・日時/令和5年7月11日(火) 14:00~16:30
・会場/鈴木学園 中央調理製菓専門学校 静岡校 10階階段教室
・講師/ガイアフローディスティリング㈱ 代表取締役 中村大航 氏
2023年7月11日、鈴木学園中央調理製菓専門学校静岡校を会場に、第1回ガストロノミーツーリズム研究会が開催されました。気温36度を超える猛暑の中、生産者や料理人、学生、観光事業者など114名が参加。オンライン参加者も36名となりました。
・日時/令和5年7月11日(火) 14:00~16:30
・会場/鈴木学園 中央調理製菓専門学校 静岡校 10階階段教室
・講師/ガイアフローディスティリング㈱ 代表取締役 中村大航 氏
2023年7月11日、鈴木学園中央調理製菓専門学校静岡校を会場に、第1回ガストロノミーツーリズム研究会が開催されました。気温36度を超える猛暑の中、生産者や料理人、学生、観光事業者など114名が参加。オンライン参加者も36名となりました。
■ 講演
講師/ガイアフローディスティリング㈱ 代表取締役 中村航大氏
(プロフィール)
1969年静岡市清水市(現清水区)生まれ。スコットランドのアイラ島を訪問し、小規模ウイスキー蒸溜所を見学したことをきっかけにウイスキーを自らの手で作ることを決意。2013年よりウイスキーの輸入販売事業をスタート。2014年、静岡市玉川地区に蒸溜所建設を決め、ウイスキー製造を目的としたガイアフローディスティリングを設立。静岡らしさの詰まったウイスキーを世に送り出すため、様々な試みを実践している。
製造から販売まで垂直統合のビジネスモデルを設計
静岡に生まれ育ち、静岡市でオンリーワンのウイスキーをつくる、ガイアフローディスティリングの代表取締役・中村大航氏が登壇。まずはガイアフローとはどんな会社なのか、自己紹介から講演は始まりました。
「弊社は2つの会社から成り立っています。一つはウイスキーをつくる『ガイアフローディスティリング』。もう一つはウイスキーの輸入販売、輸出、国内の卸売りを行う『ガイアフロー』という会社です。酒造りと販売という川上から川下まで全部まとめて行っています。お酒の世界は、メーカーがいて、問屋さんがいて、小売店がいて、飲食店や一般消費者がいるという水平分業で成り立っています。しかし当社はそれを垂直統合したビジネスモデルを設計しました」。たった3人からのスタートでしたが、創業から11年、現在のスタッフは30人を越え、全国から若い人がウイスキーをつくりたい集まり働いています。
「最初に取り組んだのは海外のウイスキーの輸入販売でした。よくわからない人が突然出できて、ウイスキーをつくりましたと言っても、誰も買ってくれないと思ったからです。その後ウイスキーづくりもスタートし、2020年にシングルモルト静岡の販売を開始。さらに静岡の原酒と海外ウイスキーの原酒をブレンドしたリーズナブルなブレンデッドウイスキーも昨年より販売しています」。
地元静岡を世界ブランドにする
「ガストロノミーツーリズムという言葉、実はあまり知らない言葉でしたので、色々調べてみました。私なりの解釈は『食を介して風土や文化を体験する』ということかなと思いました。そしてそれをいかに事業の中で表現し、お伝えしていくか。今まさに私がやっていることです」と見解を述べられ、ガイアフロー蒸溜所創業時のビジョンへと話は続いていきました。
「静岡市の中心部から安倍川沿いに20キロ近く上がった玉川に蒸溜所はあります。創業時のビジョンとして以下を掲げました。地元静岡を世界ブラントにする。世界中の人が静岡に行きたいと思えるようにする。オンリーワンの輸出産業となる。さらに静岡の酒文化にウイスキーという新たな流れをつくる。長い息を持った事業として作り上げる。この5つです」。
蒸溜所の設計はシアトル出身のパストン・デレック氏に依頼。和と洋が融合した日本人にも海外の人にも馴染みやすい空間をつくろうと膨大なデイカッションの時間を経て4年がかりで完成。世界で通用するロゴマークにもこだわりました。
安倍川の伏流水と地元の大麦
ウイスキーはどのようにつくられているのか、静岡らしいウイスキーづくりへと話は進んでいきました。「モデルとしたのはアイラ島のスコッチウイスキーの小さな独立系蒸溜所です。地元の農家さんと一緒になって大麦を作り、それを仕込んでウイスキーをつくっているのを見て、私のウイスキーのコンセプトが決まりました。『ローカルを極めてグローバルに輝く』です」。土地の資源を活用し、土地の味を作るという考え方をウイスキーの世界で表現したいと動き始めました。
まずは仕込み水。ガイアフローの蒸溜所では安倍川の伏流水を井戸で汲み上げて使用しています。そして次のチャレンジが静岡で大麦を作るということ。当時静岡県内では大麦はほとんど作られていませんでした。静岡県やJA、農家の皆さんの協力を得て、2019年本格的に栽培をスタート。去年栽培した大麦は5月に収穫し、いよいよウイスキーの仕込みに入ります。とはいえ、地元産大麦の比率はまだ1割。今年は2割になります。「日本の大麦の価格は輸入物の2倍から3倍。日本の大麦100%で仕込むのは経済的にも非常識なことで、日本国内でほとんどやられてこなかったのも当然と言えば当然です」。中村さんは日本酒の蔵元を見て、米によって味や風味が違うことを知っていたため、ウイスキーでも違いが出るのではないかと、地元の大麦、地元の水を使ったウイスキーづくりにチャレンジしました。
静岡生まれの木製発酵槽とウイスキー酵母
さらに地元の木材を使った木製の発酵槽でウイスキーを発酵させることにも挑戦。「別に根拠がある訳でも、前例がある訳でもないわけですが、地元のものを使ったら何かが起こるのではないかと考えたわけです」。そして次のチャレンジが酵母。沼津にある県の工業技術支援センターで日本酒用の静岡酵母が開発されたことは有名ですが、そのチームにウイスキー用の酵母を開発してもらいました。
「普通ウイスキーは2回蒸溜します。蒸留器は2器でワンペアなのですが、ガイアフローの蒸溜所には3器のポットシェル蒸溜器があります。その一つが今は亡き軽井沢蒸溜所から引き継いだものです。一時期海外で大変人気となった原酒をつくった蒸溜器が静岡にあるということで、ウイスキーができる前からガイアフローの蒸溜所が話題になりました」。
地元の間伐材で直火蒸溜
「薪の直火蒸溜という、世界に例がないものにもチャレンジしています。通常は蒸気で蒸溜します。ガスで蒸溜するところもまだありますが、その前の時代は石炭、200年前には薪を炊いて蒸溜していたそうです。そういう昔のやり方を再現しようと、地元の間伐材を木こりさんに持ってきてもらい自然乾燥させ、燃やしています」。
「ウイスキーの樽もアメリカやフランスから輸入するのが当たり前なのですが、富士山のミズナラが手に入り、これを製材し今、自然乾燥している最中です。地元の水・大麦・酵母・木製の発酵槽・燃料の薪そして樽。どんな味わいになるのか、そう遠くないところで形にしていきたいと思っています」。
自社サイトで情報発信
「小さくて何もないところからスタートした蒸溜所ながら、いかに世の中に知っていただけるようになったのかというお話をしたいと思います。弊社が一番重要視しているのは、自社のメディアで情報発信することです。その中でも一番大事にしているのが公式サイト。正式な発表はもちろん、過去のデータも含め全て蓄積し、ブログのシステムを使い残しています。また弊社には万単位のメルマガ読者がいます。その方々に毎週情報発信し、新商品やイベントの情報、抽選販売の情報なども載せています。それにプラスしてほとんどのSNSメディアを使い情報発信をしています。これをやれるかどうかで世界での存在感はまるで違う。インターネットで情報発信していない組織、団体、個人は存在しないも同じなんです」。
見学ツアーとプライベートカスクのメリット
「実際リアルでどんなことをやってるのかというお話もしましょう。現在週に5日、見学ツアーを開催しています。参加費は1100円、公式サイトで予約してもらい、最大20名までのグループで見学していただいています。製造の現場をガイド付きで1時間かけて説明し、香りや熱気を体験してもらいます。そして最後は試飲。直販もしていましてほとんどの方が1本買っていかれます。県外からのお客さんが4割で、そのうちの1割が海外の方です」。見学ツアーに合わせて静岡で飲食したり、宿泊したり、まさにツーリズムです。
「ウイスキーを樽で予約購入するプライベートカスクという商品も販売しています。樽のオーナーになっていただくわけです。大変人気があるので抽選販売になってしまうのですが…。自分の樽がある蒸溜所、自分のウイスキーですから愛着を持ってもらえる。オーナーは見学ツアーに無料参加できその場でサンプルの原酒を抜いて味わうこともできます。わざわざ静岡に来ることで、静岡にも愛着を感じていただけます」。
他に今年から2日間のコースで実際にウイスキーづくりを体験する、ウイスキースクールもはじめました。
最後に…
「いいものを造る、うまく展開する。この2つ両輪が大事です。いいものを造るのは当たり前のことでそのレベルに達しないとどうにもならない。まず、いいものを作ることを頑張る。そしてそれをどういうふうに皆さんに伝え、知ってもらい、手に取って飲んでもらう。愛してもらうかを考えていくこと。世の中には成功事例が結構いろいろあります。それらをちゃんと研究することです。使えるヒントとして受け取り、自分たちで行動することが必要になります」。
「そして、一人でできることは限られるので、同業者との連携はもちろん、いろんな業種の人たちと連携しマーケットを活性化させていくことが大事だと思います。とにかく継続して情報発信し、みんなに見つけていただく。気が付いてもらい、興味を持てもらう。そういう事ができるようになっていくと、本当のいいブランドになっていくのではないかと思います」。
■ パネルディスカッション
第2部はガイアフローディスティングのウイスキーづくりの要となったウイスキー酵母の開発者・袴田雅俊氏、大麦の生産者・小畑幸治氏にも登場いただき、食文化に精通されている佐藤洋一郎氏を進行役にパネルディスカッションが行われました。
参加者
・ふじのくに地球環境史ミュージアム館長 佐藤 洋一郎 氏
・ガイアフローディスティング代表取締役 中村 大航 氏
・静岡県工業技術研究所 沼津工業技術支援センター 上席研究員 袴田 雅俊 氏
・高草ファミリー農産 小畑 幸治 氏
(佐藤) 今日の中村さんの話の要が何だったかと言うと、僕が一番なるほどと思ったのは連携の部分です。
どんな人でも一人ではいろんなことができないと改めて感じました。まずは大麦。小畑さん、私は若い 頃農学をやったんですが、静岡で大麦はできないと固く信じていました。それを実際にウイスキー用の大麦を作られた。すごく苦労されたと思うのですが、その辺りをお聞かせください。
(小畑) 中村さんが最初に大麦を作った梅ヶ島の加山の畑を見に行き、いつかは自分もやりたいなと思っていたところ4年前に声を掛けられ生産を始めました。志田地区の南部、大井川の扇状地、瀬戸川の扇状地は砂利層になります。土の層が5センチ、10センチしかないところがあるんです。米には向かないところで、そこで大麦を作ったらいいものができて、2年続きでいいものができました。ところが昨年は良くなくて、毎年同じ土地でやっていると土が飽きてくるのでいいものができなくなる。大井川の下流の方でも作ってみたんですが、やけに茶色いものになってしまい。今、二人の生産者に声をかけて、全部を大井川の上流大富地区に移し、今年大豊作になりました。
(佐藤) 中村さんのところは、今後国産の大麦をどんどん使っていかれるわけですよね。
(中村) そうですね、値段の問題といのも確かにあるんですが、最終的には製品の値段に添加して、お客様にお金を出していただくということが可能だというのが見えてきたので。値段は高くても国内の大麦を使う比率を高めているところです。
(佐藤) それがポリシーなんですよね。静岡というものに思い入れがあるという。
(中村) 私も静岡の生まれですし、そこに価値をつくっていきたいと思っています。一般的にはクオリティの高いものをつくるというのが大前提ですが、ウイスキーは嗜好品なんですよ。いろんなものを飲んでみたいし、色んな味わいを楽しみたい。自分はこれが好きだとか、応援したいとか思ってもらえたらいいなと。そこに可能性があると思います。
(佐藤) 袴田さんは酵母の専門家でいらっしゃいますが、ちょっと宣伝してください。
(袴田) 今回ウイスキーに使っていただいている酵母は、静岡県がこれまで日本酒用の静岡酵母を開発してきたその過程で開発された、日本酒には使われていない一株になります。現在、県内の方に使っていただける静岡有用微生物ライブラリーを整えていまして…。
(佐藤) ライブラリーというのは何ですか。
(袴田) 地元の方に工業技術支援センターで開発した地元の微生物を使っていただけように、食品に使える微生物100株弱を掲載しているものになります。
(佐藤) 今回開発されたウイスキー酵母はどんな特徴があるのですか。
(袴田) まずは麦汁ですね。麦汁を使って発酵した時にしっかりアルコールを作る能力があります。さらに、香り成分として、バナナをイメージするような香りを多く作る傾向がある成分があります。
(佐藤) じゃあ中村さんのウイスキーはバナナの香りがするのですか。
(中村) ウイスキーってバナナの香りがするということが実は結構あるんです。発酵中は必ずしています。
(佐藤) 静岡県は袴田さんのいらっしゃる研究所をもっと売り出したらいいと思うんですよね。日本酒の静岡酵母を作ったという伝統があるんですから。
(袴田) 酵母の育種と言うんですが、ある性能をもっと良くしていく取り組みをしているところです。
(佐藤) 中村さんは、いいところに目を付けましたね。
(中村) 静岡には酒飲みの人が多くて、そういうまわりの影響も受けています。日本酒を作っている人たちも、ものすごく熱い人たちばかりですから。そういう環境が静岡県にはあると言っていいと思います。
(佐藤) お酒というのは食べ物と合わせて、本当の値打ちが出てくるというというところがありますよね。マリアージュと言うんでしょうか。ウイスキーの場合はどうでしょうか。
(中村) ウイスキーはアルコール度数が高く、40度、50度以上あるものもあり、ストレートではやっぱり食事に合わせるのはちょっと難しい。水やソーダで割って、日本酒やワインと同じくらいの10数%のアルコール度数に下げて、食事と合わせていただくといいと思います。
(佐藤) 静岡の水ってどうなんでしょう。
(中村) 安倍川水系は硬度が70くらいあり、発酵には向いているんですよ。
(佐藤) 私そこがすごく気になっているところで、出汁を引こうと思ったら、硬度が低い方がいいようで。硬度が高いと特に昆布の出が悪いんですよね。
(中村) ちょっと出汁については、私にはわからないですが、逆に今日ここにいらした方々の方が専門家だと思います。ただウイスキーの原酒は非常に甘みがあります。
(佐藤) ウイスキーのあの丸い味を考えると、料理とのコラボレーションもいろいろありますよね。
(中村) 料理人の方に声をかけていただきいろんな場でやってみて意外なほど合うんだとびっくりしたことがあります。蕎麦と合わせるというのもやったことがあります。マザーウォーターで蕎麦を打ってもらいました。
(佐藤) そんな合わせ方があるというのは、面白い。
パネルディスカッションの後半は参加者からの質疑応答となり、国産ウイスキーの将来性について、地元産の熟成樽について、工業技術支援センターの新しい酵母開発についてなど、様々な質問が寄せられました。
■ 交流会
試飲として用意されたのはガイアフローディスティングで作られたシングルモルト「ユナイテッドS 」の原酒と、「ブレンデッドM」のソーダ割り。マザーウォーターも中村さんがお持ちくださり、皆さんちょっと贅沢な水割りを堪能していました。試食のメニューは、E-REXのソーセージ、吉田ハムのハム、うしづまチーズ工場のチーズ、杉山農園のわさび漬け、アオノズクレソン 、小長井農園のオーガニックのブルーベリー。ウイスキーとのマリアージュを楽しみました。プレートの盛り付け、サービスは鈴木学園の生徒さんが担当してくれました。
試食の後は皆さん自由に名刺交換し、あちらこちらで話の輪が広がり、中村さんにより詳しい話を聞いている方も。思い思いのスタイルで交流会を楽しんでいました。