数がないからね。
大久保 むしろ、それってとてもスペシャルなガストロノミーツーリズムに繋がると思うんです。タイミングと情報発信の方向性をうまく考えれば。
加茂 この時期なら美味しいカキが食べられるよ、海苔が食べられるよ。食べ方はこうやってねと、いかにも食べてみたくなるような情報になるよう、料理人の皆さんの知恵をお借りしたいですね。
大久保 浜名湖の海苔は美しいですよね。青海苔は香りもいいし。
友永 元々昔は黒海苔もあったらしいです。今はほとんど青海苔の方が多いですが。食べる時はやはり「ぶち」の方が香りも味も両方立ちますから。青だけだとどうしても苦味か強くなってしまう。ぶち海苔を東京に持って行ってご飯を炊いてこれでおにぎり食べてみようと勝手に巻く。「勝手巻き」といって、これも郷土料理ですのでぜひ。
加茂 僕はいつもぶち海苔を炙ってバリバリってやって、お醤油をかけて温かいご飯を食べています。
友永 最高ですね。
大久保 そんな風に地元の皆さんが楽しんでいらっしゃるのは素晴らしいです。
加茂 だから、ぜひそういうものを朝食に出してほしいですよね。
大久保 それが食べられるのであれば、私も今行きたい。
加茂 お祭りで出す煮魚も一緒です。魚がたくさん必要なわけでなく、かつ丼を作るあの小さな鍋に小さな魚を置いてレアで煮る。グツグツやらない。ヒラメなんか本当に美味しいですよ。そんなに腕はいらなくて素材の味をしっかり出せる料理。1人前作るのにそれしか煮ないので5分もあれば。うちのお母ちゃんが作ってくれるんですが。
友永 今度試してみます。
大久保 加茂家の料理ですね。おそらく、そういう地元の奥様方がお姑さんから教わったり、お母さんから教わったり、そういう調理法が一番美味しいと思う市民の方が大勢いるんじゃないでしょうか。私たちが美味しいと思って食べてきた普通の料理を、もしかしたら食べたいという人がたくさんいるんじゃないかと思うんですよね。
加茂 後程皆さんに小さなクルマエビと、さっき話に出た赤足エビをお出しするのでぜひ違いを試してください。他には今日20匹しか水揚げがなかったスエビ(ヨシエビ)。
海老仙では皆さんに店に来てもらいウナギに触り、魚介類を見てもらい、その後近くの料理屋さんに行って実際に食べてもらう食育を行っています。そこで驚いたのは、そのままボイルしたり、焼いたりした魚介料理を前に、食べ方がわからないんです。どこに骨があるのか、カニはどうやって食べればいいのかわからない。そして食べると、「これが本当にエビなの? 」「カニなの?」 と言う。冷凍エビとかスーパーで売っているものが悪いわけではないですが、でも味が違いますよね。そういうものを実際に体験することもすごく大事だと思います。
大久保 まさしくそれがガストロノミーツーリズムの神髄で、体験ですよね。正しい食べ方を教えてもらうということも。
加茂 というか、そうでないと食べられない。
大久保 本当はインバウンドにも繋げようと思ったのですが、楽しいお話をしている間に時間が過ぎてしまいました。
加茂 体験しながら美味しいものを食べる場づくりも必要だし、それを作ってもらえる先生みたいな調理人に、出張で来てもらえるような、そういうのもいんじゃないかと思うんです。
大久保 料理を提供する時にこの食材にはこんな歴史があってとか、浜松の歴史と共にコンパクトにお伝えするサービスができるような人もいるといいですね。
友永 私たちの学校は昭和53年に建てられた校舎なので再来年度、新校舎を建て駅前地区に移転します。学校は土・日曜、夏休みなど160日間は空いていますので、それを活用し食育として浜松の食材、例えば「ドウマンガニはどこに行けば体験できるの?」 「ウナギはどこに行ったら捌いたりできるの?」 といったことを、体験学習という形で、食育授業をどんどんやっていこうと思っています。それこそガストロノミーツーリズムのひとつかなと思います。
★ここで前回のガストロノミーツーリズム研究会でファシリテーターを務められた静岡大学の横濱竜也教授から、「食材がそのまま美味しいということは、料理人の腕がそれほど必要としなくなってしまうというようなことはないですか?」という質問が出ました。 動画1.16.25頃~
大久保 食材のクオリティーが高ければ高いほど料理人の腕が磨かれると言います。
友永 高い山の麓に育った子は山登りが得意になるように、いい食材がある土地の人はそれを当たり前に食べているので、もっと美味しくしてやろうと思う。それも含めて恵まれている土地だと思います。
大久保 飲食店が浜松で勝負しようと思ったら市民の舌が肥えているから、厳しいでしょうね。食材に恵まれている地だからこそできる魅力の発信の仕方があるのではないかと、お話を聞いていて思いました。
加茂 浜松の食文化も随分変わりました。僕が海老仙に入った頃は、まだ料理旅館とか寿司屋とかたくさんあって芸者さんもいる町でした。それがだんだん少なくなってきて、割烹料理屋もなくなってきています。それと浜松は工業の町なので、飲みに行く時には必ず一度家に戻りお風呂に入って出かけます。だって仕事に行く時は家から作業着で行きますから。それが、静岡は会社帰りにそのまま食事に行ってそれから家に帰りますよね。そこが静岡と圧倒的に違うところ。浜松では減っている寿司屋も静岡はまだそのままある。浜松では割烹も減っていて、みんな居酒屋になっている。
大久保 それこそ文化の違いですね。浜松の当り前というところに、なにかもっと魅力が潜んでいるのかも。
加茂 浜松の人は近くのコンビニにも車で行きますからね。交通網もあると思います、静岡の町って電車やバスで通勤する人が多い。浜松はスズキがあるから車を使うのかもしれませんが。
大久保 自分たちは違うというところにアイデンティティがあるんですね。
MC お時間が来てしまいました。最後に皆さん一言ずつ、なにかありましたらどうぞ。
友永 浜松から東京まで1時間半、名古屋までは30分、大阪も1時間半以内で行けると思います。ちょっと浜松に寄っていただけると、街中に浜松の料理を食べてみたいと思う店が何軒もあります。食べていただければ浜松のファンになってもらえると思います。そうすると次は車で来てみたい。浜名湖を1周回ってみたい。浜松の野菜は美味しい。浜松で作られている日本一の野菜って何だろうと、いろいろ気になると思います。浜松に来てまず食べてもらうのが一番早い宣伝になると思います。ぜひぜひ浜松に立ち寄ってください。
加茂 たくさんしゃべらせていただきましたので、これ以上はございません。
大久保 西部エリアの魅力を皆さんに知ってもらうことがパネルディスカッションでの私のミッションだったのですが、ちょっと伝わったかなぁと思っています。本来であれば私はツーリズムのパートを担当するので、インバウンドの観光客に向けて浜松、西部エリアの魅力を発信するアイデアをいただこうかと密かに思っていたのですが、残念ながら時間切れでした。配信をご覧の方、会場の皆さんも、なにかありましたらおっしゃっていただけると嬉しく思います。