・日時/令和5年8月2日(水) 14:00〜16:30

・会場/ミズモト学園   東海調理製菓専門学校 9F 学生レストラン

・講師/懐石 いっ木 店主   一木 敏哉 氏


2023年8月2日、浜松市にあるミズモト学園東海調理製菓専門学校を会場に、第2回ガストロノミーツーリズム研究会が開催されました。54人の方に参加いただき、オンライン参加者も22人と、前回同様盛況な研究会となりました。

■ 講演

講師 懐石 いっ木 店主 一木敏哉氏

 

(プロフィール

周智郡森町出身。調理師専門学校卒業後、京都「菊乃井本店」で修業。

唎酒師、ふぐ処理師の資格を取得後、28歳で「懐石 いっ木」を開店。2007年日本料理アカデミー主催の第1回日本料理コンペティション東海北陸地区で優勝、2015年ミラノ万博へ日本代表として赴き、日本館で県産食材を使った料理をデモンストレーション、2019年世界料理学会in HAKODATEで県産きのこを使った料理をプレゼンテーション、2020年京都大学での日本料理アカデミーで一番だしを実演。

和食文化について一緒に考えましょう

   「今日の講演は、講演ではなく皆さんと一緒に和食文化について考えてみたいと思います」。そんな言葉からお話はスタート。まずは『和食文化』を和食と文化に分けて考えていくことになりました。

「和食と聞いて思い浮かぶ料理の特徴はなんですか?」会場の皆さんにそんな問いが投げかけられました。一木さんが示したのは農林水産省が出している和食の特徴の大まかな項目です。

 

○多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重

○栄養バランスに優れた健康的な食生活

○自然の美しさや季節の移ろいの表現

○正月などの年中行事との密接な関わり

【問題1】 2013年12月、和食が世界無形文化遺産に登録されましたが、登録された和食は?

A おせち

B 蛤の吸い物

C 赤飯

D ラーメン

 

一木さんから質問が飛び出し、会場の皆さんに挙手をいただくと、Aのおせちが一番多い結果になりました。

「これ、『答えはありません』が答えです。世界無形文化遺産に登録されたのは、正確には和食、日本人の伝統的な食文化が登録されました。おせちが無形文化遺産になったのではなく、お正月におせち料理を食べる習慣が無形文化遺産になりました。蛤の吸い物もそうです。ひな祭りの時に蛤の吸い物を食べる文化が無形文化遺産になりました。料理に付随する習慣を世界が認めたということです」。

実は、日本では以前、『食』が文化として認められていなく、ユネスコに無形文化遺産の登録申請をした際、日本で食が文化として認められていないのに、なぜ世界が認めなければいけないのかという話になったそうです。そこで法改正。「文化芸術基本法の第12条に、生活文化という文言があります。2017年に改正されたものにはその中に『食文化』が入りました。それ以前は入っていませんでした。世界から突っ込まれ、日本でも食が文化とされ、改正されました」。


文化芸術基本法についてhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/kihon/geijutsu_shinko/kihonho_kaisei.html

【質問2】そもそも食文化という言葉はいつから使われていたのでしょうか?

A  1810年前半(江戸)

B  1890年前半(明治)

C 1970年代後半(昭和)

 

会場の皆さんはBかCに手を上げた方が多いようでしたが、

「答えはC。国立民族学博物館名誉教授の石毛直道氏が『食』の概念を変えました。これまで『食』は栄養学、調理学、生理学の中にありました。しかし、食料の生産、獲得から分配、流通まで、もちろん調理、栄養、食卓の食具、調理場、食べ方、食べる場所、設営片付け、さらに、思想、宗教、法律、経済、社会、文学、美術工芸など、食を取り巻くすべてを『食文化』とし概念を変えました」。

【問題3】日本食と和食の違いは? 

ここで話は日本食と和食の違いへと進み、会場の皆さんはその答えを考えながら、一木さんの話に耳を傾けることになりました。

『日本食も和食も日本で食べられている食事・料理を意味しますが、和食の方が日本食より狭義な、伝統的な日本の食事・料理』という定義があるとのことですが、一木さんはそれを分かりやすくするために図解してくれました。黄色の部分が日本食で、日本で食べられている全ての食事・料理が入ります。その中にある青い丸が和食。それ以外の黄色には洋食、中華などが入ります。赤と黄色が重なった緑の部分の話では浜松餃子が例に挙げられました。

※動画18分30秒頃


「浜松餃子をこの図で表すと、黄色の日本食と赤い色の中国料理が重なった緑色が日本の餃子となります」。中国の餃子は茹でたり蒸したりするのが基本で、焼くことはないそうで、中国の餃子が日本の文化に触れると焼き餃子になる。中国料理でもなく、和食でもないというところが緑色だと解説。イタリア料理が赤なら、イタリアにはないナポリタンが緑だと解説してくれました。

天ぷらは元々は和食ではなかった!?

話はさらに天ぷらへと進みます。

「天ぷらはこの図形では青ですよね。でも元々は外国料理のフリットのようなものが日本の食によって洗練され、和食になりました。だから今は緑の餃子も、もしかしたらどんどん洗練され青い丸の中に入るかもしれません」。

和食と言うのは『伝統的』、『昔からある』というのが何となくイメージされています。その分岐点となったのが明治維新、文明開化だそうです。以降は欧米の文化、海外の料理がどんどん入ってきて、牛肉や牛乳も食すようになります。例えばご飯、味噌汁付きのハンバーグ定食。これを和食と言っていいのか?それとも洋食なのか。江戸時代までの料理は違和感なく和食と言いやすく、他国の料理が入っててきたことで和洋折衷のグレーゾーンが生まれた。それが明治維新からだという話をされました。

ご飯が和食の中心的存在

『一汁三菜』という言葉は一つの汁に、三つの菜(おかず)という意味ですが、ご飯とは書いていないのにご飯と漬物が付いています。あるのが前提で、ご飯が基本となってそこにおかずを増やしていくのが献立の組み方になっている。ご飯が和食の中心的存在になっているということを話され、今度はお米についての質問が出されました。

【問題4】

日本独自の単位「1合」。元々次のどれを基準に決めた単位でしょうか?

A 1回に収める税金としての米の量

B 一食に食べる米の量

C 一度に手で収穫できる米の量

 

挙手をお願いすると、ABCどれも同じように手が上がりましたが、答えはBでした。

「1合という単位は日本独特のものです。昔の人は1食で1合を食べていました。今のように他の料理がいろいろあるわけではなくご飯からカロリーをたくさん取りました。肉体労働が多かったのでカロリーをしっかり摂取しないと体が動かなかったわけです。このように食べる量で単位を決めるというのは日本独特です」。

話は大名の石高へと続きました。1石は15人が1年間食べられる米の量で、1石で1人の大人を養うことができる。つまり100万石は100万人の兵隊を養うことができるという目安だったそうです。また1俵は労働者が一人で担げる量約60kgで、2俵は馬1頭の積載量だといいます。

パンでも朝ご飯、ビザでも昼ご飯、パスタでも夜ご飯 

 「今日、朝ご飯何を食べましたかって聞きますよね。僕は『朝ご飯はパンを食べました』と答える。おかしくないですか? パンを食べたのに朝ご飯って。夜パスタを食べようが夜ご飯、昼ピザを食べようが昼ご飯と呼びます。ご飯は、食事全体を表しているということです」。この呼び方も日本独自のものだそうです。そして話はお米から造るお酒へと進んでいきました。

お米のお酒は日本酒。ブドウのお酒はワイン。麦のお酒はウイスキー。お米のお酒だけ国の名前が入っています。日本だけです。お米はそれだけ大事にされているということです。お祭りにもそれは見て取れます。御田植祭や収穫祭があります。これ程年中行事とリンクしている食べ物はなく、日本人にとっていかに特別な物であるかわかります。

味噌汁をスプーンで食べる人、いますか?

和食文化を考えるにあたり、和食と文化に分け、これまで和食について話を進めてきましたが、ここからは文化の話となります。冒頭一木さんは、この文化というのが、今回のツーリズムの中で非常に重要なポイントだと話されました。また広辞苑や実用日本語表現辞典で文化という言葉を調べ、一木さんなりの解釈を示してくださいました。

「味噌汁をスプーンで食べる人はいますか。いないですよね。これが和食文化なんです。こういう具体例を見ていきましょう。和食には配膳という決まりごとがあります。ご飯が左手、右手に汁、その真ん中に漬物。おかずが奥にあり右手上にお茶。箸が手前にある。これが基本の配膳です。」

お箸が手前にあるのは、お箸を境に手前は生きているもの、お箸より奥は死んだ物とされているからだそうです。野菜も魚も肉も元々は生きているもので、その命をいただき調理されたものが目の前に並びます。決壊を越えお箸を使って命をいただくという意味があるのだそうです。

また、ご飯が左にあるのは常にご飯を持つことができ、ご飯を食べてお菜を食べ、汁を飲みまたご飯を食べる。ご飯を基準にいろいろなものを食べる三角食べも、ご飯とお菜で塩分濃度を調整し、調味する意味があり、これも日本独特のもの。和食文化の一つだということです。『いただきます』『ごちそうさまでした』こうした声かけも日本だけもので、やはり和食文化だと話されました。

【問題5】世界中で食事にお箸が使われる割合はどのくらいだと思いますか?

A 9%

B 12%

C 28%

 

お箸の話が出たところで、一木さんからまたも問題が出されました。答えはCで、会場でもCと答えた方が多くいらっしゃいました。世界の食事法はお箸、カトラリー、手で食べるの三通りくらいで、手で食べるところが多いそうです。中国、朝鮮、日本いずれも同じ箸の食文化がありますが、箸の長さ、材質、食事法など、日本と他国はかなり異なっていることを資料を元に解説してくれました。


 

中国や朝鮮と違い、日本では器を持って食べた方が行儀がいいとされています。お椀を手で持つには、日本の建築様式、高床式が大きく関わっているそうです。湿度が高い日本は床を上げて建物が造られているため、天井が近くなります。テーブルを置くとさらに狭くなってしまうため畳が置かれるようになったのだと言います。畳の上にそのまま置くと器を持たないと食べづらいため手で持つようになり、素材も熱くなく口まで運べる漆の木の器になったそうです。日本の高温多湿という環境がお椀を生んだとの話に会場は大きくうなずいていました。

問題6】静岡県で生産される農林水産物はいくつあるでしょうか?

A 223品目

B 357品目

C 1143品目

 

「静岡県は日本一高い富士山があり、日本一深い駿河湾があります。高いところから低いところまであるのでさまざまな環境があり、非常に自然に恵まれた地域だと思います」と話されたところで質問が飛び出しました。会場ではCと答えた方が多く、正解もC。食材が439品目で花が704品目。2位の鹿児島の2倍で、いかに農林水産品が豊かな地であるかがわかります。また種類が多いだけでなく、農林水産大臣賞を取るなど質も高く、まさに食材の宝庫だと話され、おまけの問題として、「ふじのくに食の都づくり仕事人」のロゴマークが紹介されました。

「このロゴマーク、今日一番大切なので覚えてください。『ふじのくに食の都づくの仕事人』という県が推奨した料理人の制度で、静岡県の食材を積極的に使っているレストランが受賞しています。このマークのあるレストランをぜひ応援してあげてください」。

静岡県ならではの食文化をどのようにしてツーリズムへ繋げていくか、一木さんから提案されたのは静岡県のお茶。お茶を料理に使えたら、ツーリズムに使えたらという思いで考案した料理を交流会でお披露目していただけることになりました。


■ パネルディスカッション 

第2部は、講演を終えたばかりの一木敏哉氏、海老仙代表の加茂仙一郎氏、ブルーレイクプロジェクト代表の夏目記正氏に登壇いただき、ふじのくに地球環境史ミュージアム館長の佐藤洋一郎氏を進行役にパネルディスカッションが行われました。

(佐藤) 今日の一木さんのお話、面白かったですよね。今日のお話の感想と、自己紹介をお願いしたいと思います。


(加茂)    海老仙と言います。浜松市西区で、一木さんのお店とか、今日この会場にもいらしている飲食店にも 水産食材を卸させていただいております。あともう一つ、雄踏町でウナギの養殖もしています。ウナギの放流連絡会の会長もしておりまして、毎年11月、12月に浜名湖で捕れる親ウナギを今切口から放流しています。今年11年目になりまして、これまで3トンぐらいの親ウナギを放流しています。

せんだっては土用の丑ということで、ウナギを食した方もいると思いますが、このところウナギが非常に高くなっていて。この原因はシラスウナギが少ないからです。私共は今から20年、30年前頃の価格で食べていただきたく、子どもさんにもいっぱい食べてもらい、元気になってほしいという思いで放流をしています。

今日は一木さんのお話を聞かせていただいて、農林水産業者としてすごく勉強になりました。また僕が生まれ育った浜名湖のほとりの食文化についてもお話の中でご紹介させていただければと思いますよろしくお願いします。


(夏目) はじめまして、夏目と申します。なんでこんな帽子を被った奴がいるんだと思っている方も多いと思いますが、元々高校球児で、常葉菊川高校で野球をやっておりました。今年は浜松開誠館ということで、浜松としては11年ぶりの甲子園出場です。私は中学時代から、三ケ日中学で野球をやっていまして、高校の時は東海大会で終わってしまいましたが、中学の時は全国大会に出場しています。その時に地域がものすごく盛り上がったんですね。その体験が地域活性活動をやりたいと思ったきっかけになったのだと思います。

現在はセキスイハイム東海の営業所長の仕事をしつつ、ブルーレイクプロジェクトという地域活性化及び、子どもたちの支援をしています。また三ヶ日ミカンの摘果作業で生まれる摘果ミカンを活用した商品開発なども行っています。三ヶ日青ミカンスカッシュとかビール、食べ物でないシャンプーなども作り、その売り上げを小中学校の子どもたちがやりたいことへの支援、地域活性、湖の浄化活動に充てるブルーレイクプロジェクトを進めています。本日はよろしくお願いします。


(佐藤) 加茂さん、さっき、すごくいい勉強になったとおしゃってしましたが、もう少し具体的にいいですか。


(加茂) 日本食と和食の違いとか、説明をしていただいて、なるほどなあと思いました。僕が生まれ育った浜松というところは、一木さんから話があったように、新鮮な野菜、魚、お肉も手を伸ばせばすぐに届くというところで。何も努力しなくても美味しものが手に入る地域です。例えばモチガツオ。ウナギにしても昔は今よりもっと養鰻が盛んで。実は僕たちの町ではウナギは買うものではなくおすそ分けいただくようなもので、池から上げた生きたままのウナギをもらっても迷惑だろうと白焼きにしておすそ分けしてくれる、そういう文化です。この間NHKで紹介されたのですが、うちの会社も夏の土用の丑には、毎年新聞紙にくるんでおすそ分けさせてもらっています。そんな食文化をご紹介させていただきました。


(佐藤) 一木さんどうですか、今のお話を聞いて。


(一木) 加茂社長がおっしゃった通りこの辺りは食材がたくさんあるので、例えば今のウナギもそうですし、カツオなんかは家庭の包丁の切れ味が悪くても、ぶつ切りにしても美味しい。カツオって食べやすい大きさがあるんです。カツオに限らず刺身は、このくらいのサイズ、これくらいの重量、厚さで切ると口の中でちょうど嚙み切れるという大きさがあるんですね。こちらに帰ってきて思ったのですがこの辺りではそういうの一切無視。口中いっぱいにモグモグ食べるのが美味しい。そんな風に食材を贅沢に使うことができる。それだけ新鮮な食材に恵まれた土地ということじゃないですかね。


(佐藤) 私も20数年ぶりに静岡に帰ってきてお寿司屋さんに行くと、お寿司の自慢でなく魚の自慢をするんです。考えてみるともったいない話で、そんなことをしているから美味しい食材を東京が持っていってしまう。ずいぶん損をしている気がします。今日は一木さんが文化とわざわざおっしゃったので、これだと思いながら聞いていました。一木さん、その辺り主張してください。


(一木) ガストロノミーツーリズムは食と旅を合わせたイメージだと思うのですが、ただ旅行に行けばいい、美味しい物を食べればいいではなくて、ツーリズムの一番核となるのは文化を食べることだと思います。文化は地域独特の工夫。だからその地域の工夫の仕方を食べる。食文化は食と栄養論だけでなくそれ以外のいろいろ含めた地域の魅力で、料理はそこに付加価値を与えるものだと思っています。だからトータルで美味しい文化を食べるというのが今回の肝ではないかと思っています。


(佐藤) いい言葉ですね。「文化を食べる」。何かの時に借りることにします。夏目さんに聞かなくてはと思っているのですが、青ミカンという話が出ましたが…。


(夏目) 文化を食べるという言葉、僕もずっと思っていたのですが、先に一木さんに言われちゃったなと思っています。青ミカンについては、元々の三ヶ日ミカンを紡いできてくれた農家さんたちがいたその歴史とか、その積み重ねが文化になって、三ヶ日の生活があるんです。それがあるから摘果して使われないミカンも生かせる。

青ミカンはミカンほど甘くないけれど、程よい酸味があります。なにより栄養成分は甘いミカンよりあります。特に皮の方ですが。最近では聖隷浜松病院さんのスイーツに組み込んでもらえまして。ビタミンはもちろんですが、食物繊維が豊富なので血糖値が急に上がらないという利点があるようです。一木さん、使ってみてはどうでしょうか。 


(一木) 実は毎年極早生ミカンを10月頃に使っています。カツオが捕れていたら藁でたたきにし、極早生ミカンで食べていただきます。


(佐藤) 高知に行くとカツオをユズで食べますね。静岡はミカンの種類がとても多い県ですよね。その中で青ミカンはどういう風に使われるのですか。


(一木) 何でもできますよ。デザートはなんとなくイメージつくので、例えばカツオだしと相性がいいのでそういうものであるとか、酢の物はもちろん、焼き物にも揚げ物にも使える。オールマイティーで何でも使えます。ミカンというより調味料という感じで。


(佐藤) なるほど。加茂さんおすすめの魚とミカンとの相性、コンビネーション、出合い物、どうですか。


(加茂) カニとミカンが合うかなあ。ドウマンガニ、ワタリガニも美味しいです。実は毎年浜松市の企画で、家族で店に来てもらいカニを見てもらいそれを食すというイベントをやっています。そこでワタリガニを出すとまずどうやって食べるのかわからない。そしてカニってこんな味だったの!?と初めて知るんですね。これはカニだけでなく魚も同じ。焼いて一匹そのまま出すと食べ方がわからない、エビもそうです。そして食べてみると決まって、お魚ってこんな味なの!エビってこんなに甘いの!って言うんです。そういう地場で捕れるものをぜひ食べてほしいですね。


(佐藤) 最近エビが捕れなくなっているそうですね。


(加茂) 平成元年の一番最盛期に1000トン捕れていた車エビが今3トンしか捕れない。さらに大きな車エビが捕れない状況です。皆さんご存じのようにアサリも潮干狩りができない、もう捕ってはいけない、食べられない状況です。車エビはアサリ以上に、シラスウナギ以上に減っています。


(佐藤) 一木さんから静岡県は食材が非常に多いところだという話が出てきましが、今の加茂さんの話で、捕れなくなってきている理由、何が原因だとお考えですか。


(加茂) まず一番は浜名湖の環境ですね。以前は山からの水が流れてきた。それと、今浜名湖がすごくきれいになっていますよね。以前は少し濁ってましたね。養分が無くなってしまっている。水をきれいにし過ぎてしまったというのも要因の一つかと。ウナギのエサとかそういう養分が地下水と一緒に浜名湖に入っていたものが、養鰻場が少なくなったことでなくなったというのが最大の理由ではないでしょうか。クロダイとかエイがエビを食べてしまうとか、いっぱい捕ってしまったからだということもあるんですが、やはり育たないということです。


(佐藤) 一木さんの修業された菊乃井の御主人から、瀬戸内海で魚が捕れなくなったという話をよく聞くのですが、日本中で魚が捕れなくなってきている。何ですかね。


(加茂) これはもう最大の問題で、やはり自分たちが資源を今より枯渇しないよう、減らさないように、一次産業者の漁師さんから最終的にはそれを食べる皆さんまで、それぞれが意識を持って活動していかないといけないと思っています。


(佐藤) 加茂さんの話にもありましたが、「水清くして魚棲まず」という言葉は昔からあるわけですよね。かつては海にいろんな排泄物、廃棄物を流していたわけで、それはもちろんいいことではないけれどちょっとそのやり方を間違えたというか、あまりに清潔にしすぎたために必要なミネラルが海に流れなくなり、それが原因で魚が育たなくなった。


(加茂) その通りだと思います。水をきれいにするために亜鉛とかリンとかそういうものを取ってしまうので、その辺の養分が流れてこないというのはありますね。ただ、遠州灘とか駿河湾とか太平洋ではなく、浜名湖なので、皆さんと一緒に進めれば。特に夏目さんがいる三ヶ日の奥の養分豊富な真水とか地下水が、浜名湖を良くすることに繋がる。


(夏目) はい、私もそう思っています。本来は雨が降った水を、山がしっかり保水していろいろな鉱物と長く接し水がミネラルをしっかり吸い込んで川や海に流れていく。そういう時間をかけることがミネラルを多くする重要なポイントだと思います。昨日、市長と面談したのですが、海に遊びに行ったら水が赤かったと言うんです。大雨で赤土がそのまま海に流れているわけです。その日の雨がその日に湖に来ているという状況を考えると、ミネラルは間違いなく少ないです。山を変えて、海を変えていくことが必要だと思いながら活動しています。


(佐藤) そうですね。陸地の人間の活動を考えないと海は育たない。海と陸の循環という点では浜名湖はとても分かりやすいモデルだと思います。閉じた海があってその上流に三ヶ日ミカンなどいろんな農業をやっている人たちがいる。その人たちの活動の結果が湖の水に反映されて、お魚が育ち、一木さんのところで料理になるという循環ですから。


(加茂) 浜名湖のお魚に行く間に、例えばアマモとかの小魚が生活する棲みかがもう全くない状況で。砂地もアサリが潜ることができない。車エビもアサリも潜らないとお魚に食べられてしまう。全部のサイクルがどんどん悪くなってしまっている。原因はもう皆さんわかっているので、手を上げて皆でするべきことをしなくてはいけない。今一番大事なことじゃないかと思います。


(佐藤) 一木さんはさっき文化ということをすごく強調されていましたが、これから料理人の方は、湖を守れとか、山を守れとかそういうことも考えなくてはいけませんかね。


(一木) そうですね、なんか、山に木を植えに行かないといけないと思いました。私、北海道の利尻島に行ったことがあって、利尻昆布の産地です。そこに行くと昆布漁の漁師さんが山に木を植えに行くんです。なぜかと言うと利尻島でも昆布が捕れなくっていて、山からの養分が出なくなって砂利とかが出てきてしまう。山の木が減っているから、ちゃんと伐採をしないからです。それを防ぐために木を植える。今すぐには間に合わないけれど息子さん世代のために植えている。1年2年で結果が出るわけではないので、着実に一つずつ積み重ねて環境を整えていく必要がある。佐藤館長もおっしゃった通り、料理人も、厨房にこもって料理をするという時代はもう終わったんですよ。外に出て料理を作ることもそうなんですが、食に携わる持続化可能なことへの手助けをして、手を取り合い協力していく体制が重要だと思っています。


(佐藤) そうですよね。料理人の方がお魚を良く知る人とちゃんと付き合ってお魚を手に入れるとか、畑で作っている作物を手に入れる、そういうネットワークができているかどうか、これから益々重要になる気がします。夏目さん、三ケ日では山を育てるということもやっていらっしゃるのでしょうか。


(夏目) 先程摘果ミカンの話をしたのですが、青ミカン摘果ミカン専用の農場を今増やしたいと考えています。専用というのは摘果を最終製品として収穫し終わるということなんですが、だいたい夏くらいに終わります。甘くてきれいなミカンは虫が出てしまうと傷つくのでいろんな薬を使うのですが、青ミカンはきれいさを必要としないのでそれがいらない。地面に草を生やしたまま虫が発生してもいいので、草生栽培を今クローバーやシャクヤクなどいろんな草で実験しています。赤いミカンは作業も世話も大変なので平地でやってもらって、青ミカンは耕作放棄地になっている山の傾斜地とかでやる。夏で終わるし、肥料を上まで運んでいかなくていいので。山を専用ほ場とすることで山の土が簡単には流れない。耕作放棄地を活用するという山を育てることと、収益を生むというこが出来るかなと思っています。


(佐藤) 国連のグテーレスさんが「地球は沸騰している、温暖化じゃない」と発言していましたが、平地は暑くてたぶんお米なんかできなくなりますよ。静岡なんかも。そう考えると三ヶ日を含めた中山間地あたりで農業の振興みたいな、なんかいい知恵はないでしょうか。


(夏目) 今お話しさせていただいたスタイルは、傷がついてもいいし、これを採ってはいけないという知識も必要ないので、今中学生たちと収穫しているんですね。それから障害者の方たちとも収穫しています。そういう多様な方々と一緒に緑を守り、新しい産業、ビジネスを生むこともできる。そして海も守れる。成功させていきたいのですが。青ミカンが売れてくれないと。一木さん、たくさん活用してください。


(一木) 会場の皆さん、買っていただきたいということです。


(夏目) 買っていただくことも支援になるのですか、まず知ってもらう、来てほしいですね。中学生も知らなかったと喜んでくれるし、企業の社員も体験に来ています。知ることで新しい課題を見つけて、自分たちの会社でこういうことができるのではないかと、新しいビジネスを覚えたい人のワーケーションの地にもなっていてます。


(佐藤) 少子化で人口が減っているわけですから、今どこに行っても人手が足りないと言っています。都会の若い人に僕が言いたいのは、緑がたくさんあるところへ行ってフィールドワークをガンガンやって、何か物を作るような体験をしてほしい。会場の皆さんの弟さん、妹さん、息子さんたち、何かちょっとやっていただけないでかね。


(加茂) 物をつくるという部分では浜名湖でも、ノリやカキの養殖があります。今年はカキも豊作でよかったのですが、実は車エビも御前崎の温水利用研究センターさんで稚イセエビを育てていただきそれを放流しています。ドウマンガニも稚ガニを作っていただいて。魚介類を浜名湖で育てて、皆さんに美味しいものを食べていただけるような、浜名湖が天然の生簀と言われるそんな時代が来てくれればありがたいですね。


(佐藤) 一木さんの話を初めて聞いたのですが、和食文化を和食と文化に分けましたよね。もうひとつ和と食文化という分け方もあるんじゃないかと思うのですが。


(一木) 例えば、お茶をやれば食事が出るし、お花を生けないといけない、床の間には書を掛けないといけない。建築もそうだし茶器も含めていろんなものが総合的に学べる。文化の和というものは全部が密接にくっついているんです。茶室が一番わかりやすいと思いますが、お茶だけ点てて床の間がなければおかしいし、お茶だけ点ててそこに器がない、書がないというのはおかしい。密接にお互いが繋がっている。全てが繋がっているのが「和」。人の輪ともいえる文化じゃないかと思います。


(佐藤) そういう話を聞いていると、食だけでなくあらゆるものが今危うくて、畳のイグサを作る人も減っていれば、畳表を加工する人も、それから扇子を作る人もいない。醤油の樽を作る人もいない。そこら中から聞こえてくるんです。だから和と食文化という風に考えると何かまた違ったものが見えてくるような気がして聞いてみました。

■ 交流会

   交流会の最大のお楽しみは試飲と飲食。可愛らしい枡の中には峯野牛を使ったお寿司、富士宮の虹鱒を使った焼き物、浜名湖のエイの唐揚げ、浜松の地元野菜など、素材の味を感じられる料理を花の舞酒造のお酒と共に味わいました。また、一木さんがガストロノミーツーリズムに使えたらと講演の中で話されていたお茶料理は、お茶を使った出汁でした。昆布に変わる静岡の出汁とのことで、いっ木さんでもお料理で使用しているとのこと。試食の後は皆さん名刺交換をしたり、一木さんに質問をしたり、楽しく交流されていました。


■酒肴メニュー

▪️引佐産峯野牛と遠州灘産ちりめんの棒寿司

▪️富士宮産虹鱒幽庵焼き

▪️浜名湖産鱏唐揚げ

▪️磐田産幸海老艶煮

▪️遠州産卵のだし巻き

▪️遠州産薩摩芋檸檬煮

▪️遠州産地場野菜炊合せ(トマト、茄子、冬瓜、南瓜、陸蓮根、青唐、隠元)

▪️遠州産エディブルフラワー


■日本酒

花の舞酒造:吟醸花ラベル