・日時/令和5年98日() 14:00〜16:30

・会場/ふじのくに茶の都ミュージアム

・講師/ふじのくに茶の都ミュージアム 客員研究員 白井 満 氏 


第3回目のガストロノミーツーリズム研究会は、台風が心配される中、茶処・島田市の「ふじのくに茶の都ミュージアム」を会場に行われました。参加者は50人で静岡県外から来られた方もいらっしゃいました。またオンライン参加者も29人と、前回同様盛況な研究会となりました。

■ 講演

講師 ふじのくに茶の都ミュージアム 客員研究員 白井 満 氏

(プロフィール)

1982年静岡県に入庁、(財)世界緑茶協会企画部長、2016年静岡県経済産業部理事(茶・食担当)を経て、2018年「ふじのくに茶の都ミュージアム」副館長に就任。2023年から「ふじのくに茶の都ミュージアム」客員研究員を務める。日本茶インストラクターや中国茶藝師の資格を持ち、お茶の歴史や産業、文化を様々な角度から考察し、静岡茶の普及に努めている。


登壇された白井氏は、本日の参加者が茶業、飲食業、マスコミ関係、研究者、行政関係など様々なジャンルに及ぶことから、あまり専門的にならないように、「静岡茶の歴史と文化」「静岡茶の現状」「新たな喫茶文化の創出など」ツーリズムを含めて一緒に考えていきましょうと述べられ、講演は始まりました。

日本茶の歴史と喫茶文化 

日本へのお茶の伝来

   「日本のお茶、喫茶の文化は中国の影響を受けながら長い歴史の中で発展してきました」。お茶の歴史から話が始まります。

「日本のお茶に関する最も古い記録は1200年前。平安時代に中国から戻った遣唐使や空海などによって喫茶文化が伝えられました。当時は薬として、またカフェインの眠気覚ましとしてお坊さんや宮廷で使われていたそうです。当時のお茶は固まった『餅茶』(へいちゃ)で、これを薬研のようなもので削って飲んでいたと考えられます。その後、遣唐使が廃止され、お茶はほとんど飲まれなくなります」。そして再び歴史が動いたのは鎌倉時代。

「宗から栄西(ようさい)が、後に粉末茶、お抹茶に繋がるお茶を日本に伝えています。彼が書いた『喫茶養生記』には『茶は養生の仙薬なり延命の妙術なり』と記され、お茶は体に良く長生きをすると説いています。これが現在につながるお茶と考えられ、お茶の歴史は800年というのが定説になっています」。

静岡へのお茶の伝来

 「静岡にお茶を伝えた人は御存じですか?」、白井氏の話は静岡のお茶の歴史へと進みます。

「栄西から数十年後、聖一国師が唐から茶の種を持ち帰り静岡市足久保に撒いたと言われています。国師は東福寺、承天寺といった大きな寺を開山しています。また製粉機械の図面を持ち帰り、蕎麦やうどん、抹茶を挽く技術を伝えるという偉業を成し遂げています」。国師の生まれは静岡市栃沢で、生家跡があり、春には枝垂れ桜の下で新茶祭りが行われるそうです。

武家・公家のお茶と庶民のお茶

 日本に伝わったお茶は当時どのように飲まれていたのか、白井氏の話は続きます。

「鎌倉時代に栄西が持ってきた粉末の抹茶的なものは武家や公家の間で飲まれました。その後お茶の種類を飲み当てる闘茶が流行します。これが賭け事になり、財産を失う人も出たことから禁止に。室町時代後期にお茶を点てる文化が生まれ、道具や座敷を工夫し、禅の精神を取り入れた茶道という文化が作られていきます。その後16世紀後半に千利休によって簡素静寂の「侘びさび」が大成されます。江戸時代になると小堀遠州が明るく洗練された美の世界『奇麗さび』を唱えていきます」。

 さて、ここからは一般庶民のお茶の話へと変わります。江戸時代は『日干番茶』が飲まれていたと言います。刈り取ったお茶を水洗いし刻み釜茹でし煮出して飲んでいたとのことです。地方には独自の番茶もあり、その例として岡山の「美作番茶」(みまさか)、高知の「碁石茶」が挙げられました。

新たな煎茶文化の創出

 「煎茶の始まりは17世紀の江戸時代、明の隠元が急須に茶葉を入れ抽出するという新たな喫茶文化を日本に伝えました。今の釜炒り茶に近いものと考えられますが、日本ではこれはあまり受け入れられませんでした。江戸時代中期、京都の宇治田原の永谷宗円が新芽を蒸す新たな『青製煎茶』(あおせいせんちゃ)を作り、国内に普及させていきます」。静岡はどうだったかというと、宇治から技術者を招き製法を普及させたとのこと。当時流派が30以上も生まれ、全国をリードしていくことになったそうです。

    日本の製造工程は加熱に蒸気を使いますが、海外は釜で茹でるのが主流。この違いから日本のお茶は甘みが強くまろやかな味になるのだそうです。江戸時代中期になると僧の売茶翁が自ら道具を持って煎茶を提供する「一服一銭」を実践。煎茶文化は19世紀には自由と風流を求める文人たちに支持され、抹茶とは異なる、形にこだわらないところから人気になっていったようです。

茶店の江戸三大美女と長寿の家康

 「江戸時代の茶店に、当時大人気の女性がいたことは御存じですか?」。また面白そうな話題が飛び出しました。まずは、江戸谷中南門前の茶屋・鍵屋の看板娘・笠森おせん。もう一人は浅倉奥山柳屋の看板娘・おふじ。人気を二分していたといいます。さらにおよしという看板娘が揃い、茶店の江戸三大美女がいたことが記録に残っています。今でいうアイドル的存在で、男性たちは彼女たちを目当てに茶屋に通ったという話もあります。

 話は変わり、大河ドラマ「どうする家康」の主人公・徳川家康の長寿の話に。当時は幼少期に亡くなる子どもが多く、寿命は30~40代とも言われていたそうです。そんな時代に家康は75歳まで長生きしています。「そこで注目したいのが、家康が抹茶を飲んでいたこと」と白井氏は話を続けます。当時駿府では抹茶の生産が少ないため宇治から取り寄せ江戸まで「お茶壺道中」として運ばせていました。このお茶を途中、静岡・井川の山奥で熟成させ、秋口に口を切ったわけですが、今静岡市でこれを再現する行事を行っています。

日本から世界へ。お茶の輸出

「静岡茶の発展には輸出が大きく関わっています。これまで輸出が大きく増えたことが4回。1回目は明治時代で、生糸と共にお茶を清水港から直接輸出した頃です。多い時は生産量の約8割、3万トンを輸出しています。2回目は第一次世界大戦で世界が混乱していた頃にソ連とアメリカに輸出。3回目は第二次世界大戦の後、アメリカから食料をもらった帰りの船に1万トンを積み輸出しています。そして4回目は現在。海外での和食、抹茶のブームによるところが大きく、2022年の輸出状況を見ると、10年間で4倍になっています。輸出の73%が抹茶・粉末茶で、そのうち半分がアメリカへ。比較的高級な抹茶はアメリカへ、安い粉末茶は台湾へ。台湾は煎茶を輸入し、現地で粉末茶にしているという話もあります。ヨーロッパの国、ドイツなどに一度入って他の国に渡ることも結構あります。最近ではASEAN、特にシンガポールへの輸出が伸びています」。

※資料の2次利用不可

日本茶の生産と消費の現状

静岡県は全国シェア3~5割をキープ

 次の話題に入り、最初に示されたのは、ここ120年間のお茶の全国・静岡の栽培面積と生産量のグラフです。「静岡の生産量は全国シェアの3割から5割くらいが主流になっています。全国を見てみると、第二次世界大戦の前に大きく増産し、戦争で落ち込み、戦後、高度成長期に伸びています。1番伸びたのは1957年の収穫量10万5000トンになった時。栽培面積に対して生産量が増えているのは、品種茶の導入と、収穫や製茶の機械化によるところが大きいと言えます。さらに1990年頃からドリンクの需要が伸び、消費も多様化してきています」。

 次に示されたのは、2021年の日本全体の茶種別の生産量のデータ。日本全体の生産量は7万5000トンで、煎茶が54%、番茶が31%、抹茶の荒茶・てん茶が3200トン。紅茶が伸びているのもポイントだそうです

※資料の2次利用不可

静岡県のお茶の全国シェア

 「お茶の生産には2つの指標があります。1つは農家がお茶を刈って工場で荒茶に仕上げる『荒茶の生産額』 。もうひとつは茶商が荒茶を買ってブレンド、再加工し商品化する『仕上げ茶出荷額』です。静岡の茶生産額は34%、仕上げ茶出荷額は56%。いずれも全国1位です」。

 お茶の最終商品にはブレンド茶とシングルオリジンの2つのタイプがあり、これまで静岡県は全国の荒茶を集積して作るブレンド茶が多く、その技術の高さが評価されてきました。それは鑑定能力の高い茶商が多くいるからで、この技術があることでブレンド茶には価格が安定するというメリットがあると白井氏は話します。しかし現在は集積力が弱くなっているとのこと。最近はブレンドせず1つの品種で加工するシングルオリジンも注目されているようです。

 「農家の荒茶の生産量を見ると、静岡県は年々下がり、鹿児島が伸びています。鹿児島は平たん地のため大型機械を入れた効率的な農業に取り組んでいます。技術力もレベルが高くなっています。ただ鹿児島も、茶の価格の低迷やコストの上昇で生産量が減少しているところもあります。仕上げ茶の出荷額を見ると、静岡県はやや減少していますが、50%以上はあります」。

※資料の2次利用不可

緑茶の消費動向と消費金額

緑茶の消費動向を示したグラフを元に、白井氏の解説が続きます。「緑茶飲料とリーフを急須で淹れるお茶、この2つが2007年に逆転します。日本の人口1億2000万で計算すると、国民1人当たり47本のペットボトル緑茶飲料を飲んでいることになります。世代別の消費金額を見ると、60歳以上では5000円以上と急須で淹れるリーフ茶が高いですが、年齢が低くなると極端に減少します。一方緑茶飲料は全世代を通じて購入している。緑茶が嫌いな人がいないのなら、なにかのきっかけでリーフ茶の愛好家になる可能性もあるということです」。

「リーフと緑茶飲料の家庭消費金額を見ても、リーフ茶が下がり緑茶飲料は上がっていますが、リーフと緑茶飲料を足した数値は1万から1万2000円を推移していることに注目してください。支出金額は変わらず、飲み方が変わった。リーフから飲料にシフトしたということです。お茶が嫌いな人はいなく、健康志向もあるかと思います」。また、リーフ茶の購入先も大きく変化。以前はお茶専門店で購入するのが主流でしたが、今はスーパー、通販となっています。

白井氏は消費者の意識の変化についても触れ、所有から体験へと変わってきていることを示します。さらに、「今そこにいることが大事な時代」だと続け、自己表現価値を満たしたい人が多いことにも注目。SNSが良い例だと言います。お茶をモノでなく、コト、トキ(時)としてアプローチし、セットで売る時代となったと話します。


※資料の2次利用不可

多様なお茶づくり

多様性の時代を迎えた生産現場

「これまでのお茶の生産はやぶきた茶や深蒸し茶を中心としたリーフ茶が主流で、一部でドリンク茶や品種茶、無農薬、発酵茶を作る時代でした。これが現代・今後はリーフ茶の割合が減り、商品群が増え多様性の時代に入っていきます。消費者の動向や心理を踏まえてどういう生産をしていくかは、農家とお茶屋さんが連携して目的を持ってお茶を生産することが重要となります」。

ここからは抹茶、緑茶、紅茶、加工茶、ほうじ茶の現状について、白井氏から説明を受けます。

「抹茶に関しては1996年のハーゲンダッツアイスクリームの抹茶利用で知名度を上げ、その後2007年のスターバックスの抹茶ラテで世界に需要を伸ばしました。抹茶というと茶道のお点前を思い浮かべる人がいると思いますが、私の推定では200トン程度で5%。ほとんどはお菓子やアイスの加工用となっています。世界では抹茶ブームがありますが、国内ではやや足踏み状態と思われます。中国やベトナムでも生産が多くなっています。全国で1番多く抹茶を生産しているのは鹿児島県で、次いで京都、静岡、愛知という順番になります。鹿児島は海外向けの有機抹茶の生産を伸ばしています」。

「やぶきた以外の品種茶については、ブレンド茶に比べて生産は少ないですが、シングルオリジンの人気があります。静岡県が開発した『つゆひかり』はきれいなエメラルドグリーンで、爽やかな香気が特。「さえみどり」は色鮮やかで水色が美しく、まろやかな甘みがあります。系統7132の「まちこ」は桜葉の香りがします。他にもまだ多くの品種があり、消費者は個性的なお茶を求めています」。

「静かなブームとなっているのが紅茶です。国産紅茶は和紅茶とも呼ばれ、全国で374トンが生産されています。海外の紅茶と違い苦くないので砂糖を入れなくて良いのが特長。全国地紅茶サミット以来、盛り上がりを見せています。紅茶に適した品種も導入され、技術も向上。全国で作られています」。

「蒸し系のお茶は香りより味を重視する傾向にありましたが、最近は蒸し系でも香りが高い商品作りが行われています。県茶業研究センターが香りを出す「香り緑茶」の開発を進め、現在県内4工場で推進中です」。

「ほうじ茶は香ばしくカフェインが少なく人気です。関西や北陸、東北などで飲まれてきましたが、関東では下級茶として扱われる傾向にありました。石川県では丸八製茶の高級加賀棒茶がブランド化され、高値で売られています。静岡県内では富士市と袋井市がブランド化を進めています。今後海外への輸出も増加すると思います」。

新たな緑茶文化の創出 外食産業での喫茶

誰でも簡単に淹れられる方法

今後外食産業でいかに日本茶を普及させるか、その方法として白井氏は、簡便に誰でも日本茶を淹れることができる方法と、技術が必要で手間がかかっても品質にこだわる方法の2つがあると言います。簡単にお茶を淹れる方法としてティーバッグなどがありましたが、その後第1波としてフィルターインボトルが登場。そして第2波は高級ボトリングティー。最近は1本1000円~1万円と幅広い価格帯が市場に出回るようになっています。ボトリングティーが売れればその原料となるリーフ茶が売れる。日本茶の消費を底上げするには自分の産地だけではなく全体を盛り上げることが必要だと続けます。

「5月に開催されたG7広島サミットでは、お茶のリスト・メニューが作られました。パーティーや結婚式でお酒が飲めない人に、ウーロン茶やオレンジジュースにしますかでなく、緑茶はいかがですかと、ボトリングティーをすすめてはどうでしょう」。

技術を擁する品質重視の方法

リーフ茶を使用した技術を擁する品質重視の方法としてまず挙がるのはカフェ。県内では菊川の「サングラムグリーンティカフェ」(丸松製茶場)、掛川の「日本茶きみくら」(丸山製茶)、掛川の「茶の庭」(佐々木製茶)、静岡市茶商組合が運営する「喫茶一茶」、荒茶工場の隣りで生産農家が経営する清水区の「グリーンエイト」なとがあると解説。東京にも斬新なカフェがあるが、手間をかけてお茶を淹れる技術が必要で、店長の茶への強い思いも不可欠だと話します。

「お茶とお菓子のティーペアリングというスタイルで挙げるなら東京の『茶寮』や『明治製菓」』。料理とお茶なら静岡市の『ルモンドふじがや』、掛川の『掛茶料理むとう』。リーフ茶にこだわる『お抹茶こんどう』ではお抹茶ビールをその場で点てて提供。静岡市の「なすび」では産地ごとのお茶割が楽しめます。パイオニアとして頑張っている『ルモンドふじがや』の白鳥さんはワインのソムリエであり、日本茶インストラクターでもあります。ワインのようにフルコースの料理にお茶を合わせて提供する『静岡お茶コース』を開発。若者向けの低額のメニューも考案中とのことです」。

茶産地の魅力(景観・技術)の伝授

お茶ツーリズムでお茶ファンを増やす

「静岡の茶畑、特に春先のもえぎ色の景観には感動します。最近では茶畑の真ん中に木製のステージを作り、そこにちゃぶ台を置いてお茶とお菓子と絶景が楽しめる『茶の間』が話題を呼んでいます。県内に6カ所あり、静岡の観光協会するが企画にいらした辻さんが代表を務めるAOBEATが、農家の窓口となりPR活動をしています。価格は1人3500円位で、訪れた県外客はとても贅沢な時間だと喜んでくれるそうです。さらに牧之原の大茶園にある『大地の茶の間』など、景観のいい茶畑にステージを作りお茶を振るまう農家が増えています」。

静岡は東京、名古屋から近いのでツーリズムも進めたいと話す白井さん。静岡市のそふと研究所の坂野さんは静岡茶市場の茶商の仕事場を訪問するマニアックな個人旅行型の地域発信ツーリズムを企画。その現場でしか体験できない特別感が評価されていると言います。山梨ではワインの歴史や製造工程を学び見学しながらテイスティングを楽しむ「ワインツーリズムやまなし」というのがあるそうで、日本茶はワインから学ぶことが多くあると話します。


お茶文化のガストロノミーツーリズム

コロナ禍から通常の生活に戻り、海外から多くのお客さんが日本を訪れています。こうした方々にも静岡県の茶産地を訪問してもらいたいと白井氏は話します。「茶産地をめぐる旅で発見した静岡を楽しむツアーで盛り上げていきたいですね。茶の間のようにお茶とお菓子と景観を楽しんで、生産者と話をするのも魅力。そして実際に使ってみた高級ボトリングティーをお土産として購入してもらう。そうすればリーフ茶が売れる。昔ながらの和菓子とお茶のペアリングの楽しさも広げていきたいです。そして地元のレストランやカフェで楽しむ料理やお菓子とのペアリングも。新しい文化として育てていきたいです」。

「古き良きお茶の文化を未来に向けた新たな提案へと発展させるために、ガストロノミーツーリズムは重要な方法となります。活用し盛り上げていきましょう」。


■ パネルディスカッション 

第2部は講演を終えたばかりの白井 満氏と、丸七製茶の代表取締役・鈴木成彦氏、Benefiteaの代表・西沢広保氏にご登壇いただき、ふじのくに地球環境史ミュージアム館長の佐藤洋一郎氏を進行役にパネルディスカッションが行われました。

(佐藤) 白井さんのお話を聞いての感想を含め、自己紹介をお願いします。


(鈴木) 白井さんのお話は本でも拝見していまして、参考になることがたくさんあり、改めて興味深くうかがっておりました。白井さんがワイン好きだというお話がありましたが、私もお茶を紹介するためにワインの勉強をしてもう30~40年になります。ボトリングティーをやっているということでお招きいただきまして、何かみなさんのお役に立てればと思います。

ボトリングティーを作ろうと思ったのは、田崎真也さんと知り合いまして。当時90年代半ばというとお茶を有料で飲ませるなんてほぼありえないことでした。それを何とかしたいんですと話した時、フレンチの高級レストランでは水がボトルに入っていればちゃんとお金が取れますから、ボトルに入れたらいいかもしれないですねという話になりました。もう30年近く前の話ですが、実現したのは3年前です。

学生時代にいろいろな企業のプロモーションをやっており、商品を売るためにはどうしたらいいかという感覚がいまだに残っています。お茶屋というよりお茶という食材を日本の伝統的な飲料をどうしたらいいのかと、今も考え続けています。実家の会社に戻りお茶屋の会合に出た時に感じたことですが、まるでこれはクラシックファンの集いだなと。私がやるならクラシックではない、ポップスのプロモーションのような売り方をやる。それが自分の役目だという思いで今もやっています。


(佐藤) 西沢さんお願いします。


(西沢) 白井さんのお話にもあったお茶の歴史ですが、知らない人が多いと思います。今日ここにいる方は知っているかと思いますが、もっと広めたほうがいいなと改めて感じました。

うちがボトリングをやり始めたのは、白井さんから静岡にはボトリング工場がない、地元でそういう工場が作れないかとお話をいただいたからです。私は元々健康関連のことをやっていて、実は30年位前にすでに健康飲料のボトリング工場をやっていました。でもお茶に特化したものとなると健康ドリンクの機械ラインではお茶の良いところが出せなく、保存料、防腐剤を入れ常温保存ができる設備もあったのですが、これだとやはりお茶の良さが出せない。そこでお茶専用のラインを作り、やっています。


(佐藤) 私たちの感覚ではお茶というと茶文化。すごく敷居が高い抹茶の世界ですよね。でもそれでは需要は伸びないということで大衆化したということだと思うのですが、ボトリングへの抵抗みたいなものはなかったんですか。


(西沢) 元々ペットボトルのお茶のベースというのはあったんですよね。ですので、喉が渇いてすぐ飲みたい時にはペットボトルでいいのではないかと思います。抵抗がある、というよりボトリングティーとなると、何か付加価値をつけるとか、ペットボトルとは違ったものでなければいけないのではないかと思います。最近やっとソムリエやシェフが、ボトリングティーもワインと同じように温度や時間など、外に出した段階で味や香りが変わると気づき始めてくれています。


(鈴木) お酒で例えると、通常流通している清酒は火入れ加工し常温で長期保存できます。生酒は要冷蔵です。西沢さんのところは要冷蔵で、素材の新鮮な風味を優先している。私のところはどちらかというと長期保存でき世界にも持って行ける。なおかつ価格もできる限り安く、カジュアルに楽しんでもらえるところを目指しています。

ちなみに、ペットボトルのお茶は賞味期限が9カ月~1年位でやっていると思いますが、賞味期限ぎりぎりになると色も味も香りも全く違うものと言っていい位変わります。腐るわけではないので何の問題もないですが、お茶屋としては許せないという思いでお茶作りをしています。お茶は超酸化しやすい素材で、製造過程で風味が変わってしまいます。それで入れざるをえなくビタミンCを入れています。西沢さんのところはそれをやらないスタイルで、これも非常に価値があり、とても大事なことだと思います。


(佐藤) 白井さんのお話で、ペットボトルのお茶が家で飲むお茶を補填するという話がありましたが、ペットボトルが果たしてきた役割はどこにあるのでしょう。


(白井) 大きな役割があったと思います。お茶の新しい消費を作ったことは非常に大きい。リーフかペットボトルかという選択ではダメだったんです。リーフとペットボトルの間の多様なものを作らないと。さっきペットボトルはどの世代にも飲まれているという話をしました。みんなお茶が好きだということは証明されました。だから可能性があるんです。リーフのお茶にどう近づけていくかが鍵です。


(佐藤) 日本のレストランでは水はタダですが、150円のお茶をボンとそのまま出されたらお客は怒りますよね。何千円のお茶をタダでというわけにはいかないので、その中間がほしいということでしょうか。


(白井) ペットボトルよりもっとレベルが高い、急須で淹れたようなお茶が飲めればいいなあと思います。最初にボトリングティーが出た頃は1本2万円でした。2万円で飲む人がいるのか、2000円位ならどうか、その辺りを努力されて今に至っているのだと思います。


(佐藤) この会はガストロノミーの研究会なので食文化、いや飲食文化について、食とお茶をどういう風に合わせていくのがいいのか、何か具体的にありますか。


(白井) ひとつはティーペアリング。緑茶だけでなく和紅茶があって、ほうじ茶があって、高級煎茶があって、それぞれ持ち味が違うのでこの料理には合う、この料理には合わないというのがあると思います。コースの中でどのお茶を選ぶか、シェフとお茶屋さんが連携してやるという手が1つあります。


(西沢) 8月の末に尼崎でガストロノミーの会をやったのですが、そこでボトリングティーは高いので出せないという話が出ました。その一方でロブションのソムリエとのコラボで私が作ったボトリングティーは27,000円です。海外ではこれが結構出ます。それも含め、料理に合わせたペアリングですよね。その時はソムリエにお茶の淹れ方や提供の仕方、温度なども教えてあげて、料理とのペアリングがとても好評でした。

当社のボトリングティーの賞味期間は冷蔵庫に入れていれば最大2年です。うちの分析では7年待ちます。急須で淹れたのと同じで、淹れた時と、時間が経ったときの味・香りは変わっていくので、それをもっと知ってもらえればお茶と料理を合わせられると思います。以前、ソーセージにお茶を入れたことがありまして、なんでそんなものを入れるんだと言われましたが、美味しくなるんですよ。お茶と料理のペアリングもいろいろな形でできると思います。


(鈴木) ペアリングって昔はマリアージュなんて言ってましたよね。ペアリングになったのはアカデミックになったというか、理系の方が料理界に参入するようなり様変わりしたのでしょう。

最初に三ツ星の和食店でうちのお茶を扱っていただいた時、大将が言いました。「これなら若い衆に淹れ方がどうのこうの言わなくても一年中同じ味が提供できる」と。白身の鮨にちょうどいいと採用いただきました。ティーバッグで同じ味を出そうとしたら水も同じものにしなければなりません。ボトリングは我々が料理にあわせるために温度から時間からいろいろ設定を変えています。肉料理、魚料理、スイーツなど今60種類ほど作っています。サービスする時の温度だけ料理に合わせて調整していただく必要がありますが、ソムリエはそういうことはわかっていらっしゃるのでなんの問題もありません。


(佐藤) 今、鈴木さんから水の話が出ましたが、静岡の水は硬度80くらいの硬水なんですよね。それでお茶を出すというのはどうなんでしょう。軟水とはまるで変わると思いますが。


(西沢) うちの会社では水を変えています。そのままではちゃんと出ないので。八女茶には八女の水に似たような水に、狭山茶には狭山の水に似たようなものに変えています。静岡の水道水を加工する機械装置があるんです。地下水は保健所の規定がすごくありますが、水道水はうるさくないんです。本当は地酒メーカーさんのいい湧き水で作りたいと思って、今、そそのかしているんですが。


(佐藤) 某料理屋さんも地下水を使いたいけれど保健所がうるさいから水道水で脱塩素装置を使っているというんです。そういうところ打ち破っていかないと、熱を使うんだから何の問題もないと思いますけど。


(西沢) やはり水が命なんです。お茶を抽出してもそのブリックス(糖度)濃度はすごく薄いんです。濾過もするんです。いい濾過装置に通してしまうと水になってしまうんです。お茶のいいところだけ残すということができないんです。その中間でやってあげなくてはならないのですごく難しい。


(佐藤) 山形のアル・ケッチァーノの奥田シェフが東京で鮨屋を開業していて、そこに行くと最後にマグロの大トロが出て、口の中が脂になったところに、めちゃくちゃ渋い緑茶を出すんです。そうすると口の中がすっきり。アバンギャルドなそんなやり方もありえそうな気がします。

オンラインで参加している方から「前回の研究会で浜松の一木さんが出汁に加えて薄いお茶を使っているとおっしゃっていましたが、そういうことは考えられますか」と。


(鈴木) 私共も「ななや」という店をやっていまして「濃い」を自慢にやっているので「薄い」というのも何なんですが、今薄いモノを目指しています。「濃い」の反対が「薄い」というのはネガティブですよね。ソムリエにとっては「薄い」はNG。「淡い」と言います。淡い味わいを極めたいと目指しています。お茶は植物性のアミノ酸だけれど肉や魚の動物性のアミノ酸とで、合わせ出汁の効果が出てより一層味わいが深まるというご案内を料理人の方に差し上げています。料理と一緒に飲んだ時に初めて出てくる味わいとか、風味のコントラストとかが意外とあるんです。何を食べながら飲むかで香味は違ってきます。それが今の時代のペアリングに繋がると思います。我々も新しいお茶をどんどん作って、素材としての面白さを極めたいと思います。

先ほどお水の話が出ましたが、茶葉があって水を合わせるのではなく、今度は逆にこの水で淹れた時に美味しいお茶にするために、こういう育て方をするというような、ボトリングティーにするための茶葉作りを今、目指しています。


(佐藤) それもチャレンジで、面白いですね。


(西沢) 今、一木さんの話がありましたが、6年くらい前にお茶の出汁を作ったんです。なぜやったかというと良い昆布が取れなくなってきて、お茶だったらできるんじゃないかとやってくれたんです。静岡ですと手打ち蕎麦たがたさんではお茶で出した出汁で蕎麦を食べることもやりました。


(佐藤) 温暖化のせいなのか昆布が取れなくなっているようです。利尻もダメで何年か後には取れなくなるようなことを言っています。和食の料理人さんには困ったことになると思うんですが、茶葉がその代替えになれば。アミノ酸の種類は同じだと思いますが。


(西沢) なりえると思います。


(佐藤) それは近年稀にみるいい話です。お茶というと和菓子となると思うのですが、何か新しいお茶とお菓子の展開というのはありますか。


(白井) 従来型の和菓子だけでやっているのでは消費は伸びていない、というより下がっています。いかに今の時代に合った和菓子に変えていくか。和洋折衷もそうですが努力をしているところはちゃんと生き残っています。和菓子、洋菓子と分ける必要もない時代です。鈴木さんもいろいろ挑戦していておられますが、もっと洋のいいところを取り入れて和を伸ばすとか、和を前面に出すか、何対何で出すかとか、その辺はいろいろ挑戦のしようがあり、お菓子とお茶をセットでどう合わせるか考えたらいいのではないかと思います。あまりカテゴライズしてやるべきではない気がします。


(佐藤) 鈴木さんはどうですか。


(鈴木) 今お菓子業界はSNSとかの影響でキャッチーなものが広がっていますが、私は100年後もちゃんと生き残っているお菓子を作りたいという思いでやっています。ガストロノミーツーリズム研究会で登壇してくださった奥田さんにしてもサスエさんにしても、王道を行く信義というか、アカデミックなところも背景に持ちながらやっていらっしゃいます。成功の秘訣の中に何十種類もの理屈が裏側にあるんです。だからガストロノミーツーリズムも静岡ならではということをもっと極めて、静岡でしかできない何かをみなさんと一緒に形にしていけるような、そんな研究会になれば私もうれしいし、みなさんにとってもプラスかなと思います。


(佐藤) ありがどうございます。代わりにまとめられちゃったので、もう何も言うことはないですね。お時間が参りましたのでこれで終わらせていただきます。どうもありがどうございました。


■ 交流会

ガストロノミーツーリズム研究会の最後を締めくくるのは試食と試飲が楽しめる交流会です。お菓子は今日の講師白井満氏がセレクトした島田の銘菓で、お茶についてはパネルディスカッションで話に出てきたボトリングティーが用意されました。試食のあとは参加者同士名刺交換をしたり、白井氏、鈴木氏、西沢氏と話をしたり、質問をしたり、楽しく交流されていました。


試食メニュー

▪️黒大奴(清水屋)

▪️小饅頭(清水屋)

▪️幸福サンド(龍月堂) 


お茶

▪️ボトルドティー川崎(Benefitea)

▪️スパークリングティー(Benefitea

▪️つゆひかり/水出し

▪️香り緑茶 花ここち/水出し